ローレライ、浮上 著:福井晴敏×樋口真嗣
ローレライ、浮上
著:福井晴敏× 樋口真嗣
講談社 ISBN:4-06-212750-4
2005年1月発行 定価1,365円(税込)
映画「ローレライ」が公開された頃の、やたらと発売になった関連書籍の1冊…同じような福井晴敏× 樋口真嗣による、自分たちが好きな映画に関するバカ話満載の対談集「爆発道場」は新刊で買って読んだんだけど、これは読んでなかった。映画公開から2年近く経ってるわけで…ブームが下火になった今だからこそ、映画と小説のメイキング本として、冷静に、興味深く読める。ちなみに、映画は見たけど…小説「終戦のローレライ」は未読。
内容:2005年3月公開の映画「ローレライ」の原作者・福井晴敏と監督・樋口真嗣の対談をまとめたもので、欄外に先の2人と、映画プロデューサーの甘木モリオ、臼井裕詞の補足コメントを併記したもの。編集構成はアニメ評論家の氷川竜介が担当しており、巻末に本人の解説文あり。
「爆発道場」のような、バカ話、脱線トークもたま~にあるが、真面目に作品を生み出す苦労を語る両氏。映画公開後に、さんざんファン・観客や映画評論家から言われような酷評やら、ツッコミなんかは…ある程度、本人たちも理解して、踏まえうえで映画作りに挑んでいるわけなんだけど、やはり映画を1本作るということは、色々と大人の事情がからんでくるんだというのが、今さらながらに再確認できる書籍(笑)
確かに、2人のオタク的妄想だけで、映画が作れれば…さぞかし凄い映画ができるだろうが、世の中そんなのは無理なんだよねっていうのを痛感させられるのです。原作者と監督が学んだように…映画の受け手である観客も、もうちょっと大人にならないと映画なんて楽しめないなぁって感じてしまったり(笑)自分も、それまで特撮監督など、縁の下の力持ち的活躍をしていた樋口真嗣が好きだっただけに、正直「ローレライ」(その後の「日本沈没」も)に関しては、イマイチ、期待ハズレな部分もあったのだが、なんか久しぶりに見直してみようかななんて気持ちにさせられた。
「終戦のローレライ」の表紙装幀を樋口真嗣が手がけているのだが、実はアイデアが売れてない頃の“セカチュウ”の表紙を見て、ヒントにしたというのを知った福井晴敏がガックリするところは、大笑いしてしまった(笑)
個人的採点:65点
密室に向かって撃て! 著:東川篤哉
密室に向かって撃て!
東川篤哉:著
光文社 ISBN:4-334-07490-1
2002年10月発行 定価840円(税込)
このブログを書き始める前に読んでいた、東川篤哉のデビュー作「密室の鍵貸します」の続編で、架空の都市、烏賊川市を舞台としたシリーズ。もちろん事件は別物なので、単独で読めるのだが、探偵の鵜飼を始めとする主要キャラクターは続投。かなり前に前作を読んだので、キャラ設定や前作の事件内容など一部忘れている部分もあったけど…読んでるうちになんとなく思い出してきた。
烏賊川市警察署の砂川警部と志木刑事が起こした失態により、改造拳銃が流出し、何者かが持ち去ってしまった。それから二週間後…その拳銃が原因と見られる他殺死体が、烏賊川市の外れにある鳥ノ岬で発見される。被害者は浮浪者だったのだが…探偵・鵜飼杜夫とその助手まがいの戸村流平の知り合いであることが判明。2人は供養のため、鳥ノ岬を訪れるのだが、流平はそこで…近くに住む資産家・十条寺食品の会長と孫娘と偶然知り合った。それが縁で…鵜飼の元に、孫娘の花婿候補の身上調査を依頼される…。その結果を伝えに、鵜飼と流平が十条寺家宅に参上した時に…件の拳銃を使用した新たな惨劇が起きた!
