五島美術館で「近代の日本画展」を観てきました。観に行ったのは、5月31日のことでした。大観の富士を描いた作品が多く、しかしながら多面的に大観作品を観ることができ、さながら大観展と言っても過言がない展覧会でした。会場はたくさんの大観ファンで賑わっていました。
展示室1―近代の日本画
鋭く切り立つ崖に囲まれた渓谷と、力強くそびえる松樹を描く。近代日本画の先駆者芳崖は、桃山時代から続く狩野派伝統の激しい筆法を駆使しながら、画面に新しい空間表現を試みている。
左:
秋の澄み切った水が流れる渓谷を描き、松樹に二頭の猿が遊ぶ。墨の濃淡や線描の強弱を様々に工夫し、空間表現を試みている。雅邦(1835-1908)は、狩野派伝統の力強い筆法を受け継ぎながら、西洋画の技法を取り入れるなど新しい絵画表現を開拓した。
右:
階調は豊かな紅色(絳は赤色、深紅色のこと。浅絳は薄い紅色)を画面全体の基調にし、中国山水画風の渓谷を描く。玉章(1842-1913)は、京都出身の画家。円山派の写実に、西洋画の空間表現を融合した、近代日本画初期の典型画風を示す。
「再興第11回日本美術院展」出品作。芋銭(1868-1938)には珍しく、鮮やかな色彩を用い、風に吹かれる唐黍(とうきび)や雑草をリズミカルな筆致で表現、村人たちの祭りに弾む心を描いた傑作。芋銭は、茨城県牛久村で農業のかたわら、日本画を独学、やがて再興日本美術院展で活躍した画家。
「再興第24回日本美術院展」出品作。奔放に伸びる松樹を手前に配置し、なだらかな浜辺のむこうに穏やかな春の海を描く。大観(1868-1958)は、桃山時代の画家長谷川等伯(1539-1610)作品に松の表現を学んだという。
「横山大観紀元二千六百年奉祝記念展」において、山(富士山)と海をテーマに各10点、計0点を描いたうちのひとつ。総売上金で、当時の陸海軍に戦闘機を献納した経歴を持つ。海十題の中での唯一の水墨美術館作品。墨の微妙な濃淡を活用し、奥深い遠近感を描出、海面の波に移る有限な光の雰囲気を表現する。
「高島屋新画廊開設記念大観富岳名作展」出品作。四季の富士を描いた四部作のひとつ。陽光に包まれ暖かく、残雪に山肌を見せ始めた富士山をかなり高い視点から絵が開く。大観(1868-1958)86歳の時の作品。
「高島屋新画廊開設記念大観富岳名作展」出品作。四季の富士を描いた四部作のひとつ。あたかも綿のような雲の間から紺青の山頂を見せる富士山を描く。
「再興第39回日本美術院展」出品作。大観(1868-1958)が得意とした潤いのある墨調で、画面いっぱいに春の渓谷を描く。大観の水墨作品の傑作。川面に跳ね上がる一匹の魚が、画面全体の緊張感を和らげている。
左:
墨の濃淡の巧みな処理により、奥行きのある空間と深遠な雰囲気を表現する。円形の流れ落ちる滝に対し、岩に生える不動の松を対比している。水流や岩肌の表現は、狩野派の筆法を学んだ玉堂(1873-1957)独特の筆致を示す。
右:
「東京美術倶楽部創立50周年祝賀展」記念作。川を覗き込む視点から、二人の人物が筏で急流を下る様子をダイナミックな情景として描く」玉堂(1873-1931)ねん、玉堂は、自然を愛し、日本の四季の美しい風物や情景を詩情豊かに描きあげた。
麗らかに咲く満開の桜樹と、青柳が風にそよぐのどかな風景を二幅に描く。小さく描き入れた犬と白鷺が、大木の存在感を強調。古径(1883-1957)は、渡欧後、古典美を再発見し、やまと絵様式の単純化を進めた。
東京日本橋三越で開催した個展「富士と周辺」出品作。名瀑白糸の滝(静岡県富士宮市)の風景を水彩風に軽妙な筆致で描く。龍子(1885-1966)は、躍動あふれる斬新な作風で活躍した異色の画家。
無審査・無賞の展覧会としてテント張り会場で開催した「第一回赤曜会展」出品作。暖かな色彩を用い、色面を構成した明快な形態で京都白河の一風景を描く。青樹は、最後尾本美術院展で活躍した画家。詩情豊かな風景画を得意とした。
展示室2―漆芸
「近代の日本画展」
館蔵の近代日本画コレクションから、「風景表現」を中心に、橋本雅邦、小川芋銭、横山大観、川合玉堂、冨田溪仙、小林古径、橋本関雪、安田靫彦、川端龍子など、明治から昭和にかけての近代日本を代表する画家の作品約四十点を選び展観。特集展示として館蔵の漆芸作品約二十点も同時公開。
五島美術館コレクション
近代の日本画
図録(小冊子)
平成14年(2002)4月1日発行
発行:財団法人五島美術館
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