ストロベリーナイト 著:誉田哲也
- ストロベリーナイト
誉田哲也:著
光文社 ISBN:4-334-92486-7
2006年2月発行 定価1,680円(税込)
最近、お気に入りの作家の一人である誉田哲也の作品…帯には朱川湊人、笹本稜平といった人気作家の推薦文がズラリと並び、傑作と絶賛。これは期待が高まると読み始めたのだが…。
姫川礼子は、ノンキャリアでありながら…27歳の若さで警部補まで昇進し、現在は警視庁捜査一課殺人犯捜査係の主任に抜擢されている女刑事。葛飾区の都立水元公園近くで発見されたビニールで包まれた惨殺死体…何故、死体はこんなにも猟奇的な施しがされていたのか?そして何故、放置されたままだったのか?礼子の推理が事件を思わぬ方向へ誘っていく…。
誉田哲也なので、自分の好きなジャンルだったし、安定した面白さはあるんだけど…同じ著者の近作である、超大作の3部作「ジウ」シリーズとどことなく、作風がかぶってるんですよね。「ジウ」シリーズから、特殊部隊やらアクションといった要素を省いて、個性豊かな刑事たちが、事情聴取して、証拠品探して、コツコツと事件を捜査するという…オーソドックスな警察推理小説のタイプになった感じ。
主人公の一人である女刑事の姫川礼子のキャラが…「ジウ」の門倉美咲に似てる。美人で、能力とガッツもあるんだけど…周囲のベテラン刑事から疎まわれちゃったり。本人はあまり意識してないようなのだが、推理というよりはプロファイリングという名の山勘で(笑)…事件やピンチを切り開くのが得意。彼女をサポートする形で、公安上がりの頑固刑事や、若手刑事が独自の捜査法で事件解決の糸口を探すというのが基本的な流れ…。
各章の合間に、犯人と思われる人物の、犯行へ至るまでの経緯なんかも挿入されているのだが、殺人鬼と化すまでの壮絶な生い立ちが描かれていく。このあたりに、ちょっとした推理小説的な仕掛けもあるが…真相を見破るのは意外と楽。他にもどんでん返しな真相があるんだけれども…、こちらも途中の描写で真相にたどりつけるので(もちろん、姫川礼子同様の山勘だけど)、導入部分、事件の真相に比べたら、驚きが弱いように感じる。もっと想像を絶するような真犯人の登場を願いたかった。
実は主人公の姫川礼子にも隠された過去があるらしいという描写で前半から引っ張る。このあたりは、犯人の心理描写なんかと対にして、わざと比較させてるんでしょうね…。警官を志すきっかけとなった、裁判所のエピソードが、ちょっといいシーンで、グっときてしまった。
個人的採点:65点
時には懺悔を 著:打海文三
時には懺悔を
打海文三:著
角川書店 ISBN:4-04-361501-9
2001年9月発行 定価620円(税込)
いつも、打海文三を読むと、内容の濃密さに、ミステリーはミステリーでも、さらに細分化すると、どのジャンルに当てはまるのだろうかと考えてしまうのだけど、今回はうらぶれた中年探偵、佐竹がメインの主人公となるので、ハードボイルドでいいだろうって感じですね(笑)探偵が謎の女を追いかけるなんて、ハードボイルド以外の何ものでもないって感じだけどさ(笑)1994年に発刊された作品の文庫化。
大手探偵社アーバンリサーチの元探偵、佐竹は独立して、今では個人で事務所を構えているのだが、昔の上司からの頼みで、探偵スクールの教官の代理を頼まれてしまった。生徒である中野聡子と共に、知人・米本の探偵事務所へ盗聴器を仕掛けるという訓練をしていたのだが、聡子が事務所に侵入しようとしたところで…事務所内に米本の死体が転がっているのを発見してしまった!思わぬ形で殺人事件に首をつっこんでしまった佐竹は、聡子と共に事件を追う!生前の米本に匿名で依頼を持ち込んだ謎の女の存在、さらに彼女が探しているらしい障害児にはどんな秘密が隠されているのか?
