されど修羅ゆく君は 著:打海文三
されど修羅ゆく君は
打海文三:著
徳間書店 ISBN:4-19-891272-6
2000年3月発行 定価580円(税込)
先に、この作品の後日談的なお話になる「愛と悔恨のカーニバル」を読んだんだけど…打海文三はまだそんなにたくさん読んでいないので、これから開拓していこうと思っています。「愛と悔恨~」で予備校生だった主人公の戸川姫子が中学生の時に遭遇した事件。1996年にハードカバーで発刊されたものを2000年に文庫化。
登校拒否の中学生、戸川姫子は…自殺を思い立ち、かつて住んでいた田舎町にある山林へ向かったのだが、そこで坂本と名乗る男と出会う。誘われるまま、彼の家で食事を共にし、彼と過ごす時間を楽しんでいたのだが…ふとした拍子に、坂本が死体らしきものを隠しているのを見つけてしまった。自殺衝動などふっ飛び、慌てて家に帰るのだが…後日、姫子の元に刑事が来訪し坂本が殺人事件の容疑者になっているを知る。
殺人事件が起きて、意外な証拠物件から…犯人を割り出していくあたりなどは、お手軽なトラベルミステリーのような、推理小説風の謎解き要素も兼ね備えているんだけれども、ハードボイルドであり、警察ミステリーであり、探偵小説であり、それでいて根源はラブストーリーと…相変わらず太っ腹な内容になっている。「愛と悔恨~」に比べると、事件の真相自体はありがちなもので、猟奇的な味わいは少ないんだけれども…ミステリーとしての着地は、こちらの方が良かったかなと。
登校拒否時のマセガキ姫子ちゃんと、元詐欺師でやり手探偵のウネ子ばーさん…それと個性豊かなアーバン・リサーチの探偵たち。特に姫子が背伸びして、大人の世界に首を突っ込んでいこうとする姿が、なんかいじらしくて魅力的。これを読んでからの方が、「愛と悔恨~」をもっと楽しめたんだろうなぁって雰囲気はありましたね。
他にもアーバン・リサーチの面々が活躍する作品があるそうなので、これからちょくちょく読んでいこうかなと…。
個人的採点:75点
地球平面委員会 著:浦賀和宏
地球平面委員会
浦賀和宏:著
幻冬舎 ISBN:4-344-40279-0
2002年10月発行 定価520円(税込)
いつものようにブックオフの100円コーナーで見つけておいたのだが、げっ、今現在絶版で、Amazonのマケプレでも定価以上になってる!?読み終わったやつを、ヤフオクとかで売っちゃおうかなぁ(笑)浦賀和宏にしては、軽めの作品ですね。表紙のイラストも、ちょっとライノベ狙ったような雰囲気を感じるし。推理小説としてのオチはトンデモ系だが(冒頭で清流院流水作品からの引用文が掲げられているので勘ぐってはいたが)…いったい何が起きてるんだ?と、結末まで引っ張る設定は、そこそこイケてる。
大学に入学したばかりの僕は、サークルの勧誘で賑わう校内で、女の子が屋上から「あなたも信じてみませんか―。地球が平面であることを」と書かれた奇妙なビラを撒く場面に遭遇。その女の子に惹かれて、地球平面委員会なる、胡散臭いサークルを訪れてしまったことから、ビラを撒いた張本人で、委員長の宮里真希から執拗な勧誘を受ける羽目に。彼女たちの奇抜な思想に危険を感じ僕は、地球平面委員会を避けようとするのだけれど…放火や殺人事件など、怪しげな事件が次々に巻き起こる。
「涼宮ハルヒの憂鬱」のSOS団みたいです(笑) 美少女なのに、奇抜な行動ばかりとる宮里真希たちに翻弄される主人公。その真意はいったい何なのか?
