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黒の狩人 下 著:大沢在昌【新刊購入】

黒の狩人 下 黒の狩人 上 

大沢在昌:著
幻冬舎 ISBN:978-4-344-01560-9
2008年9月発行 定価1,785円(税込)









ちょっと時間がかかってしまったが、大沢在昌の2巻組の最新刊「黒の狩人」を上巻に続き下巻も読み終わる。

公安からの依頼で中国人連続殺人事件を追う新宿署の佐江…少しずつ真相に近づいてきたところへ、今度は事件に関係する暴力団が何者かに射殺されてしまった。さらに、中国側から事態の収拾をするために派遣されてきた中国安全部の人間と、佐江が行動を共にしていた中国人通訳・毛の間に因縁めいた関係が発覚。事件の真相解明よりも公安と中国安全部との情報の駆け引きが優先されはじめた…。

佐江さんのパートナーになった通訳の毛の正体やら、身分を偽った理由なども物語に大きく関わり始める。狩人シリーズというのは、いわば大沢在昌版の“相棒”みたいな作品だよなぁと、改めて実感(笑)

とある倉庫で、ヤクザに囲まれての大立ち回りなど、アクションの見せ場も盛り上がったし、関係者が一堂に会して落とし所を探り合うラストの緊張感も「狼花 新宿鮫Ⅸ」のラストを彷彿とさせる。

ショカツの刑事と公安との確執など、元々、新宿鮫と似ているといえなくもないし…確か「北の狩人」では鮫島らしき人物の記述が出てきて、ニヤリとさせられた記憶があるなぁ。

中国人殺しの首謀者探しで、延々とひっぱる手腕は見事だったが、クライマックスで発覚するどんでん返しな展開は、前半での伏線が親切だったので、わりと早い段階で、こうくるだろうと読めましたね。あの人物が出てきた時点で、ほら、やっぱりこうきたかな感じ。殺し屋の鋒や、国家安全部の何あたりも、もうちょっと強敵だったら良かったかな?と思うところもあり。でも、最後まで楽しめたのは確かです。






個人的採点:80点






黒の狩人 上 著:大沢在昌【新刊購入】

黒の狩人 上 黒の狩人 上

大沢在昌:著
幻冬舎 ISBN:978-4-344-01559-3
2008年9月発行 定価1,785円(税込)









新聞広告で見かけて、あわてて買ってきた、久々の新刊購入本を…他の積読本を後回しにして読み始める。新刊で出たら、買うことに決めてる稀有な作家、大沢在昌の…「北の狩人」「砂の狩人」に続く、狩人シリーズ三作目。ハードカバーで上下巻組…約3500円。いつもの35倍だが(笑)、まぁ、いつも100円で楽しませてもらっているから、本当に好きな作家くらいちゃんと新刊で買ってあげないとねぇ…。

中国人ばかりを狙った殺人事件が発生…共通項は、“五岳聖山”の刺青だけだった…。発生場所も異なるこの事件を、特命で担当することになった新宿署の組対課の佐江…上層部の命令で“毛”と名乗る中国人通訳と一緒に行動をすることに。一方、外務省の野瀬由紀は個人的に事件に興味を持ち、情報を得るために付き合っている公安部の警部補・水森を巻きこんで調査を始めるのだが…。

主人公は毎回違うのだが、新宿署の中年刑事・佐江さんが主人公にひっぱりまわされる、事件に大きく関わってしまうというのがシリーズのお約束となっているのだが、今回はわりと、その佐江さんが中心になって物語が展開していくように感じる…とりあえず上巻を読んだ限りでは。

佐江さんと行動を共にするのが、怪しげな中国人通訳と、外務省の美人役人で、中国人犯罪や外交問題を絡めた壮大なストーリーが紡がれていく。スパイやら殺し屋やらの影もちらつかせながら、ようやく事件の外郭が浮き彫りになってきたあたりで上巻は終了となり、事件の核心部分の解明は下巻へ続く感じ。

