青空感傷ツアー 著:柴崎友香
青空感傷ツアー
柴崎友香:著
河出書房新社 ISBN:4-309-40766-8
2005年11月発行 定価494円(税込)
映画で「きょうのできごと」は観たんだけど、柴咲友香の本を読むのは初めて。ハードカバーでも、何冊かこの作者の本を購入してあり、積読コレクションの中にあるので、これからちょっとずつ読んでいこうかなって思ったり。2004年にハードカバーで出版された書籍を文庫化したもの。
会社を辞めた26歳の芽衣は、偶然再会を果たした5歳年下の女友達、超美人で我侭な音生に強引に引っ張られるように、旅に出る。二人の地元大阪から、トルコへ旅立ち、徳島の温泉、石垣島と旅は続くのだが…。
無職で、彼氏もいなくて、優柔不断で…年下の女の子にいいように引っ張りまわされてしまう芽衣に、なんとなく今の自分を照らし合わせてしまうんだよね。容姿も平凡で何のとりえもなくて、そこら中で出会う男に、好意をもっちゃうミーハー女。これを男にしたら、まんま自分じゃんよと、読んでてちょっと痛かったり(笑)しかも自分は三十路過ぎだ(爆) ここまで極端じゃないけどさ、自分にも社交的で、なかなかイケメンの友人がいてさ…そういう友達の後にくっついてると、楽チンだったりするんだよね。何も出来ない自分と比べて、相手の性格や容姿に僻んで、嫉妬してみたりするんだけど…いつの間にか依存しちゃうんだよ。なんかもろ共感してしまった。
何も変わらない日常の中で…微妙に変化していく二人の距離感や考え方に爽やかな感動を覚えながら、自分も前向きに、一歩前に踏み出したいなぁって思いながら読んでました。
個人的採点:65点
予告探偵 西郷家の謎 著:太田忠司
予告探偵 西郷家の謎
太田忠司:著
中央公論新社 ISBN:4-12-500924-4
2005年12月発行 定価945円(税込)
太田忠司の「予告探偵 西郷家の謎」読了…。長年、愛読している作家だけにやはり読みやすくて、安心して楽しめる。
戦禍の傷痕を残した一九五〇年の十二月…旧家・西郷家の当主宛に届いた1通の古風な手紙。中の便箋には“すべての事件の謎は我が解く”と書かれていた。文筆家の木塚東吾は、自称名探偵の友人に無理矢理連れられ、西郷家の人々が住む通称、ユーカリ荘と呼ばれる人里離れた屋敷を訪れるのだが、そこで殺人事件に巻き込まれてしまう。
犯人や怪人が予告状を出すというのはよくあるパターンだが、探偵が“これから謎を解きに参上する”と、わざわざ予告状を出すというのが斬新。全てお見通しだと…やたらとふてぶてしく、態度のでかい、自称名探偵に…同じ著者の「新宿少年探偵団」シリーズに出てくる蘇芳の面影を垣間見る(笑)作中でワトソン役をおおせつかる、文筆家の木塚との丁々発止のやり取りが、なかなか愉快。
途中で細かな描写に妙な違和感を感じるんだけど…テンポがいいので、すいすいと読み進めてしまう。事件の真相が分かるところで、そんなのアリかよ?って思わずツッコミを入れてしまうのだが、さらにその後、本当のどんでん返しが!?昨日読んだ「ラミア虐殺」並にキワモノ系なんだけど(本筋は意外と古風なミステリというところも似てる)、やられた感は数段、上です。とにかくあっと驚くラストに拍手。綾辻行人の某短編シリーズのように、登場人物が●●だったみたいに、ビックリ仰天します(爆)コレを見破れた人は凄いと思います。まぁ。、映像化は不可能でしょうね。
やっぱり隠し玉はとことん、読者に分からないように…それでいてフェアにというのが、良いミステリでしょうね。けっこう面白かったです。
個人的採点:65点
ラミア虐殺 著:飛鳥部勝則
ラミア虐殺
飛鳥部勝則:著
光文社 ISBN:4-334-07542-8
2003年10月発行 定価860円(税込)
2ヶ月くらい前に読んだ「レオナルドの沈黙」に続き、飛鳥部勝則を読んでみる。“長編本格推理”と謳ってはいるが…ちょい微妙なネタでしたよ。決して嘘はついてませんが、本格好きからは、嫌煙されそうなオチです。
