美しい子宮⑩ 夫婦でも口に出してはいけない言葉がある | 立ち止まったハートが前進する!未来が視える奇跡リーディング

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美しい子宮① 愛と呪い

美しい子宮② こうして私達は、セックスレスの夫婦になりました

美しい子宮③ 私が私に、悦びと快感を与える

美しい子宮④ 浮気ではない夫の本気と妻の嫉妬

美しい子宮⑤ 戦国妻の教える夫の浮気対処法

美しい子宮⑥ 夫の子どもを産んでくれる女を、夫に与えます

美しい子宮⑦ 底なし沼のような深いご縁

美しい子宮⑧ 夫婦は鏡・・・夫の闇、妻の闇

美しい子宮⑨ 蓮は泥より出でて、泥に染まらず 

 

わたしにだけ、勃たない?

この頃から秀吉は、これまで恐るおそるひっそり出していた闇の顔を、私にまでも堂々と出し始めました。
清州会議が終わった夜のことです。

二人きりの閨で正座した秀吉が、突然言いました。

「寧々、わしは側室を持つ」
「えっ?」

いきなりのことに面食らい、身を乗り出しました。
「明智に味方した若狭の守護大名の武田元明の妻子を捕えた。
妻の京極龍子が、子どもの命と引き換えにわしの側室になりたい、と申し出たのよ。
ならば、受けねばなと思っての。
龍子殿には、二人も男子がおる。
わしの側室の息子になれば、わしが手助けできる。

が、側室を断れば龍子殿も子どもたちもみな殺さねばならぬ。人助けにもなるでな」

それは相談でもなく、決定事項の報告でした。

子どもが親に欲しいものを買ってほしい時、親が断れない理由を見つけ、買わせるように持っていく方法です。
私が承知するもっともらしい理由を、コーティングしただけの報告。

それがわかっているから、そっけなく言いました。
「仕方ないですわね。

人助けですから」

願いが通った秀吉は、満面の笑みになりました。

「さすが、寧々じゃ!そうじゃ!
人助けのために、わしの側室にするんじゃ。
龍子殿は、武田で三人も子をもうけた。
わしは、四十五じゃ。
まだ自分の子を持てるかもしれん。
多産な龍子殿なら、わしの子を宿すかもしれんしな」

 

「あっ!」と叫びたくなるのを、ぐっと飲みこみました。
豪や秀勝という子どもをもらい受けながらも、秀吉はまだ自分の血を引く子どもを持つことを、あきらめていなかったのです。

私は鈍器で頭を強く殴られたような痛みを覚えました。
信長様のお子だった秀勝を羽柴の跡取りにする、と言っていたのに信長様が亡くなった今、秀吉の思いはするり、と変わったのです。

やはり彼は、自分のDNAを持った子どもが欲しいのです。
その思いを、隠すことなく堂々と私に申し伝えたのです。
憎しみに近い思いがわき上がりました。

私だとて、彼の望みを叶えてやりたい!
いや、私こそが叶えたい!!

今までも重しをし、抑えていた憎しみにも近い気持ちがふつふつと音を立てわき上がりました。

 

歯を食いしばり、一度も使われていない自分の子宮を思いました。
女として秀吉に抱かれていない身体を、顧みました。
子宮が私の苦しみと悲しみを背負い、下腹部がキリキリ痛みます。

秀吉は自分の我儘を通す為、私を女として封印し、朽ちらせている事に気づきません。

いえ、見て見ぬふりをしているから、たちが悪い。
頭では彼の母親になる、と納得しております。

いえ、無理やり納得させました。
けれど、身体は赦しません。
ブルブルと怒りで震えます。

 

なぜ秀吉の子を産むのが、私の身体ではダメなのでしょう。
なぜ秀吉の精子を受け取るのが、私の子宮では無理なのでしょう。
これまで二十年抑えていた思いが身体中に溢れ出し、今にも爆発寸前です。

はぁはぁ肩で息をし、脂汗が流れ出ました。

さすがの秀吉も、私の様子をおかしい、と思ったのでしょう。
「どうした?寧々?」
彼が私の震える手を握りしめようと、手を伸ばしました。
「触るな!」

彼の手をパン!と弾きました。
本当に自分の声か?と思うほどの冷たく鋭い声でした。

その時、私の闇もふたを開きました。

 

「私を
この私を都合よく使いおって・・・・・・
どれだけ我慢し、お前様に尽くしている、と思ってる?
私は一生、お前様に抱かれず、他の男にも抱かれず、処女のまま一生を終えればいいと思っているのか?
去勢した飼い犬のように、お前様に飼われ続ければいいのか?
私も女だ!
お前様が私を抱いてくれたら、まだ子どもだって産める可能性もある!
お前様を愛している。
なのに、どうして他の女を抱く?
それがどれほどつらいことか、お前様にはわからんのか!!」

結婚して二十年、抑えにおさえ、納得させ続けた思いが火山のように爆発しました。

ドロドロした熱いマグマが辺り一面、飛び散りました。
火を噴いた私の身体は、まだ小刻みに震えています。
とんでもないことを口にした、という思いと、やっと言えた、という思いが複雑に交差しました。


