EVE burst error PLUS サヨナラキョウコ、サヨナラセカイ 著:桜庭一樹
EVE burst error PLUS
サヨナラキョウコ、サヨナラセカイ
桜庭一樹:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-1547-1
2003年9月発行 定価672円(税込)
開拓中の桜庭一樹の作品を読む…人気アドベンチャーゲームのその後を描いた、小説版のオリジナルストーリー。自分もEVEシリーズは、セガサターン(懐かしい…PS2のリメイク版や新作はプレイしてない)とかでハマってたくちなので、久しぶりに、お馴染みのキャラと触れて、なんだか懐かしい。
天城小次郎や法条まりなが巻き込まれた、中東の小国エルディアに関する、“トリスタン号事件”から一週間後…事件は解決し、それぞれ普段の生活に戻り始めていたのだが、小次郎のもとに、エルディア女王プリシアから助けを求める電話が!また、件の事件の最中に出会った、教育監視機構の捜査官・氷室恭子は捜査官を辞め、小次郎の探偵事務所へ助手として転がり込んでいた…。
「EVE burst error」の概要なども作中で語られていたので、忘れていた部分も直ぐに思い出せた。
お色気、ギャグ、アクション、サスペンスとゲームの世界観を思い出す、雰囲気はよく出ている。マルチサイトが売りのゲームの小説版だけあって、しっかりとキャラの視点が変わり、同じシーンが重複されるなどのお約束もあった。ただ、物語の広がりは、ゲームほど奥深くはなく、あっさりとした感じで、シリーズをプレイしている人たちに向けた、サプライズなおまけ程度の印象。あっ、もう結末なんだという感じで、ささっと話は展開されてしまう。
サスペンスな物語よりも、どちらかというと氷室恭子という脇役キャラの側面を描くことに…作者としては力を入れているようで、ゲームでプレイした時よりも、人間味を感じるようになっている。自分が想像していたよりも、意外とかわいくて、お茶目なキャラだったのね、氷室恭子って。
真犯人と対決する小次郎とのアクションシーンなど…相変わらず格闘好きの著者らしいリアルな描写が味わえる。こういう文章を見ていると、女性作家だと思えないよね。実際に格闘技をやってる著者ならではだろう。
著者は他にもEVEシリーズの小説を手がけているので、今後も古本で探してみようかなって思った。ゲームのノベライズだけど、ファミ通文庫なのでライノベというジャンルにしておく。ちなみに、入手困難みたいで…Amazonのマケプレでは定価の倍くらいの値段で取引されていた。自分はもちろん105円でGET。
個人的採点:60点
将棋殺人事件 著:竹本健治
将棋殺人事件
竹本健治:著
東京創元社 ISBN:4-488-44302-8
2004年5月発行 定価693円(税込)
この間、読んだ「囲碁殺人事件」に続き、竹本健治のゲーム三部作の2作目、創元推理文庫の新装版「将棋殺人事件」を読んだ。前回同様、ストーリーの大幅な変更はないそうだが、引き続き年号などの表記と、コンピューターに関する記述なんかは大幅に変更したとのこと。
六本木界隈で流行っている奇妙な怪談話が…男女二体の白骨化した屍体が、静岡県を襲った大地震で起きた、掛川市の土砂崩れに乗じて発見されたという事件の状況に酷似していることに興味を覚えた、天才少年棋士・牧場智久と姉の典子は、大脳生理学者・須藤信一郎を巻き込み事件の調査を開始。さらに…将棋を覚え始めた須藤は、知り合いから将棋雑誌に投稿された詰め将棋の盗作問題の話を聞き、こちらの謎にも興味を示す。
回り将棋しか出来ない自分は、「囲碁殺人事件」以上に、将棋の専門用語にチンプンカンプン…それがよりによって、詰め将棋だから余計によくわからない。聞いたこともない、読めない単語・固有名詞がいっぱいで大変だった。わかる人は、作中に登場する詰め将棋なんかを解きながら読むとさらに楽しめるんでしょうね~。
