飼育する男 著:大石圭
飼育する男
大石圭:著
角川書店 ISBN:4-04-357214-X
2006年7月発行 定価620円(税込)
角川ホラー文庫、大石圭の「飼育する男」を読んだ。今年の夏に出たばかりなのだが、もう100円コーナーにあったので、ちょっと嬉しい。複数の女性を同時に監禁して性の奴隷にしてしまうという変態男のお話で、映画の「コレクター」と、映画にもなっている松田美智子の「完全なる飼育」シリーズをあわせたような内容で、ホラーというよりは、今まで以上に官能小説みたいなところがある。
元モデルの水乃玲奈は、昔の栄光を多少を懐かしみながらも、主婦として、母親として幸せな生活をしていたのだが…ある日、突然、宅急便を装った男に自宅に押し入られ、気が付けば…無機質な密室に閉じ込められていた…。正体不明の男は、暴力や性的な陵辱を酷使し、自分の都合のいいような性の奴隷になるよう、彼女を飼育し始めたのだった…。実は、他にも似たような女性たちが、複数、男により監禁されていたのだ!?
著者の性的嗜好が今まで以上にストレートに表現されている感じですね(笑)子供の時に、落ちていたエロ雑誌(しかもSMもの)を見て、性に目覚めてしまうというような導入部分なんかは…まぁ、男にはよくあるパターンのエピソードなので、意外と共感できちゃったりもするんだけどね。また、自分も収集癖は強い方なので、好きな物をコレクションしたいという衝動も分からないわけではない。
完全犯罪を成し遂げるには、ある程度、裕福な暮らしをしていないと成り立たないという印象を受けるのは、大石圭作品を読んでいていつも思うことです。女性を監禁するのに、人里離れたところに、広大な住まいを持っていたり、それなりに設備を整えてなかったりしないといけないですからね…今回の変態男も、親の遺産を相続したボンボンという、ちょっとワンパターンな設定ではあるんだけど…実の娘がいて、父性に目覚めちゃったりするところは、意外と新しい展開?
全体的な物語としての新鮮味はちょい薄いんだけど…男って、こういう願望あるよな~ってチクリと刺激されるものは感じましたね。ホラーというよりは、大石版官能小説として楽しみました。
個人的採点:65点
ヤングガン・カルナバル ドッグハウス 著:深見真
ヤングガン・カルナバル
ドッグハウス
深見真:著
徳間書店 ISBN:4-19-850704-X
2006年6月発行 定価860円(税込)
この間、書店でシリーズの最新刊、6巻目が並んでいるのを見かけましたが、自分はようやく5巻目をブックオフの100円コーナーで見つけてきました!でも、そんなに古くないよなぁ、今年6月の新刊だもん。まぁ、このシリーズはいいペースで古本GETできています。
高校生でありながら犯罪組織ハイブリッドの殺し屋である木暮塵八と鉄美弓華。塵八は、先の先頭で…大切な人を失い失意のどん底に…。一方、弓華は、敵対する豊平重工の社長令嬢、琴刃に捕まってしまい…豊平重工の秘密施設“ドッグハウス”に監禁され、屈辱的な行為を受けていた。さらに琴刃の父である空継は、日本政府をも転覆させるとんでもない野望を実行しようとしていた…。
前巻の最後で、どうなっちゃうんだよって煽ったわりに…ハイブリッドVS豊平に関しては、今回である程度のとこまで決着つけちゃいましたね。まだまだ意味深な行動をしている脇役キャラが、本格的に動き出していなかったりして、物語全体の行方はこれからって感じですし、何気に、死んだと思われていたあるキャラ、名前だけは頻繁に登場していたキャラが、実は生きていたんだなんていう情報も飛び出し…それも次回以降へのお話へ繋がっていくのでしょうと…。
