1分で真島吾朗と恋したい!

1分で真島吾朗と恋したい!

龍が如くと真島さんが大好き。真島の兄さんの二次創作・恋愛小説を綴る。また、真島さんと澤村遥の禁断恋愛小説「般若の素顔と極道の天使」も連載中!

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「龍が如く」真島吾朗こと、真島の兄さんの二次創作・恋愛小説サイトです。季節に合ったものや、新作「龍が如く0」に向けた小説もご用意しています。真島さんと女子高生の遥との禁断ラブストーリーも連載中です。貴女も甘い夢が見れるかも?

小説の内容が同じこちらのサイトへジャンプされますと、女主人公の名前を貴女の名前に変換できます!

夢小説サイト:1分で真島吾朗と恋したい!

ショートラブストーリー
五十一回目の誕生日←NEW
夜桜ノ落し物
真島さんの秘密:ホワイトデー編
バレンタインは嵐の予感?
狙われた初詣
クリスマスキス
Mr. G
ゼロへトリップ←龍如ゼロ用
花火大会
レジャープール
海水浴
スイカ
*お泊り:前編 後編
雨宿り
お仕置き
緊張
褒めてくれや
お見舞い
初デート
観覧車
ケンカ

*ドキドキの誕生日:前編 後編
誕生日プレゼント
兄さんの手作りカレー
映画館でキス?
兄さんメールに夢中
時には甘える兄さんも
兄さんとスタバ
兄さんとカフェデート
兄さんと寿司屋へ行こう
夜桜
初めて兄さんのマンションへ
ワガママvs.キス
兄さんのおねだり
ドキドキの初デート
兄さんの香りに包まれて

はーと番外編
峯と男子会

はーとベリーショートラブストーリー
本命チョコ←NEWキラ
雨に濡れて
兄さんに片思い
ある朝
旅行
兄さんの誕生日

サプライズ
お見舞い
イタリアン
後ろから…
兄さんの背中

はーとギャグ
兄さんと進撃

はーと般若の素顔と極道の天使キラキラキラキラ

大幹部ヤクザの真島が女子高生の遥に禁断の恋をした?

関東最大暴力団組織「東城会」。その最大勢力「真島組」の組長が真島吾朗である。そのカリスマ性に加え、彼が人を惹きつける力は、破天荒な中に垣間見える優しさだった。

そんな真島と高校生の澤村遥が、久しぶりに再会する。遥は「伝説の極道」と呼ばれる桐生一馬に小学生の時から育てられている美しい高校生である。

風変わりな大幹部ヤクザの真島(45)と高校生の遥(17)が、年齢と遠距離の壁を越え、恋に落ちる禁断ラブストーリー。
ヤクザゲーム「龍が如く」をもとに、恋に奮闘する真島をリアル、コミカルに描く。

前編
1. 沖縄へ
2. 再会
3. 桐生一馬
4. 刺青
5.
6. 約束
7. 誤解
8. 桐生との約束
9. もう一人のハルカ
10.真島の決意
11. 冴島大河
12. モテオヤジに
13. 初めてのカレー作り
14. 真夜中の電話
15. 音信不通
16. 秋山駿
17. 突然の電話

後編
1. 羽田空港
2. クラブセガ
3. まんぞく寿司
4. 告白
5. 嵐の前
6. 桐生vs.真島
7. 失恋
8. 般若の素顔と極道の天使←NEW

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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②
「8. 最終話」


8. 般若の素顔と極道の天使

四月になった。
真島は、毎月恒例の定例会に出席していた。
会長である堂島のテーブルの上には、厚みのある茶封筒が並び、それぞれの組の名前と一緒に『上納金』と書かれている。
「六代目、うちからは、これもや」
真島が、若頭に持たせていたアタッシュケースをテーブルの上にがたんと置き、開いた。
ぎっしり詰まった札束に釘付けになった他の組長が、唖然としている。
堂島は、ちらりと彼らに目をやってから、微かな笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。真島組のシノギで東城会は持っています。池袋のビルの進み具合はどうですか?」
「こないだから鉄筋組んどるとこや。まあ、順調ってとこやな」
ソファにどさっと腰を下ろした真島は、たいしたことではないという風に、手を横に振った。

