みなさんこんばんは。
知りたいけれど、どこかに書いていそうで書いていない内容を解説する生殖医療解説シリーズ、今夜はレギューラ編第22回、卵巣過剰刺激症候群(Ovarian HyperStimulation Syndrome: OHSS)です。
さて、前回の番外編で、副作用が許容範囲内である限り卵子は採れれば採れるほどよい、と解説しました。OHSSのリスクを100%完全に回避できるならば、刺激(HMG、uFSH、rFSH)の量が増えても結果的に採れた卵子の量が増えても卵子の質は下がることはなく、累積妊娠率は上昇し続けます。採取卵子数の増加とOHSSリスクはトレードオフであり、いかにOHSSのリスクを回避しながら安全に多くの卵子を回収するのか、ということが重要になってきます。
OHSSとは、排卵誘発剤に伴い多数の卵胞が発育することにより、卵巣腫大、下腹部痛などの症状を呈する症候群のことです。症状のピークは採卵前ではなく、通常は採卵の6日後頃となります。採卵して3~4日目で症状が出ている場合は、その後2~3日は症状が増悪を続け、採卵して1週間くらいするとピークアウトしてくるという流れになります。
OHSSには分類があり、軽症(卵巣腫大が6cm以上8cm未満で、腹水は骨盤内にとどまり、採血データは正常)、中等症(卵巣腫大が8cm以上12cm未満で、上腹部にまで及ぶ腹水があり、採血データで軽度異常がある)、重症(卵巣腫大が12cm以上で腹部全体に及ぶ腹水あるいは胸水を呈し、採血データに大きな異常がある)に分類され、重症であれば原則として入院を考慮、中等症の場合は通院(あるいは検査データや自覚症状次第で入院)、軽症ならば必要に応じた通院で経過観察となります。
リスク因子は、高AMH、やせ型、35歳以下、採卵決定時のピークE2値が高値、新鮮胚移植、トリガーとしてhCGの使用です。
予防としては、
①卵巣刺激の工夫
ショート法やロング法を回避(アンタゴニスト法、黄体フィードバック法で行う)
月経中から数日間のレトロゾール(フェマーラ)の併用
刺激(HMG、uFSH、rFSH)の量の調節、途中減量、
コースティング(刺激を数日間一時中止する)
途中でレトロゾールを追加する
②採卵決定時の工夫
トリガーでhCGの減量あるいは回避
・hCGなしでGnRHアゴニスト製剤のみ使用( GnRHアゴニスト製剤も点鼻と注射があり、卵胞多数の場合は注射のほうが効果が高い印象がある)
・あるいはhCG減量+GnRHアゴニスト製剤を併用するのも有用
・下垂体機能低下や過去に卵子の成熟率が不良等、hCGが不可避な場合はhCGを減量
③トリガー後の工夫
レトロゾールの内服
(レトロゾールはE2低下だけでなく、カベルゴリンと同様にVEGF産生による血管透過性亢進を抑制する方向に働くとの報告がある)
血栓予防でバイアスピリンの内服
④新鮮胚移植は行わず、全胚凍結を行う
このように、OHSSの発症を効果的に抑制することが可能です。
治療による副作用は少ないことは大原則です。
しかし、1回で必要なだけしっかり良好胚が得られれば結果的に採卵回数を減せる可能性もあり、そういう面からは、ある程度は胚の個数を目指したいという観点も無視できません。また、高AMHの場合、刺激が少ない場合に採卵数や胚のグレード等様々な局面で苦戦する例があり、そういった方の中には、刺激したら見違えるように好成績が得られる場合も実際に少なくないため、副作用さえなければよいというわけではなく、副作用が許容範囲内である限り、できるだけ多くの卵子を取りたいものです。
そのために必要になってくるのは副作用抑制策ですが、これだけ様々な方法を多角的に組み合わせることで、より安全な刺激周期を立案することができるのです。
バックナンバーは以下の通りです。
レギュラー編
☆体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、どちらが確率が高いか(15)
卵巣過剰刺激症候群
番外編
☆ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらが妊娠率が高いか
結局、ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらを選んだらよいのか
ヘパリン治療について(リブログ)
☆カウフマン療法(リブログ)