いつもは塵八と弓華がバランス良く活躍するんだけど…捕まって色々なことされちゃう弓華の方が目立っていたかな?けっこう目玉のレギュラーキャラを前巻でえげつなくぶっ殺したあたりから、作者もふっ切れたようで…鬼畜度はアップしてましたね。か弱い萌えキャラに、あんなことまでしちゃって。最後には、あんなセリフも言わせちゃって(笑)琴刃の部下の戦うメイドさん、ちょっと「ブラックラグーン」のロベルタ+双子(ヘンデル&グレーテル)、パクってませんか?キャラクターは増えたけど、リストラも平行して行われているので、いなくなっちゃったキャラ、今回はお休みのキャラなどもいましたね。それでも、やっぱりキャラが多すぎるので、主人公2人の活躍の場が、初期に比べてどんどん減っているような(笑)
ストーリーの方はいつも以上に単純な感じで、その分、アクションとエロ、変態描写が次々と出てきて、スピード感、疾走感はやたらと感じる作品になっていた。正直言っちゃうと…物語の深みは前作の方が感じられたね。
作者お得意の映画ネタ…あるキャラは「悪魔のいけにえ」のレザーフェイスが好きだといって、DVD見てましたね。さらに、他のキャラは、自宅のホームシアターで初代「ゴジラ」を見ながら、薀蓄を語ってましたよ。
個人的採点:65点
紫の館の幻惑 卍卍教殺人事件 著:倉阪鬼一郎
紫の館の幻惑
卍卍教殺人事件
倉阪鬼一郎:著
講談社 ISBN:4-06-182436-8
2005年6月発行 定価966円(税込)
倉阪鬼一郎のゴーストハンターシリーズです。これを推理小説というジャンル別けにするのが正しいかどうかわからんが、タイトルに“殺人事件”の文字も入ってるし、ちゃんと推理してるし、まぁいいだろう(笑)ゴーストハンターシリーズには珍しく、他のホラー作品のような倉阪節が過剰に爆発していたんじゃないでしょうか?そのあたりも踏まえて、いちげんのミステリファンというよりは、コアな倉阪ファン向けの作品です(多分、面白さがわからない人は倉阪作品を読んでいない人)。帯にある通り、ミーコちゃんも大活躍!?
人間社会に溶け込んで生活している吸血鬼、ゴーストハンターこと雨久俊家やそのお仲間たち。彼に敵対する、吸血鬼原理主義者が裏で糸を引く“卍卍教”という宗教団体にスパイとして潜入した仲間と連絡が取れなくなったことから、今度は自分たちが教団へ潜入することに。信州の山奥に聳え立つ教団施設に向かうのだが、そこで殺人事件に遭遇してしまう。
約290ページある本文も、200ページくらいまではダラダラしてます。推理小説として挑むと非常に退屈であるんだけれども、キャラ小説として読むと、ゴーストハンターを始めとする吸血鬼トリオの掛相はけっこう楽しい。
途中で挿話される、“卍卍教”信者の視点が…小学生が書いたポルノみたいで、なかなか読みづらい。倉阪作品ではよくあるパターンで、意味不明な文章なんだけど…色々、事件を読み解くキーワードにもなっているので、種明かしまで我慢してお付き合いしましょう(笑)
後半部分、意外と真面目に“探偵小説”してるのですが…クライマックスは大笑い。いや、凄く壮絶、凄惨なんですよ…その他の倉阪ホラーみたいで。オチがなかったら、まぁまぁかなってところだけど、一気に作品の面白さを挽回してくれましたね。良かったです。
個人的採点:65点
ラッシュライフ 著:伊坂幸太郎
ラッシュライフ
伊坂幸太郎:著
新潮社 ISBN:4-10-125022-7
2005年5月発行 定価660円(税込)
伊坂幸太郎の「ラッシュライフ」を読む。人気作家だけあって、なかなか古本屋の100円コーナーで見つけることができないので、自分は「陽気なギャングが地球を回す」以来、ようやく2冊目です。
パトロンと一緒に客に会いに行く途中の若手画家の志奈子、空き巣専門の泥棒・黒澤、父親の自殺で宗教にハマった若者・河原崎、リストラされた中年・豊田、愛人と一緒に相手の妻を殺そうと企むカウンセラーの京子…そして巷で流行っているらしいバラバラ殺人の謎は?
