みなさん、こんにちは。
知りたいけれど、どこかに書いていそうで書いていない内容を解説する、生殖医療解説シリーズ、今日も番外編です。
体外受精においては、自然周期、低刺激、高刺激等の方針があります。中には完全自然周期とか中刺激という用語を使う場合もあります。意外かもしれませんが、これらは、各クリニックあるいは医師が独自に表現・分類しているだけで、「こういうものを低刺激といいましょう」とか、「こういうのを中刺激といいます」という共通の明確な定義はありません。
例えば、クロミッドだけを内服する周期、クロミッドに隔日等少量のHMG/FSHの注射をする周期のことを、当院ではいずれも低刺激に含めています。しかし、「クロミッドのみなら『自然周期』であり、クロミッドも何も飲まないのは『完全自然周期』である」という分類の施設もあります。「クロミッドのみなら低刺激、少量のHMGを加えた中刺激」と表現する施設もあります。
本当は、ちゃんと共通化したほうがよいのだろうけれど、施設により色々な方針や考え方もあるし、変えるのも大変なので、今のところ分類呼称を統一しようという話は残念ながらありません。私たちは、どのクリニックでどういう刺激を何と呼んでいるのか、何となく知っており、患者さんの話は理解できてしまうので、ある意味あまり困っていないということも用語共通化が進まない理由の1つと思われますが、患者さん側からするとちょっと混乱してしまいますよね。
リプロダクションクリニックは高刺激周期のクリニックだ、と言われることもありますが、自然周期も刺激周期も、それぞれ利点・欠点がありますので、当院では自然周期・低刺激周期・刺激周期・FSH調節周期・遅延スタート法、あらゆる方法にチャレンジすることができます。
やはり、卵巣刺激により卵子の状況が変わることがありますので、卵巣刺激法はとても重要です。いまだに、卵子が増えてたりHMG注射量が増えると、卵子の質(正常胚率)が下がるなどと主張する医師もおられますが、最新の報告では、そうではない報告が相次いでいます。まず、排卵誘発剤使用量で、正常胚率は変わりません。また、刺激周期と自然周期でも正常胚率は変わりません。そして、採取できた卵子の数が多ければ多いほど、累積出産率は上昇します(副作用が強く出過ぎない限り、採れれば採れるほどよい)。従って、排卵誘発剤を使いすぎるとよくないとか、卵子が○個以上だと質が下がるというのは、昔はそのような意見もありましたが、最新の報告で否定されています。
刺激が強いと卵子が減るとか反応しなくなるという意見もありますが、何もしなくても卵子は毎月1000個減りますので、刺激してたとえ30個あるいはそれ以上育ったとしても、卵子がなくなるとか閉経が早くなるというのは非論理的であり、そのようなデータはありません。採卵周期中に常にFSH値をモニターして、FSHが上がり過ぎた場合は誘発剤を減量することにより、反応不良を回避することができます。
では連続採卵はどうでしょうか。卵巣の反応がよく、次の月経になっても卵巣腫大が残るような場合は、もちろん1周期お休みとなりますが、そういった場合は一定数の凍結があることが多く、次の採卵を考えなくてもいいことが少なくありません。それでは、採卵はできたがもうちょっと凍結胚が欲しいという場合、連続採卵は望ましくないのでしょうか。
どんな方にも好不調の波はありますので、連続して採卵してたまたま2周期目に調子が悪い方もおられますが、逆に調子がよくなっている方もおられます。実際に、連続採卵でも、3回連続採卵したら3回目が一番よかったという方は多数おられます。一律で連続採卵はよくないわけではないのは、こういった方々の存在が証明しています。
逆に、お休み周期明けにかえって調子を崩している場合、ホルモン剤(ピルやカウフマン)で月経調整をした後の周期で卵胞が少なかったりFSHが高かったりということもあります。ホルモン剤内服はAMHの一時的な低下を招きますので、特に低AMHの場合は、時としてFSH上昇と月経中小卵胞数の減少、次周期の反応低下やHMG必要量の増加を招くこともある点に注意が必要です。
連続採卵を避ければ、例えば採卵とお休みを交互に繰り返した場合、1年あたりの採卵可能周期が半分になってしまい、残された時間が少ない方にとっては、大きなデメリットとなります。お休み周期で状況が好転するとは限らず、そのためにチャンスをみすみす半分無にするのは得策とは言えません。ましてや、何か月もにわたってお休み周期を取るメリットは全くありません(FSHがどれほど高くても2週間あれば下げられます)。大切なのは、連続かどうかとか、お休み周期やカウフマン療法をしたかどうかということではなく、その周期その周期の開始時のホルモン値や超音波所見、AMH、過去の治療歴(特に最近の採卵歴)を参考に好不調の波を見極めて、その時その時のベストの治療計画を立てることです。
卵巣刺激については、一般的にアンタゴニスト法が王道であることには異論の余地はないものの、アンタゴニスト法とPPOS(黄体フィードバック法)は卵子の数、正常胚率ともにアンタゴニスト法と有意差なしとの報告されておりますので、ある程度のAMHがあれば、アンタゴニスト法と黄体フィードバック法は治療の王道の両輪になりつつあります。まずは年齢やAMH、ホルモン値などを踏まえて、まずは王道(セオリー)通りやるのが第一であり、当院でもアンタゴニスト法もしくはPPOSが第一選択です。ただ、アンタゴニスト法のほうがうまくいく方、黄体フォードバックのほうがうまくいく方は、それぞれおられます。
統計上の王道があなたにとっても王道とは限りません。向き不向きがありますので、一般論として良い方法とされているもの以外を否定して選択枝からはずしてしまうのは勿体ないことです。アンタゴニスト法でチャレンジしたがうまくいかず、ショート法で卵巣刺激したら見違えるようによくなった方、刺激周期でやったら採卵数があまり得られなかったので低刺激であったら良い結果だった方、逆に刺激周期でやったら採卵数があまり得られなかったので低刺激にしたらもっと卵子が減って結局刺激したほうがよいとの結論に至る場合、低刺激では1個しか胚盤胞にならなかったのに刺激したら十数個の超良好胚ができて1回で妊娠される方、色々な方がいらっしゃいます。「いい方法」でうまくいかなくても繰り返すのか、幅広い治療法からベストの治療方法をチョイスし、細部のバリエーションの引き出しがどれだけあるのか、そういったことが明暗を分けることもあるのです。
当院では、最新の知見を常にアップデートし、王道を大切にしつつも、幅広い選択枝と多様なバリエーション、豊富な経験から、様々な治療法にチャレンジしていただくことが可能です。
なかなかお子様に恵まれずお悩みの方は、ぜひ当院への受診をご検討ください。
当院の医師の横顔
2020.09.10 まつぶーーーーーん
2020.08.12 智の頂
2020.07.18 The Beat of YAS!!
2020.06.27 雅の旋律
2020.06.14 巧の技
2020.05.14 ぼんちゃん
レギュラー編
☆体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)は、どちらが確率が高いか(15)
番外編
☆ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらが妊娠率が高いか
結局、ホルモン補充周期と自然周期の凍結胚移植はどちらを選んだらよいのか
ヘパリン治療について(リブログ)
☆カウフマン療法(リブログ)