堂島が、開始の合図をすると、定例会が始まった。
議題は、春の人事についてである。
地方にある二次団体の組長ら、三人が東城会直参入りとなった。
真島にも「舎弟頭から若頭補佐に昇格はどうか」という話があったが、組には新しい風が必要だと考え、辞退していたのである。
新しく直参になった組長らの就任挨拶を順に聞きながら、ふと、遥はもう学校に行き始めたのだろうか、という思いが頭をよぎった。
(元気に通っとるやろか。学校で独りになっとらんやろか)
ぽつんとクラスで一人になっている遥の姿をぼんやりと頭に浮かべる。
顔をしかめた真島が、思いを巡らしているうちに議題は次へと移っていったのだった。

定例会が終わったのは、二時過ぎだった。
大きな息を吐きながらネクタイを緩めると、じゅうたんが敷かれた廊下を歩き出した。
正面玄関に出ると、冷たい雨が静かに降っていた。
駐車場には、ベンツ、レクサスといった黒塗りの車が待機しているのが見える。
「「「お疲れ様です」」」
と、玄関前に並んだ各組の組員が、次々と現れる幹部に頭を下げている。
その芯のある低い声がうっとうしい。
「親父、お疲れ様でした!どうぞ」
大きな傘を差しながら、列の中から出てきたのは、西田だ。
真島は、灰色の空を見上げ、手をかざした。

「傘はええわ。まずは一服や。待っとけ」
真島が煙草をくわえると、すかさず西田が火をつける。
やっと堅苦しいところから開放された、と思いながら、フーッと煙を吐き出した。煙を宙に吹きながら、門へと続く石畳をぼんやりと見つめた。
石畳の横に植えられた桜からは、濡れた花びらがぼとりぼとりと落ちていく。
どことなく寂しい。
ほんのりと色づいた石畳が、冷たく感じるのは気のせいだろうか。
眉間に深いしわを寄せた真島は、煙を思いっきり吸うと、半分が灰になった煙草を落として靴で踏み消した。

組長室に戻った真島は、融資の件で銀行員に見せる資料を若頭から受け取り、ソファにどっしりと腰を下ろした。
最初の書類に目を通そうとした。
その瞬間だった。
突然、携帯が震えて出した。
携帯を取り出し、着信先を確認してから、はっとする。
『遥ちゃん』
不意に力が抜けて、手に持っていた資料を落としてしまうくらいだった。
「なんでや……」
ぼそりと呟いた真島は、恐る恐る携帯を耳にあてがった。
「あっ……真島のおじさん?」
ぎこちない声が耳に届き、息苦しさを感じてしまう。
ごくりと唾を呑み込み、おもむろに口を開いた。
「元気にしとるか?」
「……うん」
「そうか」
何を話せばいいのか分からず、頭をフルに回転させ、ようやく言葉を絞り出した。
「どうしたんや?」
「あの、今日、入学式だったんだ」
「せやったんか。おめでとうさん」
(アカン。もう終わってしもうた)
短い沈黙が落ちる。
「あの……真島のおじさん?」
体内の神経を携帯に集中させ、携帯を耳に押し当ててしまう。
「会いたい……んだけど……」
遥の声がみるみる小さくなっていく。
真島は、自分の心臓がばくんと大きく動いているのが分かった。

