風少女 著:樋口有介 | 105円読書

風少女 著:樋口有介

風少女 風少女

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45905-5
2007年3月発行 定価680円(税込)









このところ、創元推理文庫の樋口有介を発刊順に続けて読んできたんだけど、今回は柚木草平シリーズではなく、過去に他社から出ていた著者のデビュー2作目を、再文庫で改訂したもの。実は、改訂前の文春文庫版も手元にあるんだけど、先に改定版を読んでしまった…オリジナルの方はとりあえずコレクション用ということで、気が向いて再読する時は、そちらを読んでみるつもり。

父親が危篤ということで、前橋に帰省した大学生の斎木亮は、駅前で偶然、中学時代に好きだった川村麗子の妹、千里と出会うのだが、そこで麗子が最近事故死した事を知らされる。その場はそのまま別れ、父の待つ実家へ…しかし既に父親は亡くなっていた。後日、葬儀の合間に亮を訪ねてきた千里は…姉の事故死に納得でないことをと訴え、二人は真相解明のため、亮や麗子の中学時代の同級生たちに接触をはじめる…。

「刺青白書」を読んだ後だと…ミステリ的には地味かな?とも思えるけど…著者の得意なオーソドックスな青春ミステリものとしては、今回も十分に楽しめる内容。これがデビュー二作目だということだが、デビュー作の「ぼくと、ぼくらの夏」や、その後の青春ミステリ路線の作品同様に、初恋やら同級生という、ホロ苦さがじんわりと、心に沁みる、相変わらずの内容。

樋口作品と言えば、主人公が複雑な家庭というのも定番だが…今回の主人公も、かなりきている。死んだ親父というのも、母親の再婚相手で、二度目の父の葬儀を経験中。で、上には二度目の父親の連れ子である、姉がいて、その二度目の父親と母親の間に生まれた妹もいると。家族の中での微妙な立ち場が、さらに物語を面白くしていた。

まぁ、こんな環境で育てば…皮肉屋のひねくれた男になるわなぁという説得力あり(笑)で、中学時代に玉砕した初恋の相手の妹まで出てきて、主人公に付きまい…振り回される。なんか、妹・姉萌え要素たっぷり…健全な男子だったら、脳内妄想でこの手のシュチエーションを夢見たことあるんじゃないかと思える人間関係を、健全かつビビッドに描いているのがけっこう秀逸で気に入っている。

この作品はミステリよりも、こうした人間ドラマだなぁなんて油断してたら、肝心な犯人探しも、そこへたどり着く過程、被害者の発見された現場の様子などから…真犯人に迫って行ったり、その伏線になっていた前フリの小道具の使い方なんかも、けっこうちゃんと推理小説してて良かったです。

樋口有介って、設定が似かよっていたりもするんだけれども、どれを読んでも安心して物語が楽しめるなぁと、やっぱり関心。この先、もうちょっと樋口作品を続けて読もうと思っているところ…。






個人的採点:75点