損保ジャパン日本興亜美術館で「吉田博展」を観てきました。観に行ったのは8月5日、「後期」にあたります。
まず初めに、吉田博の作品とダイアナ妃と、夏目漱石「三四郎」の関連について。
ケンジントン宮殿の中にある執務室のダイアナ妃
(英国皇室専門誌「Majesty」1987年」より、写真提供:吉田司)
壁に吉田博の2点の木版画が掛けられています。
(左:《猿澤池》(1933年)、右:《瀬戸内海集 光る海》(1926年、本展出品作))
夏目漱石「三四郎」に出てくる吉田博の絵
「ヴェニスの運河」
明治39(1906)年、油彩、カンバス
第6回太平洋画会展
解説:橋上からの眺めとおぼしき運河に臨む家々とゴンドラ、水の反映がやや粗い筆致で描かれている。 博は明治39年11月にヴェネツィアを訪れ、その景観に強くひかれたのだろう。滞在は3週間に及んだ。著者「アフリカ ヨーロッパ アメリカ写生旅行」でも言及は多く、とりわけ月下のゴンドラは「羽化登仙」の気分だと記している。夏目漱石『三四郎』で、三四郎と美禰子が「長い間外国を旅行して歩いた兄妹の画」を見るシーンは、41年の第6回太平洋画会展に博とふじをが滞米欧作226点を出品したことに取材するが、この場は一枚の絵に目をとめた美彌子のつぶやき一「ヴェニスでしょう」から始まる。本作は『美術新報』7巻15号(明治41年10月)に「太平洋画会出品」として写真が掲載されており、出品作の一点と考えられる。ヴェネツィアに取材した絵が複数展示されたことから特定はできないが、「蒼い水と、水の左右の高い家と、倒さに映る家の影と、影の中にちらちらする赤い片」との記述があり、漱石が想定したのが本作のような構図だったのは確かである。
ヴェラスケス作「メニッポス」模写
明治39(1906)年、油彩、カンバス
第6回太平洋画会展
解説:明治39年9月下旬から10月上旬にかけてマドリードに滞在した際の、プラド美術館での模写。博はスペインの風光にはいささかの失望を覚えたようだが、ヴェラスケスについては「千古の画聖」と称えている。本作は41年の第6回太平洋画会展に「メニポ」の題名で出品され、夏目漱石『三四郎』では「三井」という画家が手がけたヴェラスケスの模写として次のように言及されている。「・・・後には畳一枚程の大きな画がある。其画は肖像画である。そして一面に黒い。着物も帽子も背景から区別出来ない程光線を受けていない中に、顔ばかりが白い、顔は痩せて、頬の肉が落ちている」。「長い間外国を旅行して歩いた兄妹の画」とは別の条だが、絵の内容からして本作にまちがいないだろう。速筆でさらりと原画の趣を巧みにとらえているが、漱石は「原口」に「三井はもっと旨いんですがね。この画はあまり感服出来ない」と語らせている。漱石自身の感想であろう。
展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 不同舎の時代 1894-1899
第2章 外遊の時代 1900-1906
第3章 画壇の頂へ 1907-1920
第4章 木版画という新世界 1921-1929
第5章 新たな画題を求めて 1930-1937
第6章 戦中と戦後 1938-1950
以下、展示作品の一部
第1章 不同舎の時代 1894-1899
第2章 外遊の時代 1900-1906
第3章 画壇の頂へ 1907-1920
第4章 木版画という新世界 1921-1929
第5章 新たな画題を求めて 1930-1937
第6章 戦中と戦後 1938-1950
「絵の鬼」と呼ばれ、水彩で、油彩で、木版画で世界に挑み続けた画人。
ダイアナ妃や精神医学者フロイトも魅了した。
明治から昭和にかけて風景画の第一人者として活躍した吉田博(1876‐1950)の生誕140年を記念する回顧展です。
福岡県久留米市に生まれた吉田博は、10代半ばで画才を見込まれ、上京して小山正太郎の洋画塾不同舎に入門します。仲間から「絵の鬼」と呼ばれるほど鍛錬を積み、1899年アメリカに渡り数々の作品展を開催、水彩画の技術と質の高さが絶賛されます。その後も欧米を中心に渡航を重ね、国内はもとより世界各地の風景に取材した油彩画や木版画を発表、太平洋画会と官展を舞台に活動を続けました。
自然美をうたい多彩な風景を描いた吉田博は、毎年のように日本アルプスの山々に登るなど、とりわけ高山を愛し題材とする山岳画家としても知られています。制作全体を貫く、自然への真摯な眼差しと確かな技量に支えられた叙情豊かな作品は、国内外の多くの人々を魅了し、日本近代絵画史に大きな足跡を残しました。
本展では、水彩、油彩、木版へと媒体を展開させていった初期から晩年までの作品から200余点を厳選し、吉田博の全貌とその魅力に迫ります。
図録
編集:
西山純子(千葉市美術館)
藍畑啓二(毎日新聞社)
発行:
毎日新聞社
©2016-2017
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