105円読書 -26ページ目

リンゴォ・キッドの休日 著:矢作俊彦

リンゴォ・キッドの休日

矢作俊彦:著
角川書店 ISBN:4-04-161606-9
2005年5月発行 定価660円(税込)









ちょっと体調をくずしてしまい、読書&ブログ更新を休んでました…久しぶりの更新!月が変わったので、またバリバリ読書に集中したいと思ってます。

知り合いから薦められ、今更ながらに矢作俊彦に手を出してみました。非番のフリー警官、二村永爾シリーズの第1作目。表題作ほかもう1編を収録。最初の発表は1978年だそうで…その後、いろいろな出版社で文庫化されている。

リンゴォ・キッドの休日

高級クラブに勤める女の死体が発見され、さらに米軍基地内の桟橋沖に沈んだ、車から男の死体があがった。一見、無関係に見えた事件だが、凶器が同じ拳銃であることが判明。非番だった、神奈川県警捜査一課の刑事・二村永爾は、横須賀署の岡崎署長から呼び出され、捜査本部とは別ルートで、ひとりで事件を追うよう依頼される…。

自分が、2、3歳ころに出た本であり、その当時の文化が、色濃く反映された作品(シリーズ)。耳慣れない言葉も多く、自分の世代でもギリギリかなって感じ(笑)自分が生まれた昭和50年代って、まだまだそんな時代だったんだっけ?って…時代の流れをめちゃくちゃ感じてしまう1作でしたね。

ヤクザの中沢、週刊誌記者の梨元など二村が行く先々で遭遇する曲者キャラがけっこう魅力的。


陽のあたる大通り

学生時代の友人・吉居から呼び出された二村…現在、吉居は人気映画女優、浅井杳子のマネージャーを務めており、彼女が巻き込まれた厄介事の力になって欲しいという。実際に顔を合わせた杳子から、恐喝の事実を聴きだした二村だったが、別の事件で呼び出しがかかる。捜査本部に顔を出すと、すでに犯人は捕まっていたのだが、犯人の男は、杳子が撮影中の映画のエキストラだった。さらに映画の助監督がロケ現場で怪死している事実も浮かび上がる…。

作者の文体にも慣れてきたので、「リンゴォ・キッドの休日」よりも、こちらの方が読みやすかったですね。芸能界、映画界の話…ちょっと、今公開している「パッチギ! LOVE&PEACE」なんかのネタにも通じる部分があったりして。時代的に同じころの話だもんね。事件の真相なんかも、こちらの方が、面白かったかな。


巻末の解説に、この作品を読んで、若き日の大沢在昌センセが、“衝撃を受けて布団を被って寝てしまった”と紹介されていたが…確かに、和製ハードボイルドの原点といわれるだけの作品ではあるなぁ。オシャレで、クールな文章とキャラクター…自分が頭に描いているハードボイルドの雰囲気がすべて兼ね備えてる作品だもんね。

短編、中編と呼ぶほど短くもなく、内容の濃い作品を、文庫1冊で2つ読めるのは、けっこうお得感を感じる。






個人的採点:70点






サマースクールデイズ 著:深沢美潮

サマースクールデイズ

深沢美潮:著
ジャイブ ISBN:4-86176-303-7
2006年6月発行 定価567円(税込)









ジャイブのピュアフル文庫なので、児童向け作品なのだと思うけど…最近は大人が読んでもおかしくない作品が多いですからね。よく、角川のスニーカー文庫なんかで名前を目にする…深沢美潮なので、手にしてみた。引っこみ思案な女の子が…サーマースクールを通してちょっぴり成長するというお話。2002年に幻冬舎から出た単行本を文庫化したもの。

高校に入学したばかりの千里は、友人関係などのトラブルが原因で、不登校になりがちだった。夏休み…母の薦めで、アメリカンスクールで行われる2週間のサマースクールへ参加することに。偶然知り合った、アメリカンスクールの美少年ジャスティンに心をときめかしたのもつかの間…なんと、不登校の原因である幼馴染の瑞穂もサマースクールに参加していたのだ!憂鬱な気分で、できるだけ瑞穂にかかわらないように過ごそうと心掛けている千里だったが、次第に新しい友達がができ…サマースクールの生活にも慣れ始めるのだが…。

なんで、お年頃の女の子って、こんなに回りくどいのだろうか?あ~イライラするなぁと思う反面…自分がもっと若いころにこういう作品を読んでいれば、少しは乙女心というものを理解でき、女の子との付き合い方にも変化があっただろうなぁと…ちょっぴり思ったね(笑)

テーマ的には老若男女関係なしに…生きている間は一生付きまとう、人間関係という厄介な代物を描いた普遍的な物語なのでね…誰が読んでも共感できる、さわやかな内容にはなっているけど。サクサクって読めていいんじゃないでしょうか?