探偵もその助手も…そして好敵手である刑事たちもマヌケばかり。キャラクター同士のコミカルで丁々発止なやり取りが、けっこうくだらなくてクスリとした笑いを誘う。そういえば、前作の「密室の鍵貸します」もこんな感じだったような気がするなぁ。惨劇の舞台となる十条寺食品の会長の孫娘(社長の娘)の天然ボケキャラぶりなども可愛くてけっこういい感じ。
ギャグ調と見せかけておいて、奇抜に見える不可能事件を、しっかりとした細かな伏線で、ロジカルに推理を展開するなど…推理小説としては、本格志向なのはけっこう嬉しいかなと。そんなにひねくれていないので、犯人やトリックの真相にたどり着きやすいが、その分、作品自体のインパクトは少な目か?安心して読める推理小説ではある。
何故?絶版らしくて、今現在…Amazonのマケプレで2940円もするぞ!?うほっ、105円で買った本だから、自分も撃っちゃおう…じゃなかった、売っちゃおうかなぁ~(笑)まごまごしてると、そろそろ文庫化されちゃうじゃないかな?
個人的採点:65点
稀人 著:小中千昭
稀人
小中千昭:著
角川書店 ISBN:4-04-376801-X
2004年9月発行 定価580円(税込)
「呪怨」シリーズの清水崇監督が映像化した作品を脚本担当の小中千昭が自らノベライズ小説化。自分は映像版の方は未見…。
映像カメラマンの増岡は…衆人環視の中で、一人の男が自殺する現場に遭遇…その模様をカメラに収めたときから、人が恐怖する顔に惹かれ、それを求めて、無作為なる映像を求めて、カメラを回し続けるようになった。仕事もやめた増岡はやがて…自分の認識する現実さえも歪めていくのだが…、ある時、踏み入れてしまった地中の奥で、少女のような容姿をした“稀人”Fと出会ってしまった!
正当なホラー小説を期待しているような人には不向きかもしれない内容…。特撮系の脚本を多く手がける著者だけあり、「ウルトラQ」とかの雰囲気に近いかなという印象も受けるのだが?オカルトや映像に関する膨大な薀蓄など…全てを理解するのはちょっと難しいが、一人の人間が狂っていく過程が、不気味に実感できる。
面白いとか怖かったとか簡単に感想は述べられないのだが、なんとなく興味はある感じ?さすが、文章だけだと…自分のない頭ではイメージがし辛いので、機会があったら、映像版も見てみたいなって思った。映像版を見てからだと、また印象が変わってくるかもしれない。現段階では小説として、ちょい微妙か?
個人的採点:60点
しをんのしおり 著:三浦しをん
しをんのしおり
三浦 しをん:著
新潮社 ISBN:4-10-116752-4
2005年11月発行 定価460円(税込)
三浦しをんの作品を読むのは3冊目…と思ったら、これは小説ではなくて、エッセイでした。ネットで語ったものを2002年に書籍化。それの文庫化なので、話題が微妙に古かったりもするのね(笑)
いつもはあらすじなんかは、自分で噛み砕いて文章にするんだけど、エッセイなんでどう紹介していいやらわからん。カバー裏から、内容紹介をそのまま転載しておきます。
カバー裏から内容を抜粋:「漫画の王国」に生れた小説家の乙女な日常生活。バンドを追っかけ上方へ、愉快な仲間と朝まで語り、わきあがる妄想の楽園に遊ぶ…色恋だけじゃ、ものたりない!なぜだかおかしな日常はドラマチックに展開―日本の政局も、家族の事件も、人気のTVドラマも、考え始めたらいつのまにかヒートアップ!「読んで楽しく希望が持てる」、笑い出したら止まらない、抱腹微苦笑ミラクルエッセイ。
女版滝本竜彦だね(笑)…前に読んだ滝本竜彦の「超人計画」を思い出したよ(両方とも元はBoiled Eggs Onlineだしね)。でも、この人は引き篭もってるわけじゃないし、合法ドラックにも手を出していない(酒はかなり好きらしいが)ので偉い(爆)おなじオタクでも、男と女じゃ…ここまでベクトルが違うのか~。オタクパワーゆえの行動力は凄まじいかなと。年齢的には滝本竜彦より、三浦しをんの方が近いので、シンパシーを感じやすいかなって思ったり?
