美しい子宮② こうして私達は、セックスレスの夫婦になりました
美しい子宮⑯ 女の下剋上!女はいつもどこかで、人生をリセットしたい
望み通り茶々様を手に入れた秀吉が、三十歳も年下の彼女に望んだのは、自分のDNAを受け継いだ子どもです。
茶々様の中に流れる浅井家、そして信長様の織田家の血筋。
そこに自分のDNAを入れた豊臣の跡継ぎを、渇望したのです。
もしお市様を手に入れていたら、お市様との間のお子を望んだでしょう。
ですがその野望は、叶いませんでした。
さらに、信長様から養子にいただいた秀勝を跡継ぎにすることも叶いませんでした。
秀吉は亡くなった信長様を尊敬しながら、信長様を超える男になるために織田の血筋を求めた、と私は見ております。
自分の家系の中に織田の血を入れることで、信長様と同じ位置に立てる、と信じていたのです。
もちろんプライドが高い彼は、口が裂けても私に言いません。
ですが、私にはわかるのです。
信長様にお仕えしていた時から秀吉は、他の家臣達からさんざん出自を馬鹿にされておりました。
自分を馬鹿にした家臣、そして世間を見返す為、彼は主君を超えるか同格のものを欲しがったのです。
それが信長様が愛し可愛がっていたお市様であり、お市様の産んだ姫様達でした。
三人の姫様達の中で一番、お市様の面影を宿し美しかったのが茶々様。
秀吉が執着するのも、当然です。
自分より身分の上の女を手に入れ、跪かせることで、権力欲を満たしていました。
この推測を裏付けるように、秀吉が手をつけた女達はみな大名の妻子達だったのです。
いくら顔立ちが整っていても農民出身の下位の女には、目もくれませんでした。
身分の高い女を自分のものにすることで、征服欲と満足感を満たし、自分を馬鹿にした男たちに復讐しているように見えましたよ、私には。
ですが秀吉がそんな女達を抱いても、子どもはできなかったのです。
三十も年下の愛人に種付けをするため、秀吉は忙しい合間を縫い一週間に一度、茶々様のところに通っていました。
これからも豊臣の世を続けるために、なんとしても秀吉の子である豊臣の子が必要です。
あの浅井と織田の血を引く茶々様は、きっと秀吉と豊臣のために子を産んでくれるでしょう。
そのために私は秀吉に、茶々様を差し出したのです。
茶々様のあの意志の強い目。
健やかな肢体。
なめやかな肌。
見た目はじっとりとした粘着質な女の顔をしていますが、彼女の内面は男でしょう。
茶々様からにじみ出るオーラは、どうやってでも欲しいものは必ず手に入れるパワーがありました。
二度の落城を味わい、親を失った悲劇のヒロイン。
意図的に悲劇のヒロインとなった旭とちがい、親の仇に抱かれ愛人にならざるを得なかった宿命的な悲劇のヒロイン。
それが、茶々様です。
ヒロインは、雄々しく立ち上がるのです。
虐げられたままでは、終わりません。
ましてやプライドの高い茶々様のこと。
ご自身がどんな役割をこのドラマで課せられているのか、ご存知でしょう。
その目的を果たす為でしたら、何をしても最大限の努力をして叶えるのが茶々様です。
そんな茶々様に、期待しております。
あなたは私の代わりに、ご自身の子宮に子を宿すのです。
豊臣の母としての思いを背負い、豊臣の子を産むのです。
あなたならきっとできます。
養殖の悲劇のヒロインではなく、天然の悲劇のヒロインのあなたならね。
秀吉の愛と関心をずっと自分に引き付けておくには、その手段しかありませんものね。
若さと美貌は、ある程度の女は持っています。
ですが、あなたにしかないもの。
あなただけが持っているものは、血筋という何にも代えがたい出自。
血統であなたを選んだのですよ、茶々様、ご存知ですか?
ご自身に流れるその付加価値に感謝して下さい。
茶々様のことを考えると、私はついついほくそ笑んでしまうのです。
人は案外、自分の強みに気づかないものです。
もしかしたら私にもまだ、自分でも気づかない強みが隠れているかもしれません。
そして天正十六年、ついにその知らせが届きました。
頭から湯気が出そうなくらい真っ赤な顔をした秀吉が廊下を走ってきました。
そして私に抱き着いたのです。
「寧々!茶々が、わしの子を孕んだ!
ついに、ついに、わしの跡継ぎが出来たぞ!!」
一瞬息を飲み、そして冷静に自分の直感を誉めました。
そして秀吉を抱きしめ言いました。
「お前様、ついに豊臣の後継ぎができましたね」
私の言葉に秀吉は涙ぐみながら、うなづきました。
すべて予定通りです。
茶々様は期待に応えてくれました。
ですが、嬉しいはずなのにどこか喉に小骨が刺さったような違和感を覚えました。
本当に秀吉の子なのか、というきな臭い疑惑がわき上がったのです。
不吉な胸騒ぎを感じ、左手で胸を押さえた時
「私の産む子が、秀吉様の子です」
という茶々様の声が聞こえた気がしました。
仄かな疑惑は真っ黒な固まりとなり、焦げついた匂いを漂わせ、私の肺に落ちてきました。
やってくれたわね、あの愛人・・・
勝ち誇った茶々様の逆襲に、私は下唇を強く噛みました。
女とはなんと強い生き物なのでしょう。
誰の子種か、深く詮索しないでおきましょう。
こんなに喜んでいる秀吉でさえ、一抹の疑問や不安はあるに違いありません。
ですがそれを強く押し込めた上で、自分の子だと認めているのですから。
まぁ、良い。それでいいのでしょう。
でもね、茶々様、一つだけ言っておきましょう。
秀吉が認めた子だけが、秀吉の子。
どうぞ、それをお間違えなきように。
茶々様のご懐妊は、悲劇のヒロインの逆襲が幕を開いた瞬間でした。
皮肉にも、それが豊臣の滅亡に向かってのカウントダウンとなったのでございます。
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