個人的採点:60点






イヴゼロ The Beginning EVE 著:山田桜丸

イヴゼロ The Beginning EVE

山田桜丸:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-0004-0
2000年5月発行 定価672円(税込)









この間読んだ「EVE burst error PLUS サヨナラキョウコ、サヨナラセカイ」同様、人気アドベンチャーゲーム、EVEシリーズのゲームにはないオリジナルストーリーを描いた小説版。作者の名前が前回と違うが…桜庭一樹が過去に使用していたもう一つのペンネームなんだそうで、同一人物。書かれた時期も、作品の時系列的にも…サヨナラ~よりも前のもの。

桂木探偵事務所の所長代理…天城小次郎は、同じく署長代理の桂木弥生に促され、退屈な浮気調査に出かけるのだが…対象者の女性が、ただの不倫のように見えずどうにも怪しい。そして不審がる小次郎の予感が的中し…思わぬ事件へと発展していく。一方、警視庁公安部の法条まりなは、半年かけて捜査をしてきた密航商売の摘発に向け、鹿児島沖の海上で…不審船を追いかけていた!

ゲームの方でもゲーム1作目の前日談を描いていた「イヴゼロ」だが、それよりもさらに遡っての物語ということで、今回の方があまりゲームに話が密接にかかわってこないので、小説としては読みごたえがあったような気がする。といっても、事件が解決するあたりは、サヨナラ~同様に、物足りなさは感じる。

ゼネコン事件に、密航者を乗せた不審船…さらに偽札事件と、作者が90年代に実際に起きた事件をモデルに、それらをみんな並べてみたとあとがきでも語っていたが…ゲームを含めた他のEVEシリーズに比べると、妙にリアルで異色な感じもした。






個人的採点:65点






SAKURA 六方面喪失課 著:山田正紀

SAKURA 六方面喪失課

山田正紀:著
徳間書店 ISBN:4-19-850484-9
2000年1月発行 定価840円(税込)









山田正紀のミステリー…元々は短編小説だったらしいのだが、単行本化の時に、加筆訂正して長編にしたもの。各セクションから、役立たずのダメ警察職員を集めて作った、失踪課…通称“喪失課”の面々が遭遇した奇妙な事件の数々が…最後に思いもよらぬ展開へ!寺田克之のカバーイラストが、ハードボイルドっぽくてカッコイイ。

時はバブル真っ盛りの90年代初頭…もともと警察にはなかった失踪課が綾瀬署に初めて創設されたのだが、連続幼女殺害事件の犯人Mのとばっちりをくった、オタク刑事をはじめ、女好き、ギャンブル好き、サボリ魔の怠け者などなど、そこは各署からどうしようもないクズ、使い物にならないカスばかりを集めたて放り込んだにすぎない場所だった。そして他の刑事たちは、失踪を逆さにし、喪失課と揶揄している…。その日もいつもどおり、単独行動していた刑事たち…ある者は自転車泥棒を追いかけ、ある者はブルセラショップから下着を盗んだ犯人を捜したり、ピザの配達が来ないと怒りをあらわにしたりしている…。そんな綾瀬署管内にチラつく謎の人物SAKURAの影が…。

もともと短編だったということで一話、一話は推理小説としてよく練られている。奇妙な事件を追いかけながら、別の事件を解決しちゃったりと…物語の意外性なども抜群。個性豊かなキャラの描き分けなんかもなかなか面白いのだが…それらに加え、冒頭のプロローグで語られていた、街が消えただとか、奇妙な行動をする人物とか…不思議な謎が、徐々にハマっていき、いったいどんな方向へ向かっているのか?最後まで興味が持続する。

一見、バラバラに見えた、刑事たちの行動が思わぬところでニアミスしてるし、最後で明かされる真相も…こんな内容のアニメ映画があったなぁとか、けっこうハラハラドキドキした。ファンサービスなのか…推理小説から飛躍して、アクション小説と化していましたもんね(笑)

やる時はやる…ろくでなし刑事たちの活躍に、笑いながら、スリルを味わうべし!






