配達あかずきん 成風堂書店事件メモ  著:大崎梢 | 105円読書

配達あかずきん 成風堂書店事件メモ  著:大崎梢

配達あかずきん
成風堂書店事件メモ

大崎梢:著
東京創元社 ISBN:4-488-01726-6
2006年5月発行 定価1,575円(税込)








東京創元社のミステリ・フロンティアで配本された1冊…書店を舞台に、書店員が遭遇した、書籍に関する事件・珍事を描いた、ほのぼの系ミステリの連作短編だが、しっかりと中身は推理小説していて好感が持てる。新人作家さんらしいのだが、文章量も適度で、エンターテイメントとして非常に読みやすい仕上がり。実在の書籍タイトルや作家が、頻繁に出てくるのも読書好きにはたまらない。コミックの「金魚屋古書店」を、書籍全般に置き換え、ミステリーに仕上げたって感じかな(笑)

パンダは囁く

成風堂書店の店員・杏子は…中年女性客の中途半端なヒントから、勘を頼りに的確に書籍を探り当てた。それを見ていた他のお客さんから奇妙な依頼が…身体をこわして寝たきりになってしまった知り合いの読書家の老人に、本の差し入れを頼まれたのだが、リクエストの意味がさっぱりわからないと、暗号のような単語が書かれたリクエスト表を見せられた。杏子は、年下のアルバイト店員・多絵と共に、この謎を解き明かそうとする…。

暗号解読という推理ミステリの基本中の基本。意味不明な単語の羅列から、本の正体を探るんだけど…その本のタイトルが分かった時に、さらに大きな展開が!?本が好きな人だったら、もしや?って感づくかもしれないネタ。ミステリー好きだったら、使われるタイトルに、思わずニヤリとしてしまうのは確実でしょう。隠されていた真実こそ、現代ではあながちフィクションとも言い切れない内容で、ちょっと怖かったりもするのだが…最後はホっとさせる、いい感じの読後感を味わえる。連作の1発目として…作品の方向性が確認できる。


標野にて 君が袖振る

常連客だった70近い女性が、失踪…その娘が成風堂書店を訪れ、購入した本が原因で母親が失踪したと告げる。残されたレシートから、その女性が手にしたのはコミックの「あさきゆめみし」だということまでは突き止めたのだが、いったい何故、彼女は失踪したのか?そえいて何故コミックだったのか?杏子と多絵は母親探しに協力することに。

自分も「あさきよめみし」なんて、タイトルしか知らないくちだからなぁ…。ある和歌が、事件を解く鍵になってくるのだが、てっきり説明を聞いていて、重要人物の一人だった“教授”がホモなのかと、妙な勘ぐりを入れてしまったよ(笑)そうじゃなかったので、安心。さすが、そういうネタは似合わないよね、このシリーズに…。


配達あかずきん

成風堂書店が配達業務を承ってる得意先の美容院で、配達した雑誌の中から、美容院のお客さんの盗撮写真が出てきて大騒動が勃発。美容院の誰かが仕組んだいたずらではないかと、怒りをあらわにしているという。そんな噂が成風堂まで伝わってきて、雑誌を販売した杏子たちはあまりいい気分ではなかった。そんな時、バイト店員の吉川博美が配達中に怪談から落ちて怪我をしたという。後日、目撃者が現れ…どうやら博美は何者かに押されたらしい。そして博美の代わりに、配達に借り出された多絵は、あることに気づくのだった…。

うちの親も、毎週、知り合いの本屋に週刊誌を配達してもらってるなぁなんて考えながら読んでしまった。そんなに大それた事件ではないのだが、他に比べて入り組んでる印象を受ける。書店の店員だけじゃなくて、おせっかいな人がいっぱい出てきた(笑)、いやいや親切な人だって…。


六冊目のメッセージ

入院中に母親が買ってきてくれた数冊の本が素晴らしく、すごく助けられたので、それを選んでくれた書店の店員にお礼を言いたいと成風堂書店を訪ねてきた女性客がいた。対応した杏子は…相手から本のタイトルを聞き、社員たちに探りをいれるのだが該当者がいなかった。違う店ではないのかと、その女性客に聞き返すのだが、成風堂の店員に間違いないという…。いったい誰が本を選んだのだろうか?杏子はいつものように多絵を巻き込み、該当者探しを始めるのだが…。

書店に限らず、小売業特有の流通システムに関する事情なんかが、非常によく作品に反映されてるなって感じられる1本。他の作品とは違い、事件性のない展開なのもけっこう良かった。


ディスプレイ・リプレイ

将来、広告業界を志望している、アルバイト店員の角倉夕紀の希望で、ある人気コミックの販促企画として出版社が企画したディスプレイコンテストに参加することになった成風堂書店。夕紀の学校の仲間も手伝い、素晴らしいディスプレイが完成したのだが、何者かが、夜中に店に忍び込み、ディスプレイをメチャクチャにしてしまった…。犯にはどんな事物で、何の目的でだったのか?杏子と多絵は怒りをあらわにしながら真相を探る…。

オタクやネット社会を上手に皮肉ってるなぁって感じ。あと、客と店員の価値観の違い…シリーズ通して窺えることなんだけど、店員が全ての本を把握しているわけじゃないっていう現実、それだけ膨大な書籍が出ているんだから、よっぽどじゃないと中身まで理解してないよっていう現実が、如実に表れている作品だったかな。アニメ雑誌の発売日が10日だったら、もっとリアルだったのに(笑)


ミステリとしても非常によくできているんだけど、杏子と多絵のやり取りも読書好きなら、チクリとし刺激を受け、共感をおぼえ、思わず「うんうん」とうなずいてしまう。人に借りて一度読んだ本なのに、また自分で買ってしまう…それは好きな本は何度も読みたいし、手元に置いてあるとなんだか安心するって(笑)この部分って本当によくわかる。自分もね、100円で買ってきた積読本、読む前の本って…けっこう平気で、人にあげちゃったり、読まないうちに古本屋にまた売っちゃったり、ヤフオクに出品しちゃったり(笑)ってできるんだけど、一度読んじゃうと…たとえつまらなくても、自分の本棚にしまわないと気がすまないんだ。もしかしたら、その本に書いてある知識が、いつか必要になるかもしれないって考えちゃうんだよね。他にも同じ作家の、同じ作品を何冊も買ってしまうファンのエピソード(そこで使われる作家の名前も妙にリアルで笑うよ)とか、 毎回のように本好きの心理をよく分かってるなぁって感じの描写がたくさん出てくる。

もちろん本屋の店員のこともよく描けてるのね、なんか某大型書店の店員さんの姿と思わずダブらせちゃったりしたもん(笑)もうかれこれ10年近く前だけど、学生時代の友人が、その某大型書店でバイトしててさ、よく原価で新刊本、買ってもらったりしたっけなぁ…その時に聞いた仕事の話とソックリなんだもん。本を大事にしない、知名度でしか価値が判断できないブックオフの店員とは大違い(笑)100円コーナーで買っててなんだけど、ブックオフのバイトのにーちゃん、ねーちゃんたち…この本を読んで、接客態度や本への愛着度を見習って欲しいね。なんかね、ブックオフの100円コーナーで買って読むなんて、作者に失礼だなって思わせる、たまには通常の本屋でも本を買ってあげなきゃなって気分にさせる(あくまで気分ね、自分は雑誌とコミックは新刊で買ってるので、まぁいいだろう)本ですよ。

このシリーズが長編になった続編も出ているそうで、また探さないと…、そっちも読みたい!?






個人的採点:75点