2010年は247本の映画を鑑賞しました。
今年劇場公開された鑑賞作品の中から50本、

DVDで鑑賞した作品から100本のベストランキングを発表します。


2010年劇場鑑賞映画ベスト50きらきら

1位:  『牛の鈴音』 (韓国)
 鈴音ひとつで解り合える。同じ速度で歩いてく。命が生まれ、順に死んでいくその営みの中で一瞬でもいい、奇跡のような命のきらめきに触れ合えたなら。老婆のぼやきがいつしか映画の“ナレーション”となり、自然からこぼれる音々はいつしか“サウンドトラック”となって。静かな画には言葉以上の熱い感情がとくとくと流れていた。今年いちばん心に届いた作品。その映画的功績に心からの敬意を表したい。


2位:  『戦場でワルツを』 (イスラエル)
 圧倒的な映像表現。その訴求力に脱帽。疾走する野犬のオープニングから一気にひきこまれ、ざざざ、と鳥肌。そして、呆然。記憶の臨場感とでも言おうか。生きていくために封印した過去を取り戻そうとするひとりの男の魂の旅路。アニメーション手法の奥行きと陰影の深みが魅せる、力強さの巧妙!記憶と罪と尊厳にまつわる異色のドキュメンタリに、映画を観ているだけの愚かな傍観者に過ぎないことを知りつつも、フィルターのこちら側を見つめる正しさを持ちたいと、時に人は気付くもの。かくありたいと、思うもの。

3位:  『息もできない』 (韓国)
 スクリーンから溢れる凄まじいエネルギーは魂の叫び。しがらみへの慟哭とやるせなさへの自虐。秀逸な脚本と無駄のない場面展開の見事。何よりバイオレンスにセクシャルを混入させなかった事が作品を一級品にした。こんなに暴力的なのにこんなにも優しい。こんなに傷だらけなのにこんなにも愛しい。彼らのその魂が、美しい。

4位:  『フローズン・リバー』 (アメリカ)
 アメリカ映画でありがら<国境>を描いた“選択”の物語。社会の底辺に暮らす2人が犯罪により築く絆を力強く浮き彫りにする。国境とは心の境界線。こちらとあちらを示す入り口。それを超える事、または留まる事。その時人は選択をする。愛のため、自由のため、未来のために。

5位:  『9<ナイン>~9番目の奇妙な人形~』 (アメリカ)
 マイクロスコープで覗いたような視覚をもたらすオープニングに牽引され、繰り広げられるダークファンタジーな世界観にゾクゾクと。アニメーションの概念を超えた迫力とスケールにまさかのハラハラ。異素材のつぎはぎ人形たちが魅せる、かつてない冒険活劇の新鋭!

6位:  『マザーウォーター』 (日本)
 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。世の中にある人とすみかとまたかくの如し。川の水は所々にふっと湧き水を出しながら、いずれ海へと注がれゆくもの。川の水の向かう先はただただ、明日。人も水もそんな風に毎日を生きている。人生は、あすもどこかで“営業中”


7位:  『プレシャス』 (アメリカ)
 生まれる環境は選べない。だからこそ人生に“尊さ”を見つけたくて。人は誰でも自分だけのpreciousを持っている。彼女が子供たちに読み聞かせるであろう絵本について夢想する。そこには穏やかで幸福な時間がきっと流れていて欲しい。Precious、かけがえのない人生に。

8位:  『告白』 (日本)
 “13歳”という人格に対する責任の所在とは。想いの吐露。哀しみを、憎しみを、怒りの全てを低温の言葉に代えて。誤りを正す更生という名の復讐は、教職を全うした教師だからこそ生徒に対して成し得た手段。現代の若者に巣くう空々しい程のおぞましさ、女教師の中に生まれるそれを越えた震撼。綴られた長い告白は静かに重い警鐘を響かせて。

9位:  『ぼくのエリ、200歳の少女』 (フィンランド)
 狂おしく哀しい境界線を踏み越えるとき。 北欧発のヴァンパイア映画は瑞々しさとポエティックな詩情すら漂わせ、生きること、他者への受容、定義を超えた愛を賛歌し、去るべきか留まるべきかのシェークスピア的な選択を迫る。此処ではない何処かへと向かうラストが届ける考察が、胸にざわめきやがて心に震えをもたらして。