中国名の登場人物が多く、その関係も複雑に入り組んでるの、相関図を把握するのが大変だし、最初の方は何が起きているのかつかめない。地道な聞き込み捜査の過程が続き、アクション的なものはまだ控えめであったが…一気に読ませる求心力は相変わらずで、あっという間に400ページを読み終わる。この調子だと下巻も楽しみだな。






個人的採点:75点






誰もわたしを愛さない 著: 樋口有介

誰もわたしを愛さない 誰もわたしを愛さない

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45908-6
2007年9月発行 定価882円(税込)









創元推理文庫の改訂版、柚木草平シリーズの第六作目、いろいろな諸事情でオリジナル(講談社版)の刊行順と変更されているそうだが…その事情について伯方雪日という作家が巻末で書いている解説がなかなか笑える。本当にそんな事情で?

行きずりの犯行に見えた、女子高生ラブホテル殺害事件…編集部の依頼で、この事件をルポすることになった柚木草平は、新米の女性担当編集者に発破をかけられながら、被害者の女子高生の調査を開始。最初は乗る気ではなかったが、調べるうちに変なひっかかりを感じ始め…。

ひとつ前に読んだ「夢の終わりとそのつづき」は、柚木シリーズのエピソード0的な物語で、他の作品を柚木作品に書き変えたなんて経緯からも、違和感を感じ、ある意味、それが新鮮にも感じたわけだけど…ようやく、いつもどおりの柚木草平シリーズが戻ってきたなという印象。それもそのはず…これが実際は中編集「探偵は今夜も憂鬱」に続く、シリーズ第4作目なのだそうだ。

事件の背景などは、過去の他の青春ミステリー系で、同じような題材を扱ってたよなぁ?ってところもあるんだけど…犯人なんかは、変えてきてるね。オリジナル発刊時には、帯で犯人がバラされてたとか、著者があとがきで語っていて…この作品はトリックや犯人探しで勝負するような作品じゃないと、担当さんに言われたのだとか(笑)

確かにね…その帯でのネタばらしがなくても、犯人だったキャラが出てきた瞬間に、樋口作品のパターンなんかで、本文だけでもコイツだなって気づきます(笑)

愛人の冴子さんや、娘の加奈子とのやりとりも相変わらずだが、草平を担当することになった新米編集者の直海ちゃんのキャラがなかなか。柚木を惑わす飛びぬけた美女ではないんだけど、とぼけた可愛さ、ズレた感じが…「刺青白書」に出てきた女子大生の鈴女にも似ているかななんて…。正規の発刊順で行くと、鈴女が直海に似てるのか?






個人的採点:70点






夢の終わりとそのつづき 著:樋口有介

夢の終わりとそのつづき 夢の終わりとそのつづき

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45907-9
2007年7月発行 定価777円(税込)









創元推理文庫の樋口有介を発刊順に続けて読んでたんだけど、前回読んだ「風少女」 と、今回の「夢の終わりとそのつづき」の間に、「林檎の木の道」が出ていて、それも100円でGETしてあるのだが…実は中央公論の中公文庫版で読んじゃってたので、とりあえずスルーしました。重複承知だったけど創元推理版も集めたかったし、著者あとがきと、巻末解説だけでも読もうかなと…。

で、「夢の終わりとそのつづき」…柚木草平シリーズに戻ってきました。ただ、これまた他の草平シリーズとちょっと違って、著者がデビュー前に書いて、過去に「ろくでなし」というタイトルで発刊されていた別作品を、主人公を柚木草平に置き換えてアレンジ…しかも年齢を3歳ばかり若くして、警察を辞めた直後の…シリーズ、エピソード0的な位置づけとして発表された作品という、変な作品。

