美しい子宮② こうして私達は、セックスレスの夫婦になりました
美しい子宮⑯ 女の下剋上!女はいつもどこかで、人生をリセットしたい
美しい子宮⑳ たかが、子どもを産んだくらいで偉そうにするな!
私を残し秀吉は、この世を去ってしまいました。
しばらく心も体も、彼の死を受け入れられませんでした。
目が覚めると、いつもの習慣で秀吉が毎朝飲むお茶を用意しなくては、と立ち上がります。
すると秀吉がこの世にがいなかった事を思い出し、深い悲しみと喪失感に襲われ立ちすくみます。
その後、膝から崩れ落ち、涙を流すのでした。
こうなってようやく茶々様が鶴丸様を亡くした気持ちがよくわかりました。
あの方も同じような喪失感を持ち、奈落の底に落ちたのでしょう。
だからこそ秀頼様を産み出したのですね。
茶々様は新しくお子を産むことで、喪失感を埋めることができました。
ですが秀吉に抱かれることも、子を産むことも許されず生きてきた私には何も残されていません。
養子を取りたくさん子ども達を育てたのに、今私のそばには誰もいません。
一人ぼっちです。
一人でこの悲しみとたとえようもないさみしさに向き合うしかないのです。
心も体も風が吹きすさび、まっ裸で立ちすくむようです。
その時、まつさんの娘で養女になり宇喜多秀家に嫁いだ豪が、転がるように部屋に入ってきました。
「お母様!」
涙声で叫び、豪は私に駆け寄り手を取りました。
同じ悲しみを共有できるものがいたことがありがたく、豪と抱き合って泣きました。
二歳で私と秀吉の娘になった豪。
秀吉と私の親友の前田夫妻の娘。
豪は秀吉が寵愛し、私と大切に育てた愛娘でした。
その娘が涙がたまった大きな瞳で、私をのぞきこみ言いました。
「お母様、大丈夫ですか?」
豪の「大丈夫ですか?」という言葉は、私の身を案じたのと、茶々様と秀頼様達との関係を案じたものでした。
「ええ、私は大丈夫ですよ」
無理に笑顔を作って言いました。
あの子に心配をかけたくなかったのです。
しばらく豪は城に留まり、私と寝起きを共にしました。
おかげでじょじょに、秀吉の死を受け入れる事ができました。
豪はまだまだ城にいたかったようですが、豪に自分の城に戻るよう伝えました。
彼女は後ろ髪をひかれるように、何度も手を振る私を見て自分の家に戻って行きました。
彼女のおかげで息を吹き返し、気持ちを立て直すことができました。
私には秀吉に頼まれていたことがあったのです。
体調を崩し寝込んだ時、秀吉は私の手を取り言いました。
「寧々、秀頼を頼む。
わしが死んだら、茶々と秀頼を大阪城に移してやってくれ。
大阪城は、豊臣の居城じゃ。
寧々も一緒に大阪城に行ってほしい。
そして、秀頼が成人するまで茶々と秀頼を助けてほしい。
寧々にしか言えん。
頼む、頼むぞ寧々・・・」
一回りも体がしぼみ弱弱しくなった秀吉は、寝たまま私に手を合わせました。
「お前様、何も心配しなくても大丈夫です。
私ができるだけ、茶々様と秀頼様をお助けします。
一緒に大阪城に行き秀頼様を立派な豊臣の跡継ぎとして、茶々様とお育て致します」
そう言うと、秀吉は心底ホッと安心した顔になりました。
私が秀頼様の後見人になることで、自分亡き後の私の地位の保全も確保したと思ったのでしょう。
ですがそんなこと、どうでもよかったです。
ただ秀吉に心配をかけたくないという思い。
二人で築いた豊臣を秀吉一代で終わらせたくない。
それだけでした。
亡き秀吉の遺志を継ぐため、大阪城に入りました。
豊臣の為、茶々様と一緒に秀頼様をバックアップすることにしたのです。
それが、秀吉の願いだったからです。
もちろん気が進みませんでしたが、秀吉との約束です。
その後、しばらくして茶々様と秀頼様も大阪城に入城しました。
秀頼様の教育に対して、私と茶々様の意見はあまり違わず後の関白に向け、帝王学を学ばせました。
目的が一致したからでしょうか。
思いのほか、なごやかな関係を続けることができました。
それを見届け、翌年大阪城を辞しました。
これ以上、私という姑がいない方が茶々様も秀頼様も楽になれます。