これがアーバン・リサーチの面々が活躍するシリーズの1作目なんだとか…過去に何作かこのシリーズを読んでるけど、順番はメチャクチャ。
普段、接することのない障害を持った人たち、実態を克明に描きつつ、壮絶な物語なのに、暗くなりすぎず、時にはユーモラスに感じる。障害児についての知識なんて全然ないので、最初はとまどいつつも…次第に親しみを感じる作中人物たち同様に、読んでいることらも共感を覚えだす。それこそ、ドキュメンタリー番組でも見ているような、リアルな姿が頭に思い浮かぶ。
本筋のとっかかり程度にしか感じなかった探偵殺しも、後半で急展開。主人公の佐竹も含めて…大人、親だって完璧じゃないんだ、正常な人間だって、何かしらの欠陥を抱いて人生を歩んでいるんだというのが、作品全体から伝わってくる。探偵たちの哀愁漂うハードボイルドな生き様が、そのまんま人間の人生にも見えてきてしまうなぁ。
個人的採点:75点
黄金町クラッシュ 著:松本賢吾
黄金町クラッシュ
松本賢吾:著
実業之日本社 ISBN:4-408-53437-4
2003年6月発行 定価1,680円(税込)
松本賢吾の裏社会モノのハードボイルド…極道版「濱マイク」?、横浜版「不夜城」「漂流街」?(主人公は日本人だけど)まぁ、そんな感じで…黄金町界隈の歓楽街の壮絶な縄張り争いを描いてます。現在は絶版のようですが、Amazonのマケプレでは入手可能のようです。文庫はまだ出ていないみたいなので、古本で探すのが良いでしょう。
金色の疫病神の異名をとる水沼清次が黄金町に帰ってきた…。捨て子同然だった清次の育ての親でもある、“母さん”が仕切り、黄金町にしか住めな人びとの駆け込み寺のような存在である旅館、通称“リバーサイドホテル”が地上げのターゲットにされているという噂を耳にしたからだ。そして、その裏には清次と因縁深い蛭川組が関わっているようだ…。
ヤクザも恐れる母さんこと女ボスの婆さんの下に、個性豊かなアウトローが集まって擬似家族を形成。外道な方法で黄金町を乗っ取ろうとするライバルヤクザを、頭と腕力でねじ伏せようとするが…。悪と悪、屑と屑…極道同士の潰しあい。一般人から見れば、似た者同士だけど…昔気質の極道は、手段を選ばない悪党は大嫌い。ってことで、必殺仕事人よろしく悪党による大悪党の成敗が始まったわけだけど…。
ちょうど、昨日、NHKの衛星放送で「明日に向かって撃て」を放送してたけど、あんな感じのラストでしたね~。エロとバイオレンスてんこもり、死体もてんこもり。Vシネかなんかで映像化したら面白そうだなぁ。
個人的採点:70点
にんげん ゆめみました 著:吉岡平
にんげん ゆめみました
吉岡平:著
朝日ソノラマ ISBN:4-257-77053-8
2005年3月発行 定価520円(税込)
昨年読んだ、「にんげん はじめました」の続編&完結編。結界のせいで外界と遮断されてしまった群馬県の地方都市を舞台に、人間界を支配しようと企む魔物と、それを倒す処刑人…それと結界内に残された人々との壮絶バトル!
