米国が<アメリカ合衆国>なら、
なぜアフリカはアフリカ合衆国になれない?
英国が<連合王国>なら、
なぜアフリカはアフリカ連合王国になれない?
ルワンダ・ルワンダ ルワンダにこの歌を。神様聞こえましたか?
-from 'Rwanda Rwanda'-

シネマな時間に考察を。

『ホテル・ルワンダ』
2004年/南アフリカ、イギリス、イタリア/122min
監督:テリー・ジョージ
出演:ドン・チードル、ソフィー・オコネドー


シネマな時間に考察を。 1994年、ルワンダの首都キガリ。90年から続くフツ族とツチ族の民族対立にようやく和平協定が結ばれたものの、フツ系ラジオ局による扇動的な放送は、反ツチ族の民意をプロパガンダ的に高めていた。合言葉は「高い木を切れ」それを合図に戦いの火蓋は切って落とされた。大統領が暗殺され協定は撤回。フツ族過激派の反乱軍によるツチ族への武力闘争と、ツチ族を匿う穏健派への攻撃及びツチ族根絶を狙った大量虐殺の内幕を、1人の勇敢なホテルマンの奇跡を通して描かれたbased on true storyである。


彼らにとってルワンダは救うに値しない国だという。
彼らとは、ポールが信じた西側超大国の兵士たち。
国連軍も米軍も仏軍も、白人達は直ちにルワンダを去っていった。
ポールは決心する。“自衛”しかないと。


ホテルの副支配人として、将軍や政府要人との人間関係をそつなく築きあげてきたポールは、ある時妻に自白する。いざと言う時に家族を守ってもらうためだと。ワインや葉巻やフラン紙幣がその潤滑アイテムだった。歴史に残る英雄となったポールは何も最初から善意溢れる人間だった訳ではない。家族を何より大切にする男である一方、隣人であれ他人にはそもそも無関心な男でもあった。それは家族を守るための彼なりのやり方だった。


シネマな時間に考察を。 しかし紛争勃発で混乱を極めるさなか、彼の考え方は少しずつ変わっていく。愛する妻が虐殺の対象であるツチ族でなければ、彼は1286人もの命を救う英雄には成りえなかったかもしれない。家族を守る彼の心が、結果として大勢の人間の命を繋いだのだ。“善意”などではない。彼はただ、人間らしい心を持っていただけだ。見捨てることができなかった。強いていうなれば、良心といえようか。


ドキュメンタリ映画として描けば実情はリアルになるだろうが、事態への理解は複雑となってしまう。本作がドラマとして描かれたことは、ルワンダにおける内情の背景と、政府軍、過激派民兵、反乱軍、国連の介入といった武力の関わり方を理解する上での手助けとなっている。次々に陥る苦難と危機を乗り越えながら自由へと向かうラストが用意されており、映画としても素晴らしい仕上がりである。


シネマな時間に考察を。 虐殺行為に至ったそもそもの原因は、多数派でありながらもベルギー人の統制下で実権が執れなかったフツ族の長年に渡る“鬱憤”だという。民族闘争といえども白人が起因している辺りに、ある種の悲惨が存在する。フツ族とツチ族の分類も、元はと言えばベルギー人から見た外見での分類だというではないか。比較的長身で痩せていて鼻の横幅が狭い者をツチ族、それ以外をフツ族と決めたというから言葉が出ない。


先進国や経済大国に生きる人間が彼らのためにできること、それは、自分を“恥じる”こと以外にはない。ルワンダの内紛をカメラに収めるためにやって来た白人ジャーナリストがそれを教えてくれた。ルワンダに逼迫した情勢の暗雲が立ち込めると、国連がまず真っ先に手を差し伸べたのは現地にいる西欧外国人だ。降りしきる雨のもと救済トラックへと向かう白人達に、ホテルのルワンダ人従業員が“お客様”の見送りに後ろから傘を差し出す場面で、白人ジャーナリストが申し訳なさのあまり思わずこぼした一言に胸が苦しくなる。

「傘なんていいよやめてくれ、自分が恥ずかしい。」と。

シネマな時間に考察を。 虐殺の映像をスクープした白人ジャーナリストにポールが感謝の意を述べる場面がある。この映像が西欧のニュースで流されれば、彼らはこの国を助けに来てくれるからと。しかし白人は悲しげに告げる。すまないポール。誰も来やしない。彼らは「怖いね」と言うだけでそのままディナーを続けるだけだ、と。この会話に身が強張る。恐ろしいほどにそれが現実だからだ。ニュースを見ても映画を観ても、怖いね、で終わってしまうのが現状。できることはといえば、自分を恥じることしかない。それが悔しくて、悲しい。


アフリカ。
広大な大地を持ちながらも世界から見捨てられた小国の集う大陸。
支配層であると自認していたポールにある時大佐が突きつけた現実。
アフリカの黒人。ニガーですらない。
彼らにとって君らはゴミ同然だと。


ホテルのフラン紙幣も高級酒も底を突き、ポケットからなけなしの紙幣を差し出し助けを懇願するポール。ルワンダ紙幣など取るに足らんとばかり地面にばら撒かれ、車輪の下に踏み轢かれてしまう。


シネマな時間に考察を。 食料を調達するため街へ出たポールが川沿いの道に見た死体の山。ルワンダでは実に100万人以上の犠牲者が出たという。ポールたちはその戦禍のもと前線を超え、難民キャンプに辿り着き、そうしてようやくベルギーに出国するバスへと乗り込んだ。結果、ポールは家族を含めた1286人の命を救ったのだ。


エンドロールで流れるテーマ曲『ルワンダ・ルワンダ』
その歌詞の1行1行が涙とともに胸に染みこんでくる。


シネマな時間に考察を。 白人オーナーが去った後、事実上のボスとなったポールがホテルの全従業員を集め、自分の知りうる限りの外国人に電話をかけさせる場面が印象的。アメリカが介入しない限り、世界にこの国の実態を知らせることは難しい。そんな現状にあってポールが取った苦肉の策ではあったが、結果これが功を奏した。


ポールは言う。電話の相手にさよならを。

ただし電話の向こうで相手の手を握れ。

離されたら死ぬと思って。


世界中に声を届ける。
助けを求める声がする。
援助を求めて差し出された、無数の手が伸びている。


『ホテル・ルワンダ』:2010年10月27日 DVDにて鑑賞



興行収入を懸念してなかなか買い手がつかなかった日本での配給にあたり、

署名運動を起してまでこの映画を公開させた経緯があるほど、

確かに観て価値のある素晴らしい作品だった。