巷では怪物の目撃情報が多数報告され、話題になっていた…。探偵の杉崎は、突然、彼の前に現れた謎の美女、美夜からボディーガードの依頼を受け、吹雪の中、彼女の住む、山奥の邸に一緒に向かうのだが…ついた途端に、首吊り自殺の現場に遭遇。その現場で奇妙なメッセージを記したカードが発見された。果たして、本当に自殺なのだろうか?猛吹雪の中、電話は通じなくなり、唯一にの移動手段であった雪上車が破壊され、さらに、次々に邸に滞在している人間が殺されていく…。しかし残された者たちは犯人探しにあまり積極的ではなかった…。
冒頭の序章部分から…UMAの存在を匂わせています(笑)思わせぶりに色々書いてるんだけど、秘密にも何にもなってなくて、ひっぱたわりに、だから何なの?と言いたくなってしまう設定であった。
で…しっかりと、嵐の山荘系で、連続殺人も起きてるんですけどね、緊迫感に欠ける展開です。冒頭こそ、謎の美女に誘われるまま、のこのこ山奥のお屋敷に向かってしまう、しかも猛吹雪の中で、孤立化してしまうという、強引だけどベタで古風な展開に期待はしたんですけどね…なんだかダラダラしてました。
確かに、探偵が色々と推理をし、犯人探しや事件の動機を探ったりするんだけれども…奇天烈な設定のわりに、凡庸な内容で犯人やトリックもわかりやすく、全体的にパっとしませんでした。設定こそ斬新なんだけどね、オーソドックスな“本格推理”を期待していた自分にはイマイチでした。
個人的採点:55点
宇宙捕鯨船バッカス 著:中島望
宇宙捕鯨船バッカス
中島望:著
角川春樹事務所 ISBN:4-7584-2049-1
2005年9月発行 定価880円(税込)
2007年、新年の1冊目は中島望のSF小説…カバーイラストはちょっとアレだし、人間に従順な美少女型アンドロイドなんかも出てくるけど、中身はしっかりハードSFしてますのでご安心ください。
第三次世界大戦により汚染された地球は、人類が始めて接触し、共存することを選んだエイリアン、アンデローブ人の驚異的な科学力を学び、宇宙交易も盛んになっていた。西暦2086年の、高校卒業を間近に控えた沖田正午は宇宙捕鯨船“バッカス”の船長・神武高虎と、その娘・亜衣と偶然出会ったことから、捕鯨船のクルーに志願。宇宙へと旅立つことになる…。
シリーズものらしく、既に続編も発刊されているので、これ1冊では物語は完結していません。まだ、続きは入手していないので、非常に続きが気になる、中途半端なところで終ってしまいました(^^ゞ
人類が接触した、人型のエイリアンと共存している世界というのは、なんか「マクロス7」っぽいね。「マクロス7」にも宇宙クジラの話があったし(笑)宇宙に憧れる少年が、宇宙船に乗り込んであっちこっち旅しながら…色々な経験を積み成長していくというオーソドックスなパターン。そんなところは野尻抱介の「クレギオン」シリーズにも似ているかなってちょっと思ったり。
宇宙に出る前の、未来の日本描写なんかは、けっこう面白く描けていた。まだ始まったばかりなので、これからの物語の広がりに期待。
個人的採点:65点
まほろ駅前多田便利軒 著:三浦しをん
まほろ駅前多田便利軒
三浦しをん:著
文芸春秋 ISBN:4-16-324670-3
2006年3月発行 定価1,680円(税込)
ここ1、2週間ほど読書から遠ざかっていました…途中まで、今月はコンスタンスに積読本を消化していたんですけどね、結局、いつもと同じくらいの分量になってしまった。年末くらい、数を減らしておきたかったのに(笑)
で、今年最後の1冊が、2006年の直木賞受賞作、三浦しをんの「まほろ駅前多田便利軒」です。いや~、けっこう人気のある、話題の本だったのに、年内に105円で見つけられるとは思っていませんでした。これがね、帯つきの初版本だったら、ヤフオクとかで売れるらしいんだけど、残念ながら増刷版でした(笑)
東京のはずれにある、まほろ市の駅前で便利屋を営む多田は仕事の帰りに、高校時代の同級生、行天と再会…行くあてもなく転がり込んできた行天はそのまま多田の便利屋に居座りながら、多田と共に様々な依頼、トラブルに遭遇する。