僕の名前が、意外とキーポイントであり、名前を出し渋っていた。とある、有名キャラクターと縁のあるという、奇抜な設定。明かされたときは某名探偵漫画へのあてつけか何かかなんて思っていたんだけど、もっとくだらない秘密が隠されてましたか(笑)巻末は、あとがきも、解説も無いので、間違っても最終ページをめくっちゃいけません…なんとなく、作品の秘密を暴露するような物が載っています。
個人的採点:65点
にんげん はじめました 著:吉岡平
にんげん はじめました
吉岡平:著
朝日ソノラマ ISBN:4-257-77052-X
2005年1月発行 定価500円(税込)
最近、ちょこちょこ読んでいる吉岡平の「にんげんはじめました」を読んだ。表紙のイラストは、ちょっとアレだけど…タイトルに妙に惹かれた。
群馬県I市は、突然…不思議な結界のようなもので覆われ、外界と隔絶されてしまった。中に閉じ込められた市民は、脱出を試みるが、一切適わなかった…。次第に食料も尽きはじめ、治安も悪化してきた。偶然、取材でこの地を訪れていたフリーライターの小城陽一は、外の世界に残してきた家族に会いたい一心で、何度も諦めずに脱出にチャレンジしており、今も、たまたま乗車したタクシーの初老の運転手・佐伯と共に脱出に挑んでいる最中だった。そんな二人の姿を、人形のような少女エリンが、これまた怪しい化鳥のベスナールを従えて見つめていた…。
神か、悪魔か…異形のものたちが、人間界に出現してしまったために、街全体に結界が張られ、人間たちが閉じ込められてしまったということなのでしょう。その中で、化け物たちが人間社会に密かに入り込んで、何か悪事を働かしていると…。反対に、それを阻止しようとやってきたのが…エリンとベスナール。そして、その秘密を知った一部の人間たちが、どうにか状況を打破して、街からの脱出をしようと悪戦苦闘するお話です。「ラーゼフォン」+「コンスタンティン」+「妖怪人間」みたいな感じかなぁ(笑)とイメージしてみたり。
戦争やら災害を起こす代わりに、異形のものが降臨しちゃったってことなんでしょうね。食べ物がなくなり、街は無法地帯になる。人びとは精神的にも肉体的にも衰弱していき…警察や自衛隊だってろくに機能しなくなる。地方都市で起きた惨事を、ファンタジーに置き換えて表現しているのだと思います。
実は続きもので、この本だけでは完結しないことが判明。だから、作品の秘密とかもまだほとんど、明かされていません。とりあえず、キャラクターがみんなクセモノなので、暗くて、ハードな話なのにワイワイしてて楽しいです。既に、続編も出ているようなので…また100円コーナーで探します。
個人的採点:60点
ジウⅢ 新世界秩序[NWO] 著:誉田哲也
ジウⅢ 新世界秩序[NWO]
誉田哲也:著
中央公論新社 ISBN:4-12-500951-1
2006年8月発行 定価1,050円(税込)
シリーズ3部作の完結編…まさか完結編を年内に読めるとは(100円コーナーでこんなに早く見つけられるとは)思っていなかったので、かなり嬉しいです。1、2の前フリはこういうことだったのね…とにかく凄いことになってます。
児童をターゲットにした複数の身代金強奪誘拐事件の容疑者と目される国籍不明の美少年ジウが、西大井で起きた信用金庫爆破事件にも関係していた…。誘拐事件の捜査を担当している門倉美咲は、上司の東と共にジウを追う地道な捜査を続けていた。一方、SATに復帰した伊崎基子は…信用金庫爆破時で壊滅したSAT第1小隊の補充隊員たちに対する教育係としても期待されていたのだが…。
誘拐事件に端を発したジウ関連の一連の事件…遂にその全貌が明らかにされる。日本を転覆させるような、テロ行為が水面下で進行しているのは2巻目でそれとなく語られていたが、最終巻で一気に浮上してきた。表紙裏のカバーのあらすじなんかには、テロの標的が日本の首相であったり、新世界秩序を名乗るテロリスト軍団(2巻で語られていた黒幕)が歌舞伎町を封鎖してしまうところまで書いてあるんだけれども…その他にも、シリーズを通して、ばら撒かれてきた伏線のピースががっちりとハマって、謎が一気に氷解していく。
とんでもない事態をどうやって鎮圧するのか?各メインキャラクターの活躍、アクションもさることながら…色々な情報から、警察内部の裏切り者探しなど推理小説的な要素も今まで以上に色濃く、総合的なエンターテイメントアクション小説としてよくまとまっている。Vシネでやってた小沢仁志のマルボーにちょっと似てるとこもあるけど(笑)パクリというよりは、両作品ともほぼ同時期に発表されているから、時代がそうさせたんだろうなぁって感じです。お金をかけて、映像化したらさぞ面白いだろうなぁって思うけど…実際の新宿を戦場にはできないだろうし、無理してもただショボクなるだけだろうから(笑)、自分の脳内妄想だけにとどめておいたほうがいいのかな?