妄想と捏造もだいぶ含まれているので(笑)、小説的な味わいも感じつつ、同年代のオタク女の頭の中身を覗かせてもらった。好きな漫画やTV番組、タレントの名前がいがいとかぶっているし…ちょっぴり実年齢なんかよりも、ジジくさい、ババくさい趣味思考も持ち合わせ、だからなのか意外と新しいものにはおっかなビックリ接したりするんだよね(笑)
アルバイト先の古本屋で本を漫画本を調達するので、巻が順番に揃わないと嘆いているあたりは…ブックオフ通いの人間としては大いに共感してしまう部分ですね。ただ、ベストセラー作家、直木賞作家で、印税ガッポガッポのはずだから…このエッセイに書かれているような貧乏生活は、著者にとっては過去の話なんだろうなぁと、ちょっぴり僻んでみたりして…。俺も貧乏話を面白おかしくエッセイにしてベストセラー作家の仲間入りしたいっすなんて…ちょっぴり僻んでみたり。
個人的採点:65点
閉ざされた夏 著:若竹七海
閉ざされた夏
- 若竹七海:著
光文社 ISBN:4-334-74017-0
2006年2月発行 定価650円(税込)
若竹七海の「閉ざされた夏」を読む…コージーミステリが得意な作者だけに、語り口はコミカルだが、人間関係がなかなかドロドロ(笑)そういうのを感じさせないで、ヌボ~と物語は進んでいくが、最後はやたらとどんでん返しが多し。ハードカバーで発表後、既に他社でも文庫化されているものの再文庫化なので…作品自体は古めだが、あまり気にしないで読める内容。
東京都新国市にある、作家・高岩青十の文学記念館に勤める学芸員、佐島才蔵…他の同僚たちとも和気藹々と過ごせる環境の仕事場だったのだが、奇妙な放火未遂事件が相次ぎ、雰囲気は一変…。さらに、才蔵たちが企画した展示会の最中に、同僚の一人が、施設内で他殺体となって発見された!事件の背景には、青十に関する新事実の発見が関係している模様だ…。才蔵は同居しているミステリ作家の妹・楓らと共に事件の真相解明に乗り出す!
現代で起きる事件と、作家の生い立ちや家族構成、人間関係を把握していないと…物語に面白みがないので、登場人物を覚えるのに最初はちょっと苦労したね。
鯛焼きに入っているあんこが少なくなったっていう、どこでにでもありそうな、ほのぼのとした日常的な話題から…だんだんと愛憎渦巻くドロドロとした展開へ話を持っていくあたりの描き方が上手い。
もっとギャグ調でコミカルなものを想像していたので…後半はけっこうシリアス路線。前半のほのぼのが、後半では一変してしまうところが、この作品、この作者の持ち味なんだろうね…人間の幸せなんて儚いもので、長く続かないだなぁって、しみじみと思ってしまいます。
個人的採点:65点
憐 Ren 刻のナイフと空色のミライ 著:水口敬文
- 憐 Ren
刻のナイフと空色のミライ
水口敬文:著
角川書店 ISBN:4-04-470801-0
2004年11月発行 定価560円(税込)
角川スニーカー文庫のライトノベル…なんとなく表紙買いってヤツで選んでみた。スニーカー大賞、奨励賞受賞となっていたので多分、新人(発刊当時)のデビュー作なんでしょうね…全然、知らない作家さん。
肺炎で学校を休んでいた鳴瀬玲人が、久しぶりに教室に顔を出すと…見覚えのないクラスメイト朝槻憐がいた。転校生か?と周りの友人たちに訊ねると…入学式の時からずっと一緒だったと、反対に不審がられてしまった。自分の勘違いかと一応は納得してみるのだが…憐について、友人と語ろうとすると、相手が急に意識を失ってしまった。いったい彼女は何者で、どうなっているのか?ますます憐に不信感を募らしていく玲人だが…。
