殺人ピエロの孤島同窓会 著:水田美意子
- 殺人ピエロの孤島同窓会
水田美意子:著
宝島社 ISBN:4-7966-5134-9
2006年3月発行 定価1,155円(税込)
宝島社の「このミステリーがすごい!」大賞で、特別奨励賞を貰った12歳の女の子が書いたミステリー。よっぽど欲求不満がたまってんじゃないのか?次から次へと、やたらとテンポよく人を殺しまくる…B級スプラッターも真っ青な、連続殺人です。
かつては、リゾート地として発展しかけた、東硫黄島…突然の火山噴火で島民は強制的に退去させられてしまい、今では島全体が廃墟と化している。そこへ、かつてこの島の島民だった、元東硫黄島高校の卒業生たちがやってきて、同窓会を開くことに。そして同窓会当日、盛り上がっているところに、ピエロに扮した男が、幹事役の男を殺害するという、衝撃的なTV中継が流れたのだ…。そのピエロは、どうやら高校時代に虐められていたクラスメイトの野比らしい…。自ら殺人ピエロと名乗ったその男・野比、が次々と陰惨な手口で同級生たちを殺害し始めた…。本土と連絡もとれない状況で、生き残るためのサバイバルが始まった…。
巻末の解説なんかを読むと賞の選考委員の中にも、12歳でよくこんな小説を書いたと、ベタ誉めしている人がいる反面…けんもほろろ、一笑に付している人もいるのが事実である。ミステリー小説やコミック(金田一少年やコナン?)、映画なんかから、覚えたての言葉と知識を総動員して書いたような文章…背伸びして色々と書いてるんだけど、意味が分かってるのだろうか?と変に想像してしまう。時事ネタ、行政批判なんかもいっちょうまえに盛り込み、内田康夫の●●伝説殺人事件みたいな、歴史考証的な味付けまで、かなりの大風呂敷。
さらに、H、不純異性交友、ラブホ、レイプ、自慰、陰毛…最近のお子様は早熟なのはわかるけど、いったいどこのエロ漫画から引っ張ってきたんだろうかと、頭の中で12歳の女の子がそういうものを想像しているところを思い浮かべてしまい、こっちが妙にこっ恥ずかしい気持ちにさせられる。確かに、自分も中学校の時は既に、そっち方面に興味はあったけどさ…中学生の女の子が文章にするか?こういう発想って、セクハラになる?(笑)性的な描写なんかも頻繁に描かれてるんだけど…なんか知識と言葉だけで書いてるなぁって思って、興奮とは程遠い(笑)
いじめられっこが、数年後に殺人鬼と化して同級生を襲うという内容は、この間まで読んでた荻原浩の「コールド・ゲーム」と偶然にも基本アイデアが酷似。クラスメイトがどんどん死んでいくというくだりは、こちらの方が過激だね(笑)ただ、クラスメイトがいっぱいいすぎるからさ、誰だコイツみたいなのも出てきちゃうわけ。だったら、最初の方で、半分くらい殺しちゃってから、本格的に物語を始めても良かったよね(笑)
著者本人は、相当数のキャラクターをちゃんと捌いているるもりだろうけど…読んでる方としては、人数が多すぎて、時々ちんぷんかんぷんになる。突出した個性を描ければなお良かったんだけれど、推理小説的なヘンテコな名前どまりだったから印象が薄い。事件当事者以外の人間の話なども挿話するなんてアイデアは上手いものの、こちらも設定はかなり杜撰さが目立つ。 ホント、色々なモノの寄せ集めって印象が否めない。最後のほうに出てきたヘリコプターの操縦=“ワルキューレの騎行”なんて描写もさ、「地獄の黙示録」を知ってて書いてるんじゃなくて、他のモノで、そのネタを知って真似して書いてるって思えちゃうんだよなぁ。
解説で、「バトルロワイアル」の影響を受けてるんじゃないかと語られていたが、それよりも、あの悪趣味な死体描写は…浦賀和宏あたりじゃない?って自分はちょっと思った。ミステリーのアイデアのごった煮感は浦賀の「記号を喰う魔女」なんかにも、ちょっと似ているかなって思ったんだよね。
