Expedition Africa / Adventure Racing World Championship 2023
2023年アドベンチャーレーシングチームの世界頂点を決める戦い『Expedition Africa / Adventure Racing World Championship』が南アフリカ東ケープ州で開催され、この頂点を目指して世界中から400人以上の屈強な選手が集結した。
出発前に気温は14℃~26℃でマイルドと聞いていた。
35℃にも上る日本の夏に比べたら、数字だけ見れば楽勝だ。
が、ところ変われば品変わるで、南アフリカの日差しは突き刺すように痛い。
スタートはトレッキング。
始まったばかりで体力があるため、どのチームも勢いよく飛ばす。
これが引き金となった。
周囲の勢いに乗り、イーストウインドも飛ばしていく。
最初は10位程度に位置していたが、暑さが弱点の陽希が熱中症にかかってしまった。
食べ物が受け付けなくなり、パワーダウン。
容態は徐々に悪化していく。
レースを続けるか止めるべきか。
チームが出した決断は、翌朝までTA(トランジッションエリア/種目入替地点。次のセクションの装備が運ばれている。温かい食事が摂れる場合もある)に留まり、陽希の容態を見て進むか止めるかを判断することとした。
この時点ですでに70位くらいに落ちていた。
さて翌朝。
幸いにも陽希は食べ物を摂れるほどに回復。
チームは先に進むことを決めた。
出発前に隊長が言った。
「進むと決めたんだから、明るい気持ちでレースをしよう。
抑えて、抑えてでじゃ前に進めない。
陽希も「はぁ」とか溜息ついて暗くなるな。
もう大丈夫だから行くぞ!という気持ちで、戦う気持ちで行こう。
俺たちは戦いに来たんだから」
この言葉に腹が決まったように、ここからチームは劇的な展開を見せつけた。
※それ以降の細かい経過はイーストウインドの公式HPを御参照ください。
そして161時間34分という長い戦いを終え、イーストウインドはゴールに辿り着いた。
驚くべきは、その順位。
一時は70位くらいまで落としたイーストウインドは、最後に15位でゴールしたのだ。
今自分ができることを最大限にやる
その後のライブ配信で、それぞれがその時の胸の内を明かした。
※詳しくはアーカイブを御参照ください。
その中で、ある隊長の言葉が印象に残る。
「辛い中でも、自分たちが今やれることを精一杯やった。
自転車のセクションでゲキ坂があり、明日香ちゃんが遅れだした。
そこを陽希が明日香ちゃんの自転車のハンドルを片手で引っ張り上げながら、自分も自転車を漕ぐという、驚異的な体力でチームを底上げした。
明日香ちゃんも、ペースがあがらない僕や陽希を牽引することがあった。
ひとりひとりが、今できることを考えて、それを最大限にやる。
これがメンバー間に広がって、めちゃくちゃいい雰囲気になる。
そしたら面白いように他のチームを抜いて行き始めた」
そしてヨネがこう言った。
「今回、地図は最初に渡されるのではなく、TA(トランジットエリア/種目入替地点)で次の地図が渡されるんです。 しかも白地図。CP(チェックポイント/通過しなくてはいけないポイント)も描いてない。
そこにマスターマップが置かれていて、そのマスターに記載されているCPを自分達のマップに落とし込まなくてはいけない。
当然CPの位置を間違えると大変なことになる。
とても気を遣う作業なんです。
ここはナビゲーターの陽希さんと田中さんに任せて、僕はその時にできることをしてました」
確かに写真を見ると地図に書き込みをしている陽希と隊長の後方で、自転車を組付けたり、メンバーの飲み物を作ったりするヨネが映り込んでいる。
そこに『やってあげた』は、ない。
「今、自分に何ができるか」
それだけを考え、探し、集中する。
たったそれだけ。
そのたったそれだけが50チーム近くをゴボウ抜きする鍵となったのだ。
「やってあげた」は存在しない
その話を聞きながら、ふと思う。
私は日常の生活の中で、日々行うルーティンの中で、自分がやったことを認めてほしくて押し付けていないだろうか。
本当は
「なんで私がこんなことしなくちゃいけないの?」
「ここまでやってあげたのに」
などと思いながらも。
承認を押し付ければ、相手はこう思うかもしれない。
「なんでそんな事くらいで私がお礼を言わなくちゃいけないの?」
「ここまでやってとお願いしたわけでもない」
認めてもらうためにやっているのだろうか?
認めてもらったその先にあるのは?
本当に得たいのは何だろう。
他人からの評価? 感謝? 返礼? 敬意?
それもあるだろう。
でも、そんなのは一時のものであり、その先には更なる評価や感謝が欲しくなる。
いつまで経っても満足しないのだ。
だとしたら、それは本当に得たいものじゃない。
本当に得たいのは、チームなら勝つことであり、企業ならお客様の満足や喜びであり、主婦なら家族の笑顔で、友達なら彼らの笑顔なのではないだろうか。
自分のゴールはどこにあるか。
それを見失わないようにしたい。
最高のレースだった
陽希が言った。
「ゴボウ抜きをしている時、めちゃくちゃ楽しかった。
すごくいい気持ちでレースができた」
自分に今できることを、最大限にやる。
たったこれだけで、すごく気持ちよく物事が運ぶのだ。
結果は目標の10位以内から外れてしまった。
しかし、隊長はこう言って締めくくった。
「本当にいいチームだった。最高のレースだった」