黒魔館の惨劇 著:友成純一
黒魔館の惨劇
友成純一:著
光文社 ISBN:4-334-74049-9
2006年4月発行 定価580円(税込)
友成純一の連作ホラー短編「黒魔館の惨劇」を読む。イギリスの高級住宅街にある、お屋敷を舞台に、日本人入居者たちを次々と襲う。1991年に他社から発刊されたものを、文庫化したもの。
幽霊屋敷
商社の駐在員としてロンドンにやってきた野田夫妻と一人息子の悟郎。日本人も多い、ハムステッドという高級住宅街にある、貴族所有の美しく、大きな屋敷を借りることがでた。住み始めてからしばらくして、妻の貴子は違和感を感じ始めるのだが、仕事が忙しい夫の悟は相手にしようとしなかった…。
ホラー映画でいうと「悪魔の棲む家」っぽい感じかな?最初は錯覚だと感じた超常現象に、悩まされ始めてってパターン…。ここでは、怪異の正体も詳しく種明かしされないので、それもまた嫌な余韻を残す。
異邦人の街
作家志望の三浦は、日本での仕事を辞め、しばらくロンドンに滞在することになった。現地で、同じ高校の部活の先輩である蓬田が単身赴任で来ていることから、何かと面倒をみてもらう…。再会直後は、頻繁に会っていた二人だったが、三浦が奮発して借りたというハムステッドにある屋敷に移り住んでから、急に連絡が途絶えた…。心配になった蓬田は三浦の住まいを訪ねてみるのだが…。
日本人の視点から、ロンドンの歴史や文化、習慣について色々な疑問点、講釈が多く語られる。何故、ロンドンに生粋のイギリス人が少ないのか?アメリカのロサンゼルス以上に、人種の坩堝だというのを痛感させられるという…著者自身も、イギリスに住んでる(らしい)ので、イギリスなんかへ行ったことがない人間にも、へ~そうなんだとイメージしやすい記述が印象的で、これがまた作品に大きく関わってくる部分。他の四編に比べると、残酷度、鬼畜度は控えめだったが…ラスト、単身赴任を終えた蓬田が帰国するあたりは、ゾクリと背筋が寒くなる。何故かは読んでみてのお楽しみ(笑)
不死者、目覚める
両親の仕事の都合で、ロンドンで生活する竜也と美里…今まで住んでいた家から同じハムステッドにある広めの家に移り住むことになった。ある日、美里の誕生パーティーを開くことになり、2人の学校の友達を誘って盛大に行われた。若者の乱痴気騒ぎは壮絶であり、家の中はメチャクチャ…興奮した竜也とその仲間は近所の墓地で墓荒しまでやってのける…。翌日、竜也は目覚めるのだが、いつもと何かが違った…。
超バイオレンス&エロスな1編…イギリスってもっと紳士な国なのかと思ってたけど…アメリカと変わんないだなぁって、若者のパーティーの様子で思った(笑)いや、どこの国でも若者はこんな感じか?友成純一版“くりいむレモン”か?(笑)妹に欲情、近親相姦を友成的に描くとこうなるんですね(笑)読んでて、けっこう興奮してしまった。
闇が軋る
ロンドンに進出した割烹チェーンの支店長である料理人の前田は、ゴールダース・グリーンの安宿で寝起きしていた。ある日、そこに場違いな、見るからにイギリス紳士然とした男が引っ越してきた。その日から、階上の物音がやたらとうるさくなり眠れなくなった。職場の部下たちに相談すると、付近ではなにやら物騒な事件が多発しているらしいという情報が。そして、いつの間にやらら、それらの事件にヴァンパイアが関わっているのではないかという話に…。
またまた作風が変わり、一転してバトルホラー風。唯一、ハムステッドのお屋敷以外での惨劇を描いた物語であり、それぞれに関わってきたある人物がいよいよ本格的に表舞台へって感じかな?もちろん、この小説だけ、パっと読まされても独立して楽しめますよ。ラストのオチなんかも、ほんとホラー映画にありそうな、ブラックなオチで好きです。
黒魔術館の惨劇
大学助教授にして文芸評論家の原口秀雄は、研究留学の為に妻の容子と共にロンドンへやって来た。2人が住居に決めたのはハムステッドにある豪華な一軒家。越してきたばかりの頃は、大学に顔を出していた秀雄も、次第に書斎にこもりっきりで、屋敷に元からあった蔵書に囲まれて過ごすようになり、容子の相手もしなくなってしまった。最初こそ夫の態度に不満な容子だったが…夫のあまりの変わりように不審になり、何かが憑りついて、別人になってしまったのではと疑い始める…。
今までの集大成のような感じで、色々な要素をミックスさせた最終エピソード。一番最初の「幽霊屋敷」にも似ているなって思わせておいて、二点三転する展開がお見事。シリーズを通した種明かしもあり、非常に面白かった。
5本ともそれぞれ全く趣向の違う作品なんで、退屈しない。また、巻末の解説に書いてあったのだが、エピードの合間に挿入された幕間劇は単行本化の際に書き加えられたものだそうで…このおかげもあり、それぞれの短編が上手に繋がり、読後は長編小説のような壮大な物語へと昇華する。
個人的採点:75点