警察を辞めて8か月、雑誌への寄稿で食いつないでいる柚木草平の元へ、名前も名乗らない正体不明の美女が現れ、仕事を依頼する。内容は、ある家に出入りする男の尾行。何も詮索はせず、ただ1週間、尾行するだけで200万円の報酬を払うという。奇妙な依頼だったが、大金に目がくらみ依頼を受ける草平…さっそく仕事に取り掛かるのだが、ターゲットの男は1日中、買い食いをしながら東京中を歩き回っているだけだった。退屈な仕事にうんざりした草平は、行きつけのスナックの経営者・夢子に尾行の代理を任せる。推理小説好きの夢子は喜んで引き受けるのだが…夢子が尾行している最中に男は、公園のトイレの中で死亡。その死因はなぜか餓死だった…。

確かに皮肉屋で、女にだらしがなくて、貧乏で…って、間違いなくおなじみの柚木草平なんだけれども、いつもより年齢を若く設定したということで、渋さよりも、もっと青臭さを感じる草平が描かれているので、なんか違和感が。違う作品に当てはめたという結果もあるんだろうけど、不思議な感じ。

この違和感を、年齢を若返らせたという設定でカバーしてるんだろうけど…。行動パターンがちょっと違うところとか、事件に関わってくる美女たちとの関係もいつもより深めとか、ある状況に陥った草平のマヌケっぷりなんかは、確かに新鮮さは感じた。

シリーズを読んできた人にはおなじみになっている、刑事を辞める原因になった事件なんかも大きく関わってくるので、そういうところは面白いんだけれども、推理小説やハードボイルドっていうよりは、スパイ小説的な、ややスケールのでかい展開?

これが、柚木草平シリーズではなかったら、もしかしてSF?みたいな描写にも、もっと驚きがあっただろうが…他のシリーズにつながっていくその後の展開が既にあるわけで、それらが否定の材料になってしまって、ちょっともったいないか?SFであるわけがないということから、おのずと事件の核心部分も簡単に推理できてしまう。






個人的採点:65点






風少女 著:樋口有介

風少女 風少女

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45905-5
2007年3月発行 定価680円(税込)









このところ、創元推理文庫の樋口有介を発刊順に続けて読んできたんだけど、今回は柚木草平シリーズではなく、過去に他社から出ていた著者のデビュー2作目を、再文庫で改訂したもの。実は、改訂前の文春文庫版も手元にあるんだけど、先に改定版を読んでしまった…オリジナルの方はとりあえずコレクション用ということで、気が向いて再読する時は、そちらを読んでみるつもり。

父親が危篤ということで、前橋に帰省した大学生の斎木亮は、駅前で偶然、中学時代に好きだった川村麗子の妹、千里と出会うのだが、そこで麗子が最近事故死した事を知らされる。その場はそのまま別れ、父の待つ実家へ…しかし既に父親は亡くなっていた。後日、葬儀の合間に亮を訪ねてきた千里は…姉の事故死に納得でないことをと訴え、二人は真相解明のため、亮や麗子の中学時代の同級生たちに接触をはじめる…。

「刺青白書」を読んだ後だと…ミステリ的には地味かな?とも思えるけど…著者の得意なオーソドックスな青春ミステリものとしては、今回も十分に楽しめる内容。これがデビュー二作目だということだが、デビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」や、その後の青春ミステリ路線の作品同様に、初恋やら同級生という、ホロ苦さがじんわりと、心に沁みる、相変わらずの内容。

樋口作品と言えば、主人公が複雑な家庭というのも定番だが…今回の主人公も、かなりきている。死んだ親父というのも、母親の再婚相手で、二度目の父の葬儀を経験中。で、上には二度目の父親の連れ子である、姉がいて、その二度目の父親と母親の間に生まれた妹もいると。家族の中での微妙な立ち場が、さらに物語を面白くしていた。

