永遠のフローズンチョコレート 著:扇智史 | 105円読書

永遠のフローズンチョコレート 著:扇智史

永遠のフローズンチョコレート

扇智史:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-2627-9
2006年3月発行 定価630円(税込)









宝島社の「この文庫がすごい2006年版」のライノベコーナーで、お薦めされていたので、興味がわいて探していた「永遠のフローズンチョコレート」を100円コーナーで見つけたので、他の積読本を後回しにして読み始めてしまった。本好きの大人から見ると、どうしてもライトノベルって蔑んでしまうようなところがあると思うけど…こういう作品がまだまだ埋まっているので、本当に侮れない!

女子高生の理保は…9人も人を殺している連続殺人鬼だったが、捕まらない術を心得ているので、いまだに捜査の手は伸びていない。理保の恋人で、同じ学校に通う基樹も彼女の行為を黙認している。ある日、街で出会った少女に殺意を覚えた理保、持っていたナイフで相手をいつものように殺したのだが、なんとその相手は不死身だった!この出会いがきっかけで、謎の不死の美少女・実和が2人の間に割って入り…奇妙な三角関係へ発展する…。

読み始め…文章がスタートする最初のページから、主人公の理保ちゃんが、ハンマーで中年オヤジを撲殺するシーンから始まる。しかも、それ以前にも人を殺しているというつわもの(笑)そんな理保ちゃん…学校では仮面をかぶって、それなりに学生生活をエンジョイしている女子高生を演じているのです。で、理保ちゃんの正体を知っているのは、彼氏だけだったのだが…。

不純異性交遊なんて言葉は既に死語だよね~。まぁ、いまどきの高校生は、性に関して大っぴらなんてのは当たり前…それどころか人まで殺してます。そんな女子高生が他人の色恋沙汰に巻き込まれ、辟易しながらも真摯に相談に応じるフリしたり、かと思えば自分の三角関係に悩みながらバレンタインデーのチョコを作ったりと、リアルな日常を淡々と描いてる。

だけど…何故か、不死身の美少女が出てきちゃうあたりがライノベらしい展開。このファンタジーなのか、オカルトなのか、微妙な設定さえなければ、読み手のターゲットは拡大するんじゃないのかね?無理に幽霊みたいな化け物女との三角関係を描かなくても、殺人鬼理保ちゃんの、“彼氏彼女の事情”だけで充分、面白い物語になりそうなもんだけど…。

と、ちょっとばかり文句をつけたくなってしまうのだが…一応、最後まで読み終わってみると、不死という設定があったからこそ、生と死、永遠と一瞬・瞬間がより明確になり、人間の儚い人生が浮き彫りになってくるんだね。読後は、けっこう切ない感じに浸れる。

店名や商品名、芸能人の名前など固有名詞は変にアレンジせず…実名がバンバン出てくるあたりが、日常的な雰囲気をかもし出すのに効果的。ライノベ特有の若者言葉なんかも頻繁に使われているが…どことなく文学的、詞的な表現が多くてけっこう心地よく、文章も適度で読みやすい感じ。女子高生の殺人鬼と、切り口はブラックだが…現代の若者像を描くには決して的外れな選択ではない。

周囲にいる同年代よりも、人生に達観しているようにさえ感じる理保と基樹の言葉を借りて、遠まわしにライトノベルに否定的な意見を言わせているところが皮肉っぽくてなかなか面白い。他の幼稚な作品でこういうことをされるとかえってウザイのだけど…この作品では正直に、その辺のライノベと一緒にしちゃいけないというのが感じられたもんね。最近はライノベ脱却作家さんが、別ジャンルで成功するケースが増えているので、ぜひこの作家さんにも頑張って欲しいと思った。同じ、ファミ通文庫で何冊か本を出しているそうなので、引き続き古本屋で探してみます。

けっこうダラダラと感想を書いてしまったが…それだけ面白い作品だったと思ってくださいな。






個人的採点:75点