ただ…前回同様、そんな詰め将棋のことなんて、全然理解できなくても、いくつもの謎が錯綜し、何がどうなっているのか?と謎が謎を呼ぶ展開でズズズズっとクライマックスまで引っ張り…こんなんでましたと、事件の真相が語られる最終章まで、飽きませんね。オカルトな題材をからめ、牧場姉弟や、須藤たちの活躍の合間に挿入される…正体不明の人物たちの、不審な行動や言動がより作品をミステリアスな方向へ誘う。
「囲碁殺人事件」は、わりとミステリーとして王道のようにも感じたシンプルな構造だったが、「将棋殺人事件」というタイトルから想像していたものよりも、幻想的な物語で、だいぶ前作と印象の違う展開でしたね。真犯人の扱いについては、なんとなく共通するものがあるかな??って、ちょっと思った。
個人的採点:70点
春期限定いちごタルト事件 著:米澤穂信
- 春期限定いちごタルト事件
米澤穂信:著
東京創元社 ISBN:4-488-45101-2
2004年12月発行 定価609円(税込)
自分のファーストコンタクトは角川スニーカー文庫だったのに…いつの間にやら、このミス常連の人気ミステリー作家になってる米澤穂信が、創元推理文庫で出した書下ろし。ただ、スタンス的には、スニーカー文庫の路線に近しいものがあり…しっかりと推理小説でありながら、殺人事件みたいな物騒なものは出てこない…高校生が日常で遭遇した些細な出来事を、推理で解決していくという内容の作品。
船戸高校に入学した小鳩常悟朗と小佐内ゆきは、 中学3年の時から恋愛関係でも、依存関係でもない互恵関係にある。それは、小市民を目指し…日々、目立たない生活を送るためだった。しかし、二人の周りには何故か、奇妙な事件が起き、それに巻き込まれ謎を解く必要に迫られてしまう…。
「羊の着ぐるみ」⇒同級生の消えたポシェット探し 「For your eyes only」⇒美術部の卒業生が残した奇妙な二枚の絵の謎 「おいしいココアの作り方」⇒器具を使わずにどうやって熱いココアを作ったか? 「はらふくるるわざ」⇒教室で試験中に突然、割れた瓶の謎 「狐狼の心」⇒小佐内さんの自転車を盗んだ犯人の真の目的は?
これは短編なのか?それとも長編?たぶん、連作短編に近い構成だよね…それぞれ別々の事件を描きながら、小鳩くんと小佐内さんがどういった経緯で、こんな関係になったかを語り、キャラクター面を掘り下げつつ、最後にはタイトルにもなっている“春期限定いちごタルト事件”の解決に至ると…。いや、そもそも“春期限定いちごタルト事件”が、あんな事件に発展するとは…(笑)こんなタイトルだから、てっきりお菓子の争奪戦でもするのかと思ってたんだよね。
創元推理文庫で出ているだけあり、読んでいる最中は…自分も作中キャラたちと一緒になって、推理をできる適度な謎が提示されており、推理小説としての楽しさは味わえる。ほのぼのとしているようで、意外と毒っ気も含まれているあたりはユーモアも感じるのだが…まだまだライノベファンを意識したようなつくりだななぁって印象が強い。森博嗣とはやみねかおるを足したような路線なのかなって、漠然と思ってみたり…。
- 個人的採点:65点
ズロチ 著:小峯隆生
ズロチ
小峯隆生:著
徳間書店 ISBN:4-19-891451-6
2001年2月発行 定価660円(税込)
雑誌プレイボーイの編集長を経て、映画評論から、映画監督、ハリウッド映画出演(笑)までこなすマルチな人…色々な映像作品なんかで、ガンアドバイザーをやったりもしている、ジェームズ・キャメロンのマブ達コミネちゃんこと小峯隆生のアクション小説「ズロチ」を読んだ。文庫書き下ろしだが…今現在は絶版。ただしAmazonのマケプレでは1円から出品されている…。
鄙びた炭鉱町での生活を嫌い、札幌に出た幼馴染の三人の若者、洋一、宮下、吉田。都会に出てからはそれぞれバラバラの道を歩んできたが…変化のない日常に見切りをつけようと、再集結。宮下が仕込んできた、ノンバンクの現金強奪を実行するために、まずは銃の密売組織から武器を奪取。武器の確保は成功したものの…密売組織から終われる羽目に。仕方無しに現金強奪の計画を早め強行したのだが…なんと盗んだ金は、ズロチと呼ばれる価値のない外国紙幣だった。しかし、その紙幣はロシアマフィアがマネーロンダリングに使う重要アイテムであり、三人はロシアマフィアからも追撃を受ける!?