ベタというか、古臭いというか…“なぞの転校生”、“時をかける少女”チックなSFファンタジー設定が、意外とツボにハマる。涼宮ハルヒだったら大喜びしそうな展開?(爆)
他人のいいなりになるような人生は歩みたくない、あらかじめ惹かれたレールの上を進むだけなんてまっぴらだということ描きたいのでしょうね…そこに純なラブストーリーをからめている感じ。巻末の解説で担当編集者が…“ボーイ・ミーツ・ガール”だと語っていたのもうなずける。
ライトノベルなんで、コミック調の口絵・挿絵はあるものの、そんなに萌え要素を感じないので…大人でも懐かしのジュブナイルものを読んでいるような感覚で接することができるのでは?ライノベ系の新人さんって、ガチガチの文学書いている新人作家なんかよりも…ある程度テクニックがあるので、読ませる力はちゃんと持ってますね。読みやすい文章でありながら、キャラクターの描きわけなどもしっかりとできていて、最後まで興味は持続した。
さっき、調べたら…続編があるようです。個人的には、安易に続編なんて書かないで、あとは読者のご想像にお任せしますって展開でもいいと思うのだが…ラノベ業界は、やっぱりそういうのって許されないみたいね。売れるものは、とにかく書く(爆)ブックオフの100円コーナーで続編を探さなきゃね。
個人的採点:60点
オトシモノ 著:福澤徹三
オトシモノ
福澤徹三:著
角川書店 ISBN:4-04-383401-2
2006年9月発行 定価500円(税込)
DVDで映画版の「オトシモノ」を観たのだが、正直言ってイマイチな映画だった。展開はお子様向けでツッコミ放題、話も映像も全く怖くなくて、ホラー映画らしさが全然味わえなかったんだけど…ノベライズを担当しているのが、何冊か読んだことがあるホラー作家の福澤徹三だったので(日常の恐怖を描くのが非常に上手い!)、あの陳腐な映画をどこまで怖く描けるか…先に映画を観ちゃったんだけど読んでみることにした。
母親が病気で入院中の奈々は、妹の面倒を見ながら…進路決定を控えた高校生活を送っているのだが、ある日、妹の友人、孝の失踪事件に遭遇した。実は孝が失踪する前に、奈々は駅で会話を交わしており、その時に…「もうすぐぼく死ぬって」と言い残していたことが気になっていた。そして今度は自分の妹が失踪してしまった…。実はどちらも駅でオトシモノの定期券を拾うという共通点があることに気づく奈々だったが…。一方、奈々のクラスメイトの香苗も、オトシモノにまつわる奇妙な事件に巻き込まれていた。
映画のノベライズという制約上、大幅な変更点がないので、著者のオリジナル作品に比べると、突出した面白さはやはり感じないものの…映画にはなかったキャラクターの細かな心理描写や会話、詳しい情景描写などで、映画よりは怖さを演出できている。
時間的な都合でカットしたのか、単なる演出ミスかは定かではないが、映画の方では説明不充分で説得性に欠けた展開も、ちょっとしたセリフの変更、付け加えなどで…話をスムーズに繋げる効果も出ていた。主人公の奈々にも、こういう事件に巻き込まれても違和感がでない、バックボーンが付け加えられてもいたし、あと個人的には、香苗の遊び仲間が交わす怪談話なんかも、著者のホラーセンスが光る。
下手な映画ノベライズを読むと…映画のシナリオそのまんまじゃないかと思える、そっけない文章の羅列みたいな作品が少なくないが、一応、福澤徹三というホラー作家を起用しただけのことはあるなという印象を受けましたね。設定だけ借りて、もっと自由に描いていたら…きっと物凄いホラー小説になっただろうに、残念。