でもまぁ、映画化もされてるどっかの若手ホラー作家よりは、しっかりとした文章になってるんじゃないですかね?総合的に笑っちゃう部分も少なからずなんだけど、馬鹿にするほどひどい文章力ではない。他の賞を獲ってる若手作家の中には、もっと酷い文章力のヤツがいっぱいいるし…とにかく長編小説として語が完結しているのが凄いです(笑)荒唐無稽な設定と人物描写ながら、いろいろなところから拾い集めたようなネタだけで、よくひとつの作品にまとめたなぁと。
自分もさ、小学校から中学校にかけて…山村美紗、西村京太郎、内田康夫なんていうトラベルミステリーに夢中になってさ、そういうのを真似して、授業中に勉強するフリして、ノートに小説の真似事をよく書いてたけど…登場人物を実在のクラスメイトにして、そいつらを物語の中で殺した時点で目標を達成した気分になっちゃってさ、話を完結させたことって一度も無かったもんなぁ(笑)
- 一応、宝島社から出版されてるだけあってさ、新風舎とかの自費出版系出版社から出てるような、本当に推敲してるのかよと疑いたくなるような作品よりは、ちゃんと読めますよ。っていうか、誤字脱字だらけのこのブログの文章より上手いと思うし(笑)知識だって、きっと自分が中学生の時より上だと思います。
あとは、この荒唐無稽な物語に、どうやって説得力をもたせるかですよね。そこが、まだ12歳の技量しかないんだ。それこそ、キャラクターの内面とかでも、もっとちゃんと描けてれば、他のご都合主義を誤魔化せる。まぁ、これからなんじゃないですか…人真似、寄せ集めじゃなくて、自分で色々な経験してから、才能があれば本当に面白い作品を書けるようになるでしょう。
このレベルで何冊も読みたいとは思いませんが…もうちょっと成長してから再デビューしたら、その時は読んでみたいですね。一発屋で終らないことを願ってます。 文句をいっぱい書いてますけど、裏を返せばそれなりに評価してるってことですよ(笑)ただ、それが面白いかどうかは別として…。
個人的採点:50点
コールドゲーム 著:荻原浩
コールドゲーム
荻原浩:著
新潮社 ISBN:4-10-123031-5
2005年11月発行 定価700円(税込)
作品が映画化されたり、直木賞の候補にノミネートされたり、最近、名前を頻繁に見かける荻原浩を初めて読んでみる。中学時代のイジメが原因で、復讐鬼と化した同級生から命を狙われる羽目になる高校生たちを描いた、サイコサスペンス。2002年に出たハードカバーを文庫化したもの。
今まで野球部一筋だった高3の渡辺光也…甲子園への夢はあっ気なく砕け散り、部活動は引退。進学するか、就職するか進路を決めかねている夏休みのある日、高校を中退した幼馴染の亮太がもたらした驚愕の事実。中学2年の時のクラスメイトたちが次々と何者かに襲われているという。犯人の心当たりは、みんながイジメのターゲットにしていたトロ吉こと廣吉ではないかと。久しぶりに何人かの同級生たちと連絡を取り合い、その日から廣吉を捕まえるためのパトロールを始めたのだが…被害は拡大。そして遂に、大きな事件が起きる!?
イジメ問題ですね…イジメた奴はそんなこと憶えてないけど、イジメられた奴はいつまでも根に持っている。この手の物語を読むと、見るからに、いじめっ子でしたというヤツよりは、俺は関係ないよねって思ってるヤツ、いい子ぶりっ子してヤツの方が、もしかしたら???って、恐怖に脅えちゃうんじゃないですかね…。
原作漫画は読んでないんだけど、映画で見た「隣人13号」の…逆視点のような物語でしたね。
ラストでおとずれる真相も、もう少しミステリ的などんでん返しを期待してしまったが…驚きはしたが、ああ、やっぱこのパターンかと、想像していた結末のひとつではあったかな。あと、復讐に脅える高校生たちに緊迫感を持たせていたら、読んでいうるこちらもスリルを感じるのだろうが、コミカルな描写も多いので、やや盛り上がりにかけたかな?この辺は好みの問題だと思うけど…。コミカルな描写もあるからこそ、約470ページの長丁場をうまく乗り切ったという印象もあるかな?