今まで、いくつかこの作者の本を読んでいるが…それこそハリウッドスターへのインタビュー集だったり、映画の解説文なんかはマニアックな知識が豊富なので物凄く面白いのだが、ことアクション小説に関しては微妙(笑)自身のホームページで、知り合いから「アクションは大沢在昌さんよりすごいけど、全体的には…」と酷評されたと語ってるくらいだしね、自分もそう思った。
でも、「ズロチ」はなかなか面白かったよ。文章もだいぶ、上手になったようで…キャラクターの描きわけなんかもちゃんと出来ていた。それこそ初期作品の「デコイ」とか「パオさんとの復讐」なんか、オタクな銃器描写は優れているものの、映画の脚本を読んでいるようなそっけない文章で味気なかったんだけど…今回はしっかりとスリリングなエンターティメント小説になっていた。
アクションに次ぐ、アクション…ピンチの連続で、とにかく飽きない。確かに、素人の未成年三人が、元軍人、元KGBのロシアマフィアを相手に互角、いやそれ以上の能力で戦いを繰り広げるというあたりはツッコミどころかもしれん。ロシアマフィアの幹部が…大真面目に“モサドの工作員”と勘違いしているところなんて、シリアスな展開ながらユーモアもけっこう感じてしまう。でも、そういうところを全体的なテンポと、お得意のミリタリー描写でしっかりとカバーし、最後まで読みきれる。
大沢在昌と比べるのはおこがましいかもしれんが、デビュー当時、永久初版作家と呼ばれていた頃の大沢在昌レベルには近づいているのでは?(笑)
個人的採点:65点
囲碁殺人事件 著:竹本健治
囲碁殺人事件
竹本健治:著
東京創元社 ISBN:4-488-44301-X
2004年2月発行 定価609円(税込)
80年代に発表された、ゲーム三部作と呼ばれるシリーズものの第一弾で、既に他社でも何度か文庫化されている。作者あとがきによれば…内容に大幅な変更はないということだが、今現在も続くシリーズキャラものなので、作中に登場した、実年号などをバッサリと削除した改訂版になっているとか。
プロ棋士同士の対局…第七期棋幽戦第二局、碁の鬼と呼ばれる槇野九段は凄まじい妙手で、対戦相手である氷村七段を窮地に追い込み一日目を終了したのだが…翌朝、会場近くで首なし死体として発見された!?知能指数208の天才少年棋士・牧場智久は、姉の典子と、典子が助手を勤める大脳生理学者・須藤信一郎と共にこの対局を観戦し事件に遭遇…。事件前に提示されていた奇妙な詰碁が殺人予告だったのではないかと推理し…事件の謎を追いかける!
実は、親戚筋にプロの棋士とかいて、うちの家族なんかは碁をすこしばかりかじってるらしいのだが、自分はまったく興味なくて、基本的なルールもチンプンカンプン。作中の須藤が囲碁の初心者として描かれているので、それなりに基本の説明もされているんだけど…イマイチ飲み込めなかったり(笑)その代わり、実在の人の名前なんかは、ああ知ってる、知ってると思いながら読んでいた。
囲碁を知っているに越したことはないだろうが、知らなくてもオーソドックスな推理小説として楽しめる。首なし死体、暗号解読…作中キャラたちが推理合戦を繰り広げて事件の核心に迫って行き、意外な犯人&事件の真相が判明するというミステリのカタルシスはしっかりと味わえる。巻末の有栖川有栖の解説によれば、他の代表作に比べ、かなりそっけない作品のようにも感じるらしいのだが、これ以降のシリーズは、“竹本健治らしさ”の味わえる作品になっていくというので、その導入編として、読んでおくといいのでしょうね。
個人的採点:70点
死神の精度 著:伊坂幸太郎
死神の精度
伊坂幸太郎:著
文芸春秋 ISBN:4-16-323980-4
2005年6月発行 定価1,500円(税込)
人間の死を見極めるためにやってきた死神と、その対象相手の不思議な交流を描いた連作短編を毎回、趣向の違ったジャンルで読ませる。アイデアは「シティ・オブ・エンジェル」(ベルリン・天使の詩)と「ジョー・ブラックをよろしく」あたりからいただいたのではないかと思うが…。
死期が迫った人間に、「死」を実行するのに相応しいか、調査するためにやって来た死神…対象者に接触するために、その都度、仕事がやりやすい外見に変身。名乗る名字は地名が多く、その死神も千葉と名乗った。外見は人間そっくりだが、受け答えは微妙にズレており、そして死神はみな何故か音楽を好み、暇さえあればCDショップに入りびたる…。7日間の間、相手を調査し…彼らが上司に「可」と報告すれば、その人間はなんらかの形で死亡し、それを見届けるのが仕事だ。
死神の精度
メーカーの苦情処理をする女性に接触した千葉、相手からしつこいクレーマーについての話を聞くのだが…。クレーマーの正体は?
