第4回は早大漕艇部を支える阿二真樹監督(平4理工卒=東京・早大学院)と舩越湧太郎コーチ(令3社卒=滋賀・膳所)にお話を伺った。選手への指導の仕方や、早慶レガッタへの思いに迫る。
※このインタビューは3月24日に行われたものです。
「やって良かったと将来的に思える部活であればいい」(阿二監督)
笑顔で質問に答える阿二監督
ーー自己紹介をお願いします
阿二 早稲田大学漕艇部監督の阿二と申します。大学は平成4年卒です。その後コーチなどを合計10年以上させて頂いて、昨年の3月から監督をしております。大学時代はボート部で漕手として漕いでおりましたけれども、自分がこんなに長いことボートに携わると思っていなかったので、ある意味ちょっとした驚きではあります。いつもはサラリーマンとして普通に働いています。専属ではないので、もちろんできることも時間的には限られていますけれども、自分のやっている中で、1つ1つ形を残せればいいなと考えています。
舩越 早稲田大学漕艇部コーチの舩越と申します。私は2021年に早稲田大学を卒業して、その後1年間資格取得のために、大学院に通いながら勉強をしていました。大学院を2023年の3月に卒業して、今は監督と同じように、社会人として仕事をしながらコーチをしています。コーチ自体は、2021年大学院にいた時からなので、ちょうど3年立つかどうかくらいになります。私がコーチの中では、1番学生に近い年代ということで、結構コミュニケーションは取るようにしています。今は女子をメインに見てはいますが、部全体として、メニューを考えたりとか、スケジュールを考えたりとか、サポートしながらコーチしています。
ーーそれでは質問に移らせて頂きます。いきなりにはなってしまうのですが、ずばり目指すチーム像をお聞きしたいです
阿二 短期的にはもちろん勝利してというか、そういうことがありますが、チーム像というとちょっと違うのかも知れないです。みんながやって良かったなと、将来的に思える部活であればいいなと思っています。私はもう54歳ですが、今振り返ると、社会人になってからの1年ってすごく短いです。けれども、大学時代の4年間というのはすごく濃い時間ですので、その期間に自分が本当に一生懸命にやったというような思いを持って、卒業できる場であればいいなと思っております。
舩越 私は一コーチという立場なので、チームがどうとかいうのは考えて無いのですが、体育会ボート部で4年間やる以上は、最後は勝ってこそ、今までの練習が報われるのかなと思います。みんながちゃんと勝ちを目指したい、と思える環境を作るというところです。自分自身が現役の時は、専属の監督がいて毎日のように見てもらって、海外遠征にも行かせてもらっていました。そこのところで、今いる部員をサポートして、自分が今までサポートをしてもらった分を、恩返ししたいと思って、頑張っています。選手がそこの部分を満足してもらえるように、しっかりサポートして、それを感じてもらえるようなチームにしていきたいと思っています。
ーー阿ニ監督にとって、学生に指導することと、社会人に指導することの違いはありますか
阿二 社会人に指導する方が圧倒的に楽で(笑)。私は今部下が10何人いますけれども、「やって」って言ったら動いてくれるというかですね(笑)。仕事では、自分の思った通りに動いてくれるので。リラックスしてやっています。こっちの方はなかなか、自分の想定外の動きをするというか、前提が若干違ったりするので、そういうところは苦労しますね。これは世代間格差もあったりするのかなと思います。昔であれば、こういうふうには考えなかったよなとか、学生の捉え方が違うのかなとか、そういうことはやはりあるし。その辺で社会人と学生という意味では、学生の方が大変です。
ーー舩越コーチは学生と年が近いという点で、指導する上で何か気にかけていることはありますか
舩越 自分は中学校からボートをやっていて、10年間漕いでいたので、自分が漕いでいた世界はある程度わかります。けれどもやっぱりもっと上のレベルだったりとか、何人も生徒を見てきた人、そういう人たちに比べると、見えている世界が狭いのかなと思います。なので、できるだけいろんな選択肢の中で、それぞれの選手にとってベストなことは何かというのを、常に考えながら指導しているという所ですね。