突然、結界で覆われ、外界と遮断されてしまった群馬県のⅠ市…人間界にやって来た魔物を退治するために、同じ世界からやってきた異端審問官のエリンと、その後見人ベスナール。結界を解くには化け物どもを退治すればいいというのを信じ、エリンに加勢する人間たち…魔物たちを牛耳るベアトリクスとの最終決戦も目前に迫っていた…。
たった、2巻で話が完結するのかな~って、壮大な物語で…最後の30ページくらいでも、ちょっと不安でしたが、著者もあとがきで述べていたように“綺麗に納まった”感あり。一体、一体倒していたような敵も、途中からまとめてやっつけたりして、かなりスピードアップしていた(笑)魔物がさ、強そうに見えるんだけど、実は「タイムボカン」のやられメカのように、見掛け倒しなヤツらも多くて、けっこう笑います。
相手は異形の化け物たちだけど、災害や戦争が起きたときにひとつの都市が孤立化したらどうなっちゃうのか?というようなシュミレーション的な様相もみせ、なおかつ著者のオタク知識が茶目っ気タップリにはっきされているので、壮絶な話と、それを緩和するテンポの良いギャグのアンバランスさが非常に心地よかった。
思い返せば、ロボットじゃない「エヴァンゲリオン」みたなお話でもあってさ、クライマックスなんて、エヴァのラスト並に凄いことになっちゃうんだけど…落とし前はしっかりつけて、ハッピーエンドで終っている。ライノベとして気軽に読めるエンターテイメント。
前作「にんげん はじめました」を読んでから少し時間が経ってしまったのだが、どうせなら続けて読んだほうがテンションももっとあがっただろうと、ちょっと残念。だって、続きものだって知らないで1作目を読み始めちゃったんだから、仕方がないよね(^^ゞ
個人的採点:60点
黒魔館の惨劇 著:友成純一
黒魔館の惨劇
友成純一:著
光文社 ISBN:4-334-74049-9
2006年4月発行 定価580円(税込)
友成純一の連作ホラー短編「黒魔館の惨劇」を読む。イギリスの高級住宅街にある、お屋敷を舞台に、日本人入居者たちを次々と襲う。1991年に他社から発刊されたものを、文庫化したもの。
幽霊屋敷
商社の駐在員としてロンドンにやってきた野田夫妻と一人息子の悟郎。日本人も多い、ハムステッドという高級住宅街にある、貴族所有の美しく、大きな屋敷を借りることがでた。住み始めてからしばらくして、妻の貴子は違和感を感じ始めるのだが、仕事が忙しい夫の悟は相手にしようとしなかった…。
ホラー映画でいうと「悪魔の棲む家」っぽい感じかな?最初は錯覚だと感じた超常現象に、悩まされ始めてってパターン…。ここでは、怪異の正体も詳しく種明かしされないので、それもまた嫌な余韻を残す。
異邦人の街
作家志望の三浦は、日本での仕事を辞め、しばらくロンドンに滞在することになった。現地で、同じ高校の部活の先輩である蓬田が単身赴任で来ていることから、何かと面倒をみてもらう…。再会直後は、頻繁に会っていた二人だったが、三浦が奮発して借りたというハムステッドにある屋敷に移り住んでから、急に連絡が途絶えた…。心配になった蓬田は三浦の住まいを訪ねてみるのだが…。
日本人の視点から、ロンドンの歴史や文化、習慣について色々な疑問点、講釈が多く語られる。何故、ロンドンに生粋のイギリス人が少ないのか?アメリカのロサンゼルス以上に、人種の坩堝だというのを痛感させられるという…著者自身も、イギリスに住んでる(らしい)ので、イギリスなんかへ行ったことがない人間にも、へ~そうなんだとイメージしやすい記述が印象的で、これがまた作品に大きく関わってくる部分。他の四編に比べると、残酷度、鬼畜度は控えめだったが…ラスト、単身赴任を終えた蓬田が帰国するあたりは、ゾクリと背筋が寒くなる。何故かは読んでみてのお楽しみ(笑)
不死者、目覚める
両親の仕事の都合で、ロンドンで生活する竜也と美里…今まで住んでいた家から同じハムステッドにある広めの家に移り住むことになった。ある日、美里の誕生パーティーを開くことになり、2人の学校の友達を誘って盛大に行われた。若者の乱痴気騒ぎは壮絶であり、家の中はメチャクチャ…興奮した竜也とその仲間は近所の墓地で墓荒しまでやってのける…。翌日、竜也は目覚めるのだが、いつもと何かが違った…。