一発目から、こちらの予想を裏切る展開だったなぁ。「シティ・オブ・エンジェル」みたいだなぁって思ったら、早速…それらしき映画の説明が出てきたので笑ってしまった。
死神と藤田
兄貴分を殺されたヤクザの藤田…殺した相手の潜伏先の情報を握っているというのを餌に、今回の対象者・藤田に近づく千葉だったが…。
ヤクザの藤田さん、哀川翔とか、竹内力なんかが演じたら似合うだろうなぁっていう感じの、男気を感じる。彼を慕う弟分との関係とか…男泣き要素。ベタなVシネみたいな話に、死神がどう関わってくるのかが読みどころ?
吹雪に死神
今回は自分の調査相手以外にも、何にかが死を迎えるという情報だけで、山奥の洋館を訪れる羽目になった千葉。外は猛吹雪で、外界と隔絶されてしまったその場所で、連続殺人事件が起きる!
嵐の山荘ものできましたか~。本格推理好きとしては、一番、好きなタイプのお話、シュチエーションではあったのだが、推理小説としては及第点程度の内容か?(笑)ただ、相変わらずシュールな笑いは、読んでいて楽しい。
恋愛で死神
ある女性に片思い中のブティック店員の青年、相手の女性からストーカーと間違われたりしてしまうのだが…。ブティック店員に接触した千葉の行動のおかげで二人の仲に進展が?
けっこう切ないですね…。中学生の恋愛みたいで、読んでいるこっちがこっ恥ずかしくなるような、純な恋愛話だっただけに…結末の悲壮感もひとしお。
旅路で死神
人を殺したばかりの若い殺人犯を乗せて、長距離ドライブをする羽目になった千葉…若者の目的は?そして旅の最中に、彼の過去が色々と明かされていく…。
他の作品に比べると、ややテンポの悪さみたいなのを感じたが、たまにはのんびりもいいだろうと、作者にあえて遠回りさせられているんだろうなって感じにはなりましたね。でも、無駄な展開に見えたようなシーンも、しっかり謎解きの伏線になっているあたりは、さすが。
死神対老女
美容院を営む老女に接触した千葉だったが、相手に死神であることを察知されてしまった。その老女から、明後日、十代後半の男女の客を数人ずつ勧誘してきて欲しいという不思議な頼みごとを受けてしまった千葉だが…。
トリを飾るだけあって、“巧い!?”を連発してしまうような作品。単体のプロットも良かったけど…色々と憎い仕掛けも。
まるで、オヤジギャグのようなズレタ受け答えが…普通だったら笑わないようなギャグなんだけど、死神と、出てくる個性的な人間たちのキャラクター創りが上手いので、雰囲気で、クスリと笑わされてしまう。文章のセンスのよさなんだろうなぁって関心した。
人間、30を越えるとさ、10年前と違って…人生や死というものについて、クソ真面目に考えてしまうことがあるんだよね。死神と対峙してしまった人びとの目を通して描かれる死生観など、色々と考えさせられる部分、共感できる部分も少なくなかった。
表題作の「死神の精度」が日本推理作家協会賞の短編賞を受賞しているのだとか…。伊坂作品って、まだそんなにたくさん読んでいないんだけど、「陽気なギャングが地球を回す」以外はそれほどでもないなぁって思っていたら、この作品はけっこう面白かった。基本的にはミステリー的な仕掛けが用意されているんだけど、毎回のようにジャンルを変えてくるあたりで、ワンパターンになりがちなマンネリを打破していますよね。伊坂作品で読んでいる「ラッシュライフ」と「陽気なギャングの日常と襲撃」より、こっちの方が小説として面白い読み物だった。
個人的採点:75点
時限絶命マンション 著:矢野龍王
時限絶命マンション
矢野龍王:著
講談社 ISBN:4-06-182427-9
2005年4月発行 定価998円(税込)
ガスで眠らせて、爆弾付きの首輪つけて、マンションに閉じ込めて殺し合い…新本格と呼ばれた先達の作品をまんまパクったような「極限推理コロシアム」の矢野龍王が、恥ずかしくもなく今度は高見広春の“バトロワ”を模倣か?