個人的採点:80点






ニライカナイをさがして 著:葉山透

ニライカナイをさがして 

葉山透:著
富士見書房 ISBN:4-8291-6329-1
2005年12月発行 定価588円(税込)









沖縄を舞台にした映画とかが好きなので、ニライカナイって響きがなんだか好きなんだよね~。富士見ミステリー文庫なので、ライトノベルの一種…人気絶頂の美少女アイドルモデルが、空港で偶然出会った高校生を無理矢理沖縄旅行に連れて行ってしまうという…男なら一度くらいは自分の好きなアイドルと、こんなシュチエーションの妄想を楽しんだことがあるんじゃないかと思えるような(笑)設定の物語。

高校生の拓郎は、通学前に朝の羽田空港で可愛いアイドルがにっこりと微笑むキャンペーンポスターを眺めたあと…京急線の改札前にあるコーヒーショップで馴染みの店員と、アイドル・宮沢梨花について、あれやこれやと噂話を交わしていたのだが…隣の席にいたサングラスを掛けた怪しげな少女に睨まれてしまった。なんとそこにいたのは宮沢梨花本人であり、しきりに拓郎にからんできたのだ!さらに出会ったばかりの拓郎に、費用を負担するので一緒に沖縄へ行こうと誘いをかける。

かぁ~惜しいなぁ。一昔前の少年マンガに出てくるような純情少年が、わがままな女の子に振り回されるという…ラブコメ。氷室冴子の原作は読んでないんだけどさ、ジブリのアニメで見た「海がきこえる」の里伽子と拓みたい(そういえば、リカとタクロウって、名前の響きが似てるな?パクリ?)な関係だったね。あの2人が東京へ行く場面を、アイドルと沖縄という設定でアレンジしたような感じだ。

原作者も、絶対に妄想を楽しんだくちだな…いやいや、絶対にこれを執筆している最中だって、自分が好きなアイドルを投影して書いていたはずだ!とか、考えながら…読んでたんですけど、オチのつけ方がきにくわん。

ミステリー文庫で出しているくらいだから、確かに一つ、二つの秘密がなきゃ、本当にただの古臭いラブコメだ。そこへお互いの生い立ちやらなんやら絡んでくるのがお決まりのパターンなわけなんだけど…せっかく、これを読んでいる読者(特に男)が、拓郎少年になりきってるのにさ、そんな展開あり?いや、何かコイツにも秘密がありそうだぞとは薄々感じてたんだけどね…朝っぱらから、羽田空港にいる高校生っていうのが怪しすぎるからさ。

なんか、いかにもライノベだね~。夢のような展開の後に、もっと大きな夢がって印象を受けてしまった。この辺を現実的な展開で、なおかつ自分が求めているような結末だったら、共感できたのにねぇ…だから惜しい。

それにしても、本当に純情すぎて、なんだか読んでるこっちが恥ずかしいよ。いまどきの高校生の前に、万が一にもアイドルがモーションかけてきたらさ、間違いなく押し倒すだろう!?青少年向けとはいえ、もうちょっとエロ要素があってもいいんじゃない?確かに、拓郎少年は、いまどきの“普通の”高校生ではなかったわけだが…それとこれとは別だ!ある意味健全で爽やかなラブストーリーが好きな人にはお薦めですね。






個人的採点:65点






えれじい 著:鳴海章

えれじい

鳴海章:著
講談社 ISBN:4-06-213062-9
2005年9月発行 定価1,785円(税込)









事件に使われた拳銃のルート解明のため、アンダーグラウンドに潜入する刑事の話を描いた、「新宿鮫」+「マイアミバイス」みたいな警察ミステリーなんだけど、ヤクザ者が拳銃を持ったまま、住宅街にある自宅マンションに立て篭もったり、中学生が学校内で教師と生徒を銃でぶっ殺したりと…最近、世間を騒がせた銃絡みの事件にソックリなエピソードが描かれているので、かなりタイムリーかと。