10位: 『17歳の肖像』 (イギリス)
 知性とムードに惹かれて。細やかな心理描写と丁寧な脚本を感じさせ、バックに流れる甘く郷愁的な音楽がとかく心地よく、その心地よさは物語の展開や結末に至るまで快く伝播する。映画の幕が閉じるころ、みずみずしく甘酸っぱい、果実をひとつ、置いていく。

11位: 『冬の小鳥』 (韓国)
 届かなかった少女の祈り。父との思い出を胸に今、もうひとつの人生へと羽ばたいたジニ。彼女はもう、傷ついたあの日の小鳥ではない。その目には、待ち受ける運命に歩みだそうとする決意の色が浮かんでいた。ここから始まる少女の未来に安寧を。異国の空が故郷の空へと変わる、その日まで。

12位: 『彼女が消えた浜辺』 (イラン)
 緻密な脚本と俳優達の細やかで確かな演技力。見えない緊張を迸らせる見事なカメラワークに絶妙にマッチした映像のトーンが観る者の心の隙間に静かに深く入り込んでくる。彼女は自らの犠牲と引き換えに浜辺に1つ課題を残した。人である以上逃れられない、永遠の課題を。

13位: 『ノルウェイの森』 (日本)
トラン・アン・ユンが国と時代と季節を越えて描く心象風景の映像美。遠い昔に見た景色、小説の中の風景が雪原の中に蘇る。余白の中に溢れる想いと言葉。死から繋がるトライアングルの生の中で、心の闇は森をさ迷う。その森の鬱蒼から抜け出す小道を探し続けて。歩き続ける足がある限り、死に触れそうで触れさせない、生が人にある限り。

14位: 『ベンダ・ビリリ!キンシャサのもう一つの奇跡』 (フランス)
 貧困の国アフリカの路上で生きる車椅子の男達。音楽が内なる魂を解き放ち、やがて世界へと。そのバンドの名は「スタッフ・ベンダ・ビリリ!」 人生に再起不能はない。この国が音楽で立ち直る未来が本当に実現したならば、世界はまだまだ捨てたモノではない。

15位: 『あの夏の子供たち』 (フランス)
 淡々と描かれた日常がまだ物語の終わらぬ内に、これ程リアルに心に蘇る作品がかつてあっただろうか。死は人生に起こる悲劇のひとつ。けれど死者の魂と思い出は、残された者の心にしっかりと刻まれる。家族にとっての再出発は、新たな人生の始まりであり、またこれまでの人生の続きでもある。

16位: 『スイートリトルライズ』 (日本)
 守りたい人につく嘘は、甘くて小さな嘘の重なり。「腕に入る」ということの考察。夫婦のいちばん理想的な形を図形化すると、きっとそういう形になるのかもしれない。守られた内側で安心できる世界を築く。透明なガラス一枚はさまる距離で、いつまでも一緒に生きていくために。

17位: 『月に囚われた男』 (イギリス)
 無機質な閉塞空間だけをぽっかりと浮かばせたなら、そこに疼くのは人間臭い自尊心、identityへの思考の渦。途方もない時間が連れて来るものは、絶望。囚われているものについての、憂慮への闘い。

18位:  『パリ20区、僕たちのクラス』 (フランス)
 四角い教室に閉じ込めた現代社会の縮図。教えること、教えられること。誰もが精一杯の自己主張。ぶつかり合い離れあい引き寄せあう。そんな1日1日が一度きりの今日となる。バカンスが終わればまた新しい学期の始まり。ひとつ大人になった、彼らの笑顔と出会うだろう。

19位: 『パレード』 (日本)
 現代を生きる都会の若者たちに巣くう “透明” すぎる闇。一見ありふれた日常、楽しい時間、気楽な関係が引き起こす、得体の知れない “モンスター” がそこに居る。身近な危険すら感知できないほど怠惰に麻痺した無神経さもまた恐怖。果たしてその日常はどこまで歪んでいくのか。

