五島美術館で「茶の湯を彩る食の器 向付」展を観た! | とんとん・にっき

五島美術館で「茶の湯を彩る食の器 向付」展を観た!


久しぶりに東急大井町線「上野毛」駅を降りました。僕の所から車で第三京浜に乗る時には、この駅前を通ると一番の近道。現在、上野毛駅は全面改修中、その設計はあの安藤忠雄です。なにしろ駅舎の建築は電車を運行しながらの工事なので、時間がかかります。全部出来上がるまで、もう少しかかりそうです。上野毛駅から歩いたり、次の等々力駅から歩いたり、多摩川と世田谷の台地との境、国分寺崖線にはまだまだ緑が多く残っている貴重な環境です。もちろん、住環境としても素晴らしく、多くの有名人が住んでいるところでもあります。


五島美術館は、世田谷区上野毛の閑静な住宅街にあります。東急電鉄会長の五島慶太(1882-1959)が収集した日本の古美術をもとに、1960年に開館した美術館です。美術館の隣に古い門が残っており、その隣の住宅の表札を見ると五島昇(1926-1989)とあります。五島昇は五島慶太の長男で、東急電鉄の社長や会長を務めた東急グループの統帥でもあり、五島美術館を開館させました。現在では、国宝5件、重要文化財50件を含む約4000件の美術品を所蔵しているという。


特徴的なのは、展示室が一つなので、常設展示はなく、分野別に所蔵品を紹介する展覧会を年5~6回、特別展を1~2回程度開催しています。僕の家からは同じ世田谷、比較的近いのですが、古美術ということで今まであまり行く機会がありませんでした。以前、京都冷然家の「国宝明月記」を観るのに、一度だけ行ったことがあります。根強いファンが数多くいるらしく、そのときの混雑ぶりには驚かされました。五島美術館が所蔵する「国宝・源氏物語絵巻」は毎年春に、「国宝・紫式部日記絵巻」は秋に、それぞれ1週間ほど公開しています。そうそう、五島美術館の崖線沿い庭もいいんですよね。



今回は「茶席を彩る食の器 向付」展でしたが、やはり多くの人が観に来ていて、会場は混雑していました。和物の茶陶を代表する黄瀬戸、志野、織部や唐津、京焼、中国製の古染付、祥瑞など産地とユニークなデザインの名品が約90件、紹介されていました。たくさんの「向付」、その多様な色柄と形態には驚かされました。見る目がない僕が言うのもヘンですが、やはり目を引いたのは「織部」と、そしてやっぱり「乾山」でした。徳の乾山の作品は、どれを観てもアバンギャルドでありながら、なおかつデザインがモダンで、他とは違った印象を持ちました。


出光美術館で、こうした素晴らしい皿や茶碗に料理を載せた写真を合わせて展示してあるのを何度か観ました。もちろん「懐石(会席)料理」をいただくのもいいでしょうが、それはそれ、分相応ということもありますから。 




 



実は僕は若い頃、4~5年、お茶を習っていたことがあります。「江戸千家」という流派です。「入門之證」を観ると、昭和45年12月となっています。二度ほど上野の不忍池近くの家元の家に行きました。いただいたのが「茶通箱」と「唐物点」です。「炭手前」にちょっと入ったところで、先生が引っ越してしまい、僕のお茶の修行も終わってしまいました。いや、懐かしい!



  
「向付」展、展覧会概要

茶の湯の食事、通称「懐石(会席)」に使用する食器「懐石道具」のうち、刺身などの料理を入れる器を「向付」といいます。懐石膳の向こう正面に置くところからその名がついたといわれています。他の懐石道具のうち、膳、飯椀、汁椀、煮物椀などは揃いで作った漆器であり、陶磁器の「向付」は、漆の器の中で華やかな彩りとして茶の湯の食のシーンを演出します。この「向付」には、美濃焼や唐津焼、京焼などの和物の陶磁器ばかりではなく、中国から輸入した古染付・祥瑞・金襴手や遠くヨーロッパからもたらされた阿蘭陀など、様々な産地や種類の陶磁器を使っています。また、その形状もユニークで、背の高いもの、低いものから、蓋の付いたものや、動物・植物をかたどったものなどとりどりの形をしています。


こうした「向付」が茶の湯の食器として盛んに取り入れられた16世紀末期から17世紀にかけて、茶の湯の世界では、茶碗に絵のある陶器を用いたりする大きな変革がありました。「向付」の中には、黄瀬戸のように茶碗として転用されるものもあらわれます。また、金襴手と呼ぶ華やかな中国製の磁器は、製作された時期よりはるか後の江戸時代に使用され、侘寂の茶懐石に豪華な彩をもたらしました。現在の日本の家庭では、和食・洋食・中華などの様々な料理を盛り付けるため、多種多様な食器を使っています。「向付」の斬新で優れたデザインは、今もなお中皿・小鉢などの食器に写され、現代の食器の中に生かされているのです。今回の展覧会では、こうした様々な変化に富む陶磁器を用いた「向付」を、桃山時代・16世紀末期から江戸時代・18世紀中ごろまで使われたものを中心に約100件集め、日本食器の多様性の原点ともいえる「向付」の素晴らしさを紹介しようとするものです(期間中一部展示替えがあります)。


「五島美術館」公式サイト


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