まぁ、こんな環境で育てば…皮肉屋のひねくれた男になるわなぁという説得力あり(笑)で、中学時代に玉砕した初恋の相手の妹まで出てきて、主人公に付きまい…振り回される。なんか、妹・姉萌え要素たっぷり…健全な男子だったら、脳内妄想でこの手のシュチエーションを夢見たことあるんじゃないかと思える人間関係を、健全かつビビッドに描いているのがけっこう秀逸で気に入っている。

この作品はミステリよりも、こうした人間ドラマだなぁなんて油断してたら、肝心な犯人探しも、そこへたどり着く過程、被害者の発見された現場の様子などから…真犯人に迫って行ったり、その伏線になっていた前フリの小道具の使い方なんかも、けっこうちゃんと推理小説してて良かったです。

樋口有介って、設定が似かよっていたりもするんだけれども、どれを読んでも安心して物語が楽しめるなぁと、やっぱり関心。この先、もうちょっと樋口作品を続けて読もうと思っているところ…。






個人的採点:75点






刺青白書 著:樋口有介

刺青(タトゥー)白書 刺青白書

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45904-8
2007年2月発行 定価780円(税込)









前回に続き、樋口有介の柚木草平を読む。シリーズ4作目なのだが、実は番外編なんだとか…それは、草平が脇役になっているからで、ちょっといつもと雰囲気が違う。初出は2000年の講談社で、創元推理文庫の加筆・修正版が初文庫化なんだとか。


売り出し中のアイドルが自宅マンションで惨殺され、その直後にアナウンサーに内定が決まった女子大生が隅田川で溺死した。一見、関係のなさそうに見えた事件だが…実は中学時代の同級生だった。そしてその2人と同級生の女子大生、三浦鈴女は、ひょんなことから事件に首をつっこんでしまう。一方、フリーライターの柚木草平はアイドル殺害事件のレポートを雑誌編集部に依頼され、事件を追っており、殺された二人が同じ刺青を入れていたという事実を突き止める!

なるほどなるほど…番外編と言われるわけだね。いつもの柚木草平のハードボイルド風の作品ではなく、どちらかというと樋口有介のもうひとつの得意分野である青春ミステリーの中に、草平が出てくるというような趣向になっているわけか。巻末の著者あとがきや、解説にも書いてあったが、いつもは一人称だけど、この作品は三人称で書かれているから、雰囲気が全然違うわけだね。

ボーっとしてる女子大生の鈴女(スズメ)ちゃんが、同級生殺人の謎を追い…中学の時に片思いしていた男の子と探偵ごっこして微妙な関係になりつつ…みたいな、展開のお話がメイン。いつもは渋い草平も、女子大生から見ると、変なオヤジ?

で、いつもの草平視点じゃないから…一歩引いた感じの文章がなかなか新鮮。事件捜査以外のところでは何をしてるのだろうか?山川警部補が電話をした時に、ベッドにいたのはやっぱりあの人なのか?と、ちょっと気になったりもしてしまう。

話の本筋の方も…アイドルが凄惨な殺され方をする導入部からしてインパクト大。登場人物も、ちゃんと怪しく描かれていて、コイツが犯人か?と疑わせて、ちゃんと引っ張るし…読者として犯人の目星がついた後にも、えっというどんでん返しがちゃんとあり、推理小説的な醍醐味を充分味わえる。イジメや自殺などの社会問題も盛り込まれているし、若者文化なんかもいつもよりしっかりと描かれているように感じた。加筆・修正がしてあるからか…2000年の作品にしては古臭さも全く感じない。

番外編ということだが、シリーズの中で一番面白く、いくつか読んできた樋口作品の中でも、個人的にはベストに入れてもいいと思える作品。あとがきで、担当編集者に「もうひと息」と言われてショックを受けたなんてエピソードが披露されていたが、読者はちゃんと楽しみましたよ!著者本人も、今回の文庫化で改めて読み直して「どこがもう一息だ…傑作じゃん」と自画自賛してて、笑わせてもらった。