(遥ちゃん、俺のことが忘れられへんのか?ほな、付き合えるやろ。アカン!何考えとんのや)
ばらばらになった思考をかき集めるように、大きく深呼吸する。
携帯を強く握り締めると、無理やり明るい口調で話し始めた。
「遥ちゃん、そんなん無理やでぇ」
「えっ?」
「俺、メッチャ忙しいねん。それになあ、もう遥ちゃんと話すことないんや」
数秒、重たい沈黙が続いた。
そして、消えるような声が聞こえてきた。
「……わかった」
『スマン。嘘や』
喉まで出かかったその言葉を呑み込んで、
「ほなな」
と、乾いた笑みを浮かべて言い残し、一方的に電話を切った。
「クソ!」
吐き捨てるように言って、携帯をソファに投げつけた。
携帯が、跳ね返って、ごろりとソファに転がる。
(何で、今さら電話してくるんや……)
真島は、がっくりと垂れた頭を両手で抱えて、虚しく足元を見つめた。

全ての業務を終えた真島は、バーのニューセレナへと向かっていた。
天下一通りは、週末だけあって、ずいぶん人が増えはじめている。
真島は、酒を飲んで、高ぶった気持ちを抑えたくてしかたがなかった。
だが、ニューセレナの前に着くと、木製の扉に貼られた貼り紙に、縦書きでこう書かれていた。
『本日は休ませていただきます』
真島は、手を握り締めて扉をガンと叩いた。
どうして、こうもうまく行かないのだろう。
扉にもたれて、煙草を吸おうとしたが、雨が降りはじめ、アスファルトにまばらな黒いしみが出来はじめた。
しとしとと降っている雨は、夜が声を押し殺して泣いているように見える。

「ハァ……」
深いため息をついた。
通りの合い向かいに視線を投げると、入り口にホストの写真がいくつも飾られたスターダストの前で、ホスト三人がお客に営業電話しているようだ。
(今なら電話すれば、まだ間に合うんちゃうか?)
革のジャケットのポケットに手を入れたが、携帯を強く握り締めたまま、取り出せない。
今さら、電話出来るわけがない。
うつむいた真島は、タクシーでも拾おうと昭和通りへ大股で歩き出した。
濡れはじめた髪からしずくが、顔を伝って落ちていく。
真島の横を男子高校生が賑やかに笑いながら通り過ぎていった。
顔を上げて往来をぼんやり眺めた。
サラリーマン、学生、風俗嬢、キャバ嬢、ヤクザ、キャッチ、外国人ホステス、ニューハーフ……。
老若男女、国際色も豊かな見慣れた光景――。
「俺は、こん中で独りで生きていくんやろな……」
真島は、ぼそっと呟いた。

「ん?」
雑踏の中に、白のニットに花柄スカートをはいた女が、焦ったようにきょろきょろしているのが見えた。
「何しとんのや?」
見え隠れする女の顔に目を凝らせる。
もしかして、あれは――。
(嘘、やろ……?)
真島が眉を持ち上げた。
その時――。
視線がぶつかり合った。
どきんと脈打つ心臓が、耳の奥まで響く。
(遥ちゃんや……)
目の前の光景に、思わず息が止まる錯覚を覚えた。
遥だけが、モノクロの視界に鮮やかに浮かび上がり、周りの音が遠ざかっていく。
彼女は、赤い傘を差しながら、人の合間を縫って、わき目も振らず駆け寄ってくる。
体がみるみる硬直していって、何かに縛られたように体が動かない。

(何で、こんなとこにおんねん……)
ただ、真島は、呆然と立ち尽くしていた。
その時だった。
手から滑り落ちた傘が、ふわりと揺れて地面を転がり、遥の体がぐらついた。
「遥ちゃん!」
真島は、前に飛び出して、転びそうな体を抱え支えてやる。
こんなに華奢だっただろうか。
「ハァ、ハァ」
腕の中で遥は、髪と肩も濡れ、荒い息を整えようと必死で深呼吸した。
「真島のおじさん……」
しっとりと澄んだ声に反応するかのように、胸が甘く締めつけられる。
真島は、自分に寄りかかった遥の肩を掴んで、ゆっくりと立たせた。
目の前の遥に真島の胸が音を立て、心臓が早鐘を打っている。
こんなに高鳴ってしまう自分の鼓動を恨めしく思ってしまう。
真島は、自分の呼吸を意識して、ゆっくりと話しかけた。

