前回の記事では、巨大彗星が分裂した彗星デブリの中核と言わ
れるエンケ彗星が、地球の軌道にどのくらい接近するのか、
『pnr_RYUSEIくん』で計算しました。
その結果、地球軌道面から北側へ約2860万km、南側へ約2580
万kmという数値が出ました。
今回は、そのエンケ彗星を取り巻く彗星デブリがどのような範囲
で軌道を巡っているのか、天文学者ウィリアム・ネイピア(カーディ
フ大学宇宙生物学センター名誉教授)が計算した、
「エンケ彗星を中心に直径3000万キロメートル、長さ3億キロメー
トル超に拡がっている筒状の流れ」をシミュレートしてみました。
上の図のグレーで表示された、太い楕円がその軌道です。
単純にエンケ彗星の軌道を半径1500万kmに膨らませただけで
す。2次元ですが、これで直径3000万キロメートルのドーナツ状
といいますか、唇のような筒状の拡がりが左回転していると想像
してみてください。
この流れの巨大さを実感するために、もっと拡大して月と地球を
この中に入れて表示してみます。
上の図が、2022年7月1日の予測で下の図が、2022年11月7日の
地球と月の位置予測です。
巨大グレーの彗星デブリの空間に、地球と月が米粒よりも小さく
寄り添っています。
一方、彗星デブリ空間の幅は実に、地球軌道から金星軌道まで
の半分以上あります!
彗星デブリ空間と地球、月の位置関係は実スケールですが、
地球と月の大きさは実際よりも大きく表示しています。
このスケールにしても、地球と月は小さな点にしかなりません。
しかしながら、ここで「おや?」と感じてしまうことがあります。
確かに彗星デブリ空間は巨大ですが、その中心がエンケ彗星の
軌道だと仮定すると、近いところでも中心が地球軌道から約2580
万kmも離れていることになります。
これに対して、彗星デブリ空間の半径が1500万kmとしますと、
単純計算で、地球軌道まで1080万km(地球から月までの距離の
28倍)届かないことになります。
これでは、彗星デブリが地球に衝突するというシチュエーション
は信憑性に乏しく思えます。
ただし、それはあくまでも「現在の軌道」で計算した場合の話とい
うことなのです。
現在太陽系の「惑星」は極めて安定した正確な運動をしています
が、彗星や小惑星は他の惑星や太陽の重力の影響を受けやす
く、しかも非重力的効果も大きいため、軌道が絶えず変化してい
ます。
エンケ彗星の場合は、水星から火星までの4惑星の摂動を強く
受けますし、非重力的効果であります、彗星特有のガス放出に
よる噴射効果、自転による首振り運動もあり軌道は不安定です。
2万年前に巨大彗星が爆発・分裂した後拡散した、エンケ彗星を
含む彗星デブリは、その軌道を周期的に変えながら地球軌道に
接近と遠ざかりを繰り替えしてきた可能性があります。
イギリスの天文学者デイヴィッド・ジョン・アッシャーは、1998年に
日本スペースガード協会主催の講演会でおうし座流星帯につい
て、「流星物質や彗星の破片、そしてツングースカ隕石サイズの
天体が集まっていると予想される。」とし、「木星の引力によって、
この中心の密度が高い領域の軌道は数千年のタイムスケールで
動いていく。そして、時々、地球の軌道と交差するのである。」と
述べています。
上の図は、アッシャー氏が講演会で示したおうし座流星帯の軌道
変化の推測図です。
アッシャー氏は、ケンブリッジ大で数学を、オックスフォード大で物
理学を学び、「おうし座流星群の流星物質複合体」で博士論文を
取得しています。
矢印で示された箇所が地球軌道とおうし座流星帯が交差した
ポイントです。「t」は西暦年を表しています。
これを見ますと、最近では西暦280年から500年頃、その前は紀元
前2200年から2000年頃に地球軌道がその中心部分に入っていた
と推測されます。
アッシャー氏は、その時期の歴史上の出来事が符号(ローマ帝国
の滅亡とヨーロッパの暗黒時代)していると述べています。
また、地質学者のロバート・M・ショックも著書「VOICE OF THE
ROCKS」の中で、
「紀元前2500年から2000年にかけていくつもの偉大な文明が、
説明のつかない突然の最後を迎えた。それらはイスラエル、
アナトリア、ギリシャの青銅器時代初期、エジプト古王国、アッカド
帝国、ヒムランド文明、インダス文明などだ。」と述べ、
同時に天体衝突の痕跡を探す困難さについて、「月や火星は地
表の動きがなく、隕石に掘られた跡がはっきりと残るが、それと異
なり、地球の表面は動きが激しく、衝突の証拠を比較的早く隠して
しまう。」と述べています。
アメリカの隕石痕として有名な「バリンジャー・クレーター」も、衝突
した流星物質が蒸発し、痕跡が見つからなかったことから、しばら
くは火山クレーターと見なされていました。
このように、エンケ彗星が天文学史上では比較的古い発見(ハレー
彗星に次ぎ2番目に確定された周期彗星)のものでありますが、
彗星やその周辺のおうし座流星帯の彗星デブリがもたらしてきた
災害の実態は証拠も少なく、はっきりと解明はできていません。
ただ、周期的に流星物質の軌道が地球軌道と交差していることは、
間違いないことであり、北アイルランドのアーマー天文台のイギリス
人天文学者クリューブ氏とナビエ氏によれば、1000年周期でピーク
を迎えるサイクルになっているとも・・・。
それがもし正しければ、アッシャー氏のシミュレーションから、次は
西暦2300年から2500年くらいがピークかもしれません!
今後、観測技術・体制の向上やスパコン、量子コンピュータの発達
によって、線状降水帯の予測のように、流星物質の形態や軌道変化
が更に解明されていくことを期待したいと思います。
次回の記事からは、小惑星にテーマを移していきたいと思います。
今私が興味を持っていますのが、小惑星「アポフィス」です。
アポフィスは、今から7年4ヶ月後に地球に接近し、静止衛星軌道
の内側まで入り込んでくると予測されています。
事前にこのような大接近が予測されている小惑星は珍しいと言われ
ています。
『pnr_RYUSEIくん』で、どのように接近するのか、地球上のどこで
よく見えるのかシミュレートしていきたいと思います。
通常、地球との衝突予測は、「確率計算」でしか表現されません。
それくらい、微妙なものです。
アポフィスは幸い、衝突確率はゼロに近いとされています。
地球接近をシミュレートするのは、はっきり言って意味はないのかも
しれません。馬鹿げていると思われるかもしれません。
軌道要素の微妙な違いが大きく現れるからです。
しかし、素人だからこそ大胆に、無謀に、そして無責任にやれると
思います。
少々準備に時間がかかりますが、乞うご期待を!
※このテーマの記事は、都合により
「です・ます調」で投稿しております。
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