20位: 『クロッシング』 (韓国)
 北朝鮮から中国そして韓国へ。約束は無事国境を越えるのか。全てを洗い流してくれる土砂降りの雨は、父と子にひとときの幸福感を与える恵みの雨。迎えのない砂漠の地で少年の頬に伝う一粒の雫は、最も幸せだった父との思い出を閉じ込めた天からの贈り物だったに違いない。

21位: 『デザート・フワラー』(ドイツ・オーストリア・フランス)
 砂漠に咲く美しき花の強さ。アフリカが変わるその日を信じて。

22位: 『キャタピラー』 (日本)
 その滑稽は戦争の滑稽そのものだ。

23位: 『借りぐらしのアリエッティ』 (日本)

24位: 『川の底からこんにちは』 (日本)
 しょーがないから頑張れるんだ、人って。

25位: 『トイレット』 (日本・カナダ)
 見かけ嘘っぽく見えたとしても<心>が本当だと伝えられたなら。

26位: 『やさしい嘘と贈り物』 (アメリカ)
 たとえ脳が忘れようとも、心はそれを憶えている。

27位: 『抱擁のかけら』 (スペイン)
 アルモドバルが描く、愛の崩壊、再生の行方。

28位: 『千年の祈り』 (アメリカ・日本)
 家族という、同じ川を渡るために捧げる祈り。

29位: 『ニューヨーク,アイラブユー』 (アメリカ・フランス)
 N.Yの街角に恋の歩道が交差して。街の数だけ愛の形。

30位: 『シチリア!シチリア!』 (イタリア)
 そして映画はつづく。人生が続いていく限り。

31位: 『ミックマック』 (フランス)
 ガラクタに対する美意識と、廃品への敬愛を込めて。

32位: 『シャネル&ストラヴィンスキー』 (フランス)
 彼の楽譜と彼女のデザインに下書きはない。

33位: 『セラフィーヌの庭』 (ベルギー・フランス・ドイツ)
 目に写る風景に風を感じて。
 
34位: 『ビューティフル アイランズ』 (日本)
 美しい映像の声なき語りを受け止めて。

35位: 『トロッコ』 (日本)
 線路をゆけば、辿り着くと信じてた。

36位: 『ACACIA~アカシア~』 (日本)
 風と大地と木漏れ日が、夏の記憶を連れてくる。

37位: 『サヨナライツカ』 (韓国)
 異国情緒溢れるバンコクを舞台に綴る愛の記憶の物語。

38位:  『ずっとあなたを愛してる』 (フランス・ドイツ)
 犯罪者とその妹が家族としての絆を再生してゆく。

39位:  『カケラ』 (日本)
 カケた部分に優しさと、柔らかい感触を得るために。

40位: 『オーケストラ!』 (フランス)
41位: 『NINE』(アメリカ)
42位: 『100歳の少年と12通の手紙』 (フンラス)
43位: 『第9地区』 (アメリカ)
44位: 『シーサイドモーテル』 (日本)
45位: 『うまれる』 (日本)
46位: 『渇き』 (韓国)
47位: 『酔いがさめたら、うちへ帰ろう』 (日本)
48位: 『ハート・ロッカー』 (アメリカ)
49位: 『インセプション』 (アメリカ)
50位: 『すべては海になる』 (日本)

【勝手に部門賞】

監督賞:ヤン・イクチュン (『息もできない』)

監督賞:イ・チュンニョル (『牛の鈴音』)

脚本賞:アスガー・ファルハディ (『彼女が消えた浜辺』)

脚色賞:『ぼくのエリ、200歳の少女』
撮影賞:リー・ピンビン (『ノルウェイの森』)
録音賞:『牛の鈴音』

編集賞:『告白』

美術賞:『ミックマック』、『ノルウェイの森』

音楽賞:『ベンダ・ビリリ!キンシャサのもう一つの奇跡』

音響賞:『オーケストラ!』、『NINE』

衣装デザイン賞:『シャネル&ストラヴィンスキー』

主演女優賞:ガボレイ・シディベ (『プレシャス』、松たか子 (『告白』)
助演女優賞:モニーク(『プレシャス』)

