緋華Sparkling! 著:藤原征矢
- 緋華Sparkling!
藤原征矢:著
ホビージャパン ISBN:4-89425-446-8
2006年8月発行 定価650円(税込)
模型雑誌でお馴染みのホビージャパンもライノベ界に参入したんですね…この作者の本を読むのは初めてだけど、女子高生&中学生のコンビが銃をぶっ放す痛快なアクション小説ということで、深見真の「ヤングガン・カルナバル」みたいな内容を期待して読んでみたのだけど…。
名門菊乃宮学園に通う女子高生・海原緋華…一見、上品な美少女なのだが、実は男勝りな性格で、失踪した父親に代わりに、武器密輸を専門とする千年商事を仕切る女社長。トラブルが起きれば、自ら武器を携え、召使のかすみを引き連れて敵陣に乗り込んでいく!今回は密輸入したトカレフに関して売り手とトラブルを起こし、ロシアまで遠征する羽目に…。
「ヤングガン・カルナバル」ほど銃器描写、アクション描写はリアルではなく…アクションよりも萌えの方が優先といった感じ。確かに作者はアクションや銃が好きなのだろうと感じるけど、全体的にコメディ調。最近はライトノベルとい分野も侮れなくて、一般の文芸書やミステリーよりも筆力のある作家さんがたくさんいるが、この作品に関しては…いかにもライトノベルな内容で、大人が読むにはイマイチ物足りなさが残る。
親の後を継ぎ…女子高生が制服姿で銃をぶっ放すってシュチエーションは「セーラー服と機関銃」あたりを意識してるのかな?ただ、劇中にも「セーラー服じゃない!ブレザーだ!」と啖呵をきるシーンが出てくる、わざと変えたんだろうなぁって感じ。そのくせ、同じ学園の中学に通う…メイド兼パートナーのかすみちゃんはセーラー服なのね(笑)
敵との対決が中途半端に未決着だったり、父親失踪という謎も投げっぱなしなので、明らかに続編を意識しているなって思ったら…やっぱり既に続きが出ているようです。まぁ、また105円で見つけたら買ってみてもいいけど、正規の金額を出してまでは…読まないだろうなぁって感じです。
文章も会話が多いし…それこそ萌え萌えなキャラクターデザインで、コミック化でもしたら面白そうではあるけど…。
個人的採点:50点
兇眼 EVIL EYE 著:打海文三
- 兇眼 EVIL EYE
打海文三:著
徳間書店 ISBN:4-19-892252-7
2005年6月発行 定価700円(税込)
脇役ながら、お馴染みのウネ子や佐竹が登場する打海文三のアーバン・リサーチシリーズ…。1996年発行のハードカバーを単行本化したもの。
過去にレイプ事件に巻き込まれた元大学助教授で、現在は警備員の武井が勤務するマンションの一室でルポライターが殺された。事件の第一発見者であり、同じマンションに住むノンフィクション作家の高森夏子は…事件の真相を追究すると同時に、武井の過去に関心を抱き、調査のアシスタントとして雇い入れる事に。2人はルポライターが追っていた、過去に集団自殺を起こしたカルト教団を秘密に迫るのだが…その先で教団関係者の生き残った子供たちが、失踪しているという事実に突き当たる!
今回の主人公はレイプ容疑をかけられた、元大学助教授の警備員が、さらに…事件に殺人事件に巻き込まれ、警備員の仕事をすっぱり辞めて探偵まがいの捜査をするという話。事件解決後のエピローグでは、とんでもないことになっているのが、打海文三流のジョークでしょうかね(笑)やりすぎだっちゅうねん!?
主人公として、物語を動かしていくのはオジサン、オバサンが多いのだが…主軸となるテーマが子供というのが、この著者の作品で多く見られるパターンですね。今回も、殺人事件の影に…少年少女の失踪事件が大きく関わっており、武井のレイプ事件の真相なんかと相俟って、大人顔負けの子供の行動力の凄さにビックリさせられる。嘘っぽく感じるけど、犯罪の被害者も加害者も若年化が進んでいる昨今は、あながちフィクションとは言い切れないよね。そんなことで最初の発表は10年近く前の作品だが、古さは感じない。子供、子供と侮ってはいけないという著者のメッセージではないか?