個人的採点:85点






探偵は今夜も憂鬱 著:樋口有介

探偵は今夜も憂鬱 探偵は今夜も憂鬱

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:4-488-45903-X
2006年11月発行 定価720円(税込)









今年になって「彼女はたぶん魔法を使う」の創元推理文庫版を読んで、ハマリはじめた樋口有介…これもまた、過去に講談社で出ていた作品の創元推理文庫、復刊版。元刑事で、今ではしがないフリーライター…アルバイトで探偵のまねごとをする柚木草平シリーズの3作目で、初の中編集だとか…。

雨の憂鬱

吉島冴子の紹介で、エステ・クラブ社長、園岡えりからの依頼を受けることになった柚木草平。亡き夫の妹の奈保子が、変な男に付きまとわれて、トラブルになっているので、解決して欲しいということだったのだが…調査を始めた矢先にえりが、殺されてしまった!

いい女だなぁ~っていつもの病気で一目惚れした女が、口説く間もなく殺されてしまうという…ちょっと長編二作目の「初恋よ、さよならのキスをしよう」の初恋相手が殺された事件とちょっとダブるかなって感じた。

人が殺されているし、こう思わせておいて、実はこっち…みたいな、ミステリー的なオチは、今回の3本の中でいちばんうまく効いていたように思う。


風の憂鬱

ナンバー10の葉子ママからの紹介で、芸能事務所社長の久保田輝彦に引き合わされた柚木草平…実は有名女優の沢井英美が行方不明になっており、マスコミに知られずに、探しだしてほしいということなのだが…。

芸能人の失踪を調査する話…調査をサポートする女優のマネージャーがなかなか。探し当てた女優さんと草平がなんかいい感じになるのかな?なんて思っていたら…いわゆる、そういうお約束のヒロイン役が、マネージャーの方だったわけで。

草平とこの女マネージャーの会話などをしっかりと読んでいると、ピーンっと引っかかる箇所があり。草平の踊らされっぷりが愉快。


光の憂鬱

2丁目のバー、クロコダイルのマスターに呼び出された柚木草平。そこには前に一緒に飲んだという和実という女が待っていて、友達の悩みを解決してほしいという。その内容とは、和実の知り合いで雑貨店の美人オーナー外村世伊子に、山で遭難して死んだ筈の夫から三年ぶりに手紙が届いたというのだ…。

“死者からの手紙”なんて出だしは一番ミステリアスであったが…真相はそんなに奇を衒ったものではない。それよりも、途中でほっぽり出した書きかけの原稿が仕上がったかどうか、気になってしまうよ(笑)



とりあえず、どれも…美人と金の誘惑に駆られて、事件に首をつっこんでしまうというお約束のパターン、やっつけ仕事で適当にって思っているうちに、けっこう本気になっちゃう草平。

中編ということで…登場人物が少ないので、犯人当てはわりと容易。会話の節々なんかに、伏線がしっかりと隠れており、ちゃんと読んでいると、けっこう真相にたどり着ける。

作者はあとがきで、長編に比べて短編や中編は苦手なんだよなぁとこぼしたりもしているのですが…どれも無理なく、こざっぱりとまとまっており、読みやすい。

相変わらず、女性に対する皮肉なセリフがどれも愉快。でも、男としては、こんなセリフを吐いてみたいよなって何度も思うわけで…実際に真似したら、大間抜けだろうけど、草平が言うと、かっちょいいんだよなぁ。






個人的採点:75点






ぎぶそん 著:伊藤たかみ

ぎぶそん ぎぶそん

伊藤たかみ:著
ポプラ社 ISBN:4-591-08663-1
2005年5月発行 定価1,365円(税込)









まだCDじゃなくてレコードが主流だった時代、ゲームだってファミコンが主流だった時代~、昭和の終わりころのバンド少年&少女の青春物語…漫画家ゴツボ×リュウジのイラストに惹かれて表紙買い。知らなかったけど、同じゴツボ×リュウジでコミック化もされてるらしい…ブックオフで探そうっと。