助演女優賞:ミスティ・アッパム (『フローズン・リバー』)       

主演男優賞:ヤン・イクチュン (『息もできない』)
子役賞:キム・セロン (『冬の小鳥』)

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きらきら2010年DVD鑑賞ベスト100きらきら
今年はイスラエルやアフリカの作品にとりわけ心を惹かれた1年でした。
近年のAFF作品をまとめて観る事ができたのも大きな収穫と感じます。

1位:  『ジェリーフィッシュ』  2007年/イスラエル
 1/fのゆらぎのような心地よいゆらめきと安らぎに身を任せ、終わらない夢にまどろむような余韻が心をすっかり満たしてしまう。波間を漂うjellyfishのように、あてどなくうつろう人生と言う名の日常。やさしい映画に出会えた。なんだかとても、やわらかい。

2位:  『空気人形』  2009年/日本
 からっぽな心にふわりとふりかかる質量が、無垢な魂のように哀しげに愛しげに漂う。刹那な世界に拾い集めた、きらきら光るものたちを並べて。世界の終わりに空気人形が見た夢は、切なくも神々しくそして美しい。ふわりと天井に浮かぶくらいの、ゆるやかな心の質量をもてたなら。

3位:  『マイ・ブルーベリー・ナイツ』  2007/香港・中国・フランス
 独特の色調とフィルムの質感、時間の流れ方と漂う空気感そして、伸縮する距離感。フレームぎりぎりに閉じ込めた奇跡の一瞬は、カーウァイが切り取った画に他ならない。ブルーベリーを思わせる色使いと甘酸っぱさ。なんて心地がいいんだろう。うっとりと、放心。

4位:  『大丈夫であるように~Cocco終わらない旅~』 2008年/日本
うたうたいCoccoの生身の姿と魂を追う同行の旅。みんなが、世界が、きっと大丈夫であるように。その祈りが天へと昇華する軌跡を手持ちカメラに収めて。coccoが伝えたいことはひとつ。生きろ。私も祈ろう。coccoがきっと、大丈夫であるように。

5位:  『中国の植物学者の娘たち』  2005年/カナダ・フランス
 湖畔に浮かぶ孤島の楽園。生い茂る濃い緑の美しさ、湖上に鳴く鳥の声。蒸気が立ち昇るが如く色めき香り立つのは、少女たちの汗とふたりの秘めやかな官能。一生離れないでいられるための108羽のはばたきが耳に蘇る。夏の日に儚く消えた、2人に約束された永遠。

6位:  『薬指の標本』 2004年/フランス
 静寂の中でざわめくような謎の漂う、美しく特殊な空間に囚われた若い娘の最後の選択。フェティシズム香る、深くて切ないアブノーマルな物語。偏執的な男の物語でありながら、計算されたアングルや構図に閉じ込められた、静かな崇高美と甘い官能がきらりと漂う。


7位:  『弓』 2005年/韓国
さびれた船の上で老人と少女のふたりきり。神々しい程のエロティシズムにそこはかとなく魅了される、キム・ギドクの揺れて感じる映像叙事詩。ラストシークエンスのまるで神話のように美しき世界には、ただただ恍惚としてしまう。

8位:  『onceダブリンの街角で』 2006年/アイルランド
ダブリンの街角で出会った、名もない男と女。古びたギターと借り物のピアノで奏でるふたりのセッションは、男女としての交わりのかわりに“音”と“コーラス”として絡み合い、その高みへといざなう。切ないメロディが琴線に触れ、胸の内側をしっとりとさせる。

9位:  『クジラの島の少女』  2002年/ニュージーランド
 導かれるように運命を切り開いたマオリ族の少女。その瞳に宿る神秘と美しい魂に心が浄化される、神々しく紡がれた奇跡の物語。時折話されるマオリの言葉が印象深い。そこに字幕はない。言葉(の理解)の一瞬の静寂。その瞬間、神秘と尊重の念が宿るのを感じ、心が震える。