どこへたどり着くのか?紆余曲折、混迷を極めながらも、飽きのこないストーリーと個性的なキャラでテンポよく読ませる筆力は相変わらずで、今回も大いに物語を楽しませてもらった。この著者の作品はハズレが少ないので安心して読める。
個人的採点:70点
向日葵の咲かない夏 著:道尾秀介
向日葵の咲かない夏
道尾秀介:著
新潮社 ISBN:4-10-300331-6
2005年11月発行 定価1,680円(税込)
ちょっと前に読んだ「背の眼」に続き、2冊目の道尾秀介に挑戦しました。このミス2007年版の17位にランクインしていた、とにかく変なミステリー。帯には「ネタバレ厳禁、超絶・不条理(でもロジカル)ミステリ」と書かれている。
夏休み前の終業式の日…学校を休んだS君の家に、届け物をしに寄った僕、ミチオは…そこで首を吊ったS君の自殺死体を発見。慌てて学校に戻って、先生に報告し…警察と先生がS君の家に駆けつけたのだが、なんとS君の死体が消えていた。ミチオの悪戯も疑われたが、警察がそれらしい痕跡を発見し…S君の失踪事件として捜査がはじまる。そんな時、自分はS君の生まれ変わりだと称するある生き物がミチオの前に現れた。ミチオは妹のミカと共に事件の真相を探り始める…。
こういうオチが今までになかったわけではないし…作中作として、不条理極まりない、小説や手記などを読まして、そこから事件の真相を読取っていくというような手法で書かれた推理小説も、何冊か知っているけど…ここまで変な文章の小説はなかなかお目にかかれないよね。
全編小学生の作文を読まされているような不思議な文章に慣れるまで、ちょっと疲れたが…どんなとんでもない結末なのか、オチを色々と想像しながら読み進めて行くのはけっこう面白い。デビュー作の「背の眼」とは、全く印象の違う作品で、とにかく驚く。
個人的採点:70点
刑事 雪平夏美 アンフェアな月 著:秦建日子
刑事 雪平夏美 アンフェアな月
秦建日子:著
河出書房新社 ISBN:4-309-01779-7
2006年9月発行 定価1,680円(税込)
自分が前作の「推理小説」を読んだ時は、けっこうこのブログで酷評した んですけど(笑)、ドラマ化されて、文庫本がベストセラーになってた。で、調子に乗って小説第二弾に映画化ですか?昨年末発表の宝島社、このミステリーがすごい2007年版では、ベスト20にこそ入っていなかったが、ランク外…13点以上で、山田正紀や垣根涼介と一番下に並んでいたし、各ネット書店の読者レビューでは意外と好評価。
生後3ヶ月、0歳児の幼児が誘拐されたと、110番通報してきたシングルマザーの母親。連続猟奇殺人の犯人を射殺し、なんとか事件に決着をつけたばかりの警視庁捜査一課・強行班の雪平夏美は…上司の命令で、特殊班の担当する誘拐事件の捜査へ合流するのだが…。
この間、打海文三がけっこう前に書いた「時には懺悔を」を読んだなかりだったからなぁ、幼児の誘拐という題材が似てるし、あっちと比べると、相変わらず中身の薄さが目立つ。だから、この人の本は映像用なんだって(^^ゞ前回の小説も、結局は…ドラマ化するための、企画書みたいなもんだったわけで…魂胆みえみえ。そのくせ、本職の推理作家を愚弄するようなことを偉そうに語ってるのが、嫌味に感じたんだよね。
で、今回は…そういう部分は自粛しているのか、自分が接しているTV業界内のことを皮肉ってたけど(笑)企画書を通すには、シンプルに分かりやすく、字をデカくしてインパクトをつけるとか云々…そういった類いの説明が出てくるんだけど、本文内に、真っ黒いページに白抜きの字でデカデカと短い文章を書いて、レイアウトで読者に何かを訴えかけようとしたりする姑息さが…いかにも業界人っぽくて、鼻に付く。文章力のなさをこういうところでカバーしてるよね。
それでも、脚本家さんなので筋立てはそれなりに飽きないように、美味しく考えられてるんだけど、表面上しか見えてこないのでキャラクターに入り込めないし、文章で読んでると説明的すぎる構成のせいで、謎が謎になっていない感じで…ラストでの驚きが少ない。