ガンズ・アンド・ローゼスを聴き、自分たちのバンドでコピーしたいと考えた中2のガクは、学年では変わり者で通っている、かけるがギターの腕前はピカイチという噂を聞きつけ、自分たちのバンドに誘うとするのだが…。

昭和から平成に変わった年に中2だったって…ちょうど同じくらいやんか、自分と…どおりで、こいつらの発想が懐かしく感じるわけだな(でも、コイツらほどアホではなかったよ)。

ノリは関西なんだけど…時代的なものにビビっとくる。もちろん、中学生の甘酸っぱい青春恋バナなんて、普遍的なもんだから…誰が読んでもおもろいと思うけど。いや、今の中学生、こんなに純情じゃないか?

音楽の話の方も、大きなコンテストに出るとか、プロになるって話じゃなくて…文化祭で発表という、等身大のリアルさに思いっきり感情移入できる。中2が命をかけるのは、こんなレベルですよ、やっぱ。

何故、天皇陛下が病気だと、俺らまで自粛せなならんのか?あの独特な雰囲気も、今では懐かしい記憶のひとつだな。本当に、いろいろなイベントが中止になったよ。






個人的採点:70点






怪盗グリフィン、絶体絶命 著:法月綸太郎

怪盗グリフィン、絶体絶命 怪盗グリフィン、絶体絶命

法月綸太郎:著
講談社 ISBN:4-06-270578-8
2006年3月発行 定価2,100円(税込)









久々にミステリーランドを古本GET!「かつて子どもだったあなたと少年少女のため」をうたい文句に、有名ミステリー作家が子供向けな体裁をとりつつ、大人も楽しめる本格ミステリーを繰り広げる人気のシリーズ。この法月綸太郎作品は、発刊当時のこのミスべスト10、上位に入っていたので、気になっていた。

怪盗グリフィンの元に、メトロポリタン美術館にあるゴッホの絵画を盗み出す依頼が舞い込む。実は、美術館に所蔵されている絵が偽物で、手元にある本物とすりかええてほしいというのだが…。しかし、この奇妙な依頼は事件の始まりにすぎず、ひょんないきさつからCIAの仕事を手伝わされる羽目になったグリフィンは…国の極秘任務でカリブ海のボコノン島へ向かう!

少年幼女向けっぽい冒険譚の連続…第二部あたりになると、ちょっとスパイ小説的な王道ぶりが発揮され、007みたいな展開が好きなので、思わずニンマリ。で、クライマックスにはしっかりと、どんでん返し的な駆け引きが盛り込まれており、軽妙な文体ながら、けっこう楽しませてもらった。適度なブラックユーモア、ジョークが絶妙。

過去に読んだ他の作者のミステリーランド作品に比べると、ボコノンの歴史云々のくだりだったり、美人エージェントと偽装夫婦になったりの展開(恋愛関係に発展したり、お国のためにHしたりはなかったけど)が、やや大人向きすぎるようにも感じるが、だからこそこのミスなんかでも支持されたのかな?

確かにこのシリーズ、大人が読んでもはずれは少ないが、やっぱり定価2100円はかなりのネック。気長に、ブックオフでの収集を続けます。






個人的採点:70点






インディゴの夜 著:加藤秋実

インディゴの夜 インディゴの夜

加藤秋実:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-46801-9
2008年3月発行 定価714円(税込)










ミステリフロンティア配本作品の文庫化…今年文庫で出たばかりなのに、表紙が汚れてたから、ブックオフでもう100円コーナーに落とされてました、ラッキー♪TV化された「モップガール」の作者なので、気になってました。内緒でホスト経営してるライターとホスト仲間が事件を解決していく連作短編。