「どないしたんや」
「西田さんから真島のおじさんが、ニューセレナにいるかもしれないって聞いて。それで……」
肩で息をしている遥は、眉間をうっすらとくぼませ、濡れた瞳で真島をじっと見上げている。
切ないような表情から目が離せない。
「ねえ、おじさん、覚えてる?『うまく行くって信じとけば、ええ結果が待っとるモンなんや』って言ったの」
「あ、ああ……せやったなあ」
桐生と決着をつけた時に、悲しんでいる遥を元気づけようと、そう言った自分をやっと思い出した。
なぜこんなことを遥が言い出すのだろう。
次の言葉が聞きたくてたまらず、ふいに身をかがめる。
「私ね、ずっと、真島のおじさんとうまくいくって信じてた」
思いつめたような表情を見て、思わず息を呑んでしまった。
遥は、自分を奮い立たせるように、肩を震わせてすーっと息を吐いた。

「真島のおじさん、好き……」

一瞬、息さえも忘れてしまった。
胸がジンと熱くなって、掴まれるれるような感覚を覚える。
何か答えようとした。
だが、喉の奥がぴたりと張り付いたようで、言葉が出ない。

沈黙に耐えられないようで遥が目を伏せ、涙を堪えるように唇を噛み締めている。
肩を小刻みに震わせている遥の瞳から、透明な粒がぽろぽろとこぼれ落ちた。
遥が、鼻を鳴らせて、しゃくりあげるように泣きはじめた。
(アカン……)
遥に触れたい。
心に蓋をしていた彼女への想いが、一気に溢れ出す。
『好きや』
この気持ちは、遥と会えない間に加速して、自分でも抑えられないくらいに腫れ上がっていたのを今さら気づく。

(もう……限界や)
真島は、遥の肩をぐいっと引き寄せ、彼女の顔に近づいた。
革手袋を脱いだ手でそっと頬に触れ、溢れる涙を親指で拭う。
キスの距離まで近づいて、
「……そないに好きやったんか?」
優しさを帯びた声でささやきながら、無言で頷く遥に眉尻を下げた笑顔を見せる。
そっと顔を傾けると、雨粒が顎からぽとりと滑り落ちた。
真島の唇が、涙がたどったあとをゆっくり追っていく。
濡れた頬、顎、ふっくらとした桜色の唇に、軽いキスを落とす。
まるで、柔らかい羽が触れるように。
二人は、星が引かれ合うように見つめ合った。
両手で遥の頬をはさみ、こぼれた吐息をすくうように唇を重ねる。
角度を変えて繰り返されるキスは、激しくて甘い。
真島は、遥の頭にそっと手を添え、顔を覗き込む仕草をした。

「我慢できへんかった……メッチャ好きやったんや」

指を彼女の髪の中に這わせていき、頭をそっと引き寄せる。
額がくっついて、鼻先が軽く触れ合う。
頬が赤くなった遥が、照れ交じりにはにかんだ。
「やばい」
吐息がふわりと頬を撫でる。
遥の滑らかな頬を優しく包んで、からかうような笑みを浮かべた。
「こんなオッサンやめて、若い男にしたらどや?」
「もう、子ども扱いしないで」
ちょっとふくれて、上目使いで真島をにらむ。

「せやった!」
はっとした真島は、桐生との決着に破れたことを思い出した。
「桐生ちゃんには、ちゃんと言うて、ここに来たんか?」
「いつまでも、おじさんの遥じゃないよ」
いたずらっぽい彼女の瞳に見つめられて、くすぐったいような、ほっとしたような気分になる。
頭を掻いて、決まり悪そうに小さく笑った。
(やっぱ、遥ちゃんには適わへんな……)
遥は、嬉しそうに強く鼻先を真島の胸に押しつけてきた。
「早くおじさんに釣り合う女の人になりたいな」
「アホか。そのまんまでええわ」
あどけない言葉に思わず笑みがこぼれる。
遥の背中に手をまわすと、手のひらに薄くて柔らかな背中の感触が伝わってきた。
自分より高い温度から、幸せが体に染み込んでくる。
安らぎ、ぬくもりが、じんわりと真島を包みこむ。
ずっと求めていた気がする。
この春の海のような気持ちを。