亡き両親の遺産として“アカシアマンション町屋”を受け継いだ時田恭二は高校生でマンションのオーナー。自分もそのマンションの一部屋で生活をしている。そして、久しぶりに離れて暮らす兄の公一が訪ねてきた日に、それは突然始まった。何者かが部屋に侵入し、催眠ガスを撒き散らしたのだ。2人が目覚めたときには、マンションに住む他の住人たちも巻き込んだ殺人ゲームが待ち構えていた!生き残れるのは9世帯のうち、1世帯のみ…決められたルールを破れば、直ぐに爆弾付きの首輪が爆発する!生き延びるために、殺し合いを始める住人たちだが、恭二は人を殺すことに躊躇いを感じ始める…。
メイントリックを覆い隠すために、“バトロワ”風の設定を思いっきりパクッてごまかしただけじゃんコレ。で、肝心などんでん返しも…パクリなんだもん。ああ、こういう推理小説読んだことあるよね~って感じ。途中で、バトロワじゃなくて、ダイハードかよってツッコミいれそうになったら、案外、それが的を射ちゃうだもんなぁ(笑)好きな作品に影響を受けるというのはいいと思うのだが、ここまであからさまなのは、やはりね~。前作も、新本格派をアレンジしただけだったので、作者の独創性のなさが窺い知れる。帯にある、“度肝を抜く設定”の意味って、まんま過ぎて驚いちゃうってことなんじゃない?
さらに、冒頭のプロローグ的な文章があるおかげで、ほとんどオチを見破れます。本格推理小説を気取って、読者に対しフェアでありたかったのか?でも、最初のあんな文章がない方が、もう少し驚きは味わえたんじゃない?それにしたって…バトロワ風の殺戮ゲームをやりたいからって、ハイジャックの身代金、200億円っていうのはないだろうよ。あのプロローグからして、陳腐すぎて、まるっきり駄目。
もし、バトロワの小説を読んでなかったり、映画を観ていなかったりしたら…きっと面白く感じたかもしれないが、ミステリー好きな人で、アレ読んでない人、見てない人は少ないだろうなぁ。
個人的採点:50点
いま、殺りにゆきます 実話恐怖譚 著:平山夢明
いま、殺りにゆきます 実話恐怖譚
平山夢明:著
英知出版 ISBN:4-7542-3026-4
2006年9月発行 定価630円(税込)
昨年「独白するユニバーサル横メルカトル」で話題になった平山夢明の、実話もの…表題作を含むショートストーリーが36編収録されている。この作者を読むのがはじめてであり…実はこの間「「独白するユニバーサル横メルカトル」も100円コーナーで見つけたので、どんな作品を書く人なのか試してみようと、手軽な文庫本の方から先に手を出してみることにした。ネーミングのセンスはけっこう好きです。
36編もあるので、気になった作品をいくつか取り上げてみる…。
医者嫌い…近所の医者が怪しくて信用できず、大きな総合病院へ行った女性が、なかなか順番が回ってこず、やっとこ診察が終った後に体験した恐ろしい恐怖とは?
これ、入院中の家族を見舞いに、病院へ行った時に、ちょうど読んでたのね…タイムリーすぎて思わずゾクリ。その辺にいる医者や看護婦を思わず疑いの目で見てしまったよ。病院ほど、無防備に人の出入りするところはないもんね~。それでいて、自分の命を預けているのに…白衣を着ているってだけで、相手をつい信用しちゃうもん。ああ、怖い…。でも、こういうのはやっぱり若い女性とか、金もってそうな年寄りなんだろうなぁ、狙われるのは…その点、みためオタクな貧乏フリーター(笑)ならちょっとは安心かな。
大土星王…ブームのブログをはじめたOL、最初は更新が楽しかったのだが、次第に変な書き込みが増え、別のサイトにくら替え。それでも、嫌がらせはとまらず…ブログをやめてしまった。気分転換に旅行に出かけたのだが…帰ってきた彼女を待ち受けていた恐怖とは?
