安楽椅子探偵アーチー 著:松尾由美
- 安楽椅子探偵アーチー
松尾由美:著
東京創元社 ISBN:4-488-43905-5
2005年10月発行 定価735円(税込)
椅子が喋って、探偵並の名推理を働かす…劇中のセリフにもあったが、文字通り“安楽椅子探偵”(本来は人づてに聞いた話なんかだけで、事件の真相を看破しちゃう名探偵のことだけど)という洒落っけタップリのぶっ飛んだ設定が面白い…松尾由美の「安楽椅子探偵アーチー」。設定こそSF・ファンタジーっぽさも否めないが…名探偵コンナンが椅子になったと解釈すれば(笑)アレと同じようなもんで、ちゃんと推理小説として楽しめます。中身は短編4本からなる連作形式で、2003年に発刊されたハードカバーを文庫化したもの。
第一話 首なし宇宙人の謎
小学生の及川衛は、最新のゲーム機を親から買ってもらうため、購入資金を持って出かけるが…たまたまアンティークショップの店先で見かけたひじ掛け椅子に惹かれて購入ししまったのだが、なんと、その椅子は人間の言葉を理解し喋ることができるというのが判明。それ以来、衛のよき友人となった…。ある日、衛は学校で不思議な事件に遭遇。同級生の男の子が家庭科の実習で作った巾着袋が何者かの悪戯で切られてしまった。その巾着には宇宙人のイラストが描かれていたのだが、まるで首が切られたように見えたのだ…。推理小説好きの野山芙紗と事件の真相を考え始める衛だったが、“椅子”に聞かせると、たちまち謎を解いてしまった!?
タイトルだけ見ると、基本設定がアレだけに…事件もSFなのかと思ってしまうが…主人公、衛くんが学校で遭遇した些細な事件だった。前半はアーチとの出会い、後半は事件を推理小説の密室殺人風に見立てて、それをホームズよろしく、アーチーが名推理で事件を解決するという、以降の物語のパターンを確立している。クライマックスで最初は名無しだった“椅子”が、ようやくアーチーと名づけられる。
第二話 クリスマスの靴の謎
衛の父親が、酔っ払い同士の現場から他人の靴を拾ってきた。落とし主を見つけて声をかけたのだが、その人物が慌てるようにして逃げ出したので、その靴に何か秘密があるのではと思ったようだ…。何も発見できなかったので、交番に届けようと思うという父から、靴を預かった衛はその謎をアーチーに解かせようとするのだが…。
イチバン、安楽椅子探偵らしさが出ていた1本であったが、もちろん人が殺されたりなんて、陰惨な事件には発展しません。ひとつの事件を解くことで、さらに他の事件も浮かび上がってくるパターンで、証言や証拠からどんどん謎を解いていく雄弁なアーチーがなかなか爽快。
第三話 外人墓地幽霊事件
学校の行事で横浜の外人墓地に社会科見学に訪れた衛、クラスメイトで推理小説好きの芙紗が、立ち入り禁止の看板で見つけた妙な落書きが、何かの暗号ではと騒ぎ出した。さらに同じ外人墓地でシシー・スペイセク似に謎の女性が不可解な行動をしているのを目撃。2人は、二つの事柄を結びつけ、何かの事件ではと探り始める…。
今度こそ超常現象ものか?とは、もう思わないですね(笑)…第1話の宇宙人同様に、アーチーの存在以外は地に足の着いた物語。連作推理小説には付き物ですね、暗号解読もの。小学生の女の子が、幽霊みたいな謎の女をつかまえて、「昔のシシー・スペイセクみたい」と表現するところが、なんか笑ってしまう。おまえ、いつの小学生やねん…さすが推理小説マニア、映画も通なんでしょうね(爆)
第四話 緑のひじ掛け椅子の謎
芙紗が購読している小説雑誌の新人賞の応募作品の中に、アーチーの生い立ちそっくりの話があるのを発見。もしかしたら、アーチーが唯一、衛にお願いしている頼みごとである、二番目の持ち主の行方を知りたいという希望に関係があるのではと、2人は真相を確かめ始めるのだが、小説の作者らしい人物から遂に連絡が…。
アーチーの生い立ちの解明編であり、他の短編に比べ、推理小説というよりはスパイ小説っぽい部分が濃厚。そんな~と思ってしまう展開もあるが、基本設定がぶっ飛んでいるので、このくら大目にみちゃえるかな(笑)連作らしく、今までの事件で出てきた伏線が、パズルのようにはまるところは、なかなか上手。
思ったほどキワモノでもなく、それこそシャーロック・ホームズなどと同じようなアームチェア・デティクティブものとして普通に楽しめる。
個人的採点:65点