警察組織の描写がけっこうリアルで…そういうところも雰囲気があって好きなんだけど、その代わり、登場人物がやたら多いのが、しんどかったね。1巻目を読んだ時もそう感じたんだけど…次の巻を読むまでに時間があいちゃうので、メインキャラ以外の警察幹部とかの関係を思い出すのが、大変。今回は警察内部にいる裏切り者を追い詰めていく話なんかもあるので…三部作を間を空けずに読んだほうが、もっと面白く感じただろう。
正直、美咲がでしゃばり過ぎるので、シリアスさからかけ離れる部分もあるんだけど、面白いから大目に…。相反する2人の女性キャラクターが、結局、どういう関係になっていくのかもこのシリーズの魅力でもあったわけだからね。
個人的採点:80点
マーメイド スキン ブーツ 著:桜井亜美
マーメイド スキン ブーツ
桜井亜美:著
幻冬舎 ISBN:4-344-01068-X
2005年11月発行 定価1,365円(税込)
物語自体はあまり面白くないなぁって思いながらも…毎回100円コーナーで見つけるたびに表紙買いってヤツでいつも買っちゃう桜井亜美です(笑)どちらかというと、女性が共感するような物語が多いので、男の自分が読んでもふ~んな部分が多かったりするんだけど、この人の描く雰囲気とかはまぁまぁ好き。女性にも色々なタイプがいるけど…一皮向けば、似たような女の本性を現すというところがね、男としてはちょっと興味あるわけです。
祖母や姉が20歳で死んだという奇妙な偶然が伝播し、自分も20歳で死ぬ運命なのではないかと、密かに悩んでいるナジュは、美術系の学校に通う大学生。ナジュは本命の恋人を作らず、人肌寂しいときは5人のセックスフレンドの中からダーツでその夜の相手を決めて、楽しんでいた。しかし、旅の帰りの飛行機の中で偶然知り合った男に本気の恋をするのだが…。
自分は恋愛に関しては古風な考え(っていうか、ただの奥手)なので…AV女優や風俗嬢のようにヤリマン女なんて~って思うんだけど、今の恋愛事情なんか考えると…何にも不思議じゃないんでしょう。そんな考えをしている方こそ、女性に軽蔑されてしまいそうなもんです(笑)
で、そんな自由奔放そうな女の子が、実は“20歳で死ぬ”という血縁者の因縁めいた偶然に対し本気で悩んでるし、運命の出会いを信じて本気で恋だってするしってお話。
- 自分の人生をも変えてくれる運命の人はどこにいるのでしょうか?その人と結ばれるでしょうか?ってことなんだけど…うーん、読み終わった後は、意外と普通のラブストーリーに落ち着いちゃったかなって感じのラストでした。そんなにたくさんは読んでないけど、今までに読んだ、この作者の作品にしては、妙に現実っぽかった。あのラスト…ちょっとベタすぎないか?半年くらい前に読んだ「R.I.P.」っていう、中途半端にミステリーしてる作品があったんだけど、あれよりは納得できたかな?
