東から吹く新たな風になれ
いざエクアドルへ!いよいよアドベンチャーレース世界選手権2024が始まる。舞台となるのは中南米エクアドル。首都キトから約500㎞ほど南下した中心都市クエンカがその決戦地で、標高2,530m、アンデス山脈中の谷に位置する。今大会は高地での戦いだ。チームイーストウインドのメンバーは田中正人、米元瑛(ヨネ)、所幸子(ジョージ)、そして小倉徹(てっちゃん)。それぞれ海外レースには出場しているが、この4人で組むのは初めてとなる。どの団体にも共通することだが、メンバーひとりが入れ替わるだけで、それまでとはまったく違うチームになる。陽希が抜けたイーストウインド。そして、てっちゃんが入ったイーストウインド。新しい化学反応が生まれようとしている。てっちゃんは大阪出身で今年33歳。一般的なスポーツであればすでに引退を考える年齢だが、経験が必須となるアドベンチャーレースでは若手とも言える。何より、てっちゃんはまだレース経験が浅い。先日のチームミーティングでてっちゃんが言った。「緊張と不安でいっぱいです」経験に加え、体力や技術もまだ足りないてっちゃん。本当に3人について行けるのか?と不安になるのだ。てっちゃんは昨年のExpedition Canada(カナダ)で胃腸をやられて食べ物も水分も摂れず、しまいには胃液まで吐いていた。国内トレーニングでも、50代後半の田中について行けないこともあった。今回、陽希の代わりとして自分が出場する。言う間でもなく体力も技術も陽希には到底追いつかない。むしろ自分がいることでチームの足を引っ張るのではないだろうか。そんな事をつらつらと考えてしまっていたようだ。軍曹・田中は言う。「どうしても辛い時は外に出すこと。限界を越えてまで我慢して、そこで倒れたら競技は終わる。そうしたらそこまでの頑張りも意味がなくなる。どうしても辛いなら、言葉に出す。逆に俺が倒れることだってあるし、ヨネやジョージが倒れることもある。そうなる前に状況を伝える。それを聞いたメンバーはそれを素直に受け入れ、フォローする。互いにフォローしていかなくてはゴールできない。大丈夫だ。仲間がいる。仲間を信じろ」大丈夫。仲間がいる!思い出すのはGODZone(ニュージーランド)。軍曹は、ぎっくり腰を抱えたままレースに出場した。荷物はメンバーに持ってもらった。空荷の軍曹はストックを突きながらヨロヨロと山を登る。テレビクルーが弱くてカッコ悪い自分を撮影している。だから何だ!? みっともなくてもいいし、日本中に笑われてもいい。「ここであきらめたらすべてが終わる。絶対に終わらせるわけにはいかない」一歩一歩に激痛が走る中、そう自分の言い聞かせて歩みを止めなかった。そしてメンバーも最後まで軍曹を支え切った。仲間がいたからできたゴールだった。弱い立場のリーダーシップ夕飯時、お酒を飲みながら軍曹と昔のレースの話をする。例えば西井万智子(マチマチ)。海外レースで経験の浅いマチマチをよく引っ張り回した。ジャガーが生息するジャングル、一歩間違えば滑落する雪山、寒暖差が尋常なく激しい砂漠。今思うと、うら若き乙女を結構な危険地帯に連れていったものだ。「マチマチがすごいところはね、絶対にあきらめないところだよ。断崖絶壁なんて怖くてビービー泣くんだ。そりゃ落ちたら命はないからね、怖いよね。でも止めるって絶対に言わない。泣きながら精一杯ついてくる。それがマチマチなんだ」彼女のド根性はピカイチと軍曹は言う。「チームで一番弱い人間がめちゃくちゃ頑張っている姿って、強烈にチームの士気を高めるんだよ。時にはどんなリーダーシップにも勝る。こいつこんなに頑張ってるんだって思ったら、俺も負けていられないと気持ちが昂るんだ」強い選手の集まりが良い結果を出す可能性が高いのは言う間でもない。しかし、弱い人間がいることで、チームの士気を高め、良い結果に導くことだってある。ヨネが言う。「僕はてっちゃんのことを陽希さんの代わりなんて思っていない。てっちゃんは、てっちゃん。新しいイーストウインドが生まれたと思っている」その通り。てっちゃんよ、新生イーストウインドよ、中南米に極東から新しい風を送り込んで来い!