巻末で評論家の先生も書いていましたが…タランティーノの「パルプフィクション」とか「ジャッキー・ブラウン」を彷彿とさせるような、群像劇タイプのクライムサスペンスですね。絶妙な構成力で、摩訶不思議な物語に仕上げていますが…上手すぎちゃってビックリ仰天するほどのどんでん返しではなかったかな?途中でもしや?と思った通りの展開にピッタリとハマっちゃって…あまり騙された気分にはならない。
伊坂作品は2冊目なんで偉そうなことはあまりいえないけど…各キャラクターの発するセリフの面白さなんかは「陽気なギャング~」にも通じる。でも、作品全体のテンポは、自分は「陽気なギャング~」の方が好きですね。テンポがイマイチだった。
こんなことを書いたら、伊坂ファンに怒られてしまうかもしれないけど、戸梶圭太の作品を、少しだけ文章を上品にしたような内容だったかなって思った(笑)
個人的採点:65点
トンネル 著:吉村達也
トンネル
吉村達也:著
角川書店 ISBN:4-04-178975-3
2003年9月発行 定価740円(税込)
角川ホラー文庫から出ている吉村達也の「トンネル」を読む。ホラー小説なのに、昔、同じ作者のトラベルミステリーにハマってるころに読んだ「『巴里の恋人』殺人事件」の主人公だった、チーム4の鷲尾康太郎というキャラクターが出てきちゃうところが、懐かしくもあり、面白いですね。しかもチームメンバーは、ちゃんとオカルト対応の新生組織になっているし(笑)フィクションだけど現実的な推理小説の世界の主人公が、今回はホラー・オカルト小説の主人公…西村京太郎の十津川警部が、鈴木光司の「リング」の真相を追いかけるようなもんなんじゃない?
マッチ棒を目にはめて瞳を開いたまま自殺した女子校生、ジェットコースターの安全バーを自ら外して自殺した若い男、新幹線乗車中の男がトンネルに入った途端発狂し、人気女優が車を暴走させたのが原因で大規模なトンネル事故は発生した。これらはその後に起きる…渋谷映画舘での集団失踪事件の前触れだった…。政府の依頼で調査をはじめたチームクワトロの鷲尾康太郎は、科学では解明できない難事件に挑む。同時期に新聞記者の桜井賢二は、上司の命令で、泥棒からタレコミがあった、民家での殺人事件の確認に現場に赴くのだが…。
冒頭で語られる惨事にはじまり、集団失踪事件や猟奇殺人の捜査・調査がはじまるのだが、思ったほどスプラッターな怖さは少なかったですね。どちらかというと、人間に隠された凶暴な本性を暴くという、その発想自体がかなり危険なもので、そういった怖さのほうが強いんだけど。
逆ネズミ算方式という、作中で語られる発想をたどっていくと…人間のルーツなんてけっこう狭いもんなんじゃないか?だからこそ、自分やその周りにいくらでも凶暴な殺人鬼の遺伝子を持ったヤツなんかいっぱいいるんだという考えなんですね。
ゾクゾクと、スリルが味わえるような怖さとはちょっと違ったが(序章的な惨事の数々がインパクト大なので、何が起きるのかと期待してしまったが)、相変わらずの安定したエンターティメント性は健在で、一気に読める。けっこう面白かったです。
個人的採点:70点
ベートスンの鐘楼 影の探偵と根津愛 著:愛川晶
ベートスンの鐘楼
影の探偵と根津愛
- 愛川晶:著
光文社 ISBN:4-334-07562-2
2004年5月発行 定価1,400円(税込)
愛川晶の影の探偵と根津愛シリーズの第2作目「ベートスンの鐘楼」を読み終わる。新書で約550ページという、なかなかのボリュームで読み応えあり!事件は新しいものだが、前作「網にかかった悪夢」の続編であり、その中で明かされた、主人公に関するとある秘密が、今回も重要になってくるので(というか、このシリーズの一番の売りなんだけど)、シリーズは順番通りに読んだほうがいいと思います。万が一、このシリーズを読んでみたいと思っていて、まだ「網にかかった悪夢」を読んでいない方がいましたら、多少、前作に関するネタバレが含まれますので、これ以上、文章を読み進めないで下さいね!