初めての作家だったけど、文章は読みやすく、それでいて読み応えも充分。エンターテイメントとして適度な作品だった。機会があれば、これからもこの作家の作品を読んでみようと思う。
個人的採点:65点
どきどきフェノメノン 著:森博嗣
- どきどきフェノメノン
森博嗣:著
角川書店 ISBN:4-04-788181-3
2006年10月発行 定価880円(税込)
森博嗣の新し目の新書を安くGETできたと思ったら、2005年にハードカバーで出たものを、新書化したものだった。一応、裏表紙のあらすじに、“ミステリィ&ラヴ・ストーリィ”と書かれていたのですが…ミステリィといっても殺人事件や超常現象が起きるわけでもなく、ほとんどラブストーリーの方がメインですね。
大学院に在籍する24歳の窪居佳那…指導教官の助教授に片想いして、挙動不審な行動をとり、同じ講座の後輩たちからは、何かと熱い視線が注がれる。また、父の友人である謎の僧・武蔵坊がある一定の周期で、食を求めてやってくる。そんな佳那のいくつかある悩みのひとつが、酒を飲むと記憶をなくしてしまうということだ!
目覚めたら見知らぬ男の部屋だった!?泥酔時の失った記憶を求めて、周囲の人間から聞き出した、その時の状況から、自分の記憶をたどっていくという…一応、謎解きらしき部分があったりもするのだけど、変に頭がいいくせして、常識や恋愛については小学生並の知識・思考回路しか持ち合わせていない、非常識なヒロインの、妄想的な言動、行動がダラダラつ綴られていく…。
で、終ってみれば…本当に、小学生、いや幼稚園児の初恋話を聞かされているようなお話であり、だからどうしたといいたくなってしまう結末。とにかく、今回ばかりは著者特有の理数系な表現(&寒いオヤジギャグ)も、ただただ回りくどいばかりにしか感じなく、展開がやたらと退屈だった。森博嗣の別シリーズで、犀川&萌ちゃんシリーズとか、紅子シリーズとかも、きっとあれで、殺人事件が起きなかったら、ただの奇人変人、非常識人間大集合の、意味不明な物語ってことなんだろうなぁって思いました(笑) 名前を変えただけで、なんか他のシリーズに出てるキャラと、性格などがかぶりまくってる。
個人的採点:55点
バッテリーⅢ 著:あさのあつこ
バッテリーⅢ
あさのあつこ:著
角川書店 ISBN:4-04-372103-X
2004年12月発行 定価540円(税込)
続けて読んできた「バッテリー」シリーズも、自分の手持ちのストックが、これでなくなってしまいました(笑)次巻以降を古本でGETできるのはいつのことだろう…。きっと、前巻と所有者一緒ですね…同じ時期に、同じ店で買った記憶があるので…今回も、もうおなじみになってしまった、鉛筆書きによる振り仮名があった。心なしか、頻度も減ってるし…振り仮名の間違えも1個しかなかった(笑)ああ、これは本文の感想とまったく関係ありません…詳しくは昨日の文章を参照してください。
新学期早々、巧や豪を含む、一部の野球部員が起こした騒動で…活動停止中だった野球部。夏休明けから、本格的に部活動再開の運びとなった。野球が出来ることの喜びを感じる巧と豪、他のメンバーたち…監督の戸村の計らいで、レギュラーチームと、巧&豪のバッテリーを中心とした1・2年生のチームが紅白戦を行うことに。
ようやく野球ものらしくなってきました…ただの練習試合だけど、ここまでドラマチックにストーリー展開させられると、やっぱり物語に入り込んでしまう。実は、自分も高校時代に野球を少々やってたんだけど…どちらかというと島本和彦の「逆境ナイン」みたいなチームでして(笑)そんなんでも、あの頃の思い出が、読んでるうちにフラッシュバックしてくるんですよね。
さらに、新たなライバルが現れてきて…生意気な巧が、とんでもない宣言するので、ハラハラドキドキさせられますね。相変わらず友情だとか、大人の事情で少年たちは悩まされるわけですが、野球のシーンが多いので2巻目ほど説教臭くなく…今までとはまた違ったエンターテイメントとしてテンポのよい読み物になっていたと思った。アメリカのTVドラマみてぇに、すげーいいところで終ってるのが憎い。
その代わり、文庫版のための書下ろし新作として…主人公・巧の弟で、いつも絶妙なタイミングで場の雰囲気を和ましてくれる、作品のオアシス的(笑)キャラクター青波くん視点による、ちょっと珍しい彼の心の葛藤の様子が詳細に語られている、短編が収録されている。兄貴のことをどんな風に思っているのかが、いつも以上に分かりやすく伝わってくるお話だった。