連作短編的な読み物ですよね…なんか、昔TVドラマでやっていた「勝手にしやがれヘイ!ブラザー」を思い出しました。設定とかは全然違うけど、何でも屋が事件を解決していくというのが雰囲気似ている。時には警察沙汰にもなるような色々な依頼が毎回舞い込んでくるんだけど、作品が進むにつれて二人の秘密も次第に明らかになってくるって感じ。
普段、ガチガチの本格ものや、ハードボイルドが大好きなだけに、この作品にミステリー要素を期待してしまうと…いくら直木賞受賞作だからといっても、出てくる事件自体にあっと驚く展開はない感じですね。ただ、主人公2人の奇妙な関係、それを取り巻く人間関係などの面白さだったり、いかにも文学的な表現はそれなりに楽しい。自分は三浦しをん2冊目なんだけど、前に読んだ「ロマンス小説の七日間」よりは面白かったです。
東京にこんな街がないので架空の街の設定だなっていうのは直ぐに分かるんだけど、どことなく町田を意識してるよね。自分も、町田にある専門学校に通っていた時期があるので、ピーンときた(東京なのに横浜のバス会社って設定が、神奈中バスが走ってる町田のことだと思ったので)。で、気になって、この文章を書く前に検索をしてみたら、東京近辺の人は同じ事を考えていたようで、やっぱり当たりみたい。なんか、原作者が町田に住んでるらしいね。
直木賞作品と身構えることなく、文学的な表現が心地よいライトノベルって感じかな(笑)生意気言ってごめんなさいだけど、個人的には可も不可もなくまぁまぁです。
個人的採点:65点
ベリィ・タルト 著:ヒキタクニオ
ベリィ・タルト
ヒキタクニオ:著
文芸春秋 ISBN:4-16-770201-0
2005年6月発行 定価580円(税込)
「凶気の桜」や「鳶がクルりと」など映画は見たことがあるのだけど、本をちゃんと読むのは初めてだったヒキタクニオの作品。元ヤクザの芸能プロ社長が、偶然出会った、少女をアイドルに育て上げようとする話。2002年にハードカバーの単行本で出た作品を文庫化したもの。
家出中の美少女リンは、元ヤクザで、芸能プロの社長・関永と出会い、「アイドルにならないか?」とスカウトされる。芸能活動に反対する母親の横槍を交わしつつ、レッスンで鍛え上げたリンは、想像通り注目を浴び始めたのだが…そこに大手の芸能プロが目をつけ始めた…。
そういう噂のある芸能プロダクションって実際にあるらしいからねぇ(笑)…まぁ、いい感じにフィクションであり、いい感じにリアルな物語です。華やかなアイドルたちの過酷な裏側を描きつつ、それに群がる、金の亡者と化した大人たちやファンという名の変態をシニカルに見つめるているのが面白い。
映画の「凶気の桜」なんかでも、極道社会を物語に取り込んでいたので、この物語も、切った張ったの血なまぐさい話も出てきたりするのだけれど、個性的なキャラクターと、コミカルな文体で、そういう雰囲気を抑えつつ、テンポ良く読ませてくれる。「凶気の桜」(映画しか見ていないけど)のように、登りつめた後に、どん底に落ちたりもするんだけど…もう一度、希望を見出せる内容になっていくので、良かったですね。 最後はリンのその後を読んでみたいなって気持ちにさせられた。
個人的採点:70点
犯人に告ぐ 著:雫井脩介
犯人に告ぐ
雫井脩介:著
双葉社 ISBN:4-575-23499-0
2004年7月発行 定価1,680円(税込)
毎年恒例の宝島社のこのミス…本年度版も最新のランキングが発表されて書店でチラリと立ち読みしてきたけど、読んでない本ばっかだった(笑)で、これは2年前、前々回のこのミスで、8位にランクインしていた作品だ。マスコミを使って、殺人犯と対決する神奈川県警の警視のお話。
身代金目的とした児童誘拐事件が発生…捜査の陣頭指揮をとった神奈川県警、特殊班の巻島だったが、大失態を犯して左遷されてしまう。6年後、川崎市内で連続児童殺害事件が発生。犯人の足取りが全くつかめない捜査陣は、県警本部長のアイデアで、大々的にマスコミを利用した公開捜査に踏み切ることに。事件を指揮する担当捜査官として、巻島に白羽の矢が立った!