刑事を希望しながらも、人事の諸事情で慣れない生活安全課に配属され、ようやく3ヶ月の佐倉義顕は…新型覚醒剤ドリームキラーに関する捜査にあたっていたのだが、生安が内偵を進めていた男が、突如、発砲事件を起こし、自宅マンションに篭城するという事件が発生し、現場に呼ばれる羽目に…。さらに、その後に起きた女性警官射殺事件と、中学生による銃の乱射事件で使われた拳銃が…どれも珍しいマグナム銃だったという共通項が判明…拳銃の入手ルートから犯人にたどり着けるのではないかと、潜入捜査をすることになった。佐倉は、ヤクザ者の跡見を頼ることになり、一緒に行動する。

事件の導入部でもある、立て篭もり事件の描写なんかは…ほんと、例の町田の発砲・篭城事件みたいだったね。警察組織や銃器なんかの説明がリアルに、丁寧に描かれているのでなかなかの雰囲気。で、刑事の日常なんかも描いてみせながら…物語は第二章目の冒頭で急展開を見せるんだけど、そこが結構ショッキング。帯とかに、あらすじがあまり詳細に書かれていなかった(事件の詳細を濁した表現になってる)のも、納得だな。

逆にさ、結末に関しては某海外TVシリーズの刑事もの(タイトル出すとネタバレしちゃうので)みたいなんじゃないかなと…想像できるヒントが、最初のほうの説明の中にあったよね。ずーーーっと、そうじゃないかと怪しんでいたら、やっぱり。この手の作品ではワンパターンかもしんないけど、納得の展開だったな。

男気を感じるヤクザの跡見さんが、超クールでカッコいいのね。特にさ、潜入捜査の手伝いしている最中に、盲目の人を助けたりね。あと日本刀で真犯人に挑むところなんて、男泣き必至!?ラストで明かされる佐倉との意外な関係など、なかなか感動的だったなぁ。

潜入捜査が始まるまでは、時間がかかったが…事件が次から次へと色々と起きるので、テンポがよく一気読みさせられてしまった。結構、面白かったし、好きなタイプの作品。






個人的採点:75点






クワイエットルームにようこそ 著:松尾スズキ

クワイエットルームにようこそ

松尾スズキ:著
文藝春秋 ISBN:4-16-324520-0
2005年12月発行 定価1,100円(税込)









今度、自身の手により映画化もされる松尾スズキの「クワイエットルームにようこそ」を読んだ…。ネットで、舞台降板のニュースを見て、この本のことを思い出したんだよね~。

佐倉明日香は目覚めたら…精神病院に強制収容されていた!同棲手相手と喧嘩した後に、酒と薬物を大量に飲み…オーバードーズを起こしたのだが、その後の惨状はほとんど記憶が残っていない。自分が正常だと訴えても、保護者の同意無しでは退院もできず…機械的なナースの対応に辟易。抜け出す方法を模索しつつ、渋々、閉鎖病棟で生活するのだが…周りには色々な原因で、色々な症状を抱えた精神病患者がいっぱいだった…。

ゲロでうがいをする~云々という、冒頭のゲロ描写は、頭の中で想像して思わず…読んでるだけで吐き気を催しそうになってしまった…。なんなんだ、この話はって思ったら…そういうことだったのね。結構壮絶な話なのに…その後はサラリと勢いと笑いで読ませてしまうのはさすがだなぁと。

どん底でもがきながらも…そのどん底に依存してしまいそうになったりね、人間の強く逞しい部分と、儚くて脆い部分の紙一重な感じがよく描かれている。ただ、冒頭の壮絶さに比べると、その後の展開は予定調和な感じが否めない…もっと狂った世界でも良かったんじゃないかと、最後は少し物足りなさも残るか?

ちょっと下品な文章だとか、クスリと笑わせるギャグのセンスとか…松尾スズキっぽさは、随所に垣間見えて、そういうところは結構、好きかもしれない。






個人的採点:65点






格闘する者に○ 著:三浦しをん

格闘する者に○

三浦 しをん:著
新潮社 ISBN:4-10-116751-6
2005年3月発行 定価500円(税込)









三浦しをんを読むのは、エッセイも含めて4冊目だったかな?これがデビュー作なのだそうだが…くせのない文章でスラスラと読め、なおかつ個性が出ているということで、一番読みやすくて面白かった。