個人的採点:70点
バッテリーⅡ 著:あさのあつこ
バッテリーⅡ
- あさのあつこ:著
角川書店 ISBN:4-04-372102-1
2004年6月発行 定価580円(税込)
前回の「バッテリー」の続き、2巻目を読んでみる。3巻までは入手したけど…それ以降は、まだまだ100円コーナーで発見できず。この間、ハードカバーで4巻を見つけたんだけど、やっぱり文庫で欲しいなぁって、買うかどうか迷っているうちに、他の人に持っていかれてしまった。やっぱり人気ありますね~。
中学校へ入学した巧と豪…思い切り野球ができると思っていた二人だが、色々な障害が。他の部員の練習風景を見て不安を抱いた巧は、クラブの申し込み期限まで、届出を出すのを保留し…豪と共に自主練を開始。期限ぎりぎりに入部届を出したものの、巧の生意気な態度を見た顧問の教師や、先輩部員に早速、目をつけられてしまう…。
ようやく中学校へ入学…本格的にスポ根青春が始まるのかなと思いきや、さすが元は児童書…引き続き、主人公のとんがった性格で、色々と問題がおきてしまうのね。1巻に引き続き…家族や友人たちへは変に虚勢を張りつつも、周りの人間の包容力のデカさで、なんとか乗り切ってきたのだが…そこへ今度は、教師や先輩とのいざこざという、縦社会の難しさに直面するわけだ。今までは、才能だけでなんとか突っ走ってきたけど…人間、何をやるにも上手く立ち振る舞わないとダメだよってことだね。
肉親以上に、大人のずるさみたいなものに、阻まれてしまい悩む主人公。さらに、才能を妬む上級生からのイジメまで…。自分だけではなく、親友たちにも迷惑をかけてしまうということを、ようやく悟り始めるのね。自分の個性を磨く反面…“郷に入れば、郷にしたがえ”という精神も忘れちゃいけないってことですかね?でも、主人公の野球への思いがそれに打勝っていくと。
なんだ、今回もあまり野球自体の話は少ないじゃんと思いながらも、1巻同様…思春期の子供の葛藤の様子が上手に描かれており、自分が学生時代に大人や先輩たちに抱いた感情によく似ているなぁなんて思いながら…特にクライマックスのある事件のところなど、ページをめくるのももどかしいくらい、物語の持っていき方にドキドキさせられてしまった。ああ、次に3巻目も読んでしまおうっと。
それにしても、話の進み具合はけっこう遅いのね。そろそろ1冊で、1年くらい進むのかなって思ったけど…シリーズ通して、ずっと中学生のままなのか??てっきり、高校まで進学して、甲子園でも目指すという…「タッチ」みたいな流れを頭に描いていたんだけどなぁ。
そういえば…この2巻も100円コーナーで買ったんだけどね、前所有者が、たぶん小さいお子さんだったんでしょうね。やたらと、漢字に鉛筆でふり仮名ふってるのね。後半に行くに従って、その量がどんどん増えるんだよ。やっぱり、作家先生も、リズムが出てくると、どうしても難しい表現が多くなるってことなのかな?自分たちは気にしないで、読んでしまっているが…小さい子供には、この文庫本を読破するのも大変なことなのかもしれない。自分で辞書か何かで調べたのか…3分の1くらい、そのふり仮名も間違えてるんだなぁ(笑)なんか、途中で気になっちゃってさ…自分の方が読み方間違えてるのかななんて、やたらと心配になってしまった。それだけ、幅の広い層に読まれているってことだね…ベストセラー⇒映画化って話も納得な感じです。
それから、前回の記事にコメントを書いてくださったかたありがとうございます。やっぱ、人気のある本で記事を書くと反応が早いですね(笑)いつもは、変な本、オタクな本が多いので、さっぱりなんですけど(笑)
個人的採点:70点
バッテリー 著:あさのあつこ
バッテリー
あさのあつこ:著
角川書店 ISBN:4-04-372101-3
2003年12月発行 定価540円(税込)
ホラー小説が続いたので、今度は軽い読み物をと思って、「バッテリー」を読んでみる。近々、映画の公開も迫っていて、ますます話題になってますね。100円コーナーで文庫本をとりあえず3巻まで一気に見つけたので、続けて読んでみようかなって思ってるところ。これって何巻まであるんだろうか?