作品の前フリとなる誘拐犯とのスリリングな駆け引き…で、どうなっちゃうのかなって思ったら、中途半端な幕切れで、途中で別の事件へ。で、過去の事件を引っ張りつつ…新しく起きた児童連続殺人事件の捜査がスタートする。導入部分のつかみ、マスコミを利用しての犯罪捜査という、メインテーマのアイデアの奇抜さに加え、さらに刑事たちの派閥争いや、足の引っ張り合いに…エリートキャリアの暴走と、畳み掛ける勢いで、一気に読ませるのだけれども…終盤で肝心の犯人逮捕劇のあたりになると、話がやや失速してしまうのが、ちと勿体無いかなと…。地道な捜査が実を結ぶというような、行き当たりバッタリな偶然もリアリティのうちかなと強引に納得してみたりもするけどね。
例えば、両方の事件がどこかでクロスするのではないかと、もっとドラマチックな展開を望んでいたのだけど…。確かに、過去の事件も重要な要素として物語の終盤で関わってくるんだけど、ちょい蛇足気味に感じてしまった。
犯人逮捕の詳細な過程を描くといよりは、捜査陣とマスコミとの関係、一般市民の犯罪に対する考え方あたりが物語の焦点でしたからね…ブラックでシニカルな部分も含め、そこがリアルに面白く描けていたから、満足できる。最近も交際相手の個人情報を勝手に調べちゃって、捕まった警察官がいるくらいだから(何気にこの話も神奈川県警でしたね)、女を口説きたい一心で、身内が捜査情報をマスコミにリークしちゃったりするあたりは、無理な設定じゃないよね。同じ警察組織内、身内同士の腹の探り合いなんか…「新宿鮫」の鮫島と香田みたいで面白かったですね。
読みながら、頭の中で、実写化した時に、誰が巻島役が似合うかな~なんて想像してたんだけど、最初は役所広司あたりかなって思いもあったんだけど…映画版の「デスノート」で夜神月のオヤジを演じていた鹿賀丈史なんかも似合いそうかなって…。
個人的採点:75点
眩暈を愛して夢を見よ 著:小川勝己
眩暈を愛して夢を見よ
小川勝己:著
新潮社 ISBN:4-10-602768-2
2001年8月発行 定価1,680円(税込)
本当に眩暈を起こしそうなくらい、クラクラしちゃうラストのどんでん返しの連続…読んでいる間中、ずっと付きまとう気持ち悪い違和感の正体は…?この本も、今現在は絶版みたいですが…発刊から5年も経っているので、そろそろ文庫にでもなるのではないでしょうか?Amazonではマケプレで購入できるみたいです。
インディーズ系のAV制作会社に勤めていた須山は、会社が倒産し、ゲームセンターでバイトそている身分。そんな時に、過去にビデオ撮影で仕事をした里村リサから話があると連絡が入り、会うことに…。親しい付き合いもないので怪訝に思いながらも、リサとの待ち合わせ場所へ向かうのだが…そこで聞かされたのは元AV女優の柏木美南の失踪だった。実は、美南は須山の高校の先輩であり、密かに憧れていたのだ。バッタリAV業界で再会し、他の女性よりは親しくしていたのだが…。理由があって美南を探していたリサは、須山に一緒に探して欲しいと懇願…調査を進めるうちに、美南の知られざる過去が浮かび上がる。さらに、美南の失踪直後から、彼女と関わりのあった人間が殺される連続殺人が発生していたのだ…。
過去に読んだ小川勝己の作品(「まどろむ、ベイビーキッス」とか)でも、あっと驚くどんでん返しが用意されている作品があったので、不自然な物語や構成に疑いを持ちながらも、話の内容のわりに、コミカルな文体で、スラスラと読み進めてしまうのだが…真相が語られる、ラスト30ページくらいは、思わず唖然としちゃいますね。●●ミステリ系なんですかね、コレって…。多分、賛否両論の結末でしょう…本格好きからは、嫌われそう。
作中作を取り入れていて、余計に複雑にしているんだけど…さらに作中作への批判とかまで出てきて、このあたりの構図はけっこう面白い。この批判を読んでるとさ、まさかって色々と想像しちゃうわけですよね…。あと、話の展開上、わざとヘタクソに書いた文章とはいえ、一応は自分で書いた作品に、ツッコミ入れまくりっていうのが、なんとなく自虐的な印象も受けて、物凄く変な気分にさせられる。
作品の本質については、言葉にすると全部ネタをバラしちゃいそうで、自分も上手く説明できないので、興味ある方はとりあえず読んでみてちょって感じですかね。
憧れの先輩への妄想的な文章とか…この後に書かれた著者の「撓田村事件」の色ボケ中学生のボンクラぶりと、どこかダブる。
