屋上探偵 オクタン 著:大崎知仁
- 屋上探偵 オクタン
大崎知仁:著
集英社 ISBN:4-08-703166-7
2006年2月発行 定価750円(税込)
JUMP J BOOKS の「屋上探偵 オクタン」…冒頭の一部が漫画だったり、 これも多分、ライノベの一種だと思うんだけど、学園ミステリーとして、しっかり推理小説にはなっていますね。全3話の独立したエピソードで構成されているようにみせかけておいて実は…。
売上が伸び悩む、明斉館高校新聞部発行の「明スポ」…売上アップの目玉企画として、部長の石岡が提案したのは、校内で起きた問題を迅速に解決する、屋上のトラブルシューターこと犬村元貞への密着取材だった!そして、その犬村を取材する担当記者に選ばれたのが…「明スポ」の欄外コラムしか書かせてもらえない、部への貢献度が低い月島周子。早速、犬村に取材を開始した周子だが…犬村は俺様イズム全開の、セクハラスケベで嫌な男だった。噂通りに意外とイケメンだが、本当にこんな人間がトラブルシューターなのか?と疑問に思う周子…そこに早速依頼人が現れた!?
コミカルなキャラ、快活なテンポの展開で、サクサクと読め、犬村と周子のデコボココンビの漫才でラブコメなやり取りに、クスリとさせられる。事件毎に、関係者から事情聴取し…犬村が事件解決の糸口を掴むのと同時に、読み手もある程度、トリックの解明や真相にたどり着けるあたりが、推理小説としてフェアな感じ。本格好きには物足りないだろうが…ジャンプ購読層の子供たちが、この手の作品から読書好きになってくれると、推理小説好きの人間としては嬉しいかな?
以下、各話の簡単なあらすじなどを…。
第一話「推理研ファイヤ」
誰もいない筈の推理研の部室でボヤ騒ぎ…被害は新しく発行した推理研の人気同人誌“デコード”と、そのバックナンバーだった!?発行に関わった推理研の一年生、名波かすみは、どうしても犯人を突き止めたく犬村に犯人探しを依頼。実は推理研のメンバーの中に容疑者が…。
島田荘司、麻耶雄嵩や海外ミステリ作家に関する話なども出てきて、思わず笑う。周子がミステリに興味ないから、全然意味わからなくてキョトンとしているのは、ジャンプ購読層に共感させるためか?実は、そのあたりの会話にも事件解決のヒントが隠されている?
第二話「放課後フィスト」
明斉館高校、歴代最高の番長と呼ばれる辻原健吾の不良仲間たちが、放課後に何者かに連続的に襲われるという事件が発生。辻村たちが“放課後の通り魔”と呼ぶその犯人を見つけてケジメをつけたいと願いに、犬村は駆り出されることに…。犬村は不良グループから話を聞くことにした…。
これも、証言や証拠から真相にたどり着きやすい。でも、主人公も魅力的だが…番長・辻原の硬派さがクールでカッコイイ(ちなみに、イラストはそんなにカッコよくないんだけど)。ヤンキー軍団も実は良い人が多い、偏見は無くそうというメッセージか?
第三話「土壇場ミント」
二年生の修学旅行目前…学校宛てに旅行を中止するよう脅迫電話がかかってきた。修学旅行委員委員長と副委員長で、双子の薮内大学・文学兄弟から犯人を突き止めて欲しいと言う依頼が…。さらに、取材の一環として、調査を手伝わされる周子の周囲でも妙な事件が頻発する…。
この最終話では意外などんでん返しもあり…急にアンリアルが突出してしまう印象も受けるが、作品全体を印象付ける意外性が感じられ良いのではないだろうか?最後はお祭り気分でハジケてていいと思う。ふり返れば、この結末もしっかりと伏線があるんだよね。
この間読んだ、米澤穂信の「春期限定いちごタルト事件」なんかよりも、キャラクターなどの設定はより漫画っぽく(いかにもジャンプ読者の中高生を狙ったような)、適度なギャグと健全なお色気ネタありで…起きる事件も派手目。あっそうか、米澤穂信じゃなくて霧舎巧の「霧舎学園」なんかに近い雰囲気かも?でも、人が死なない学園ミステリーって部分は米澤穂信よりか?それぞれ短編かと思ったら、ホントは長編小説みたいねっていう構成の巧さも似てるね。
個人的採点:65点