超バイオレンス&エロスな1編…イギリスってもっと紳士な国なのかと思ってたけど…アメリカと変わんないだなぁって、若者のパーティーの様子で思った(笑)いや、どこの国でも若者はこんな感じか?友成純一版“くりいむレモン”か?(笑)妹に欲情、近親相姦を友成的に描くとこうなるんですね(笑)読んでて、けっこう興奮してしまった。
闇が軋る
ロンドンに進出した割烹チェーンの支店長である料理人の前田は、ゴールダース・グリーンの安宿で寝起きしていた。ある日、そこに場違いな、見るからにイギリス紳士然とした男が引っ越してきた。その日から、階上の物音がやたらとうるさくなり眠れなくなった。職場の部下たちに相談すると、付近ではなにやら物騒な事件が多発しているらしいという情報が。そして、いつの間にやらら、それらの事件にヴァンパイアが関わっているのではないかという話に…。
またまた作風が変わり、一転してバトルホラー風。唯一、ハムステッドのお屋敷以外での惨劇を描いた物語であり、それぞれに関わってきたある人物がいよいよ本格的に表舞台へって感じかな?もちろん、この小説だけ、パっと読まされても独立して楽しめますよ。ラストのオチなんかも、ほんとホラー映画にありそうな、ブラックなオチで好きです。
黒魔術館の惨劇
大学助教授にして文芸評論家の原口秀雄は、研究留学の為に妻の容子と共にロンドンへやって来た。2人が住居に決めたのはハムステッドにある豪華な一軒家。越してきたばかりの頃は、大学に顔を出していた秀雄も、次第に書斎にこもりっきりで、屋敷に元からあった蔵書に囲まれて過ごすようになり、容子の相手もしなくなってしまった。最初こそ夫の態度に不満な容子だったが…夫のあまりの変わりように不審になり、何かが憑りついて、別人になってしまったのではと疑い始める…。
今までの集大成のような感じで、色々な要素をミックスさせた最終エピソード。一番最初の「幽霊屋敷」にも似ているなって思わせておいて、二点三転する展開がお見事。シリーズを通した種明かしもあり、非常に面白かった。
5本ともそれぞれ全く趣向の違う作品なんで、退屈しない。また、巻末の解説に書いてあったのだが、エピードの合間に挿入された幕間劇は単行本化の際に書き加えられたものだそうで…このおかげもあり、それぞれの短編が上手に繋がり、読後は長編小説のような壮大な物語へと昇華する。
個人的採点:75点
背の眼 著:道尾秀介
背の眼
道尾秀介:著
幻冬舎 ISBN:4-344-00731-X
2005年1月発行 定価 1,890円(税込)
昨年末に発表された各社のミステリベスト10では、何作も作品が上位にランクインしていた道尾秀介を初めて読む。これは2年前に発刊されたホラーサスペンス大賞の特別賞受賞作品で、デビュー作。既に、新書版も出ているようだが…自分が入手したのはハードカバー版。
作家の道尾は、一人で出かけた旅先、白峠村の河原で奇妙な声を耳にし、あまりの恐ろしさに、東京へ逃げ帰ってしまった。そのことを相談しようと、大学時代の友人で、“霊現象探求所”なる事務所を構える真備庄介の元を訪れる。そこで、真備から見せられた、被写体の背中に二つの眼が写る心霊写真が、実は何か関連しているという。その写真は全て白峠周辺で撮影されたものであり、その被写体の人物が全て自殺しているという事実…さらに白峠では児童連続失踪事件も発生していた!道尾は事件の真相を求めて真備と、女性事務員・凜と共に再び白峠へ向かう!
“心霊現象を肯定的に扱いながらも(中略)基本的には本格ミステリの構造”と巻末に載っていた選評で、ホラーサスペンス大賞の選考委員の一人である綾辻行人が語っている言葉、そのものズバリだなぁって感じで、ジャンルとして、ホラー小説と推理小説の境界線が非常に曖昧(うちのブログではホラーサスペンス大賞なので、ホラーに区分しておきます)。ホラーとしての怖さも味あわせながら、推理小説的な謎解きでカタルシスが味わえる。ぶっちゃけ、京極夏彦のパクリなんだけど、そこはオマージュとして捉えて、その部分を評価すると、綾辻行人は誉めていた。