(遥ちゃんや……)

柔らかく満ち足りた笑顔で、遥が顔を上げた。
白い肌に影を落としていた長いまつ毛が、ゆっくりとまばたく。
潤んだ瞳の中に映る自分が、雨粒でじわりと滲んだ。
抱きしめていた腕にぎゅっと力がこもる。
人々は、抱き合う二人を避け、横目で見学しながら通り過ぎ、何事もなかったように歩き去っていく。

「せや」
ふと、何かを思いついたようにニヤリと笑うと、真島は遥の顔を覗き込んだ。
「これからは、毎日、学校の送り迎えしたらなアカンなあ」
「いいよ~。みんな怖がっちゃうと思うし」
すっと首をすくめて笑い出した遥につられて、真島も堪えるように笑い出す。
「ほな、メシでも食いに行くか?」
「うん」
遥の頭をぽんと撫でてから、彼女の手を握って、歩き出す。

いつの間にか雨はやんでいた。
遥が、握られた手を確かめるように何度も前後に振っている。
しばらく歩いていた。
突然、彼女がネオンの滲む水たまりを軽やかに飛び越えてしまう。
ぐいっと腕が引っ張られて、真島は思わず力をこめた。
「おい!」
「ん?」
振り向きざまに、スカートがふわりと舞う。
くすっと笑った遥が、また歩き出した。

ふと、あの瞬間を思い出した。
沖縄で屈託のない笑みを見せた少女を。
あの時、真島は遥に全てを奪われていた。

もう、振り回されてもいい。

もう、二度と離さない。

――絶対に。

【完】




★感謝をこめたあとがき

最後まで読んで下さってありがとうございました!
真島さんが、女子高生の遥にどれだけ舞い上がって虜になってしまうかが見たくて、長編を書いてしまいました(笑)。
少しでも、遠距離と年の差を乗り越えて、ハッピーに結ばれた二人を感じて頂けたら……と願っています☆彡
みなさんに励まされて、支えられて、最後まで書くことができました。
つたない文章を最後まで読んで下さって、心から底から感謝しています(〃゚∇゚〃)


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「7. 失恋」


7. 失恋

真島が、桐生との勝負に敗れてから一ヶ月半経ち、今日はバレンタインデーだった。
窓の外には凍てつく冬の夜空が広がり、雪の結晶が張りついている。
真島は、暖房がよく効いた組長室で長い足をテーブルの上に投げ出していた。
手元にある工程表に目を落として、週明けの業務を確認をする。
『月曜日:十時から池袋に建つビル起工式』
「おっしゃ。ついに工事が始まるか」
ソファにもたれて社長代表の挨拶を目を閉じて考えていると、バラエティ番組が流れるテレビから、
「今日も可愛いねぇ、遥ちゃん」
という声が耳に入ってきた。
テレビにちらりと視線を走らせる。
ポニーテールに髪をまとめた十代くらいのアイドルが、スクリーンいっぱいに屈託のない笑みをこぼしていた。
ぱっと開いた真島の瞳が、一瞬で深い悲しみの色に染まった。
スクリーンから目が離せない。
(遥ちゃんも、こんな顔で笑っとったな……)
フッと力が抜けたようになった真島は、内容がちっとも入ってこない番組を虚ろな顔で眺めていた。
ノックする音にはっと意識を戻して、ドアに視線を向けた。