結婚し初めてわたしの本音を聞いた秀吉は、強いショックを受けたようです。

しょんぼり肩を落とした姿は、一回り小さくなったようにも見えました。

「すまん、わしは寧々をそこまで追い詰めとったんじゃなぁ。
わしのワガママで、寧々をおかんにしてしもうたなぁ。
本当に、すまなんだ」

秀吉は、私に頭を下げました。
そして言ったのです。

「わしには、どんな形であれ、寧々が必要じゃ。
ずっとそばにいて欲しい。
だが、わしには寧々を抱くことができん。
できんのよ」

脳天を針で突き刺すような言葉。


「なぜですの?」

秀吉は口をつぐみました。
息苦しい沈黙が流れました。
何か良くないことを聞く気がする、そんな予感で窒息しそうでした。
やがて秀吉が、かすれた声で言いました。
「わしは、寧々には勃たないんじゃ。
お前が寝ている時に、何度も試してみた。
男として寧々を抱きたい、という欲望はあった。
でもどうしても無理じゃった。
わしは自分がおかしいのか、と思った。
他の女で試したら、他の女とはできるんじゃ・・・
なぜなのか、わからん。

たぶん、わしには寧々にコンプレックスがあるんじゃと思う。
お前はわしより十近く年下なのに賢く、わしよりも身分が高い家柄じゃった。

愛されて育ち、天真爛漫だった。
そんなお前に惹かれ、お前を手に入れたい、と望んだ。
だが手に入れたらお前は輝きすぎ、わしには手が届かない相手じゃった。

だが、お前を愛してる。

お前が必要じゃ。
どんな女よりも、お前が一番じゃ。
お前を離したくない。
ずっとお前をそばに置きたい。
そう考えて、お前をおっかあにすることにした。

じゃが、お前も一人の女じゃ。
お前はわし以外の誰にも抱かれてないんじゃのう。
お前は女としての欲望がないんだ、と思い込んどった。
そんなワケなどないのになぁ。
今まで我慢して、耐えてたんじゃなぁ。
本当にすまなんだ」

そう頭を下げた後、秀吉は意を決したように言ったのです。


「寧々
離縁しよう・・・」

秀吉は、泣きながら頭を下げました。

「これ以上、お前を苦しめるわけにはいかん。
わしと離縁して一人の女になったら、お前は他の男に抱かれることもできる。

他の男と結婚することもできるだろう。
まだ子を産むことができるかもしれん。
お前のためには、それが一番いいのかもしれん・・・・・」

呆然としました。

この事実を二十年も秀吉は、隠し通していたのです。

もはや隠蔽です。
私にだけ、勃起できない?
なんですか、それ?

屈辱と怒りで、髪の毛が逆立ちました。
握りしめたこぶしに爪が食い込み、固く噛みしめた唇から血が流れ出しました。
心に鋭い刃が突き刺さり、今にも息絶えそうです。

「なに・・・・・
なに、それ?
今さら、二十年も経って何よ!」

キリキリ音を立て突き刺さった刃を抜き、立ち上がりました。

「もう私は、三十五よ!
今さら離縁され、これからどうしろ?というの。
三十五で処女だなんて、誰が私を抱いてくれるの?
二十年も妻をしておいて、誰が信じてくれるというの?
もっと早くに教えてくれていたら、まだ身の振り方を考えられたわ!
今さら、どうにもできないのよ!」

激情にかられ、そばにあった湯飲み茶碗を投げつけました。
秀吉は腕でよけましたが、畳に落ちた茶碗は割れ、欠片が秀吉の頬に当たり切れました。
切れ後から、血が流れています。

「私にだけ、勃たない?
はぁ?なにそれ?!
私のこと、女として見てないだけでしょう?
都合よく使っただけでしょう?
自分のコンプレックスを、埋めたかっただけでしょう?
いい加減にしてよ!」

 

一度開いた闇は、もう蓋をできません。
一度口に出した言葉も、もう二度と口の中に戻せません。
私は呪いのように次々、口に戻せない言葉を吐き続けました。
言いたいことを言い終えると、秀吉の前に立ち、着物を脱ぎました。
真っ裸になり、力なく座り込んだ秀吉を上から見下ろしました。
なにごとかと、おびえる眼差しで秀吉は私を見上げました。

まっ裸で秀吉に抱きつき、寝床に身体を押しつけました。
押しつけた男をどうしたらいいのかわからないまま、彼の着物をはだけ、あちらこちらに唇をつけました。
彼を犯すように、私は馬乗りになりました。
そして彼のものを触りました。
そこは、力なくグンニャリと柔らかいままでした。

「寧々、すまん・・・」

秀吉が泣き出しました。

 

彼はそっと私を押しのけ布団の上に座らせ、裸の私の背中に着物をかけました。

「わしは、お前を抱けん。
お前を女にしてやれん。
本当に、すまん」

彼は土下座し頭を下げました。

 

私は茫然と彼を見つめました。

自分が女の形をしたもので、妻という名ですが、女ではないものだと思い知らされたのです。

秀吉は立ち上がり、部屋から出て行きました。

夏の暑い夜なのに、心も身体も氷のように冷たくなっていました。

秀吉がかけた着物を放り投げ、裸のまま布団に入りました。

もう二度と朝なんて来なければいい、このまま目覚めたくない、そう思い暗い天井をにらみつけました。
その夜、秀吉は寝床に帰ってくることはありませんでした。

秀吉に向かい口にした言葉が、残骸のようにあちこち残っている部屋。

夫婦でも口に出してはいけない言葉があるのです。

秀吉に放った言葉は、自分に向けた言葉。

相手に向けた刃が私の心をずたずたに切り裂いたのでございます。

 

 

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あなたは二度と口に戻せない言葉を、吐いたことはありますか?

 

その言葉は、きっとあなたの心にも突き刺さったでしょう。

 

言葉は、聞いた方も言った方も、二度と戻せません。

 

戻せないけど、言わずに言えない言葉もありますよね。

 

言葉・・・

 

それは、人を傷つけも癒しもする力を持っています。

 

それを知った上で、言葉を使いこなしましょう。

 

 

 

 

 

 

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