自分は京極夏彦をそんなに読んでないので、その部分は気にしないで読めたんだけど…やはり選評で指摘されていた“出版までに無駄を削ぎ落とす”というのが、まだまだだなって感じで、ちょっと残念。後半で推理小説的な種明かしがあるので、意識的に読者を煙に巻こうとしているのか、同じような会話を何度も繰り返したりして、ちょっとウザい。最初から最後まで恐怖を持続させ、それでいて本格ミステリ的な真相で着地したら、もっと良かった。
デビュー作でこのレベルだったら、今後も読んでみたいと思える作家で、これ以降に書かれた他の作品をミステリファンが評価しているのもうなずける。著者の「向日葵の咲かない夏」を、やはり100円コーナーで見つけてあるので、近いうちに挑戦してみるつもり。
- 新書版 背の眼
幻冬舎 2006年1月発行 定価1000円(税込)
個人的採点:65点
安楽椅子探偵アーチー 著:松尾由美
- 安楽椅子探偵アーチー
松尾由美:著
東京創元社 ISBN:4-488-43905-5
2005年10月発行 定価735円(税込)
椅子が喋って、探偵並の名推理を働かす…劇中のセリフにもあったが、文字通り“安楽椅子探偵”(本来は人づてに聞いた話なんかだけで、事件の真相を看破しちゃう名探偵のことだけど)という洒落っけタップリのぶっ飛んだ設定が面白い…松尾由美の「安楽椅子探偵アーチー」。設定こそSF・ファンタジーっぽさも否めないが…名探偵コンナンが椅子になったと解釈すれば(笑)アレと同じようなもんで、ちゃんと推理小説として楽しめます。中身は短編4本からなる連作形式で、2003年に発刊されたハードカバーを文庫化したもの。
第一話 首なし宇宙人の謎
小学生の及川衛は、最新のゲーム機を親から買ってもらうため、購入資金を持って出かけるが…たまたまアンティークショップの店先で見かけたひじ掛け椅子に惹かれて購入ししまったのだが、なんと、その椅子は人間の言葉を理解し喋ることができるというのが判明。それ以来、衛のよき友人となった…。ある日、衛は学校で不思議な事件に遭遇。同級生の男の子が家庭科の実習で作った巾着袋が何者かの悪戯で切られてしまった。その巾着には宇宙人のイラストが描かれていたのだが、まるで首が切られたように見えたのだ…。推理小説好きの野山芙紗と事件の真相を考え始める衛だったが、“椅子”に聞かせると、たちまち謎を解いてしまった!?
タイトルだけ見ると、基本設定がアレだけに…事件もSFなのかと思ってしまうが…主人公、衛くんが学校で遭遇した些細な事件だった。前半はアーチとの出会い、後半は事件を推理小説の密室殺人風に見立てて、それをホームズよろしく、アーチーが名推理で事件を解決するという、以降の物語のパターンを確立している。クライマックスで最初は名無しだった“椅子”が、ようやくアーチーと名づけられる。
第二話 クリスマスの靴の謎
衛の父親が、酔っ払い同士の現場から他人の靴を拾ってきた。落とし主を見つけて声をかけたのだが、その人物が慌てるようにして逃げ出したので、その靴に何か秘密があるのではと思ったようだ…。何も発見できなかったので、交番に届けようと思うという父から、靴を預かった衛はその謎をアーチーに解かせようとするのだが…。
イチバン、安楽椅子探偵らしさが出ていた1本であったが、もちろん人が殺されたりなんて、陰惨な事件には発展しません。ひとつの事件を解くことで、さらに他の事件も浮かび上がってくるパターンで、証言や証拠からどんどん謎を解いていく雄弁なアーチーがなかなか爽快。
第三話 外人墓地幽霊事件
学校の行事で横浜の外人墓地に社会科見学に訪れた衛、クラスメイトで推理小説好きの芙紗が、立ち入り禁止の看板で見つけた妙な落書きが、何かの暗号ではと騒ぎ出した。さらに同じ外人墓地でシシー・スペイセク似に謎の女性が不可解な行動をしているのを目撃。2人は、二つの事柄を結びつけ、何かの事件ではと探り始める…。
今度こそ超常現象ものか?とは、もう思わないですね(笑)…第1話の宇宙人同様に、アーチーの存在以外は地に足の着いた物語。連作推理小説には付き物ですね、暗号解読もの。小学生の女の子が、幽霊みたいな謎の女をつかまえて、「昔のシシー・スペイセクみたい」と表現するところが、なんか笑ってしまう。おまえ、いつの小学生やねん…さすが推理小説マニア、映画も通なんでしょうね(爆)