10位: 『シリアの花嫁』  2004年/イスラエル・フランス・ドイツ
 軍事境界線を巡る花嫁一家の悲喜交々。国の境遇を越え運命を選択する自決の物語。家族のしがらみはゆっくりと氷解する一方で、国と国との和解は以前遠く、建前とエゴで設えた境界線は今だ消えそうもない。姉妹の不安は中東の現在の不安に繋がり、姉妹の希望は中東の未来の希望へと繋がる。

11位: 『母たちの村』  2004年/フランス、セネガル
 黒煙立ち昇るその様は、父権の勝利などではなく、むしろ女性達の過去を葬る決別の印。武器の代わりに女達が選んだのは、歌と踊りと大歓声。歓喜の歌が現在も続く悪しき習慣を糾弾し、この映画のエンディングに確かな希望を降り注ぐ。願うは、根絶を。アフリカの美とともに、未来のあらんことを。

12位: 『アフガン零年』  2003年/アフガニスタン
 権力と支配と優勢が弱者に鍵を掛ける。囚われの身。女が男に囚われて、アフガンがタリバンに囚われて、タリバンが米国に囚われる。鍵は次第に強度を増す。果て無き連鎖。その終わりが見つけられない限り、虹の掛かる向こう端は見つけられそうにない。アフガン0年。この国に再生はあるのか。

13位: 『サラエボの花』 2006年/ボスニア・ヘルツェゴビア
 傷だらけのサラエボにあの日小さく咲いた花は、小さくて弱々しいひとつの命。輝かしいその姿に彼女は知る。世の中にこれほど美しいものがあったのかと。変えられない歴史の中で変わらず生き続ける愛がある。その想いを歌に乗せ、平和の祈りに変えたなら、背負った過去さえ未来に繋げて。

14位: 『ホテル・ルワンダ』  2004年/南アフリカ
 彼らにとってルワンダは救うに値しない国だという。アフリカ。世界から見捨てられた広大な大陸。国連も米軍も白人達は直ちに去っていった。米国がアメリカ合衆国なら、なぜアフリカはアフリカ合衆国になれない?良心ある1人のホテルマンが1286人の命を救った奇跡の物語。

15位: 『ルワンダの涙』  2005年/イギリス・ドイツ
 外国人からみたルワンダの悲劇。そこに涙はあったのか。黙殺は撲殺に等しく、或いはそれよりも酷く。なぜ逃げたの?マリーの問いは世界への問い掛け。彼女がジョーを許したように、ルワンダも世界を赦した。それでも彼らは忘れやしまい。私達もまた、ルワンダの記憶を忘れない。

16位: 『大いなる休暇』  2003年/カナダ
 愛しく心を擽るコメディ仕掛けのプロットの中で、浮き彫りにされる逞しい人間力の底力。何の娯楽もない小さな島を愛し住み着く島民たちの、豊かなプライドが輝かしい。シリアスとユーモワのバランスが加減よく、顔に刻まれた深い皺が物語には描かれない背景を寡黙に語り掛ける。

17位: 『人生は、時々晴れ』  2002年/イギリス・フランス
 くたびれて、そして乾いて。ままならない人生に、時々出会える幸福な瞬間を探して。曇や雨の日があるからこそ、晴れの日はこんなにも輝かしい。人生にはほんの時々だけ、いいことが訪れる瞬間があるから。そんな晴れの日を待ち侘びながら、人は今日を生きていく。

18位: 『フランシスコの2人の息子』  2005年/ブラジル
 光り輝くブラジルの大地。貧しいながらも音楽のある豊かな暮らしに寄り添い暮らす大家族。父フランシスコの電話用コインが2人の成功を導いて・・。大地があり、空があって、木々が聳え、風が靡く。愛しい人が隣りにいて、家族があって、愛に包まれる。

19位: 『めがね』 2005年/日本
 自分だけのたそがれどきを見つけに旅をする。たそがれるのにコツはいらない。ただふっと荷物を降ろしてみればいい。大きな荷物があるのなら、いったんそこに置いといて。過去を思い出してもいい、今にため息をついたって。たそがれ上手は、生き方上手。

