卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の予防にドーパミン製剤であるカバサールが有効であることが知られており、実際にOHSSの予防効果は絶大です(2013.1.14「☆OHSSの予防」の記事を参照してください)。本論文は、ドーパミンD2受容体アゴニストによるOHSS予防について、動物実験により効果を示したものです。
Fertil Steril 2014; 102: 1468(スペイン)
要約:IWラットにhMG製剤を注射し、OHSSに類似の状態を作り、ドーパミンD2受容体アゴニスト(Dostinex)投与の効果を検討しました。ドーパミンD2受容体アゴニスト投与により、用量依存性に血管透過性が有意に減少しましたが、これはVEGF蛋白の有意な減少を伴っていました。この血管透過性とVEGF蛋白の減少は、ドーパミンD2受容体アンタゴニスト投与により打ち消されました。しかし、VEGFのmRNAには有意な変化を認めませんでした。なお、この実験系ではドーパミンD2受容体アゴニスト投与によりプロラクチンが低下し黄体溶解が生じてしまうため、プロラクチン5mgの投与を行うことでそれを予防しました。
解説:ドーパミン製剤(カバサール、テルロン、パーロデルなど)とドーパミンD2受容体アゴニスト(Dostinex)はドーパミン受容体を刺激しますが、ドーパミンD2受容体アンタゴニストはドーパミン受容体を抑制します。本論文は、ドーパミンD2受容体アゴニストによるOHSS予防効果をラットで明らかにしたものです。カバサールと同様にドーパミンD2受容体アゴニストのヒトでのOHSS予防効果に期待が膨らみます。
OHSSの元凶は、VEGF産生による血管透過性亢進であることが明らかになっています(2014.4.26「☆カバサールでOHSS予防」の記事を参照してください)。血管透過性亢進は血管内皮細胞(血管の壁の細胞)で生じますが、卵巣の血管内皮細胞にはドーパミンD2受容体が発現されていません。ドーパミンD2受容体は、顆粒膜細胞に発現されており、ドーパミン製剤やドーパミンD2受容体アゴニスト製剤が結合してVEGF産生を抑制します。OHSS発症には、血管ではなく顆粒膜細胞の役割が重要であることを示しており、大変興味深いと思います。