まぁ、ドラマから入った人には、この程度の作品で満足なんだろうなぁって感じの出来ですよ、はっきりいって今回も…。読みやすい=中身がない=面白いと感じる。それで本が売れて、ランク外ながら、このミスにも票が入っちゃうってことは…やっぱりメディアの力は大きいですね。300ページ以上あるハードカバーなのに、読書なれしてる人なら2時間程度で読めちゃうような作品…小説ではなく、今回も脚本に近いです。ハードカバーの定価じゃ、自分は買いたくないですね。古本だったら、暇つぶしになりますよ。
個人的採点:55点
Girl’s Guard 君の歌は僕の歌 著:桜庭一樹
Girl’s Guard
君の歌は僕の歌
桜庭一樹:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-0710-X
2002年2月発行 定価672円(税込)
桜庭一樹のファミ通文庫…格闘バカの女の子がボディーガードまがいの依頼を受けながら…知り合いの刑事さんとラブコメするってお話。
顔は可愛いが、問題ばかり起こす空手バカの天花寺マリと、マリの後輩で頭脳派の美人女子高生・雪野は、“ガールズガード”という街の女の子の間にクチコミで広がった、ボディーガードのような何でも屋をやっている。ある日、ストーカー被害に悩まされている女子大生、七菜子の依頼を引き受けるのだが…事件は思わぬ方向へ。
感想はって聞かれたら、面白かったよって程度で語れてしまう内容だけど(笑)、ラブコメあり、アクションあり、ミステリありで…頭を使わないで軽く読めるエンターティメントだった。著者が格闘技好きだけあって、アクションの描写は相変わらず本気印。
特筆すべきものはないけど…桜庭一樹を開拓中なんで、読んでみましたって感じかな?最近は、「このミステリーがすごい」なんかでも名前が挙がってきて、評判がけっこう良いんだけど、それらの作品が、まだまだ100円コーナーにないから、どうしてもライノベになっちゃうんだよね。
個人的採点:60点
ヒート アイランド 著:垣根涼介
ヒート アイランド
垣根涼介:著
文芸春秋 ISBN:4-16-768601-5
2004年6月発行 定価710円(税込)
巻末の解説を大沢在昌が担当していたので、読んでみる気になった。映画化も決定しており、今年中に公開予定なのだとか。渋谷を舞台にストリートギャングと強盗団の対決にヤクザが絡んできて三つ巴、四つ巴の乱戦となる…。2001年のハードカバーを文庫化したもの。
渋谷でストリートギャングを束ね、ファイトパーティーを主催するグループ雅。そのリーダー格のアキとカオルはその日もパーティーを成功させた。しかし、翌日になって仲間がとんでもないトラブルを抱え込んできた。酔った勢いで襲ったオヤジから、カバンを引っ手繰ってきたのだが、中には千万単位の現金が入っていたのだ。実はそのオヤジの正体は…ヤクザが非合法で経営するカジノバーを襲った強盗犯の一味。強盗犯も現金を取り戻そうと、雅をマークする。一方、カジノを経営していたヤクザたちも現金の行方を追っていた…。
「ファイトクラブ」かと思ったら「トゥルーロマンス」だったみたいなお話(笑)出てくるのはアウトローな男ばかりだけど…キャラクターの描き分けがよく出てきて、それぞれに手抜きがない。映画で言うとタランティーノ、トニー・スコットばりに多数の物語・視点が交差するが…終局へ向かって一つになっていくあたりが、なかなか鮮やかであり、スリリングで読み応えあり。確かに、これは映像化向けの題材だね。
最初こそキャラクターがいっぱい出てくるので、ややこしい話かなって危惧したが…頭を空っぽにして、楽しめるエンターテイメントに仕上がっていた。解説の在昌センセも言っていたが…続編を期待させる感じのラスト。
個人的採点:70点
館という名の楽園で 著:歌野晶午
館という名の楽園で
歌野晶午:著
祥伝社 ISBN:4-396-33052-9
2002年6月発行 定価400円(税込)
祥伝社文庫の、低価格でパっと読める中編書下ろしシリーズDramatic Noveletteの1冊で、歌野晶午の本格ミステリ。