個人的採点:60点
赤×ピンク 著:桜庭一樹
赤×ピンク
桜庭一樹:著
エンターブレイン ISBN:4-7577-1283-9
2003年2月発行 定価672円(税込)
アンダーグラウンドなファイトクラブで働く3人の少女の自分探しの物語。それぞれのキャラクター視点で章立てになっているのだけど、少しずつ時間軸が重複しながら…その先の物語を見せていくという構成になっている。ファミ通文庫と、レーベルはライトノベルだが、格闘知識などけっこう著者のオタクぶりが発揮されており、そういうファンが読んでも楽しめるのでは?知らなかったんだけど桜庭一樹って女性作家だったんだね(笑)桜庭って名前から、勝手に格闘家のようなゴツイ男を想像してました。
都心の廃校になった校舎を利用し、毎夜、女性同士の格闘戦、いわゆるキャットファイトを見せる非合法ファイトクラブ“ガールズブラッド”。そこで働く、三人の少女…本当は21歳なのにあどけなさを売りにする“まゆ14歳”、昼間はSMクラブでなんちゃって女王様として働く“ミーコ”、同性の女の子を極端に嫌う、空手少女の“皐月”。彼女たちにはそれぞれ悩み事があった…。
それぞれ性格は異なるけど、非常に重たいトラウマを抱えた少女たち。外見とは裏腹に、孤独を紛らわすため、居心地の悪さを感じたりしても…格闘を続けている。で、色々なパターンでキューピッドたちと出会い、ターニングポイントが訪れ、求めていた生き方を見つけるって感じのお話です。
いちばん、一般人に近いのが“まゆ14歳”で…無気力感、孤独感など、男の自分などでも共感できる部分が強い。物語的にはあっ気なさを感じるのだが、一番、現実的な選択をしているあたりも、妙に納得してしまう。
ちなみに表紙カバーは、「最終兵器彼女」でお馴染みの高橋しん。どこか儚げな少女を描かせると上手だなぁ…。
個人的採点:65点
爆弾魔 著:大石直紀
爆弾魔
大石直紀:著
光文社 ISBN:4-334-74008-1
2006年1月発行 定価600円(税込)
ディスカウントショップの爆破を皮切りに、広がる連続爆破事件を、かつて同じような事件のせいで家族を引き裂かれた、元刑事と、その娘の公安刑事が再会を果たし、家族の絆を取り戻しながら犯人を追いかけるというお話。2001年に新書で出たものを文庫化。
関東一円にチェーン展開する大手ディスカウントショップ「グラン・カーサ」が相次いで爆破された。犯人は、「グラン・カーサ」の社長に恨みを持つ者ではないかと思われていた矢先に、今度は別のショッピングセンターが標的に。ショッピングセンターの警備員として働く藤村は、実は元公安刑事であり…25年前に似たような爆破事件と遭遇していたのだ。藤村は、かつて捕まえた爆弾魔・榊原が犯人だと確信するのだった…。榊原が藤村に復讐するのではないかと考える捜査陣は、藤村の娘で、刑事の早苗を護衛役として派遣するのだが、実は25年前の時間がきっかけで、長い間、2人には確執があった。
きっとモデルはドンキホーテだろうなぁって感じの大手ディスカウントショップが爆破されるんだ。ちょっと前に起きたドンキの連続放火事件をちょっと思い出すよね。
ただ、爆弾魔との追いかけっこなのかなと思っていたが、推理小説という肩書きがついているだけあって…、事件そのものや、真犯人の正体など二転三転するプロットはお見事。テンポもよく、かなり引き込まれる。加えて、過去の事件と進行中の事件の関わり。帯にも“家族の絆”というテーマが明確に示されているが、捜査する側の2人以外にも、意外なところで関わってくるのね。事件の真相なんかも、あっと驚く展開で、最後まで一気読みさせられてしまったよ。
この作者の作品ははじめてだけど、なかなか面白かったです。
個人的採点:70点
火の神の熱い夏 著:柄刀一
火の神の熱い夏
柄刀一:著
光文社 ISBN:4-334-73757-9
2004年9月発行 定価500円(税込)
柄刀一の「火の神の熱い夏」を読み終わる。“火の神”と書いてアグニと読ます…古代インド神話に出てくる神の名前のひとつなんだとか。
化石燃料関連事業や電力会社など手広く経営する実業家の加瀬恭治郎が、広大な敷地に立つ別荘の一室で焼死体で発見された。しかもナイフで刺された後に、部屋に火をつけられたらしい。二人の息子や会社関係者と、亡き妻の法要を済ませた後、休暇を楽しんでいる最中だった。実は妻も6年前に、何者かに刺殺されており、その事件は未解決だったのだ。二つの事件に関連はあるのか?恭治郎の依頼で写真撮影に訪れていた、写真家の美青年・南美希風が事件を推理する!
