写真家である監督が描くヴィジュアルセンス抜群の秀作。

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『フローズン・タイム』 CASHBACK
2006年/イギリス/102min
監督・脚本:ショーン・エリス
出演:ショーン・ビガースタッフ、エミリア・フォックス


誰も表現し得なかった「時間の概念」を見事に映像化!

シネマな時間に考察を。-froz0.jpg 伸縮する時間。時間は科学的な事象によって進むのではなく、個人の意識の持ち方で進むのだという、誰もが不思議に思いながらも現実に感じている現象を、美しい映像とともに物語性を伴って紡いだ秀作である。監督ショーン・エリスは一流ファッション誌の写真家として活躍する人物だそう。なるほど、確かに写真家ならではの切り取り方が随所に散りばめられている。きらめく“一瞬”を収めようとする写真家としての信念を映像に置き換えると、こんなにも美しい一連の動きとなるものなのか。


シネマな時間に考察を。-froz4.jpg ある日、ベンは不眠による非現実的な覚醒によって時を止める力を得る。そのとき全ては凍りつき、世界がまるで一枚の静止画のようになる。その静寂の中でベンだけは自由に動き回ることができる。自分以外のものが全て一時停止されたとしたら人は何をしたいと欲するだろう。画家志望のベンにとってその瞬間は“美”をスケッチする奇跡の一瞬であった。

スーパーマーケットのいさぎよい直線。棚の上に整然と並ぶ溢れる色彩。無数の商品から聞こえる命のざわめき。深夜にショッピングに来る人々の思惑・・。それらが全てフローズンし、ベンは女性の衣服を脱がし裸体をデッザンする。現実の流れは速すぎて、真実をとらえることは難しい。人を好きになる瞬間もまた、その速い流れの中では見つけ出し難い。ベンが手にしたフローズン・タイムの中でならそれは見つけ出せる。一瞬の中にだけ存在する“美”を描写して。そうして描かれたベンの絵は、やがて念願だった個展で展示されることになる。幻想的な構図。クロースアップの力強さが伝わる神秘的な美しい絵たちにはっとする。


カメラが右へと移動すると別の場所へと繋がる、といったみせかたも実にアーティスティック。芸術度の高いヴィジュアルセンスを活かしながらもアートフィルムになり過ぎず、ストーリー性やユーモアも織り込んで、“映画然”としている。フィルムメーカーとしても才能のある写真家とは!是非もう1作撮ってみて欲しい。



『フローズン・タイム』:2010年2月15日 DVDにて鑑賞