学生時代に推理小説マニアが集って結成した探偵小説研究会のOB仲間、冬木統一郎から、自分が建てた館への招待状を受け取った4人の招待客。探偵小説好きの冬木は、彼らを推理ゲームでもてなそうと画策。殺人犯、被害者、探偵の配役をクジで決め、冬木の考え出した事件を解くという趣向だ…。
トリック自体は、TVドラマの“ケータイ刑事”みたいなレベル(笑)なんだけど…初期の歌野作品をちょっと懐かしく思い出してしまうような、ベタな感じでいいです。中編なんで物足りなさは否めないが、ただ、最後まで読み終わった時に、作品タイトルが、けっこう胸に沁みる…。
後に発刊されたハードカバーの作品集にも、この作品が収録されてるのだとか…。実は文庫でこのシリーズを買ってしまったのだが、そっちのハードカバーを100円コーナーで探した方が安く済んだのかもしれない、ちょっと損したかな?(笑)
個人的採点:60点
はじまりは青い月 スカーレット・パラソル1 著:新庄節美
はじまりは青い月
スカーレット・パラソル1
- 新庄節美:著
東京創元社 ISBN:4-488-44801-1
2004年3月発行 定価609円(税込)
創元推理文庫の「はじまりは青い月」を読む…元々は90年代に児童向けとして発表された作品らしいのだが、それを文庫化したものだそうだ。
突然25年ぶりに泥棒稼業を再開すると言い出した祖母の助手として、泥棒を手伝う羽目になった阿藤愛梨。実は阿藤家は、代々…悪人を懲らしめるための義賊の家系だったのだ。今回のターゲットはブルネア国から盗まれた至宝“カリマンタンの青い月”…国勢に関わる大事件として、密かに来日したブルネア国の王子からの直々の依頼だ。犯人のめぼしはついており、その相手から“カリマンタンの青い月”を奪い返して欲しいと言う!しかし、作戦の実行直前に祖母が怪我をし、戦線離脱…さらにかつての祖母の宿敵、探偵・武市大五郎の孫まで現れる!?
実はいつものようにブックオフの100円コーナーで買った本なんですけど、途中まで読んでたら、94ページ目から6ページくらい、何故だか、カッターか何かで切り取られてるんだよね。ビックリした…雑誌なんかを古本で買うと記事が切り抜かれてる事はしばしあるけど、推理小説で中身が切り取られてるなんてねぇ。元の持ち主がやったのか、それとも悪戯なのかわからんけど…とにかく腹が立つ。積読本なので、いつ、どのブックオフで買った本か覚えてないので、今さら文句も言えないしなぁ…。
幸い、その欠落部分を抜かしても…ストーリーを把握するには支障はなかったんだけどね(さすが児童向けだから、飛ばしても推理力で補えますよ)、やっぱりなんか嫌な気分。
で…作品の内容ですけど、一人“キャッツアイ”に、大沢在昌のアルバイト探偵をあわせたような感じかな(笑)泥棒の下準備として、はたまた泥棒阻止の為、怪盗と探偵がそれぞれ推理力を働かせるんだけど…大人が読むとそれを推理と呼べるかどうか。コミカルなキャラクターの可愛さを楽しむ程度で、軽く読むのがベターなんじゃないでしょうか?約250ページですが、読破するのにあまり時間もかかりません。創元推理文庫だと期待しすぎるとずっこけます(爆)
- 個人的採点:55点
球形の季節 著:恩田陸
球形の季節
恩田陸:著
新潮社 ISBN:4-10-123412-4
1999年2月発行 定価540円(税込)
最近、DVDでちょうど「夜のピクニック」を見たので…恩田陸の作品に初挑戦してみる。けっこうこれは初期の頃の作品らしいのだが、東北の田舎町を舞台にしたホラー。最初こそ、高校生のほのぼのした姿が描かれていたが、ジワリ、ジワリときますね…。
東北のⅠ市、谷津という町に二つの男子校、二つの女子校…系4つの高校があった。それぞれの学校がお互いに交流して活動している、地歴研こと、“谷津地理歴史文化研究会”の面々…共通して校内で流行っている奇妙な噂の出所を調査することに…。しかし、噂が現実となり一人の少女が失踪した…。さらに、町では金平糖を撒く変なおまじないがはやり始める。いったい、何が起きているのか?