物語の視点は被害者の次男(浪人生)によって展開される。探偵役となる美青年が、颯爽と登場したわりには、意外と地味な感じがしないでもないが…アリバイ崩し、殺害のトリックなどを理詰めで看破していく。閉鎖的な空間で起きた事件。登場人物も少ないし、トリックに利用するアイテムもフェアに提示され、けっこう解かりやすい。すんなり読める直球の本格推理に仕上がっていた。
最初から事件の動機などを探るのは難しいが、途中で提示されるヒント(直接ヒントとは書いてないですよ)などから、直感で犯人にはけっこうたどり着けるのでは?
個人的採点:60点
卵と小麦粉それからマドレーヌ 著:石井睦美
卵と小麦粉それからマドレーヌ
石井睦美:著
ジャイブ ISBN:4-86176-282-0
2006年3月発行 定価567円(税込)
中一の女の子が、友情と家族愛によって、悩み事を解決し、ちょっぴり大人に成長していく様子を描いた作品。2001年に発刊されたハードカバーの児童文学を文庫化したものだそうです。
私立の女子中学に入学したばかりの奈穂は「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」と奇妙な質問をしてきたクラスメイトの亜矢と仲良しになる。楽しい中学生がスタートし、やって来た13歳の誕生日の日に、母親の翔子が突然…料理を習うために家族を置いて留学すると言い出したのだ!
思春期の少女たちの考えや行動を、自分の子供の頃と比べながら、懐かしんでみたりもするのだけど…どちたかというと、大人は主人公よりも行動的なママさんに感情移入してしまう。まだ結婚もしていないので、子供の事となんか自分には未知の領域だけど、自分の人生を楽しむ余裕を持ちながら、色々な経験を生かしながら、生きて歳をとりたいなぁと感じた…。
子供のいじめ問題なんかも、ちょろっとでてきます。何事も逃げないで、自分の方で変わることが大切だよっていうのを教えてくれます。デリケートな問題なので、適当なこともあまりいえないけど…親の意識の持ち方も大事だよね。全てを学校の責任になすりつけているようじゃダメ…小説のように簡単に解決できないだろうけど、この作品に出てきたいじめられる側の父親みたいな考えも大切なのかなって思った。
個人的採点:65点
星の国のアリス 著:田中啓文
星の国のアリス
田中啓文:著
祥伝社 ISBN:4-396-32891-5
2001年11月発行 定価400円(税込)
字も大きめだし、147ページしかないので、1時間程度でサラって読めちゃううんだけど…宇宙船の中を吸血鬼が闊歩し、連続殺人を繰り返すという…SFであり、ホラーであり、推理小説でもある、なかなかユニークな作品。
16歳の少女アリスは、唯一の肉親である兄と別れ、遠縁の親戚の家に厄介になるため、初めての宇宙船旅行だった。アリスの乗る宇宙船・迦魅羅号は、惑星ラミアに向けて出発したのだが…途中で密航者の死体が発見された。見つかった死体からは、血が抜き取られていたのだ。さらに、乗客の中に吸血鬼の末裔がいるという噂が出始めた…。元々は貨物船だけど希望があれば人も載せられるという小型の宇宙船なので乗員乗客合わせてたった7名しかいないのだが…みな、吸血鬼に恐怖し疑心暗鬼に…。
田中啓文らしく、文体はコミカルで、ちょっと下品な感じなんだけど…何気にしっかりとSF小説になっている。それでいて、吸血鬼に脅えながら、杭だ、ニンニクだ、十字架だって、吸血鬼ものにももちゃんとなってる。で、誰もいなくなった的に本格ミステリーでグイグイひぱっていって、最後にあっと驚く真犯人の登場。
アイデアはなかなか奇抜で面白いんだけど、やっぱり短いからね…もう一息って感じかな~。
個人的採点:60点