第四話 緑のひじ掛け椅子の謎
芙紗が購読している小説雑誌の新人賞の応募作品の中に、アーチーの生い立ちそっくりの話があるのを発見。もしかしたら、アーチーが唯一、衛にお願いしている頼みごとである、二番目の持ち主の行方を知りたいという希望に関係があるのではと、2人は真相を確かめ始めるのだが、小説の作者らしい人物から遂に連絡が…。
アーチーの生い立ちの解明編であり、他の短編に比べ、推理小説というよりはスパイ小説っぽい部分が濃厚。そんな~と思ってしまう展開もあるが、基本設定がぶっ飛んでいるので、このくら大目にみちゃえるかな(笑)連作らしく、今までの事件で出てきた伏線が、パズルのようにはまるところは、なかなか上手。
思ったほどキワモノでもなく、それこそシャーロック・ホームズなどと同じようなアームチェア・デティクティブものとして普通に楽しめる。
個人的採点:65点
配達あかずきん 成風堂書店事件メモ 著:大崎梢
- 配達あかずきん
成風堂書店事件メモ
大崎梢:著
東京創元社 ISBN:4-488-01726-6
2006年5月発行 定価1,575円(税込)
東京創元社のミステリ・フロンティアで配本された1冊…書店を舞台に、書店員が遭遇した、書籍に関する事件・珍事を描いた、ほのぼの系ミステリの連作短編だが、しっかりと中身は推理小説していて好感が持てる。新人作家さんらしいのだが、文章量も適度で、エンターテイメントとして非常に読みやすい仕上がり。実在の書籍タイトルや作家が、頻繁に出てくるのも読書好きにはたまらない。コミックの「金魚屋古書店」を、書籍全般に置き換え、ミステリーに仕上げたって感じかな(笑)
パンダは囁く
成風堂書店の店員・杏子は…中年女性客の中途半端なヒントから、勘を頼りに的確に書籍を探り当てた。それを見ていた他のお客さんから奇妙な依頼が…身体をこわして寝たきりになってしまった知り合いの読書家の老人に、本の差し入れを頼まれたのだが、リクエストの意味がさっぱりわからないと、暗号のような単語が書かれたリクエスト表を見せられた。杏子は、年下のアルバイト店員・多絵と共に、この謎を解き明かそうとする…。
暗号解読という推理ミステリの基本中の基本。意味不明な単語の羅列から、本の正体を探るんだけど…その本のタイトルが分かった時に、さらに大きな展開が!?本が好きな人だったら、もしや?って感づくかもしれないネタ。ミステリー好きだったら、使われるタイトルに、思わずニヤリとしてしまうのは確実でしょう。隠されていた真実こそ、現代ではあながちフィクションとも言い切れない内容で、ちょっと怖かったりもするのだが…最後はホっとさせる、いい感じの読後感を味わえる。連作の1発目として…作品の方向性が確認できる。
標野にて 君が袖振る
常連客だった70近い女性が、失踪…その娘が成風堂書店を訪れ、購入した本が原因で母親が失踪したと告げる。残されたレシートから、その女性が手にしたのはコミックの「あさきゆめみし」だということまでは突き止めたのだが、いったい何故、彼女は失踪したのか?そえいて何故コミックだったのか?杏子と多絵は母親探しに協力することに。
自分も「あさきよめみし」なんて、タイトルしか知らないくちだからなぁ…。ある和歌が、事件を解く鍵になってくるのだが、てっきり説明を聞いていて、重要人物の一人だった“教授”がホモなのかと、妙な勘ぐりを入れてしまったよ(笑)そうじゃなかったので、安心。さすが、そういうネタは似合わないよね、このシリーズに…。
配達あかずきん
成風堂書店が配達業務を承ってる得意先の美容院で、配達した雑誌の中から、美容院のお客さんの盗撮写真が出てきて大騒動が勃発。美容院の誰かが仕組んだいたずらではないかと、怒りをあらわにしているという。そんな噂が成風堂まで伝わってきて、雑誌を販売した杏子たちはあまりいい気分ではなかった。そんな時、バイト店員の吉川博美が配達中に怪談から落ちて怪我をしたという。後日、目撃者が現れ…どうやら博美は何者かに押されたらしい。そして博美の代わりに、配達に借り出された多絵は、あることに気づくのだった…。