個人的採点:60点
模倣の殺意 著:中町信
模倣の殺意
- 中町信:著
東京創元社 ISBN:4-488-44901-8
2004年8月発行 定価735円(税込)
ベテランミステリー作家、中町信が30年以上前に発表したデビュー作を改稿して文庫化したものだそうで、今までにも「新人賞殺人事件」「新人文学賞殺人事件」などのタイトルで発刊されている。恥ずかしながら、この著者の作品は初めての挑戦。宝島社のこの文庫がすごい2005年版のミステリー部門で、上位にランクインしていたので、気にはなっていた作品。
七月七日午後七時…新進作家の坂井正夫が青酸カリで服毒死を遂げた。遺書などは見つからなかったが、自殺として処理された。坂井の知り合いで、女性編集者の中田秋子は…かつて坂井の部屋で出くわした美女を怪しみ、事件に関わりがあるのではないかと探り始める。一方、ルポライターの津久井伸助も坂井の死に疑問を持った。実は坂井の発表した小説に盗作疑惑が持ち上がったのだ。津久井は、生前の坂井と確執のあった編集者の柳沢を怪しみ、調査を開始する…。
時代設定なんかは、初回発表当時のものなので…アリバイトリックなどに使われる小道具がレトロだったりもするのだけど…オーソドックスな推理小説として、全体的に古さは感じないで読める。
読んでいる途中で、作品に仕掛けられているだろう違和感に気づき、どんでん返しな結末はある程度の予想はつくものの、今とは違って30年以上前にこういうトリックの小説があったというのはちょっと驚き。最近の結末どんでん返し系ミステリのように、最初から何かあるぞと疑ってかからないで、素直に読み始められるのが、なんかいいね。自分の推理が当たっているのではないかと思いながら、どんどんページを読み進めてしまうよ。
盗作を題材にしているあたりは、どんでん返しが得意な某推理作家の代表作(巻末の解説を読んだら、実際の作品タイトルを出したら、それだけでネタバレになっちゃうと書かれていたので、自分も伏せておきます)とかにも似ているかなと思ったし、作品内に出てくる、ある事件の真相が、最近読んだ(といっても、その小説自体は何年も前のものだが)某ハードボイルドのテーマにも酷似していた。でも何度も繰り返すように、書かれたのは30年以上前というのがミソでしょうね。
推理小説として素直に楽しめる。難し過ぎず、適度な驚き…推理する楽しみ、普段ミステリを読まないような人への推理小説の入門編としてもお薦めできるかもしれない。
個人的採点:70点
賃貸宇宙 UNIVERSE for RENT(上) 著:都築響一
賃貸宇宙
UNIVERSE for RENT(上)
都築響一:著
筑摩書房 ISBN:4-480-42165-3
2005年12月発行 定価1,785円(税込)
タイトルと表紙カバーに惹かれて衝動買いした本…(上)ということは、自然に(下)も存在するのだが、100円コーナーにはこれしかなかった。中身はオールカラー、470ページ近くの大半は写真。元々は1万円近い値段の豪華本で出ていたものを文庫化、分冊化してリーズナブルにしたものらしいが、それでも文庫本でこの定価だったら、自分は正規の値段では絶対に買わないだろうという感じの本ですね。
カバー裏から内容を抜粋:廃墟を改造した部屋、服に埋もれた部屋、赤一色に染めた部屋、異常に狭い部屋、土足でないと危険な部屋…。インテリア界に衝撃を与えた『TOKYO STYLE』で都市のリアルな賃貸生活を取材した著者が、その後9年をかけて取材した、関東関西の「大したことない人たち」の大したライフスタイル約300物件。持ち家という名の首輪から解き放たれた、狭くて広い宇宙がここにある。