ブログネタ…これと一緒に、ネットオークションで遭遇した恐怖「おまけ」も、自分にはゾゾゾな感じ。ネットは万能、使い方次第ではお金儲けなんかも簡単にできる反面…まだまだアンダーグラウンドな世界がいっぱい広がっているんだなぁ。こんなの読んだら、2ちゃんねるの書き込みなんてカワイイもんだって思えてくるよ。最近は、ブログを活用するアイドルとか芸能人の利用も増えてるけど、ああいう人たちには、変質的なファンも多いから、気をつけた方がいいよね~。
中には、1ページ足らずの作品なんかもあるのだが、もうちょっと長い、3~4ページ以上あるもののほうが、個人的には面白いもの、怖いものが多かったかなって感じですね。
「医者嫌い」のあたりまで、病院で読んでいたんだけど…最後の方は、夜中に自宅のベッドの中で読んだ。そしたらさ…自分が住んでるのは駅前だけど住宅街なのね。でも、線路を隔てた反対側は街の繁華街…そこから奇声が聞こえてきたりね~。ヤのつく人がいっぱいいるから、いつもは気にならないんだけど、やっぱ不気味だったは。さらに、部屋で物音がすると、ビクっとしちゃう。被害にあうのは、酒飲んで酔っ払ってるときが多いということ、若い女の人が多いということ…だから酒好きの若いおねーさんは、やっぱり気をつけましょうねってことですよ。コレ読んで、ゾゾゾとしながら…自分への危機管理に役立てるべきです。
世の中、キ●ガイだらけだね。普通だったら、こんな壮絶な事件が起きてたら、もっと騒がれてもいいんじゃないかと思うんだけど…どこまで本当なのか、ちょっとだけ疑りたくもなる。でも、ある程度は本当なんだろうなぁ。キ●ガイたちの、そういった犯行も恐ろしいのだが、謎が残ったままの未解決事件ばかりなので…警察の頼りにならない無能さも、リアルでちょっと怖い。分かっていたけど、ここまで無能だとはね…。
余談だが…自分は、本を読むとき、外に持ち歩くときは、表紙カバーが重くて、邪魔っけなので、取り外して読むことが多いのだが、この本のカバーを外したら、文庫本の背の部分に、“血のようなシミ”が何故かついていた…。なんで、こんな内容の本に限って、こんなとこにシミがついてんだよ~。前の持ち主、どんなヤツだろうと…これまたちょいビビったっす。
個人的採点:70点
永遠のフローズンチョコレート 著:扇智史
永遠のフローズンチョコレート
扇智史:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-2627-9
2006年3月発行 定価630円(税込)
宝島社の「この文庫がすごい2006年版」のライノベコーナーで、お薦めされていたので、興味がわいて探していた「永遠のフローズンチョコレート」を100円コーナーで見つけたので、他の積読本を後回しにして読み始めてしまった。本好きの大人から見ると、どうしてもライトノベルって蔑んでしまうようなところがあると思うけど…こういう作品がまだまだ埋まっているので、本当に侮れない!