古びた日本家屋で、なんと手製の巨大なギロチンで首を切断された死体が発見された!現場は密室であり、被害者の首も持ち去られていたことから警察は殺人の方向で捜査を開始!高校生でありながら、抜群の推理力の持ち主、美少女探偵・根津愛は知り合いの桐野刑事から、いつものように事件について意見を問われるが…、今回はあまりのる気じゃない様子だ。その理由は知り合いの美少女中学生、大隈敦己から受けた相談事に起因する…。そんな敦己は、死亡と診断された人間が、棺に入れられた後に蘇生したという妙な事件に端を発し、吸血鬼に関する事柄に興味を抱いていたのだ。さらに、土葬された死体が消失するという事件が続く…。
美少女代理探偵・根津愛というシリーズとは別に、同じ愛ちゃんがワトソン役に徹する別シリーズの“影の探偵と根津愛”。多重人格で殺人鬼“ナオ”という別人格を有する、美少女中学生・大隈敦己ちゃんが今回ももちろん主人公。前作では、これがちょっとした作品の仕掛けになっていたわけですが、今回はその設定を理解しているというつもりで、物語は進みます。まぁ、こうなった詳しい経緯は前作を読むのが一番である。
奇抜な事件が発生し、それらが連鎖して、意外な事実が浮かび上がり…、最後には探偵がトリックと犯人を鮮やかに暴き出すという本格推理。そこへ持ってきて、シリーズ通してのお楽しみである多重人格と、今回のテーマである“吸血鬼”や“死後の蘇生”といった、オカルティックな題材がミステリアスに絡み合って、なんとも魅惑的な世界を構築。意味深なプロローグではじまる、いくつもの計算つくされた伏線も見事。前回の仕掛けほどの驚きはないが、今回も何気ないところで、作中の某人物のように、まんまと作者に騙されて“やられた!”と思う瞬間があったりね…500ページ以上の長さを飽きさせないアイデアがいっぱい詰まっています。
事件の解明やキャラクターのやり取りも非常に面白いが、それ以上に、吸血鬼や“生と死の曖昧な定義”についての数々の薀蓄に、感心させられてしまう。まだ新しい続きは出ていないみたいだけど、これからも目が離せないシリーズですね!?
個人的採点:75点
青春時計 著:森橋ビンゴ 川上亮 緋野莉月
青春時計
- 川上亮 森橋ビンゴ 緋野莉月:著
富士見書房 ISBN:4-8291-6325-9
2005年11月発行 定価588円(税込)
ライノベ系の作家三人による共著「青春時計」を読んだ。ひとつの物語を、三人のキャラクター別の視点で描くことによって、新しい真実が見えてくるという…手法的には別に目新しいものではないのだが、ひとつの作品で作者が別という試みはけっこう珍しいのでは?ジャンル的には青春ラブストーリーだけど、富士見ミステリー文庫から出ているから、“その他のミステリー”に分類しておく。
高校生の聖司と駿介は幼い頃からの幼馴染。そんな2人が、春休みの学校で、一人の少女と出会った。同じ高校の生徒でもないし、2人よりもちょっと年上のその少女の名前は慧…実は、聖司と駿介が通う学校の敷地内にある時計塔を設計した人物の孫だという。慧は海外留学を考えており、日本を離れる前に祖父の作った時計塔を見ておきたかったというのだが…実はその時計塔は壊れていたのだ。聖司と駿介は慧の為に、自分たちで時計を修理しようと思いつき…慧も巻き込んで夜な夜な学校へ忍び込む。
聖司の日記 森橋ビンゴ
突然現れた、少女に心を奪われてしまう…うぶな高校生の片想い物語。ついでに、お前はホモなんじゃないかとも疑ってしまうほど…親友の駿介を信用しまくっている、本当に人のいい高校生の男の子。他の2人の視点で、色々な真実を語るので…まぁ、大まかなストーリーをなぞった感じで、けっこうあっさり気味。その代わり、最後のエピローグ部分で、聖司視点がもう一度あるので、上手に、帳尻が合わさってる感じがした。
駿介の日記 川上亮
無口なくせして、けっこう女慣れしてそうな、積極系な秀才タイプの高校生だけど、実は聖司には言っていない秘密が…。聖司視点だけだと、ただの片想いかなと思わせておき、やっぱり三角関係になってくるんだよ。それぞれのキャラクターの過去などを掘り下げたりしていて、物語もけっこう面白い。
慧の日記 緋野莉月
駿介視点よりも、もっと色々な秘密が暴露される。っていうか、慧って頭も良くて、かなり美人らしいけど…案外、嫌な女だったのね(笑)って思っちゃうような展開。三角関係なのかと思ったら、もっとドロドロだったり…。じーちゃんの思い出、留学の為と綺麗にまとめてはいるが、うーん、なんか年下の男を上手に手玉にとっていただけのようにもみえてしまい、淡い青春物語の影には、かなりリアルで残酷な一面がって感じでしょうか?
