出生率0 シュッセイリツゼロ 著:大石圭 | 105円読書

出生率0 シュッセイリツゼロ 著:大石圭

出生率0 シュッセイリツゼロ

大石圭:著
河出書房新社 ISBN:4-309-40582-7
1999年6月発行 定価798円(税込)









ホラー作家・大石圭の初期作品「出生率0」を読む。ジャンル的にはホラーというよりも近未来SFの趣向に近いかなと?世界規模で不妊が広がり、子供がまったく生まれなくなってしまうという…最近劇場公開された「トゥモロー・ワールド」という映画ソックリの設定。もしかしたら、P・D・ジェイムズの原作あたりを意識しているのかもしれませんね。1996年にハードカバーで発刊され、99年に文庫化。現在は絶版で入手し辛いようだ。

世界規模で広まった不妊…1999年6月にアフリカで誕生した女児を最後に、人類では新たに子供を生まれたということが確認できていない。それから7年後、着実に人口が減りつつある2006年6月8日…。金持ちに子供を売りつけ、人身売買で生計を立てているルル、将来に悲観しながらも、仲間たちと遊んでばかりいる、裕福な家庭の息子ユウ、人類で最後に誕生した少女と同い年の少年ジュン…彼ら3人のいつも通り日常が始まったのだが…。

小説が書かれ、最初に発表されたのは1996年で、その時点では近未来のお話だったわけだよね。でも、今が実際の物語の設定と同じ、2006年というから…なんか読んでいて奇妙な感覚に陥る。今の日本と変わらない、実際の地名が頻繁に登場するのだけど、多国籍で排他的な空気が感じられ…頭の中では勝手に「ブレードランナー」のようなバリバルSF的なイメージが浮かんできてしまう。

「トゥモロー・ワールド」の方は、絶望の淵に希望が垣間見れるという、ちょっとは前向きなお話だったけど…この「出生率0」は、希望の兆しも感じられない、どうやっても人類滅亡はとめられそうにないってお話で…そうなったときに、人間は残りの人生をどう選択していくのだろうかって内容になる。

小説では人類規模で不妊を語っているわけだけど、これは普通に人間の人生に置き換えてみても、結婚して子供を残すヤツばかりではなくて、子供を生みたくない人、生めない人と…それそれ個人が生きていく局面でも色々大事なことだったりするから、突飛な物語ではあるんだけど、意外と身近に感じることができるお話になっている。このまま結婚もしない、子供も作らないで、自分が年老いた時に、誰がいったい看取ってくれるんだろうか?などと…けっこう暗いことを考えてしまうんだよ。

それプラス…大石圭お得意の、人間の奥底にある倒錯的な願望が随所に盛り込まれている。最近のホラー作品の文章と比べると、堅苦しいところも多いのだが、変態的な性癖を惜しげもなく描写しているあたりは、ホント、大石圭らしいなぁって思った。この作品では、だいぶロリータ描写が強かったですね。






個人的採点:70点