トンネル 著:吉村達也
トンネル
吉村達也:著
角川書店 ISBN:4-04-178975-3
2003年9月発行 定価740円(税込)
角川ホラー文庫から出ている吉村達也の「トンネル」を読む。ホラー小説なのに、昔、同じ作者のトラベルミステリーにハマってるころに読んだ「『巴里の恋人』殺人事件」の主人公だった、チーム4の鷲尾康太郎というキャラクターが出てきちゃうところが、懐かしくもあり、面白いですね。しかもチームメンバーは、ちゃんとオカルト対応の新生組織になっているし(笑)フィクションだけど現実的な推理小説の世界の主人公が、今回はホラー・オカルト小説の主人公…西村京太郎の十津川警部が、鈴木光司の「リング」の真相を追いかけるようなもんなんじゃない?
マッチ棒を目にはめて瞳を開いたまま自殺した女子校生、ジェットコースターの安全バーを自ら外して自殺した若い男、新幹線乗車中の男がトンネルに入った途端発狂し、人気女優が車を暴走させたのが原因で大規模なトンネル事故は発生した。これらはその後に起きる…渋谷映画舘での集団失踪事件の前触れだった…。政府の依頼で調査をはじめたチームクワトロの鷲尾康太郎は、科学では解明できない難事件に挑む。同時期に新聞記者の桜井賢二は、上司の命令で、泥棒からタレコミがあった、民家での殺人事件の確認に現場に赴くのだが…。
冒頭で語られる惨事にはじまり、集団失踪事件や猟奇殺人の捜査・調査がはじまるのだが、思ったほどスプラッターな怖さは少なかったですね。どちらかというと、人間に隠された凶暴な本性を暴くという、その発想自体がかなり危険なもので、そういった怖さのほうが強いんだけど。
逆ネズミ算方式という、作中で語られる発想をたどっていくと…人間のルーツなんてけっこう狭いもんなんじゃないか?だからこそ、自分やその周りにいくらでも凶暴な殺人鬼の遺伝子を持ったヤツなんかいっぱいいるんだという考えなんですね。
ゾクゾクと、スリルが味わえるような怖さとはちょっと違ったが(序章的な惨事の数々がインパクト大なので、何が起きるのかと期待してしまったが)、相変わらずの安定したエンターティメント性は健在で、一気に読める。けっこう面白かったです。
個人的採点:70点