ーー今、お二人の指導の仕方などを伺ったのですが、それを踏まえて早大漕艇部の強みは何だとお考えですか
阿二 例えば、慶應との比較になるかと思うのですが、早稲田はいろいろなところから、いろいろなレベルの子が集まっています。それで考えると、すごく高いレベルの成功体験を持っている子がいたり、あるいは附属高校から、あるいは一般で上がってきたりとか。常にいろいろな経験を持っている人がミックスしています。その点は、常に早稲田大学漕艇部の強みかなと思います。慶應は、圧倒的に付属校から上がってきている人が多いので。早稲田大学漕艇部には、いろいろな考え方を持つ人間がいるところが強みでもあり、難しいところでもあるというのが、今思っている所です。
舩越 他の大学を見ていたわけでは無いんですけれども、早稲田は漕ぎのレベルというよりも、中にいる人の人間性というか、レベルが高いなというふうに感じます。スポーツ推薦だったり、学院から未経験で上がってくる人、一般で来た人と様々なのですが、ボートならボートで、勉強なら勉強で、何かしら強みというか、頑張ってきたことを持っているメンバーが集まってきたと思います。今まで自分はどう乗り越えてきたかなとか考えながら、取り組んでいます。他の学生と比べると、勝ちを目指す姿勢が強い。そこが強みかなというふうに思っています。
「負けると選手と同じか選手以上に悔しい」(舩越コーチ)
質問の答えを考える舩越コーチ
ーーお二人の早慶レガッタに対する思いを教えてください
阿二 当時学生時代、強い思いはあったとは思うんですけど、正直そこまでではなかった。去年監督になって、負けたことが私の中ではすごく大きいです。勝ちたいというよりも負けたくないという思いですね。負けた後の学生たちの気持ちの持って行き方とかも、すごく難しいですし、私自身もいろいろなところからいろいろなことを言われます。もう絶対負けるのは嫌です。私は慶應の監督と、例えば対談をしたり、慶應のOBとも話します。逆に早稲田のOBとも色々話しますけれども、両方が良きライバルで、お互いが高め合っていこうという気持ちがすごくあります。監督レベルの話で言うと、まず1番に安全にレースをしたいということ、満足のいくレースを学生ができればいいとすごく思っています。私自身の個人的な話よりも、早稲田と慶應のボート部は、お互いそういう感覚でいるのだなと。なので公式の場では、お互い良いレースをしよう、お互い全力を尽くそうねというふうになっていますけれど、個人的には絶対に負けたくないというふうには思っています(笑)。
舩越 コーチとして指導している以上は、勝ってもらうために指導をしています。負けると選手と同じかもしかしたら選手以上に悔しいかもしれないと思います。早慶戦は、男子も女子も3種目あるのでしっかり勝ってほしいです。
ーー対校エイト、第2エイト、女子エイトの現段階の仕上がりはいかがですか
阿二 彼ら自身の仕上がり具合という意味では、対校エイトはもともとレベルの高い子たちが組んでいるので、目指す点がすごく高いと思っています。そういう意味では、まだ道半ば、組んだレベル感はそんなに悪くないですが、スピードという意味ではまだまだ出せるかなと。あと1ヶ月ありますのでここからだと思います。 第2エイトは、だんだんまとまり出してきたという感覚はあります。従来第2エイトというのは、対校エイトに乗れなくて、メンバーが悔しさを持っている。対校エイトをなんとか凌ぐくらいの勢いでやるというような感じです。今年の第2エイトにはそういう気概が見えるかなと。今までは、(対校エイトメンバーとの)格差が大きすぎて、最初から完全に線を引いてしまうというようなところがあったかと思うんですけれども、(今年の)第2エイトには少しそういう部分が、今見えてきていて、それはすごくいいことだと思います。 女子はもう今まで何連勝もしていますけど、だんだん慶應の相手も強くなってきているし、ちゃんと練習をして、できるようになったところも感じますので、そういう意味では油断は一切できないです。ここで慶応に勝つというだけではなくて、他の大学にもこれから勝っていくためには、これは大事な時期ですので、しっかりと頑張ってほしいです。
