殺人ピエロの孤島同窓会 著:水田美意子
- 殺人ピエロの孤島同窓会
水田美意子:著
宝島社 ISBN:4-7966-5134-9
2006年3月発行 定価1,155円(税込)
宝島社の「このミステリーがすごい!」大賞で、特別奨励賞を貰った12歳の女の子が書いたミステリー。よっぽど欲求不満がたまってんじゃないのか?次から次へと、やたらとテンポよく人を殺しまくる…B級スプラッターも真っ青な、連続殺人です。
かつては、リゾート地として発展しかけた、東硫黄島…突然の火山噴火で島民は強制的に退去させられてしまい、今では島全体が廃墟と化している。そこへ、かつてこの島の島民だった、元東硫黄島高校の卒業生たちがやってきて、同窓会を開くことに。そして同窓会当日、盛り上がっているところに、ピエロに扮した男が、幹事役の男を殺害するという、衝撃的なTV中継が流れたのだ…。そのピエロは、どうやら高校時代に虐められていたクラスメイトの野比らしい…。自ら殺人ピエロと名乗ったその男・野比、が次々と陰惨な手口で同級生たちを殺害し始めた…。本土と連絡もとれない状況で、生き残るためのサバイバルが始まった…。
巻末の解説なんかを読むと賞の選考委員の中にも、12歳でよくこんな小説を書いたと、ベタ誉めしている人がいる反面…けんもほろろ、一笑に付している人もいるのが事実である。ミステリー小説やコミック(金田一少年やコナン?)、映画なんかから、覚えたての言葉と知識を総動員して書いたような文章…背伸びして色々と書いてるんだけど、意味が分かってるのだろうか?と変に想像してしまう。時事ネタ、行政批判なんかもいっちょうまえに盛り込み、内田康夫の●●伝説殺人事件みたいな、歴史考証的な味付けまで、かなりの大風呂敷。
さらに、H、不純異性交友、ラブホ、レイプ、自慰、陰毛…最近のお子様は早熟なのはわかるけど、いったいどこのエロ漫画から引っ張ってきたんだろうかと、頭の中で12歳の女の子がそういうものを想像しているところを思い浮かべてしまい、こっちが妙にこっ恥ずかしい気持ちにさせられる。確かに、自分も中学校の時は既に、そっち方面に興味はあったけどさ…中学生の女の子が文章にするか?こういう発想って、セクハラになる?(笑)性的な描写なんかも頻繁に描かれてるんだけど…なんか知識と言葉だけで書いてるなぁって思って、興奮とは程遠い(笑)
いじめられっこが、数年後に殺人鬼と化して同級生を襲うという内容は、この間まで読んでた荻原浩の「コールド・ゲーム」と偶然にも基本アイデアが酷似。クラスメイトがどんどん死んでいくというくだりは、こちらの方が過激だね(笑)ただ、クラスメイトがいっぱいいすぎるからさ、誰だコイツみたいなのも出てきちゃうわけ。だったら、最初の方で、半分くらい殺しちゃってから、本格的に物語を始めても良かったよね(笑)
著者本人は、相当数のキャラクターをちゃんと捌いているるもりだろうけど…読んでる方としては、人数が多すぎて、時々ちんぷんかんぷんになる。突出した個性を描ければなお良かったんだけれど、推理小説的なヘンテコな名前どまりだったから印象が薄い。事件当事者以外の人間の話なども挿話するなんてアイデアは上手いものの、こちらも設定はかなり杜撰さが目立つ。 ホント、色々なモノの寄せ集めって印象が否めない。最後のほうに出てきたヘリコプターの操縦=“ワルキューレの騎行”なんて描写もさ、「地獄の黙示録」を知ってて書いてるんじゃなくて、他のモノで、そのネタを知って真似して書いてるって思えちゃうんだよなぁ。
解説で、「バトルロワイアル」の影響を受けてるんじゃないかと語られていたが、それよりも、あの悪趣味な死体描写は…浦賀和宏あたりじゃない?って自分はちょっと思った。ミステリーのアイデアのごった煮感は浦賀の「記号を喰う魔女」なんかにも、ちょっと似ているかなって思ったんだよね。
でもまぁ、映画化もされてるどっかの若手ホラー作家よりは、しっかりとした文章になってるんじゃないですかね?総合的に笑っちゃう部分も少なからずなんだけど、馬鹿にするほどひどい文章力ではない。他の賞を獲ってる若手作家の中には、もっと酷い文章力のヤツがいっぱいいるし…とにかく長編小説として語が完結しているのが凄いです(笑)荒唐無稽な設定と人物描写ながら、いろいろなところから拾い集めたようなネタだけで、よくひとつの作品にまとめたなぁと。
自分もさ、小学校から中学校にかけて…山村美紗、西村京太郎、内田康夫なんていうトラベルミステリーに夢中になってさ、そういうのを真似して、授業中に勉強するフリして、ノートに小説の真似事をよく書いてたけど…登場人物を実在のクラスメイトにして、そいつらを物語の中で殺した時点で目標を達成した気分になっちゃってさ、話を完結させたことって一度も無かったもんなぁ(笑)
- 一応、宝島社から出版されてるだけあってさ、新風舎とかの自費出版系出版社から出てるような、本当に推敲してるのかよと疑いたくなるような作品よりは、ちゃんと読めますよ。っていうか、誤字脱字だらけのこのブログの文章より上手いと思うし(笑)知識だって、きっと自分が中学生の時より上だと思います。
あとは、この荒唐無稽な物語に、どうやって説得力をもたせるかですよね。そこが、まだ12歳の技量しかないんだ。それこそ、キャラクターの内面とかでも、もっとちゃんと描けてれば、他のご都合主義を誤魔化せる。まぁ、これからなんじゃないですか…人真似、寄せ集めじゃなくて、自分で色々な経験してから、才能があれば本当に面白い作品を書けるようになるでしょう。
このレベルで何冊も読みたいとは思いませんが…もうちょっと成長してから再デビューしたら、その時は読んでみたいですね。一発屋で終らないことを願ってます。 文句をいっぱい書いてますけど、裏を返せばそれなりに評価してるってことですよ(笑)ただ、それが面白いかどうかは別として…。
個人的採点:50点