インディゴの夜

個性的な男の子が接客するホストクラブがあればいい、自分が発した一言で知り合いの編集者・塩谷と共にホストクラブのオーナーをすることになったフリーライターの高原晶。そして今では渋谷の人気店になったホストクラブ“club indigo”…ある晩、晶が店の仲間たちと飲んでいるときに、ホストの一人から電話が!常連客の一人が殺されたと…。

キャラやホストクラブなど設定の説明的な描写にも配慮しつつ、殺人現場に残されていた不自然なメッセージなどしっかりとした伏線やどんでん返しが利いたミステリーになっていた。犯人だった某登場人物も、言動や動きを見ていると怪しいとピンっとくるし、短編としての按排のうまさを感じた。


原色の娘

“club indigo”のホスト・ジョン太が、知人から小学生の女の子、祐梨亜を預かることになったのだが、まわりまわってその子の面倒をみる羽目になってしまった晶。ある晩、黙って祐梨亜が行方をくらませてしまい大慌て。いなくなる前に、別のホストクラブのナンバーワンホストとプリクラを撮りたいと言い出していたのを思い出し…。

表題作に比べると、ミステリーとしては普通。ただ、小娘に引っ張りまわされる晶やホストたち…男勝りの晶に、女っぽさが垣間見えたり、ナンパな感じのホストたちが、意外とまじめないいやつだったりという、キャラの一面はよく描けていた。渋谷だったら普通にありそうな、無知な子供が犯罪に巻き込まれるという警告めいたお話。ませたガキがお小遣い欲しさに、知らないおっさんについていっちゃうなんて、日常茶飯事なんだろうなぁ。


センター街NPボーイズ

知り合いのオカマ、なぎさママからの依頼で、渋谷区長の娘をハメ撮りし、恐喝してきた犯人の確保と、写真の処分を依頼された晶たちは…“club indigo”のホストの協力のもと、ナンパ師に注目。該当者を探し始める…。

これも「原色の娘」と似たくくりだな…ミステリーとしては無難な展開。ナンパ用語と、ハメ撮り投稿雑誌のリアルな描写になるほどと、関心(笑)「ナンパも命がけ!」と豪語するナンパ師のにーちゃん凄すぎ。そしてなぎさママの活躍は、ちょっと卑怯だろ!


夜を駆る者

“club indigo”を突然やめたホストのBINGOから久々の電話が…しかし相手は切羽詰まった様子で「助けて」と言い残したまま、電話は切れてしまった。その直後、“club indigo”のメンバーの前に、BINGOの常連客の一人だったキャバ嬢ハルカが半裸姿で現れ、やはり助けを求めてきたのだが何者かに拉致されてしまう…。そして翌朝、BINGOの死体が発見され…。

導入部のインパクトはなかなか…物語の核は、晶が他のホストクラブに潜入するって展開に。割と…自分がイメージしているホストクラブってこんなとこ?な雰囲気。本当のオーナー2人を支えている“club indigo”の表オーナー憂夜さんの正体がわかるかなって思ったけど、ここでも判明せず。続編があるようだから、そっちまでお預け??



キャラクターの描写が面白く、軽めの文章の中に、出版業界とホストクラブ、風俗業界の内情などが意外とリアルに描写もされている。渋谷、新宿、池袋の盛り場の雰囲気をよく伝わってくる。ただ、石田衣由の「池袋ウエストゲートパーク」的なノリに近いところがあり、語り手の主人公をヤンチャな三十路女、周りのチーマー軍団をホストに変えたような印象も受ける。

作品の発端でもあるのだが、一般的なホストらしくないホストという設定だからこそ、チーマー的なイメージとダブッてしまうのかも?ただ、単純にエンターテイメントとして面白く読めたのは確か。

巻末の荻原浩の解説を読んで判明したのだが、TVの「モップガール」と原作は全くの別物だそうで(笑)、あの「トゥルー・コーリング」のパクリドラマを痛烈に批判していた。「モップガール」の原作も読みたいなぁ、100円コーナーにないかなぁ?






個人的採点:65点