賃貸で住んでいる人にスポットをあてて、その人の部屋を写真で写したもの。業界人や風俗関係なども多いが、学生やフリーター、中には子供部屋や売れない芸人の部屋なんてものも出てきて、なかなか面白い。たま~に、裸の女の人も写ってるので、目の保養にもなる(爆)部屋のある場所、間取り、家賃、住人の様子や置かれているものなどの解説が著者のコメントとして載っている。
写真が多いといっても、470ページもある本ですから、一通り目を通すのにもけっこう時間がかかる。なので、小説の合間なんかに、ちょっとずつ読み進めていた感じ。ホラーやら殺人事件が題材のミステリばかり読んでいるので、頭を休めるのにちょうど良かったりもする。
片付けない部屋、きちんと整頓された部屋、好きなものに囲まれた部屋、押し入れの活用などなど、他にも様々なテーマに分かれている。汚い部屋を見ると、積読本が散乱している自分の部屋と見比べたりしてね、色々と共感してしまったりするし、綺麗に整頓された部屋を見ると、急に部屋を片付けたくなったりもする。人の部屋の写真を眺めているだけでも、けっこう収納方法、コレクションの仕分け方法など参考にできるものもあったりして嬉しい。
偶然、見つけた本だが、ずっと手元に置いておきたいなって思わせる内容。でも下巻を100円コーナーで、見つけるのは奇跡に近いんじゃないだろうか?(笑)先が気になる物語ではないので、気長にブックオフなどの100円コーナーで探して見ます。元の1万円の豪華本でもいいよなぁ(笑)
個人的採点:85点
水底から君を呼ぶ 著:大石圭
水底から君を呼ぶ
大石圭:著
光文社 ISBN4-334-74133-9
2006年9月発行 定価620円
昨年出た、大石圭の文庫書下ろしのホラー小説を105円でGET!ホラーといっても、大石圭の場合は、バイオレンス&グロテスク描写満載の、猟奇サスペンス的な物語が多いのだが、この作品はオカルト怪奇的な展開で…グロテスク描写は案外控えめだったかな?
幼少の頃に、水の事故で家族を失った“わたし”は…母方の叔母の家に引き取られたのだが、その後の人生は壮絶なものだった…。一方、4人の若い女友達が、深夜にスポーツクラブのプールに忍び込んだのだが、遊んでいる最中にそのうちの一人が忽然と姿を消し…怖くなった仲間は慌てて逃げ帰ってしまった。その後、残りの3人のうちの1人も、新婚旅行先のニューカレドニアの海でダイビング中に行方不明に…。残された夫の卓也は妻を喪った悲しみに打ちひしがれるるなか、妻たちに隠された秘密の気づき、真相を調べ始めるのだが…。
“わたし”の正体もだいたい予想がつくので驚きも少ないし、ホラー的な怖さも、いつもに比べて薄いなぁって感じだけど…人間の嫉妬心に関しては、末恐ろしいくらいに描写されていますよね(笑)あと、いつもはケチな友達が大盤振る舞いにおごってくれたときは、何かがあると思って疑ったほうがいいよね(爆)
壮絶な主人公の生い立ちなど、非道徳的、倒錯的な性描写は相変わらずで、ちょっとロリコン趣味も入ってるよね~。そういう趣味はないけど、この作者が描くと、なんか魅せられてしまうよ。
いつもは湘南の描写なんかも克明に描いてあって、湘南に住んでる自分なんかは、ご当地もの小説として、けっこう大石圭の作品を楽しみにしているのだが、海外がメイン舞台となるので、卓也が住んでいるという設定で一応、湘南が出てくるけど、あまり描写は克明じゃなかったね。
個人的採点:65点