父親の転勤で、両親の生まれ故郷である岡山県の地方都市、新田に引っ越してきた巧とその家族は、母親の実家で祖父と同居することになったのだが、抜群のピッチングセンスで少年野球のエースだった巧は、仲間たちとの別れや環境の変化にやや失望していた。しかし母親は病弱な弟の心配ばかりし、父親は野球になんて全く興味がないようで、巧の気持ちを全然理解していない。そんな時、巧も認めるほど、キャッチャーの素質を持った同級生の永倉剛との運命的な出会いが待っていた。中学入学を控えた二人は、互いにバッテリーを組むことを切望するようになるのだが…。
自分の世代で“バッテリー”といえば…大島やすいちのコミック「バツ&テリー」なんですけどね(笑)あれとは大違いの、ほのぼの感動系物語ですね。元々は児童書ってだけあって…文章は読みやすく、サラサラと読めてしまう。読書なれしているような人には、物足りなさもあるだろうが…友情、親兄弟との家族愛の微妙な感情はよく表現できていますよね。
特に自分も男兄弟2人なんでね、親近感がわきやすいかな。うちの場合は、弟の自分よりも、兄貴の方が両親に甘やかされていたので、小説とは逆だけど、なんとなく主人公に共感してしまったり。反抗的な態度を見せる主人公、これって虚勢だったり、嫉妬だったりするんだけどね、自分も経験あるよ、こんな気持ち。そんな風に自分の思春期を思い出し、照らし合わせながら読んでしまう。
シリーズもので、話がどんどん続くらしいが、この1巻目ではバッテリーを組む二人の少年の出会いが描かれており、野球小説として、物語が本格的にスタートするのは次巻以降なんでしょうね。将来は「タッチ」みたいに、甲子園とか目指しちゃうのかな??可愛いマネージャーが出てきて、二人で奪い合ったり(笑)
個人的採点:65点
リアルヘヴンへようこそ 著:牧野修
リアルヘヴンへようこそ
牧野修:著
角川書店 ISBN:4-04-352207-X
2005年3月発行 定価740円(税込)
今回も角川ホラー文庫をチョイス…牧野修の「リアルヘヴンへようこそ」だ。1999年に他社から出た文庫を角川ホラーで再版したものなので、作品自体はもう7年以上前のものなんだけど、作品のキーとなるネット描写など、あまり詳細に語ってないので…今読んでも違和感は少ない。
恵比寿台ニュータウンという小さな街の郊外に立てられた集合マンション…そこに、父親と2人で住んでいる都筑瞬は学校でイジメにあっている中学生。そんな彼の趣味は、街に巣食う浮浪者たちと交流を図りながら観察し、その様子をインターネットのHPで発表することだった。 ある日、浮浪者たちの奇妙な行動・言動に気づいた瞬は、いつものように調査を開始したのだが…それが街全体に忍び寄る悪夢のような出来事の前触れだとは思ってもいなかった。さらに、一緒に住んでいる父親にも変化が…。
いじめられっこと浮浪者が交流を交わしながら、この世の絶望的な危機を救う戦いに挑んでいくというのも面白いね。あと、社会を憎む憎悪の塊が破壊衝動に繋がり、それが実際の出来事のようになっていくんだけど、その方法や描写が、いかにも牧野ホラーな感じでグロテスク。読んでいるだけで、死臭が漂ってきそうだよ。で、クライマックスは…ハルマゲドン系のグチャグチャドロドロ、アクション、てんこもり(笑)
怖いって感じでは、この間読んだ「スイート・リトル・ベイビー」の方が上だけど、いつも自分がイメージしている、エンターテイメント系の、いかにも牧野ホラーを楽しむなら、こちらの作品かなと思う。
個人的採点:65点