怖がらせてやるぜ!?と意気込んでるような作品ではないので、別にスプラッターな怖さを感じる作品じゃないんだけど…どこか幻想的な恐ろしさが、ジワリジワリとくる感じの小説ですね。文庫化の時点で99年、最初に作品が発表されたのは94年頃。とすると…今から13年も前になるのね。だからかな?今の時代に読むと、余計に生徒の雰囲気なんかも古風でノスタルジックな感じに拍車をかけており、それが作品の魅力にも繋がっていると思った。
まぁ、映画の「夜のピクニック」もそうだったけど…群像劇スタイルなので、キャラクターがいっぱい出てきて、最初はとっつきにくかったなぁ。初めての作家さんだったので、文章に慣れるのにも、ちょっと時間がかかったけど…後半はけっこう引きこまれてしまった。
個人的採点:65点
笑う怪獣 ミステリ劇場 著:西澤保彦
笑う怪獣 ミステリ劇場
西澤保彦:著
新潮社 ISBN:4-10-460801-7
2003年6月発行 定価1,365円(税込)
SF的な設定を本格ミステリ(推理小説)に融合させるのが得意な西澤保彦が、今度は“特撮”とミステリを組み合わせちゃいました。っていうか、これ…ただのバカミステリ(笑)円谷プロや東宝特撮な世界観を肯定しながら、それらをパロディやギャグとして描くのだけど…だからといってSF的な講釈を垂れるわけでもなく、超常現象の数々は、説明も不充分に添え物のような扱いばかり。さらに全編下ネタ全開。イラスト担当が喜国雅彦という人選がなんともドンピシャ!?自分が入手したのはソフトカバー版でしたが、2007年1月に文庫化かされてます。
学生時代の同級生であり、ナンパ仲間のアタル、京介、正太郎の三人…行く先々で怪獣、怪人、宇宙人らと遭遇。さらに不思議な事件まで起きる!?形式は、一応連作短編です。
怪獣は孤島に笑う
ナンパ仲間のアタル、京介、正太郎の三人…海岸でナンパした、熟女、オカマ、ブサイク女の三人組を誘い、京介のクルーザーで、海水浴場の沖合いにある離れ小島に連れ込んだまでは良かったが、なんと怪獣が出現!クルーザーにも戻れず島に足止めをくらってしまうのだが…さらにメンバーが一人一人、次々と行方不明になっていく。怪獣に食われたのか、海に落ちたのか、それとも誰かが殺したのか?
怪獣出現!?でも話のメインは…“そして誰もいなくなった”風のミステリ…かと思いきや、とんでもない真相。これがノレるか、ノレないかが、けっこう肝だろうね。怪獣は小道具のひとつであり、このシリーズでは、嵐の山荘ものでいう台風みたいな自然の猛威的な扱いってことかな(笑)
怪獣は高原に転ぶ
京介の購入した別荘の近所に、元人気女優の真城ヒサコの別荘があり、彼女が女優仲間を連れて遊びに来るという情報をキャッチ。仲良くなって、あわよくば乱交パーティーに持ち込もうと画策するアタル、京介、正太郎の三人は、意気揚揚と別荘へ出かけるのだが、突然、怪獣が現れた!?さらに怪獣騒動のほかにとんでもない事件が!