女子高生の理保は…9人も人を殺している連続殺人鬼だったが、捕まらない術を心得ているので、いまだに捜査の手は伸びていない。理保の恋人で、同じ学校に通う基樹も彼女の行為を黙認している。ある日、街で出会った少女に殺意を覚えた理保、持っていたナイフで相手をいつものように殺したのだが、なんとその相手は不死身だった!この出会いがきっかけで、謎の不死の美少女・実和が2人の間に割って入り…奇妙な三角関係へ発展する…。
読み始め…文章がスタートする最初のページから、主人公の理保ちゃんが、ハンマーで中年オヤジを撲殺するシーンから始まる。しかも、それ以前にも人を殺しているというつわもの(笑)そんな理保ちゃん…学校では仮面をかぶって、それなりに学生生活をエンジョイしている女子高生を演じているのです。で、理保ちゃんの正体を知っているのは、彼氏だけだったのだが…。
不純異性交遊なんて言葉は既に死語だよね~。まぁ、いまどきの高校生は、性に関して大っぴらなんてのは当たり前…それどころか人まで殺してます。そんな女子高生が他人の色恋沙汰に巻き込まれ、辟易しながらも真摯に相談に応じるフリしたり、かと思えば自分の三角関係に悩みながらバレンタインデーのチョコを作ったりと、リアルな日常を淡々と描いてる。
だけど…何故か、不死身の美少女が出てきちゃうあたりがライノベらしい展開。このファンタジーなのか、オカルトなのか、微妙な設定さえなければ、読み手のターゲットは拡大するんじゃないのかね?無理に幽霊みたいな化け物女との三角関係を描かなくても、殺人鬼理保ちゃんの、“彼氏彼女の事情”だけで充分、面白い物語になりそうなもんだけど…。
と、ちょっとばかり文句をつけたくなってしまうのだが…一応、最後まで読み終わってみると、不死という設定があったからこそ、生と死、永遠と一瞬・瞬間がより明確になり、人間の儚い人生が浮き彫りになってくるんだね。読後は、けっこう切ない感じに浸れる。
店名や商品名、芸能人の名前など固有名詞は変にアレンジせず…実名がバンバン出てくるあたりが、日常的な雰囲気をかもし出すのに効果的。ライノベ特有の若者言葉なんかも頻繁に使われているが…どことなく文学的、詞的な表現が多くてけっこう心地よく、文章も適度で読みやすい感じ。女子高生の殺人鬼と、切り口はブラックだが…現代の若者像を描くには決して的外れな選択ではない。
周囲にいる同年代よりも、人生に達観しているようにさえ感じる理保と基樹の言葉を借りて、遠まわしにライトノベルに否定的な意見を言わせているところが皮肉っぽくてなかなか面白い。他の幼稚な作品でこういうことをされるとかえってウザイのだけど…この作品では正直に、その辺のライノベと一緒にしちゃいけないというのが感じられたもんね。最近はライノベ脱却作家さんが、別ジャンルで成功するケースが増えているので、ぜひこの作家さんにも頑張って欲しいと思った。同じ、ファミ通文庫で何冊か本を出しているそうなので、引き続き古本屋で探してみます。
けっこうダラダラと感想を書いてしまったが…それだけ面白い作品だったと思ってくださいな。
個人的採点:75点
バッド・トラップ 著:堂場瞬一
バッド・トラップ
堂場瞬一:著
幻冬舎 ISBN:4-344-01010-8
2005年7月発行 定価1,785円(税込)
劇画調の池上遼一先生の美麗イラストが表紙なので、一見、漫画本と勘違いしてしまいそうですが(笑)、中身はちゃんと小説です。多額の報酬と引き換えに、あるお宝を隠し持つ金持ちに近づき、奪い取ろうとする詐欺師のお話。
ロス暴動の最中に、ある資産家が所持していた純金製のケツァルコアトル像が行方不明になり、それがどうやら日本人の手に渡ったようだ…。その像を見つけ出して欲しいという依頼を多額の報酬と引き換えに受けた詐欺師のリュウは、元傭兵の御手洗、偽造専門家の美女・彩と共に…現在の持ち主小笠原に接触を開始するのだが…正体不明の相手からリュウたちは監視を受ける!どうやらケツァルコアトル像を追っている別グループがいるようだ…。
ちょっとリアルになった「ルパン三世」って感じかな?主人公とパートナーの美女の関係も、恋人未満だというあたりは、ルパンと不二子のようでもあるしね。あと、クールな元傭兵・御手洗の存在は、次元と五右衛門の両方の役割。これで、銭形みたいな好敵手の刑事でも出てくれば、さらに「ルパン三世」っぽかたのに(笑)
ケツァルコアトルというのは、メキシコの神様のこと。色々とケツァルコアトル像には、メキシコの歴史とか文化にまつわる謂れがあるとかないとか…全編に渡りそれらしい伏線はバラまかれているのだけど…何故、価値があるのか?何故、みんなが欲しがるのか?いざ、その真相が語られるクライマックスが、とってつけた感が強く、蛇足気味に感じてしまった。メキシコの文化や歴史に疎いので、いまいちピンっとこないんだよなぁ。
せっかく、用意周到に計画した詐欺の手口、そして派手なアクションでけっこう盛り上がったのに…最後が、つまらなかった。詐欺師の話なんだから、読者を欺くような、もっと派手な仕掛けが、結末にイッパツ欲しいところだ。
個人的採点:65点