うちの親も、毎週、知り合いの本屋に週刊誌を配達してもらってるなぁなんて考えながら読んでしまった。そんなに大それた事件ではないのだが、他に比べて入り組んでる印象を受ける。書店の店員だけじゃなくて、おせっかいな人がいっぱい出てきた(笑)、いやいや親切な人だって…。
六冊目のメッセージ
入院中に母親が買ってきてくれた数冊の本が素晴らしく、すごく助けられたので、それを選んでくれた書店の店員にお礼を言いたいと成風堂書店を訪ねてきた女性客がいた。対応した杏子は…相手から本のタイトルを聞き、社員たちに探りをいれるのだが該当者がいなかった。違う店ではないのかと、その女性客に聞き返すのだが、成風堂の店員に間違いないという…。いったい誰が本を選んだのだろうか?杏子はいつものように多絵を巻き込み、該当者探しを始めるのだが…。
書店に限らず、小売業特有の流通システムに関する事情なんかが、非常によく作品に反映されてるなって感じられる1本。他の作品とは違い、事件性のない展開なのもけっこう良かった。
ディスプレイ・リプレイ
将来、広告業界を志望している、アルバイト店員の角倉夕紀の希望で、ある人気コミックの販促企画として出版社が企画したディスプレイコンテストに参加することになった成風堂書店。夕紀の学校の仲間も手伝い、素晴らしいディスプレイが完成したのだが、何者かが、夜中に店に忍び込み、ディスプレイをメチャクチャにしてしまった…。犯にはどんな事物で、何の目的でだったのか?杏子と多絵は怒りをあらわにしながら真相を探る…。
オタクやネット社会を上手に皮肉ってるなぁって感じ。あと、客と店員の価値観の違い…シリーズ通して窺えることなんだけど、店員が全ての本を把握しているわけじゃないっていう現実、それだけ膨大な書籍が出ているんだから、よっぽどじゃないと中身まで理解してないよっていう現実が、如実に表れている作品だったかな。アニメ雑誌の発売日が10日だったら、もっとリアルだったのに(笑)
ミステリとしても非常によくできているんだけど、杏子と多絵のやり取りも読書好きなら、チクリとし刺激を受け、共感をおぼえ、思わず「うんうん」とうなずいてしまう。人に借りて一度読んだ本なのに、また自分で買ってしまう…それは好きな本は何度も読みたいし、手元に置いてあるとなんだか安心するって(笑)この部分って本当によくわかる。自分もね、100円で買ってきた積読本、読む前の本って…けっこう平気で、人にあげちゃったり、読まないうちに古本屋にまた売っちゃったり、ヤフオクに出品しちゃったり(笑)ってできるんだけど、一度読んじゃうと…たとえつまらなくても、自分の本棚にしまわないと気がすまないんだ。もしかしたら、その本に書いてある知識が、いつか必要になるかもしれないって考えちゃうんだよね。他にも同じ作家の、同じ作品を何冊も買ってしまうファンのエピソード(そこで使われる作家の名前も妙にリアルで笑うよ)とか、 毎回のように本好きの心理をよく分かってるなぁって感じの描写がたくさん出てくる。
もちろん本屋の店員のこともよく描けてるのね、なんか某大型書店の店員さんの姿と思わずダブらせちゃったりしたもん(笑)もうかれこれ10年近く前だけど、学生時代の友人が、その某大型書店でバイトしててさ、よく原価で新刊本、買ってもらったりしたっけなぁ…その時に聞いた仕事の話とソックリなんだもん。本を大事にしない、知名度でしか価値が判断できないブックオフの店員とは大違い(笑)100円コーナーで買っててなんだけど、ブックオフのバイトのにーちゃん、ねーちゃんたち…この本を読んで、接客態度や本への愛着度を見習って欲しいね。なんかね、ブックオフの100円コーナーで買って読むなんて、作者に失礼だなって思わせる、たまには通常の本屋でも本を買ってあげなきゃなって気分にさせる(あくまで気分ね、自分は雑誌とコミックは新刊で買ってるので、まぁいいだろう)本ですよ。
このシリーズが長編になった続編も出ているそうで、また探さないと…、そっちも読みたい!?
個人的採点:75点
疾風ガール She is crazy...yet cute! 著:誉田哲也
- 疾風ガール
She is crazy...yet cute!
