夢の終わりとそのつづき 著:樋口有介

樋口有介:著
東京創元社 ISBN:978-4-488-45907-9
2007年7月発行 定価777円(税込)

創元推理文庫の樋口有介を発刊順に続けて読んでたんだけど、前回読んだ「風少女」
で、「夢の終わりとそのつづき」…柚木草平シリーズに戻ってきました。ただ、これまた他の草平シリーズとちょっと違って、著者がデビュー前に書いて、過去に「ろくでなし」というタイトルで発刊されていた別作品を、主人公を柚木草平に置き換えてアレンジ…しかも年齢を3歳ばかり若くして、警察を辞めた直後の…シリーズ、エピソード0的な位置づけとして発表された作品という、変な作品。
警察を辞めて8か月、雑誌への寄稿で食いつないでいる柚木草平の元へ、名前も名乗らない正体不明の美女が現れ、仕事を依頼する。内容は、ある家に出入りする男の尾行。何も詮索はせず、ただ1週間、尾行するだけで200万円の報酬を払うという。奇妙な依頼だったが、大金に目がくらみ依頼を受ける草平…さっそく仕事に取り掛かるのだが、ターゲットの男は1日中、買い食いをしながら東京中を歩き回っているだけだった。退屈な仕事にうんざりした草平は、行きつけのスナックの経営者・夢子に尾行の代理を任せる。推理小説好きの夢子は喜んで引き受けるのだが…夢子が尾行している最中に男は、公園のトイレの中で死亡。その死因はなぜか餓死だった…。
確かに皮肉屋で、女にだらしがなくて、貧乏で…って、間違いなくおなじみの柚木草平なんだけれども、いつもより年齢を若く設定したということで、渋さよりも、もっと青臭さを感じる草平が描かれているので、なんか違和感が。違う作品に当てはめたという結果もあるんだろうけど、不思議な感じ。
この違和感を、年齢を若返らせたという設定でカバーしてるんだろうけど…。行動パターンがちょっと違うところとか、事件に関わってくる美女たちとの関係もいつもより深めとか、ある状況に陥った草平のマヌケっぷりなんかは、確かに新鮮さは感じた。
シリーズを読んできた人にはおなじみになっている、刑事を辞める原因になった事件なんかも大きく関わってくるので、そういうところは面白いんだけれども、推理小説やハードボイルドっていうよりは、スパイ小説的な、ややスケールのでかい展開?
これが、柚木草平シリーズではなかったら、もしかしてSF?みたいな描写にも、もっと驚きがあっただろうが…他のシリーズにつながっていくその後の展開が既にあるわけで、それらが否定の材料になってしまって、ちょっともったいないか?SFであるわけがないということから、おのずと事件の核心部分も簡単に推理できてしまう。
個人的採点:65点