怪獣は添え物であり、その影にはとんでもない事件が隠されていたというパターンだけど、事件自体はやや荒唐無稽だったかな?
聖夜の宇宙人
街はクリスマスムード一色…周りはカップルばかりでナンパどころではないアタル、京介、正太郎の三人だったが、諦めて家路に着こうとしたところで、とんでもない美少女と遭遇。彼女を誘って食事に出かけるのだが…。
確かに宇宙人は出てきたけど、謎解きらしいことはいっさいせんかった(笑)美少女の正体が…すごい、そんな結末でいいの?って感じ。もやは推理小説らしい部分が残ってない…ギャグ調のウルトラQといったところか(笑)
通りすがりの改造人間
最近、正太郎に美人の彼女が出来たらしいのだが、なんだか様子がおかしい。やせ細っていく友人を見て、彼女の正体が幽霊か何かではないかと勘ぐった京介は、アタルを誘って正体を暴こうとする。さらにこの騒動が、ある事件の謎を解く鍵になるとは…。
とってつけたような謎解きだったけど、「聖夜の宇宙人」よりは、ちゃんと推理小説みたいなことしてます。
怪獣は密室に踊る
突然、大学を出たばかりの若い娘と結婚した京介だったが…そんな京介からアタルと正太郎の元にSOSが…。何ものかに拉致されて、自宅に監禁され、新婚ほやほやの新妻もどこかへ連れ去られてしまったという。さらに、またもアノ怪獣が現れ…。
一応、単純だけど密室トリックもの。加えて、京介の証言から拉致監禁の真相をズバリと推理する。怪獣の扱いはいつものように…普通の推理小説でいう、自然現象と同等の扱いでしょうね(笑)
書店、ときどき怪人
急に読書家になったアタルを訝しむ京介と正太郎…実は書店でバイトをしているスイスからやって来た留学生に一目惚れしたアタルは、毎日のように通って、彼女を口説き落とすことに成功したのだ。ルンルン気分のアタルの家の近所で、無差別連続殺人が相次ぐのだが…。
元ネタは…バラしたらオチも直ぐに分かっちゃうので(笑)これも、特撮系を上手にパロったお話でしたね。殺人事件は起きるが、他のようにロジックで解決するような展開ではなかったかな?特撮系のパロディとして楽しむのが一番かと…。あと、書店がキーワードなので、その辺の描写がけっこう面白い。描かれている事件に、最近の書店事情が反映されていたり、あとは実在の作家名や作品名がバンバン、出てくるので面白かった。
女子高生幽霊綺譚
ナンパすると怪獣やら怪人が現れると悟ったアタル、京介、正太郎だったが、アタルの部屋でくつろいでいるところに、今度は幽霊が現れた。幽霊の正体が実は15年前に殺人事件に巻き込まれた、被害者の女子高生と判明。捜査も虚しく…事件は時効を迎えてしまったということだが…幽霊の話から三人は真相を導き出す!
いままでは一貫してアタル視点で語られてきたシリーズだが、今回ばかりは幽霊視点で描かれているのがけっこう新鮮。さらに、一番、推理小説らしい話になっていて、バカ話や下ネタは相変わらずだが、けっこうオチまで綺麗に決まっているのが良かった。天野頌子という新人作家さんが書いた「警視庁幽霊係」という推理小説があるんだけど、実はこの作品のアイデアをパクっているのではないかと思ってしまった。
「怪獣は密室に踊る」と「女子高生幽霊綺譚」は、短編の推理小説として認められるかなって、ちょっと思うけど…残りはギャグかパロディか、あまり推理小説的な面白さは期待しない方がいいと思いますよ。ホント、バカなお話ですから、純粋にミステリを楽しみたい方はご遠慮ください。
文庫版 笑う怪獣ミステリ劇場 新潮社 2007年1月刊 定価500円(税込)
個人的採点:60点