20位: 『ラースと、その彼女』 2007年/アメリカ
ラースにとってのその妄想は、現実逃避などではなく、トラウマを克服するために必要としたリアルな時間。現実を補うためにやってきた箱の中の妄想が、ちいさな町の人々とラース自身を変えていく。人って信じられる。あったかいハートフル・ストーリーに心、ぬくもる。

21位: 『キャプテン アブ・ラーイド』  2007年/ヨルダン
 斜面の地に建ち並ぶ石造りの家々。アースカラーに彩られた建物たちが夕陽を受ける時間帯にみせるオレンジ色の憂い。その夕陽がこの初老の男の顔にあたると、彼の纏う滋味に溢れた人柄に郷愁的な造詣を醸し出し、瞳の奥に持ち合わせる彼の知性をそっと煌かせる。

22位: 『ピノイ・サンデー』 2009年/台湾
 道端に堂々と捨てられた真っ赤なソファと、祖国を離れて出稼ぎにきたフィリピン人労働者との出会い。そこに存在する幾許の違和感と、馴染み切れないその様が両者の間に共通項を感じさせ、そこにある彼らの“物語”を覗いてみたいと興味を抱かせる導入部分が秀逸。

23位: 『フローズン・タイム』 2006年/イギリス
 監督は一流ファッション誌の写真家として活躍する人物。なるほど確かに写真家らしい切り取り方が随所に散りばめられている。きらめく一瞬を収めようとする写真家としての信念を映像に置き換えると、こんなにも美しい一連の動きとなるものなのか。時間の概念の見事な映像化。

24位: 『プール』 2009年/日本
 時にリビングのソファ、時にプールサイドのカウチに身を任せ、ぼんやりとその辺りの風景や人を眺めているときの視線のような、そんな自然に流れる動きを伴うカメラ導線に癒されて。夜空に放つ鐘楼に、祈ったみんなの願いごと。ゆっくりでいい。いつの日かきっと、叶いますように。

25位: 『扉をたたく人』 2008年/アメリカ
  knock-knock-knock.かたく閉ざした心の扉をたたいてくれた人がいた。knock-knock-knock.寛容だったはずの国の扉に不寛容という錠がかけられた現実があった。 knock-knock-knock.その心、開くまで。

26位: 『そして、私たちは愛に帰る』  2007年/ドイツ、トルコ
 ハンブルクとイスタンブール。国境を超えてすれ違う運命の悪戯。死が出会いの糸を紡ぎ、やがてそこには神をも超える赦しの愛が。親子から繋がる“ひとつ先の他人”へと続く絆のリレーを、奇跡的とも言える筆致で静かに、されど力強く謳いあげる監督の手腕。素晴らしい!

27位: 『アニエスの浜辺』 2008年/フランス
 記憶、追悼、未来への想い。コラージュ的な映像言語で紡がれた、アニエスの心の旅路に同行して。亡き夫へのラブレターであり、いずれ残される家族への果て無き想いが映像で表現される。80本のホウキにまたがって、アニエスの映画作りへの旅はきっとまだ、終わらない。

28位: 『ロルナの祈り』 2008年/ベルギー・フランス・イタリア
 薬、国籍売買、偽装結婚。ラストで流れるベートーヴェンのピアノソナタを聴きながら、ロルナの沈黙に耳を傾けてみる。宿るはずのない命を体内に宿らせたロルナの神秘が、音楽によって運ばれそこに漂う。生きたい、という声が聞こえた気がする。まっとうに、生きたいと。


29位: 『ツォツィ』  2005年/南アフリカ・イギリス
 犯罪にまみれた愛を知らないその手で、小さな命と出会い不器用に触れてみる。闇の中に差し込む一条の光が、彼に失われた人間性を取り戻させた。彼は生き方を変えるだろう。拳銃を持つ手で小さな命を拾ったツォツィは、今や“品位”の意味を知ったのだから。

30位: 『BOY A』  2007年/イギリス
 “赦す”ことと“受け入れる”ことの違いをみつめて。最後に掲げられた問いに、力強く答えを返すことができるだろうか。常識や倫理ではなく、偽善や欺瞞でもなく。