誉田哲也:著
新潮社 ISBN:4-10-465202-4
2005年9月発行 定価1,470円(税込)
個人的にハズレなしの誉田哲也…今まで読んできたのは、ホラーアクションだったり、警察アクションだったりとミステリー的な作品が多かったのだが、今回は美少女ロックンローラー&元バンドマンの芸能スカウトマンのお話。厳密的に言えば、この作品もミステリー風な部分もあったりするのだが、あくまで風程度なものなので、ミステリーという枠組みに当てはめないで、普通に文学作品と捉えたほうが、いいんじゃないかと思いますね。
元バンドマンの宮原祐司は、自分の夢に挫折し…バンド時代の仲間から誘われた芸能プロダクションで、スカウトマン兼マネージャーをやっているのだが…そっちでも成績は芳しくなかった。ある日、仕事の関係で訪れたライブハウスで一人の少女とめぐり合うまでは…。ブレイク寸前のアマチュアロックバンド、ペルソナパラノイアのギタリスト柏木夏美…バイトをしながら仲間たちとバンド活動をするのが大好きな彼女。このまま今の仲間たちと一緒にずっと音楽が続けられたらいいなと思っていたところへ、芸能マネージャーを名乗る男が現れた。さらに、同じバンドのヴォーカリスト薫が突然の自殺をしてしまったことから…状況が一変する。
アマチュアバンドが、華々しくプロの世界に飛び込んでいく話なのかなと思っていたら…バンド仲間の自殺事件を境に、自殺の真相探るというような、ミステリー的な展開に。実は、ヴォーカリストの薫くんには謎だらけ秘密がありましたと。本当に自殺なのか?何が原因なのか?と…夏美と、たまたま事件に巻き込まれてしまった祐司のデコボココンビが、ああでもない、こうでもないと漫才コンビのような掛け合いと珍道中を繰り広げるのだけれど…作品の根底にあるテーマは、挫折を味わった2人が、どうやって立ち直っていくかっていうのが焦点だからね。祐司は夏美を自分の手で育てたいという夢に突き進み、夏美はやっぱり音楽で頂点を極めようとするっていう部分が大事なわけです。
女の子のロッカーっていうと、「NANA」のナナとかさ、「新宿鮫」の晶ちゃんなんかを思い出すんだけど…それと同様に音楽をやってると元気百倍の夏美ちゃんのやんちゃっぷリが、読んでいてけっこう爽快で楽しいですね。音楽的な才能はピカイチで、オーラがバリバリでてるんだけれども…世間知らずで、わがままで、ちょっと無鉄砲なところが、読者としては、なんかハラハラしてしまい、応援したくなっちゃうような愛くるしいキャラクターに描かれているんだ(笑)去年文庫で読んだ、ヒキタクニオの「ベリィ・タルト」(芸能プロのスカウトされた美少女のお話)に出てきた、アイドルを目指すリンちゃんみたいな部分もあってさ…もっと、今後の活躍を読んでみたいなって思わせるキャラクターになっていた。続編を希望だよ。
音楽的な専門用語も、説明調にならない程度に上手に解説を加えているし、文章のリズムもよく一気に読破してしまった。誉田哲也って、本当にハズレないなぁ、自分は。最近のお気に入り作家の一人です。
個人的採点:70点
陽気なギャングの日常と襲撃 著:伊坂幸太郎
陽気なギャングの日常と襲撃
伊坂幸太郎:著
祥伝社 ISBN:4-396-20813-8
2006年5月発行 定価880円(税込)
ようやく、古本でGETできました…伊坂幸太郎の、「陽気なギャングが地球を回す」の続編。自分がはじめて読んだ作品が「陽気なギャング~」であり、けっこうハマったにも関わらず、その後は人気作家故に、なかなか100円コーナーで本が売ってなくてね、合計でまだ2冊しか読んでなかったんですよ(笑)これが3冊目の伊坂作品となります。
ある出会いをきっかけに、銀行強盗を結成した4人の男女…相手の嘘を見抜ける成瀬、口八丁な演説の達人・響野、正確な体内時計と、凄腕のドライビングテクニックを有する雪子、スリの名人・久遠…。この4人が日常で遭遇した、一見バラバラに見えた不思議な事件が…彼らの起こした銀行強盗を境に、いつの間にやら社長令嬢の誘拐事件へと連鎖していく…。
元々は短編だったという前半部分を改稿し、1本の長編にしたんだそうだ。バラバラの事件がリンクしていくところは、このシリーズ以外に唯一読んでいる伊坂作品の「ラッシュライフ」に似ているなぁ、なんて思いながら後半以降を楽しむ。相変わらずキャラクターたちの掛相も楽しいし、次々と断片がつなぎ合わさっていくのは、ある意味爽快であったが…犯罪劇としての面白みは、1作目の方が良かったかな?
ラストの着地点も上手なんだけど、どさくさに紛れて、違法カジノから、現金を強奪するくらいのスケールがあっても良かったかもしれないね。期待しすぎていただけに、もう一歩、何かが欲しかった。
個人的採点:65点