就職活動の真っ最中なのにマイペースな大学生の藤崎可南子…漫画が好きというだけで、漫画雑誌の編集者になれたらいいなぁと思い、片っ端から出版社の試験を受けるのだが…結果は思わしくない。さらに義母と半分だけ血の繋がった弟と暮らすわけありな家庭事情をはじめ、書道家の老人と付き合ったりと、意外と忙しい毎日を過ごしている…。

可南子の漫画オタク&妄想癖は、そのまま…著者本人?エッセイと似たテンションで暴走してますね…。てっきり、自分をモデルにした私小説的な物語なんだとばかり思っていたら…複雑な家庭の事情、継母とのギクシャクとした関係などいかにも少女漫画好きの作者らしい設定が冴えるね。

主人公が、けっこうパープリンなので、最初の30ページくらいは、頭の中でもっと庶民的なキャラを想像していたんだけど(家庭が複雑なのは最初のほうで描かれていたが)…実はけっこうなお嬢様で、意外と物語が深くて、そういうところが面白かった。

就職活動に対する不平不満や理不尽さ、妄想とあわせて、かなり茶化してるあたりもユニークであり、自分も学生時代に同じ様なこと考えたなぁとか懐かしく思ってしまう。自分は最終学歴が専門学校だったので、明らかに有名大学の学生と差別されてるのとか…面接でも、よく感じられましたね~。あと、自分も無理は承知で、有名玩具メーカーや出版社なんかの会社説明会や試験を受けに行って…雰囲気だけは楽しんだことがある。主人公が憧れの出版社で、目をキラキラさせてしまう反面…嫌な面接官に遭遇したり、なんか内情を垣間見ちゃったりして減滅瞬間とか…もろ共感できる。

就職活動くらいで、クヨクヨするなって思いが伝わってくるんですけど、この不景気な世の中、それも三十路過ぎてチャランポラなフリーター風情の自分は、けっこうしんどいですよねと、ちょっぴり真面目なことも考えながら読んでしまいました。三浦しをんのエッセイなんか読むと…ほんと、途中までは自分と似たような生活してたオタクなのに…今ではベストセラー作家、直木賞作家ですからね、羨ましい(爆)






個人的採点:70点






屋上探偵 オクタン 著:大崎知仁

屋上探偵 オクタン

大崎知仁:著
集英社 ISBN:4-08-703166-7
2006年2月発行 定価750円(税込)









JUMP J BOOKS の「屋上探偵 オクタン」…冒頭の一部が漫画だったり、 これも多分、ライノベの一種だと思うんだけど、学園ミステリーとして、しっかり推理小説にはなっていますね。全3話の独立したエピソードで構成されているようにみせかけておいて実は…。

売上が伸び悩む、明斉館高校新聞部発行の「明スポ」…売上アップの目玉企画として、部長の石岡が提案したのは、校内で起きた問題を迅速に解決する、屋上のトラブルシューターこと犬村元貞への密着取材だった!そして、その犬村を取材する担当記者に選ばれたのが…「明スポ」の欄外コラムしか書かせてもらえない、部への貢献度が低い月島周子。早速、犬村に取材を開始した周子だが…犬村は俺様イズム全開の、セクハラスケベで嫌な男だった。噂通りに意外とイケメンだが、本当にこんな人間がトラブルシューターなのか?と疑問に思う周子…そこに早速依頼人が現れた!?

コミカルなキャラ、快活なテンポの展開で、サクサクと読め、犬村と周子のデコボココンビの漫才でラブコメなやり取りに、クスリとさせられる。事件毎に、関係者から事情聴取し…犬村が事件解決の糸口を掴むのと同時に、読み手もある程度、トリックの解明や真相にたどり着けるあたりが、推理小説としてフェアな感じ。本格好きには物足りないだろうが…ジャンプ購読層の子供たちが、この手の作品から読書好きになってくれると、推理小説好きの人間としては嬉しいかな?

以下、各話の簡単なあらすじなどを…。


第一話「推理研ファイヤ」

誰もいない筈の推理研の部室でボヤ騒ぎ…被害は新しく発行した推理研の人気同人誌“デコード”と、そのバックナンバーだった!?発行に関わった推理研の一年生、名波かすみは、どうしても犯人を突き止めたく犬村に犯人探しを依頼。実は推理研のメンバーの中に容疑者が…。

島田荘司、麻耶雄嵩や海外ミステリ作家に関する話なども出てきて、思わず笑う。周子がミステリに興味ないから、全然意味わからなくてキョトンとしているのは、ジャンプ購読層に共感させるためか?実は、そのあたりの会話にも事件解決のヒントが隠されている?