それに家来達への司令塔を一つに定めた方がいいのです。
昔から仕えているわずかな者たちと、京都新城へと移りました。
そこから大阪城を見守りました。
ところが翌年、石田三成と徳川様が争う関ヶ原の戦いが起こりました。
徳川様が豊臣からの分裂と独立、豊臣に代わり天下を治める、という意思を秘めたのろしを上げたのです。
早速、徳川様に会いにまいりました。
私は亡くなった秀吉ともう一つ、約束を交わしていました。
「寧々、徳川殿の孫娘の千姫と秀頼の婚儀を必ず見届けてくれ。
徳川殿は敵に回すと恐い方じゃ。
わしが亡くなった後、豊臣の存在を脅かすじゃろう。
だから、ぜひこの婚儀をまとめてくれ・・・・・・」
徳川様に向かい、一生懸命説きました。
「せっかく一つにまとまったこの国をまた分断して、誰が喜びましょうか。
民の幸せのために、豊臣と徳川が一つになることが平和の礎となります。
つきましては、かねてより婚約しておりました徳川様の嫡男の秀忠様と私の養女でもある江様の娘、千姫様を秀頼様の婚儀を早めていただきますようにお願いいたします。
江様は茶々様の妹。
千姫様と秀頼様は、いとこ同志です。
お二人が婚姻を結ぶことで、豊臣と徳川の絆は一つになります。
天下も落ち着きます」
徳川様は神妙な面持ちで、静かに私の話を聞いていました。
そしてすべて話し終えた私の顔をじっと見つめ、口を開きました。
「北政所様は、それでよろしいのですか?
あなた様の立場は、どうなるのですか?」
「私の立場など、どうでもいいのです。
私は秀吉が残した豊臣をただ、守りたいだけです」
徳川様の目がきらり、と光ったような気がしました。
「本当に、それだけですか?」
「ええ、嘘偽りなく本当にそれだけです」
その時は、本当にそう思ったのです。
それが自分の本心だと信じました。
けれど今思うと、徳川様は何もかもすべて見抜いておられた気がします。
徳川様は、たくさんの間者を持っておりました。
その間者の一人が、長い間私の侍女などしておりましたら、いくら口を塞いでいても、私と秀吉の関係はご存知でしたでしょう。
ですがこの時は、そのようなことは露とも知りませんでした。
徳川様がどうしてそのような念押しをするのか不思議に思ったほどです。
秀吉が亡くなって五年後、千姫様と秀頼様の婚儀が行われました。
無事見届けた私は、落飾しました。
秀頼を弔うため高台寺を建て、高台院という名になりました。
しばらくして高台寺に、茶々様が訪ねてこられました。
「高台院様、私も高台院様のように秀吉様の菩提を弔うため、落飾したほうがよろしいでしょうか?」
私は目を閉じて、静かに心の声に耳を傾けました。
その声を受け取り、目を開いて茶々様に伝えました。
「淀様、豊臣は秀頼様にかかっています。
が、秀頼様はまだあまりにも幼い。
秀頼様をサポートできるのは、母であるあなたしかいません。
あなたまで落飾してしまったら、秀頼様はどうなるでしょう。
どうぞ、淀様はそのままのお姿で秀頼様をしっかりサポートして下さいませ」
私は頭を下げました。
心の声は、茶々様の本心にそのような考えはない、と言っておりました。
「そうですよね。
私がしっかりせねば、なりませんよね。
高台院様、どうぞ今後共、私達親子にお力をお貸しください」
茶々様は私に頭を下げました。
「秀頼様は、秀吉のお子ですから私のお子でもあります。
ねぇ、淀様、あなたは私を、子どもを産んだ女ではないから何もわからない、と思っていますよね?」
茶々様は、痛い所を衝かれた、という顔をされました。
図星だったのでしょう。
ずっと茶々様が、私を見下していたを知っていました。
「たしかに私は子が産めませんでした。
産めるわけなど、なかったのです。
でも、鶴丸様も秀頼様も、私にとっては本当に愛おしい存在です。
何より、あのお子たちが産まれてからの秀吉の喜びようと幸せな姿を見ているだけで、私は幸せでしたよ」
「ならば、ならば、なぜ・・・・・
なぜ秀頼が生まれた時に、この子が豊臣に災いをもたらす、と言われたのですか?