31位: 『非夢』 2008年/韓国
 狂おしいほどの憎しみは、愛しすぎる未練と接合する。

32位: 
『JUNO/ジュノ』  2007年/アメリカ
 16歳で妊娠した女子高生のハートフルな成長記。


33位: 『サマリア』 2004年/韓国
 白く輝く清涼な雰囲気が危険さえ軽やかに飛び越えて。

34位: 『ブレス』  2007年/韓国
 キム・ギドクの世界観溢れる“息苦しい”愛の物語。

35位: 『13歳の夏に僕は生まれた』  2005/イタリア
 いちど生まれたからにはもはや隠れられない。

36位: 『トゥルー・ヌーン』  2009年/ タジキスタン
 ある日突然、国境が生まれたとき。

37位: 『シャングリラ』 2008年/中国・台湾
 雄大な自然に癒しを求める息子をなくした母の心の旅路

38位: 『僕たちのキックオフ』  2008年/イラク・クルディスタン地域
 半壊したスタジアムの中に形成されたクルディスタンの悲劇

39位: 『キャラメル』  2007年/レバノン・フランス
 アジアンビューティ!レバノン女性の色香漂う大人の群像劇

40位: 『パリ、ジュテーム』 2006年/フランス・ドイツ
 現代の、パリところどころ。

41位: 『男と女 アナザー・ストーリー』 2003年/フランス・イギリス
 交錯する現実と白昼夢に導かれ、欠けた記憶に交じわって。

42位: 『サン・ジャックへの道』  2005年/フランス
 一緒にいれば頑張れる。1500kmを歩く珍道中。

43位: 『ダージリン急行』 2007年/アメリカ
 心の旅路の日程表。

44位: 『明日へのチケット』 2005年/イタリア・イギリス
 人はみな、席を譲り合う権利を持っている。

45位: 『トンマッコルへようこそ』 2005年/韓国
言葉が通じる国同士の戦いだなんて。

46位: 『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』 2007年/フランス
 パリの街を俯瞰しながら浮遊する赤い風船を追いかけて。

