刺青白書 著:樋口有介

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45904-8
2007年2月発行 定価780円(税込)

前回に続き、樋口有介の柚木草平を読む。シリーズ4作目なのだが、実は番外編なんだとか…それは、草平が脇役になっているからで、ちょっといつもと雰囲気が違う。初出は2000年の講談社で、創元推理文庫の加筆・修正版が初文庫化なんだとか。
売り出し中のアイドルが自宅マンションで惨殺され、その直後にアナウンサーに内定が決まった女子大生が隅田川で溺死した。一見、関係のなさそうに見えた事件だが…実は中学時代の同級生だった。そしてその2人と同級生の女子大生、三浦鈴女は、ひょんなことから事件に首をつっこんでしまう。一方、フリーライターの柚木草平はアイドル殺害事件のレポートを雑誌編集部に依頼され、事件を追っており、殺された二人が同じ刺青を入れていたという事実を突き止める!
なるほどなるほど…番外編と言われるわけだね。いつもの柚木草平のハードボイルド風の作品ではなく、どちらかというと樋口有介のもうひとつの得意分野である青春ミステリーの中に、草平が出てくるというような趣向になっているわけか。巻末の著者あとがきや、解説にも書いてあったが、いつもは一人称だけど、この作品は三人称で書かれているから、雰囲気が全然違うわけだね。
ボーっとしてる女子大生の鈴女(スズメ)ちゃんが、同級生殺人の謎を追い…中学の時に片思いしていた男の子と探偵ごっこして微妙な関係になりつつ…みたいな、展開のお話がメイン。いつもは渋い草平も、女子大生から見ると、変なオヤジ?
で、いつもの草平視点じゃないから…一歩引いた感じの文章がなかなか新鮮。事件捜査以外のところでは何をしてるのだろうか?山川警部補が電話をした時に、ベッドにいたのはやっぱりあの人なのか?と、ちょっと気になったりもしてしまう。
話の本筋の方も…アイドルが凄惨な殺され方をする導入部からしてインパクト大。登場人物も、ちゃんと怪しく描かれていて、コイツが犯人か?と疑わせて、ちゃんと引っ張るし…読者として犯人の目星がついた後にも、えっというどんでん返しがちゃんとあり、推理小説的な醍醐味を充分味わえる。イジメや自殺などの社会問題も盛り込まれているし、若者文化なんかもいつもよりしっかりと描かれているように感じた。加筆・修正がしてあるからか…2000年の作品にしては古臭さも全く感じない。
番外編ということだが、シリーズの中で一番面白く、いくつか読んできた樋口作品の中でも、個人的にはベストに入れてもいいと思える作品。あとがきで、担当編集者に「もうひと息」と言われてショックを受けたなんてエピソードが披露されていたが、読者はちゃんと楽しみましたよ!著者本人も、今回の文庫化で改めて読み直して「どこがもう一息だ…傑作じゃん」と自画自賛してて、笑わせてもらった。
個人的採点:85点