ビンゴ 著:吉村達也
ビンゴ
- 吉村達也:著
角川書店 ISBN:4-04-178982-6
2005年7月発行 定価860円(税込)
しばらくは、角川のホラー文庫でせめてみようかなと思って、吉村達也の「ビンゴ」をチョイス。文庫だけど540ページもあるので、なかなかの読み応え。しかし、読み始めると、ついつい惹き込まれてしまって、あっという間に読破してしまった。 田舎の全寮制高校を舞台に、クラスの座席表をビンゴシートに見立てて、次々と惨劇が進行するというホラー。
東北の村にある全寮制の私立高校…“希望の光学園”。そこは全国から不登校の生徒が集まってくる特殊な学校だったが、生徒数が激減し、現在の三年生が卒業したら廃校することが決定していた。最後の卒業生となる25人の生徒たちは、夏休みの思い出に全員で百物語をすることになったのだが、恐ろしい怪奇現象を体験。それを境に奇妙な事件が次々と襲い掛かる。クラスメイトのひとりが、教室で首を吊って死んだ…その時、黒板には座席割りと同じ5×5のビンゴ図が描かれていたのだ。翌日から、生徒の机に一輪の白い花が置かれはじめ、列がビンゴになると人が死ぬという予告ではないかと噂が広まったのだが、本当にとんでもない惨劇が起きてしまったのだ!そして10年後…生き残ったクラスメイトの間で真相の追究が始まるのだが、再び惨劇が繰り返される!
座席表をビンゴシートに見立てる…そして正体不明の幽霊らしき物体が“リーチ”“ビンゴ”と、宣告して…生徒たちを次々と殺していくというアイデアは、なかなか奇抜で面白いです。実際にあるわけない、馬鹿げた設定ではあるんだけど…、文章力でしっかりとリアリティを感じさせ、怖がらせてくれるところは、さすが吉村達也。路線的には似ているけど、やたらと映像化されてる、中高生に人気のある若手の某ホラー作家とは比べ物になりませんね。
で、実際に惨劇が始まると…ハリウッド映画の「ファイナル・デスティネーション」シリーズみたいでさ、もう、死ぬ運命は変えられませんってバンバン人が死んでいくのね。その辺の描写なんて、映像で見ているみたいに、くっきりとグロイ描写が想像できちゃったりしてね(笑)生き残った生徒たちが、なんとか法則や原因を追求して、助かろうって展開になっていくわけだけど…。作品の根底にはしっかりと社会問題を織り交ぜ(その問題は何かを書いちゃうと、真相がバレちゃうので内緒です)、ラストはサスペンスミステリー的な驚きも味わえるから、上手だなぁと感心させられます。
個人的採点:70点
スイート・リトル・ベイビー 著:牧野修
スイート・リトル・ベイビー
牧野修:著
角川書店 ISBN:4-04-352201-0
1999年12月発行 定価560円(税込)
牧野修のホラー小説「スイート・リトル・ベイビー」を読む。表紙には第6回日本ホラー大賞長編賞の記述あり。もう7年近く前に出た本だけど…現在でもしょっちゅうニュースや新聞で見聞きする、児童虐待がテーマになっている。
ボランティアで児童虐待の電話相談をしている保健婦の秋生。彼女自身もかつて、育児ノイローゼにかかり悲しい出来事を経験しており、その経験からボランティアに参加していたのだ。ある日、数年前に息子を虐待した主婦、紀子から久しぶりに相談の電話が掛かってきた…。一時は虐待もなくなり、家庭も円満だったらしいのだが、なにやら夫が怪しい行動をとっていると。夫婦仲が原因で再び虐待が始まるのを恐れた秋生は、紀子の相談に応じてしまうのだが…そこから思いもよらぬ出来事に巻き込まれていく。
