シネマな時間に考察を。

心に届く映画を語る、シネマな時間に考察を。ヨーロッパ・中東・アジアを中心とした愛すべき短館系作品のレビューを綴っています。映画と心のちょっといい関係をさがして。心がきらりとひかる瞬間を大切に。


テーマ:

“13歳”という人格。
それに対する責任のありかを問いかけて。
命の重さは、果たして同じく等しいのだろうか。


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『告白』 2010年/日本/106min
監督:中島哲也
出演:松たか子、岡田将生、木村佳乃


命の重さだなんて、問いかければ問いかける程にますます軽んじられてしまう。森口はそれを知っていた。だから彼女は問いかけることを放棄した。その代わり、死の恐怖を投げつけた。命の重さを知らしめようと。

告白、それは想いの吐露。

哀しみを、憎しみを、怒りの全てを低温の言葉に代えて、彼女はざわつく教室を縫うように移動する。レポートの期日を知らせるのとなんら変わらない口調で淡々と語られた驚愕の事実。どっと巻き起こる動揺とパニック。幼い娘の死が事故ではなく殺人だという事実には興味すら示さない生徒達に森口がしかけた恐怖のトラップとは。


言葉の洪水。羅列と反復。

章立てるように綴られた告白はもはや独白であり独り言とも言える。自らに言い聞かせるために。誰かを陥れるために。結果全てが問いかけとなる。まさしく命の授業。命の重さについて考える答えのない授業。答えがない訳ではない。答えなんて決まってる。ひとつしかない。ただ答えられないだけ。答えようがないだけ。


犯人Aの幼稚さ。捨てられた母への思慕がつのるあまりに形成された幼稚な動機。彼が悪いのか。彼をそうさせた母親が悪いのか。人を殺しても少年法に守られる13歳という人格。それに対する“責任”の所在とは。


犯人Bが心神喪失したのは、自らの死の予感に初めて知る罪深さがあったから。罪の意識が己の精神にびっちりと根を生やす。死の予感が正常に生きていく気力を失くさせる。しかし生を放置した身体から放たれる異臭が返ってまだ生きていること皮肉にも訴えてくる。犯人Bの母親は溺愛する息子を妄信するあまり気付かない。気付けない。森口は熱血教師をコントロールしてこの親子を破滅へと追いやる。


誤りを正す<更生>という名の復讐は、教職を全うした教師だからこそ生徒に対して成し得た手段。シネマな時間に考察を。 森口は狂気の執念でその手段を実行する。彼女は娘を失った時すでにあの音を聞いてしまっていた。ぱちんと大事なものが消える音を。その音を聞いた時、ある者は動揺し、ある者は聞こえないふりをしてやり過ごす。やり過ごせなかった者は失墜するか正気を失う。理性をなくして初めて解ることもある。


むきだしにした狂気。

彼女は感情を抑えつつその狂気をじわじわターゲットへ放つ。放射する。体育館で犯人を遠巻きに囲む生徒達が形作る、まさしく放射状”の図形が2、3の波紋を起こしたように。


彼女にとって復讐が全てだったとは思えない。彼女は良き教師であった。被害者と加害者である以前に彼らは教師と生徒であった。大胆な手段を用いて命の授業をしたまで。犯人Aと対峙した森口の告白を聞いてそう思った。しかしそれも束の間、彼女が最後、暗転した画面に放った一言に呆然とした。裏切られたというべきか、何とも形容しがたいある種のショックが、さわさわと粟立ちやがて縮み上がる心地をもたらす。


中島監督のこれまでの多色使いな映像からは一転、ミルクの白と制服の黒の無彩色に鮮血の赤が混じる有色のコントラストが痛いほど鮮烈。それは、無垢なふりした者の中に潜む悪意の色。教室の風景には寒色の青味がふんだんにかけられ、安全であるはずのその場所に異様な冷気を漂わせている。


黒板に書かれた<命>という一文字の漢字が持つ力強さと威厳。最後の縦棒が放つ不快な音は命の叫びか。その命の重さとは、果たして誰にとっても本当に等しいのだろうか。誰か本当にそれを量った者がいるとでも?しかしながらこうも思う。罪を犯した者の命なら重くないのか。軽い命ってなんなんだ。もはや解らない。このまま終わりにはできない、森口はそう言っていた。彼女の中では終わっていない。誰の中でも終わっていない。一生かかって向き合わなければならない程の重く果てしない<宿題>を課せられてしまった気がする。


重さなんて量りえない。

だから人は決まってこう言う。尊いと。

命は尊いものだと。ただそれしか言えないから。

教育、学校、いじめ、罪、少年法、HIV、親子関係、家庭環境、シングルマザー、復讐、嫉妬、正義・・。様々な問題が粒子のように散りばめられ、弾けた粒がスーパースローで捉えたミルククラウンを形成し、その水面に溺れそうになりながらも、作品を通して力強く訴えるもうひとつのテーマを確かにしかと受け取った。HIVに対する偏見。その払拭。HIVと聞いただけで即座に死を連想する人々の無知を、森口は逆手にとって利用した。これは無知な世間への尊い教えでもあった。


テーマは重いが客席を満席にするだけのエンタメ性は充分にある。

中島監督が次にどういう作風を持ってくるのかに注目したい。



『告白』:2010年6月5日シネリーブル神戸にて鑑賞

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