個人的採点:65点
出生率0 シュッセイリツゼロ 著:大石圭
出生率0 シュッセイリツゼロ
大石圭:著
河出書房新社 ISBN:4-309-40582-7
1999年6月発行 定価798円(税込)
ホラー作家・大石圭の初期作品「出生率0」を読む。ジャンル的にはホラーというよりも近未来SFの趣向に近いかなと?世界規模で不妊が広がり、子供がまったく生まれなくなってしまうという…最近劇場公開された「トゥモロー・ワールド」という映画ソックリの設定。もしかしたら、P・D・ジェイムズの原作あたりを意識しているのかもしれませんね。1996年にハードカバーで発刊され、99年に文庫化。現在は絶版で入手し辛いようだ。
世界規模で広まった不妊…1999年6月にアフリカで誕生した女児を最後に、人類では新たに子供を生まれたということが確認できていない。それから7年後、着実に人口が減りつつある2006年6月8日…。金持ちに子供を売りつけ、人身売買で生計を立てているルル、将来に悲観しながらも、仲間たちと遊んでばかりいる、裕福な家庭の息子ユウ、人類で最後に誕生した少女と同い年の少年ジュン…彼ら3人のいつも通り日常が始まったのだが…。
小説が書かれ、最初に発表されたのは1996年で、その時点では近未来のお話だったわけだよね。でも、今が実際の物語の設定と同じ、2006年というから…なんか読んでいて奇妙な感覚に陥る。今の日本と変わらない、実際の地名が頻繁に登場するのだけど、多国籍で排他的な空気が感じられ…頭の中では勝手に「ブレードランナー」のようなバリバルSF的なイメージが浮かんできてしまう。
「トゥモロー・ワールド」の方は、絶望の淵に希望が垣間見れるという、ちょっとは前向きなお話だったけど…この「出生率0」は、希望の兆しも感じられない、どうやっても人類滅亡はとめられそうにないってお話で…そうなったときに、人間は残りの人生をどう選択していくのだろうかって内容になる。
小説では人類規模で不妊を語っているわけだけど、これは普通に人間の人生に置き換えてみても、結婚して子供を残すヤツばかりではなくて、子供を生みたくない人、生めない人と…それそれ個人が生きていく局面でも色々大事なことだったりするから、突飛な物語ではあるんだけど、意外と身近に感じることができるお話になっている。このまま結婚もしない、子供も作らないで、自分が年老いた時に、誰がいったい看取ってくれるんだろうか?などと…けっこう暗いことを考えてしまうんだよ。
それプラス…大石圭お得意の、人間の奥底にある倒錯的な願望が随所に盛り込まれている。最近のホラー作品の文章と比べると、堅苦しいところも多いのだが、変態的な性癖を惜しげもなく描写しているあたりは、ホント、大石圭らしいなぁって思った。この作品では、だいぶロリータ描写が強かったですね。
個人的採点:70点
呪いの構図 著:小早川恵美
呪いの構図
- 小早川恵美:著
新風舎 ISBN:4-7974-8926-X
2006年2月発行 定価590円(税込)
初めて読む作家の学園ホラー…新風社なんていうから新人作家かと思いきや、女の子向けの講談社X文庫とかで活躍していた作家さんらしい。スランプに陥って、休筆していたらしいが…この作品で復帰とのこと…。
大山広河は、放課後の教室で、友人で霊感体質の土居岳志が女生徒たちからの相談を受けている現場に居合わせた。相談内容は、倉橋真綾の携帯電話に“sinuyo@”というアドレスから送られてくる奇妙なメール。普段は女子に対しクールな態度を貫き通してきた広河だったが、この相談を機に、真綾たちと関わりになっていくのだが…。
うーん、「着信アリ」のパクリか?(笑)オチとか、犯人とかは…「着信アリ」なんかに比べると、非常に分かりやすくストレートな感じ。一応、ホラー小説なので、そういったラストにはなっていますが、あまり怖さとかグロさは感じませんね。各章の冒頭で挿入される、犯人らしき人物の視点で、恋愛感情や嫉妬が原因であるのは…なんとなくわかるし…その描写で、けっこうピーンときちゃうんだよねオチの系統が。
「新風社文庫大賞」という賞を獲得したらしいけど、いっちゃ悪いが、やっぱり所詮、新風社?自分には物足りなかったですね。ホラーというよりは、ライノベ、ジュニアノベル感覚で読むことをお薦めします。
個人的採点:55点