47位: 『ヴィム・ヴェンダースpresents RAIN』 2002年/アメリカ
 雨上がりに咲く善意の花を待ち侘びて。

48位: 『ミルコのひかり』  2005年/イタリア
 音と音で紡いだ世界に色と季節を宿らせて。

49位: 『モンテーニュ通りのカフェ』  2006年/フランス
 カフェを経由して 描く3つの舞台の人生劇場へようこそ。

50位: 『縞模様のパジャマの少年』 2008年/イギリス・アメリカ
 史実よりも深く心に届く新たなホロコースト映画に何を思う。

51位: 『ぼくの大切なともだち』  2006年/フランス
 中年男の「10日間で友達を作る方法」とは。

52位: 『ぜんぶ、フィデルのせい』  2006年/フランス
 少女の視線で描く70年代パリのコミュニズム思想。

53位: 『PARIS』  2008年/フランス
 曇り空の風景と人々の何気ない日常が光り輝くとき。

54位: 『重力ピエロ』 2009年/日本
 遺伝子の相似形を描くように展開されるサスペンスの中で。

55位: 『輝ける女たち』  2006年/フランス
 人生には人の数だけ用意されたステージがある。

56位: 『ビューティフル』 2007年/韓国
 その美貌が男を狂わし自らも狂わす壮絶な悲劇。

57位: 『愛のむきだし』 2008年/日本
 罪深き事こそ最も重要な愛だとして。

58位: 『ランド・オブ・プレンティ』  2004年/ドイツ・アメリカ
 ヴェンダースが捧げる<アメリカの今>への願い。

59位: 『その名にちなんで』  2006/インド・アメリカ
 命の奇跡を背景に、いまこの自分がいるということ。

60位: 『ホルテンさんのはじめての冒険』  2007 年/ノルウェー
 日常を踏み外した事で始まる味わい深い人生賛歌。

61位: 『ぼくを葬る』  2005年/フランス
 余命3ヶ月。ファインダーに捉えたい身近な愛に気付く時間。

62位: 『夏時間の庭』  2008年/フランス
 世代が変わっても変わらない確かなものとは。

63位: 『そして、ひと粒のひかり』 2004年/アメリカ・コロンビア
 62粒の人生の危険と1粒の命を体内に宿して。

64位: 『ウェディング・ベルを鳴らせ!』 2007年/セルビア・フランス
 弔いと祝福の鐘が同時に鳴り響く。

65位: 『僕と未来とブエノスアイレス』 2003年/アルゼンチン
 外国籍パスポートに未来を託して。

66位: 『パパにさよならできるまで』 2002年/ギリシャ・ドイツ
 空との交信、代筆の手紙、思い出を集めた秘密の部屋。

67位: 『迷子の音楽警察隊』 2007年/イスラエル
 気まずい空気にちぐはぐな会話がやがて不器用にも交差して。

68位: 『海角七号 君想う、国境の南』 2009年/台湾
 届かなかった手紙、叶わなかった夢。雨上がりの町の小さな奇跡。

69位:  『インスタント沼』 2009年/日本
 底なし沼から拾い上げたいものは何?

70位: 『夜更かし羊が寝る前に』 2008年/アイルランド
 昏睡状態の中で出会うリアルな夢想物語。Everthing is REAL


71位: 『ファッションが教えてくれること』 2009年/アメリカ
 人の世にfashionとpassionを。世界にもっと彩りを。

72位: 『ベルサイユの子』 2008年/フランス
 けれどそこには確かに温かい命と強さがあった。

73位: 『譜めくりの女』  2006年/フランス
 譜めくりの立場を利用した復讐への第一楽章。

74位: 『敬愛なるベートーヴェン』 2006年/イギリス・ハンガリー
 音楽的高揚とともに昇華する、彼らの想いを響かせて。

75位: 『未来を写した子どもたち』 2004年/アメリカ
 彼らの目に映る世界の断片。迷い、そして未来への希望。

76位: 『スエリーの青空』  2006年/ブラジル・独・葡・仏
 いつかどこかで自分色の空と出会えるために。

77位: 『酔いどれ詩人になるまえに』2005年/ アメリカ・ノルウェー
 人は己の惨めさを手放さない、と彼は言う。

78位: 『ようこそ、羊さま。』 2004年/中国
 高慢な政府の偽善と、狭い村社会の強かな策略の狭間で。

79位: 『やさしくキスをして』 2004年/英・イタリア・ドイツ・スペイン
 理解を。そして勇気を。そこにはきっと、愛がある。

80位: 『レイチェルの結婚』 2008年/アメリカ
 擦り切れるような痛みが揺れ動く映像にリアルな感覚をもたらして。

81位: 『受取人不明』 2001年/韓国
82位: 『フリー・ゾーン FREE ZONE』 2005年/イスラエル
83位: 『天使の宿り木』 2004年/フランス
84位: 『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』 2003年/フランス
85位: 『ボルベール/帰郷』 2006年/スペイン
86位: 『リリィ、はちみつ色の秘密』 2008年/アメリカ
87位: 『きみに読む物語』 2004年/アメリカ
88位: 『(500)日のサマー』 2009年/アメリカ
89位: 『メゾン・ド・ヒミコ』 2005年/日本
90位: 『南極料理人』 2009年/日本
91位: 『バーバー吉野』 2003年/日本
92位: 『アヒルと鴨のコインロッカー』 2006年/日本
93位: 『トゥヤーの結婚』 2006年/中国
94位: 『orzボーイズ!』 2008年/台湾
95位: 『画家と庭師とカンパーニュ』 2007年/フランス
96位: 『アンナと過ごした4日間』 2008年/フランス・ポーランド
97位: 『夜になるまえに』 2000年/アメリカ
98位: 『マルタのやさしい刺繍』 2006年/スイス
99位: 『マグダレンの祈り』 2002年/イギリス・アイルランド
100位: 『素粒子』  2006年/ドイツ


来たる2011年は300本鑑賞を目標に、
沢山の素敵なシネマたちと心ゆくまで向き合ってゆく心づもりです。


では、よいお年を。

芽2010年12月末 byきらり+芽