第二話「放課後フィスト」

明斉館高校、歴代最高の番長と呼ばれる辻原健吾の不良仲間たちが、放課後に何者かに連続的に襲われるという事件が発生。辻村たちが“放課後の通り魔”と呼ぶその犯人を見つけてケジメをつけたいと願いに、犬村は駆り出されることに…。犬村は不良グループから話を聞くことにした…。

これも、証言や証拠から真相にたどり着きやすい。でも、主人公も魅力的だが…番長・辻原の硬派さがクールでカッコイイ(ちなみに、イラストはそんなにカッコよくないんだけど)。ヤンキー軍団も実は良い人が多い、偏見は無くそうというメッセージか?


第三話「土壇場ミント」

二年生の修学旅行目前…学校宛てに旅行を中止するよう脅迫電話がかかってきた。修学旅行委員委員長と副委員長で、双子の薮内大学・文学兄弟から犯人を突き止めて欲しいと言う依頼が…。さらに、取材の一環として、調査を手伝わされる周子の周囲でも妙な事件が頻発する…。

この最終話では意外などんでん返しもあり…急にアンリアルが突出してしまう印象も受けるが、作品全体を印象付ける意外性が感じられ良いのではないだろうか?最後はお祭り気分でハジケてていいと思う。ふり返れば、この結末もしっかりと伏線があるんだよね。


この間読んだ、米澤穂信の「春期限定いちごタルト事件」なんかよりも、キャラクターなどの設定はより漫画っぽく(いかにもジャンプ読者の中高生を狙ったような)、適度なギャグと健全なお色気ネタありで…起きる事件も派手目。あっそうか、米澤穂信じゃなくて霧舎巧の「霧舎学園」なんかに近い雰囲気かも?でも、人が死なない学園ミステリーって部分は米澤穂信よりか?それぞれ短編かと思ったら、ホントは長編小説みたいねっていう構成の巧さも似てるね。






個人的採点:65点






オレンジの季節 著:鯨統一郎

オレンジの季節

鯨統一郎:著
角川書店 ISBN:4-04-873705-8
2006年7月発行 定価1,470円(税込)









結婚と同時に専業主夫になった青年の苦労を、時にユーモアに、時にリアルに描いた家族小説なんだけど、コレはミステリー小説です!

会社員の立花薫は、同じ会社の一年先輩で、上司でもある戎怜華にプロポーズした。実は2人は密かに付き合っていたのだ…。もちろん怜華も、その申し出を快諾したのだが…ひとつだけ条件があったのだが、それは“薫が会社を辞めて、専業主夫となる”ということだった。どうしても怜華と一緒になりたい薫はその条件をのみ結婚、戎家の婿養子になったのだが…両親、姉、弟、妹、それに身体が不自由な祖母の面倒までみなくなってしまい、慣れない主夫業に右往左往する羽目に…。

確かに、主婦業は大変ですよね…自分はまだ結婚してないけど、ウチのおかんを見てると、なんとなく分かります。既婚者の人も、自分の嫁さんがどんなにストレスが貯まっているか?この本を読めば、理解しやすいのではないだろうか?でも、ちゃらんぽらんな自分など、お金を稼いでくれる綺麗な女性に、結婚してくれって言われたら、主夫業くらいやっちゃうけどなぁとかもちょっと思いつつ…。とにかく、読んでいる最中は、このまま昼ドラのホームコメディでもなりそうな雰囲気で、なかなか面白いのですが…。

それがいきなり…クライマックスで、とんでもないことに!ミステリーなのを忘れてましたよ、しかも書いてるのは鯨統一郎…とんでもない展開に、思わずズッコケながらも、意外とツボにハマった。それに、この展開の伏線はちゃんとありましたよね…凄いなぁ。ヒントは婆さん(笑)ここ、ひっかかってたんだけど…この展開まではよめなかった。でも、前半と後半がそれぞれ章立てになってて…後半のサブタイトルが“殺戮の章”でしょ?何かあるとは思っていたけど、ここまで凄いとは…。

前半だけだったら、普通の人にもお薦めできるんですけど…急にジャンル変わっちゃいますからね(笑)やっぱりミステリーとして読むのが正解でしょう。自分はかなり楽しみました。






個人的採点:70点