私の胸には、この言葉がずっと矢のように突き刺さっています」
この時、茶々様が一番、聞きたかったのはこのことだ、と気づきました。
食い入るような顔で問い詰める茶々様。
そんな時でさえ、あきれるほど美しいのです。
「あの時、秀吉は秀次様に一度関白を譲ったのです。
秀頼様が生まれた事で、我が子に関白を譲りたい、と願うのは親として当然でしょう。
が秀次様も養子とは言え、秀吉の息子で、秀吉の甥でした。
身内で血で血を洗う争いになることは、目に見えていました。
案じていた事は恐ろしい現実となりました。
秀次様だけでなく、一族郎党をすべて殺してしまった責めは、この豊臣が一生背負っていかねばなりません。
どこかで、その責めを受ける時がくるやもしれません。
私はそれを一番恐れ、あの時そう言ってしまったのです」
「秀吉様のやったことが、秀頼に災いとなってくる、と言うことですか?
秀頼は何もしていないのに、おかしいではありませんか!!」
「哀しい事ですが、秀吉が秀頼様可愛さのために、やってしまったことです。
秀頼様は生まれてくる時に、こうなることを十分わかっていた上で、淀様のところにやってきたのでしょう。
とても勇気あるお子なのです」
「秀頼が豊臣のために、すべての災いをかぶる、と言うのですか?」
「それが、上に立つものの宿命です。
秀吉とてどれだけの血を流し、殺戮を繰り返し、天下を取ったことか。
その責めを受け、幼い秀頼様を残し先に旅立つことになったのです」
「私が秀頼を守ります!
あの子に災いなど、寄せ付けません!」
茶々様の目を見ながら、静かに告げました。
「淀様、秀頼様をお守りできるのはあなたしかいません。
でも、一つだけ気をつけて下さいね。
秀吉は秀頼様への愛が強すぎ、身内を殺すという間違った方法を取りました。
愛が強すぎると、人はまちがった道を進みやすくなります。
愛しすぎると、人は罪を犯しやすくなります。
愛は人を狂わすのです。
私も、その一人です。
どうぞ、それだけを心にお留め下さい」
茶々様は黙ったまま頭を下げ、その場を去って行かれました。
愛が強すぎると、人はまちがった道を進みやすくなる。
愛しすぎると、人は罪を犯しやすくなる。
愛は人を狂わす。
茶々様にこの言葉の本当の意味が、わかったでしょうか?
私は認めたのです。
高台寺で秀吉を弔いながら、わかったのです。
人はまちがいを犯す生き物です。
やがて私も自分の犯したまちがいに気づいのです。
私が犯したまちがい、それは・・・・・・
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あなたは自分や自分以外の人のまちがいを、許せますか?
どうして許せない、と思うのでしょうか?
その気持ちの裏側に何があると思いますか?
あなたは生まれてから一度もまちがいを犯していませんか?
まちがい、とは何でしょうね。
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