今までは、どちらかというとノンストップスプラッターな牧野ホラーばかり読んでいたので、前半で語られる児童虐待の実態を、壮絶に描いていくところなど、ホラーというものを忘れて真剣に読んでしまう。まだ、自分は結婚もしていなければ、子供もいないので…子育ての大変さっていうのはさっぱり理解できないのだが、こういう物語を読んでしまうと、自分に子育てなんかできるのだろうか?自分は何かの拍子に虐待へ走ってしまわないだろうか?と…ある意味、恐怖に感じてしまう。幼児への折檻死とかさ、最近も類似の事件が報道されると…「何を考えてるんだ、親は!」と無責任にも怒りをあらわにしてしまうが、いざ、自分が子育てに直面したら…自分もその少数の非常識な親の仲間に入ってしまうのではないか?
で、この本もいつものように古本で買ったんだけどさ…前の持ち主が、本文のいたるところに赤線でマーキングしてたんですよ。それも、主人公が過去に犯した児童虐待を詳細に語る部分とかね。それが、なんだか妙に生々しくてね、何を考えて、ここにマーキングなんてしたんだろうなんて思い出すと、余計に怖さを感じてしまいました。
前半からチラっとづつ語られてきた恐怖の真相…それがラストではホラー的なオチのつけかたがちゃんと出てきてね、非常に読後感が悪い展開へ。面白いと表現するような作品ではないが、凄く惹き込まれる物語だったのは確かです。
個人的採点:70点
愚者のエンドロール 著:米澤穂信
愚者のエンドロール
米澤穂信:著
角川書店 ISBN:4-04-427102-X
2002年8月発行 定価560円(税込)
ライノベ系作家だと思っていたら、すっかり“このミス”上位の常連になったりしている米澤穂信の「愚者のエンドロール」を読んだ。アレ、表紙の写真が全然違うぞ…。自分が持っているのは角川スニーカー文庫版で、可愛らしい女の子のイラストなんですけどね…今現在、一般書店で流通しているのは、スニーカー文庫仕様ではなく通常の角川文庫仕様なんですね?一般書籍の表紙がライノベ風な物が多くなってきているのに、逆のパターンっていうのも面白い現象だなって、ちょっと思った。
神山高校、古典部のメンバーに奇妙な依頼が。文化祭に出展する、ビデオ映画の感想を聞かせて欲しいと、2年F組の入須冬実から頼まれて試写会に参加した折木奉太郎をはじめとする古典部の面々。内容はミステリー映画だったのだが、タイトルも決まっていない未完成な作品だった。実は脚本を担当していた生徒が心労で倒れてしまい、他のスタッフも結末が分からず終いだったのだ。冬実の狙いは奉太郎たちの力を借りて、撮影された映像から、脚本家がどんな結末を描いていたかを導きだすことだった。
「氷菓」という作品の続編で、引き続き古典部のメンバーが学校内で起きた事件を調査するというシリーズもの。れっきとした推理小説ではあるんだけれども、スニーカー文庫を意識したのか、作者の作風なのか、いまどきのミステリーに珍しく人が死なない物語であり、今回も同様のパターン。学園ミステリとして、キャラたちはしていたものの、物語にイマイチ面白みを感じられなかった前作に比べ、俄然、ミステリー濃度が向上した今回の方が自分の好みではありましたね。未完のミステリー作品を推理していくという…探せば似たようなストーリーがどっかにありそうだが、実際には人は死なない、作中作の事件を解決するという方法で…学園ミステリにありがちな、うそ臭さを回避するアイデアはうまいと思った。ちなみに、自分が持っているのは左記のバージョンです。
個人的採点:65点