複数の作家で描き分けているので、視点が変わると、本当に印象がガラリと変わるから面白いね。川上亮だけは、昔「ラブ☆アタック!」っていう、パソコンの出会い系サイトを題材とした、なかなか偏屈なラブストーリーを読んだことがあって、これがけっこう面白かったんだけど、あとの作家さんは今回が初めてだった。
個人的採点:65点
Kの日々 著:大沢在昌【新刊購入】
Kの日々
- 大沢在昌:著
双葉社 ISBN:4-575-23566-0
2006年11月発行 定価1,785円(税込)
今回は新刊購入です…古本購入の積読本を後回しにしてでも、読みたくなってしまう大沢在昌センセの最新刊。「新宿鮫Ⅸ 狼花」の刊行から、1ヶ月ちょっとで在昌センセの新刊が読めると思わなかったので、ビックリだ!?
アンダーグラウンドで探偵まがいの仕事をしている通称・木(もく)は…雑貨店“K's Favorite Things”の女店主ケイを調査していた。3年前に起きた、誘拐事件絡みで、彼女が隠し持っているはずのあるものを探し出せというのが依頼だ…。調査をするうちに、ケイに惹かれ始める木は、彼女に近づいたことで、さらに事件の深みにハマっていく…。
近作の「新宿鮫Ⅸ 狼花」に比べると、ややこぶりな印象を受けるが、相変わらず主人公やヒロイン、脇役に至るまでのキャラクター造形が魅力的。特に、男の読者が惚れるようなヒロインを生み出すのはピカイチですよね(笑)主人公の木が、ヒロインのケイに対し身体だけを求めてるんじゃなくて、その先にある精神的なものを求めたくなっていくという…妙に純なラブストーリー具合が、泣かせますよ。女は別の男に惚れているのに、その真っ直ぐなところに惹かれて、自分の命を賭けるというのが、なんともハードボイルドで魅力的。
裏社会の悪たちが、皆で騙しあい、その中でポツンと一人、堅気の女が紛れ込む。誰が3年前の事件の裏切り者なのかという…犯人探しで、グイグイと引っ張るのだが、決して本格推理小説ではないので、ラストのどんでん返しの部分はちょっと弱いような気もする。ただ、本格ものに出てくるような真犯人みたいに、無理のない、いかにもハードボイルドな理由づけがされているところはさすがです!