舩越 私はあまり男子の方は見てないんですけど、客観的に見ると、男子に関しては、そもそもボート(という競技)は、一人一人が持っているパワーと、船を動かすというテクニックが大事なんです。その割合で言うと、8割くらいがパワーを持っている人が強くて、2割がテクニックで差が出るというスポーツです。今年の対校エイトに関しては、慶応と比べても、圧倒的に力強さがあるかなと思います。その面を生かしていければ、慶應には勝てると思います。ですがその先を見据えて他の大学とか、全日本(全日本選手権)を見据えると、テクニック的には道半ばかなと思います。早慶戦に勝つためにもそうですし、その後を見据えたという面でもそうですし、もっとテクニック面を向上してほしいと思ってます。第二エイトに関しては、阿二監督と全く同じで、セカンドとして対抗に勝つくらいの勢いで、対校エイトに乗れなかった悔しさを出していければ、もっともっと強い組になると思います。女子に関しては、今年34.5連覇くらいだったと思います(今年勝利すると34連覇)。早慶戦に対する思いはもちろんありますが、それ以上に慶応に圧勝するのは全日本(全日本選手権)であったりとか、8人でもっと上を目指していかないと行けないというところを、常に言うようにしています。現状どこがダメとか、どこができてるというのはないんですけど、まだまだ上を目指すためには、鍛えていかないといけないところは多いです。
ーー早慶戦を観戦する上で、レースの注目ポイントはありますか
阿二 男子は、長丁場のレースですので、最初に出たからといってそのまま勝てるかどうかは、やはりわからないです。逆に(最初に)出られたからと言って、勝てるかもわからない。全体を通して、最後にゴールに早く辿り着いたチームが勝ちですので、そこのところは出ても油断せず、出られても焦らずというところで、抜きつ抜かれつのレースを是非見てほしいです。どこがポイントというよりも、全てがポイントです、というふうにします。女子に関しては、レース自体は距離が短いんですね。なので、やはり両校のクルーが最初から全力で行くんだろうなというところで、最初にどこで出れるかが勝負だと思います。
舩越 展開による、というところが結論かなと思います。スタートか、ラストかと決まるところはないのですが、やはり並んでいるところで、対校戦なので、前に出ることができるかというところが見所、勝負ポイントになっているかなと思います。スタートから並ぶかもしれないですし、ラストで一気に追いつかれるかもしれないです。並んだところで動けるようになるかが、1番の注目ポイントです。あとは戦略として、橋の下で声を出すと響くので、そこで声を出していかにまとまるかが、映像などで見るときには注目ポイントかなと思います。女子に関しては1000メートルなので、スタートでしっかり出ることができるかが見所です。最後ゴールの時点でどれだけ慶應を離せるか、というのが大事かなと思います。ゴールで圧勝するところを見てもらいたいです。
ーーでは最後に、早慶戦への意気込みをお願いします
阿二 私自身はさっきの慶應と比較してという話ではなく、我々自身が早くなること、今の状況でどうだと言われても、慶應は見ないことにしております。コンタクトスポーツではないので、自分たちがいかに早く仕上げられるかというところを常に考えて、そこで勝負をしたいと考えています。
舩越 私自身が当日頑張るというところではないですが、コーチとしてできることは全てやった上で、早慶戦を迎えたいなというふうに思っています。去年レースに負けてから「こうしとけば良かった」と思う部分が多かったので、そこはしっかり事前に伝えた上で、「全部自分がやることは伝えた。あとはもうみんなで最後一本レース漕いでね」という状態に持っていきたいなというふうに思っています。そこのところで、レース本番「大丈夫かな、言っておけば良かったな」という感じではなくて、「もう大丈夫、ここまできたら自分たちのクルーは絶対勝てる」というのを目標にしたいなと思います。
ーーありがとうございました!
(取材、写真 小島大典、西本和宏 編集 勝野優子)
阿二真樹監督(あに・まさき)(※写真左)平成4年理工学部卒業。東京・早大学院高校出身。
舩越湧太郎コーチ(ふなこし・ゆうたろう)(※写真右)令和3年社会科学部卒業。滋賀・膳所高校出身。