テンポもよく…クライムサスペンスとして安定した面白さが味わえた。
個人的採点:75点
包帯クラブ 著:天童荒太
包帯クラブ
天童荒太:著
筑摩書房 ISBN:4-480-68731-9
2006年2月発行 定価798円(税込)
タイトルに惹かれて天童荒太の「包帯クラブ」を読んでみた。心に傷を負った少年少女が自分たちの手で、生きる道を模索する姿が描かれています。イジメだ自殺だと、世間での若者に関する最近の暗いニュースなんかも考えながら、大人にも、子供にも読んで欲しい物語になっている。
ワラという愛称で呼ばれている16歳の女子校生、笑美子は…町を見下ろすために昇った病院の屋上で、不思議な少年ディノと出会う。彼との出会い、会話がきっかけで…自分が傷ついた原因の場所に白い、包帯を巻きつけるという行為によって、心が癒されることを発見し…悩みを抱える友人同士で行為に没頭。次第に、自分たちだけではなく、この行為で他の人たちも助けられないかと思いつくのだが…。
悩みの大小は、ものさしなんかでは測れない…言葉だけで分かったようなことを説教されるのって、自分たっちだって本当に腹立たしく感じることが多々ある。特に世間を騒がせているイジメや、自殺の問題で…子供と親・教師など大人との間で一番、問題になる部分ってここだよね。子供の気持ちを本当に分かろうとしないで、常識だけでごり押しするしか考えていないんだから、溝は深まるばかりだよね。
そういう子供たちが、包帯を巻くという行為で、悩みを具現化し、仲間と共有することで…前向きになっていく。心から相手の目線に合わせる事の大事さみたいなのが、よく理解できます。それと同時に、信念を貫くことの大事さも最後まで読むと伝わってきましたね。強く生きていくため、他人にやさしくなるための、ヒントがたくさん詰まっている作品だった。
あと、新しいものにはなかなかなじめないのが、大人なんだよねっていうのも改めて感じたし。
高校生の避妊知識の話とか…あった、あったこういう話と、つい懐かしくもなりながら…、やっぱり大人の勝手な都合で、何でも隠してしまうという教育方法に問題があるってことに疑問が浮かぶ。子供に不純な行為はしちゃいけませんと言いながらも…セクラハラ、痴漢、盗撮なで捕まる大人(特に教職者とか公務員とか地位がある人の方が多いんだ)がいるんだからね、矛盾してるよ。こういうことも、出てくる高校生たちの恋愛感みたいなので、さりげなく語っています。
高校生を主人公としているので、語り口は非常に軽く、物語のテンポもあり面白いんだけど…テーマ性がしっかりと感じられる内容になっているあたりは感心です。
個人的採点:70点
レオナルドの沈黙 著:飛鳥部勝則
レオナルドの沈黙
飛鳥部勝則:著
東京創元社 ISBN:4-488-01299-X
2004年8月発行 定価1,680円(税込)
一時期、「誰のための綾織」という作品の盗作騒動で話題になった飛鳥部勝則が書いた「レオナルドの沈黙」を読む。まさか、コレは“ダヴィンチ・コード”のパクリとか?
元大物プロデューサーの屋敷で、業界の仲間が集って行われた降霊会…ゲストとして呼ばれた巷で話題になっている霊媒師・派波京介は、参加者の一人に殺したい人間を問いかけ、その人物を念力で殺すと殺人予告を宣言。その言葉通り、たまたま名前が挙がった画家が、何十キロも離れた地で、首吊り死体で発見された。その現場はとにかく異様で、自宅の家具類が一切合財、外に放り出されており、空っぽの部屋でレオナルド・ダ・ヴィンチの手稿本を踏み台にし首を吊っていたらしい…。霊媒師の予告どおり本当に殺人なのか?それとも自殺なのか?事件に興味を持った、芸術家の妹尾悠二が、華麗に事件を推理するのだが…さらなる事件が!?
全然「ダヴィンチ・コード」のパクリではありませんでした、ご安心ください(笑)ただ、犯人当ての根本にあるトリックは、最近、似たような手法で書かれた作品を読んでました…そのくせ作者の術中にまんまとハマってしまった自分が本当に情けなくて、悔しいです。冒頭の序章から、違和感ありありなんだけど…その後に出てくるあからさまなヒントの方に騙されてしまいました。
で、オカルト話やら、ミステリー談義やらでどんどん作中の人物たちを惑わすのと同様に…読者までをも煙に巻いていきます。原作者も余裕ぶっこいて…読者への挑戦を行い…最後の真相解明で、容疑者も少ないしヒントを与えすぎちゃったから簡単だったでしょ?みたいなこと言いやがる。超ムカツク!?(笑)
最初のほうで感じた違和感の正体に気づいた頃には、後の祭り…探偵役が犯人を名指しする直前でした。
作中の中の事件で用いられた、トリックなどは案外、ぶっ飛びの荒唐無稽さであり、そいつを理詰めで看破していくんだけれども…真相解明に至るまでは、いささか物語が単調な印象。作者に騙されたのであまり偉そうなことは言えないんだけど…一般的な本格推理小説として、そこそこ楽しんだかな。
事件を引っ掻き回す霊媒師の言動がちょっとウザイ。
個人的採点:65点