「西田です」
「入れや」
「あ、あの……」
「なんやねん」
不機嫌な重い声だった。
ぴくりと身じろぎした西田は、
「さ、冴島の叔父貴が来られてますが」
と口ごもった。
「あ?何で兄弟がおるんや」
「さ、さあ」
視線を宙に飛ばした西田は、何やらそわそわしている。
真島が眉根にしわを寄せ、
「まあ、ええわ」
と言った瞬間、ドアが大きく開いた。

「おう、兄弟」
ずかずかと入ってきたのは、黒いシャツに黒いスーツを着た冴島だった。
真島よりがたいのいい冴島が、極道らしい格好をすると、周りに威圧感を与えているに違いない。
真島は、書類に視線を落とすと、
「いきなり何や」
と、冴島の言葉を跳ね返すように言った。
「西田にお前の様子を見に来てくれって頼まれてな。最近、遅うまで働いとるそうやないか」
「あの、ボケェ」
真島は、苛立った声を上げた。
窮屈そうにネクタイを緩めながら、冴島は部屋を見渡した。
テーブルの上には、開いたノートパソコンと、大量の書類が広がっている。
「精が出るみたいやな」
「これが終わったら、請求書にも目ぇ通さなアカンねや」
真島はそう言うと、また書類を読み始めた。
だが、さっぱり内容が頭に入ってこない。
冴島が真島に向かって二歩近づいた。
「これなあ、うちの若頭の嫁からお前にチョコレートや」
冴島が、赤い紙袋を真島の前にすっと差し出す。
ちらりとそれを見た真島は、渋々と受け取ってソファの上にぽんと置いた。
冴島は、テーブルの向かい側へ行き、賑やかな声が流れるテレビの前に仁王立ちになった。
腕を組んで真島を見下ろす。
「なあ、兄弟。遥ちゃんから、チョコレートはもろうたんやろ?」
「知らん」
真島が、吐き捨てるように言い放った。
書類を持つ指にぎゅっと力がこもる。
その指をじっと見た冴島は、「ん?」といった感じで首を傾けた。

「何や。喧嘩でもしたんか」
「何でもええやろ。早う帰れや」
鋭い眼差しで冴島をにらむと、書類に視線を戻した。
冴島が、真島の様子を伺うように前かがみになる。
「お前、遥ちゃんと何かあったんやろ。それに働き過ぎなんちゃうか?ちゃんとメシ食うとるんか」
「お前はオカンか」
フッと鼻で笑った真島が、短いため息を漏らし、書類から目を上げた。
寂しげな影がすっと目に宿る。
「あんま食欲ないねん」
冴島は、がっくりと肩を落とした真島を見つめた。
その真島を映すのは、ぬくもりがこもった瞳だった。
「ほな、なお更食わなアカンやろ」
と、冴島が力強い声で言った途端、ぐっと真島の二の腕が引っ張られた。
「何すんねや。放っといてくれや」
「アホ。そないなことできるか。ほれ、メシに行くで」
顔をしかめた真島は、無理やり冴島に引かれるように組長室をあとにしたのだった。

二人がミレニアムタワーを出て、中道通りに入ったは、七時過ぎだった。
水商売や飲食店の男女、サラリーマン、女子高生、これから遊びにいく大学生や一般人、風俗嬢などが、足早に往来を行き来している。
次々と声を掛けてくる風俗や違法DVDのキャッチを振り払うように、二人は無言で歩いていた。
真島は、店先に赤やピンクのハートやリボンが華やかに飾られているのに気付いていた。
遥と神室町を歩いた時は、色とりどりのクリスマスのデコレーションが色鮮やかに見えていたのが懐かしい。
遥と一緒だと、世界が急に色めくような感じに包まれた。
だが、今はぎらつくネオンさえも色あせて見える。
(恋のなせる技ちゅうヤツか)
真島は、フンと鼻で笑うと、黄色やピンクの看板で彩られた左右の風俗店情報案内所を眺めてぼーっと歩いていた。
ふいに、後方からサラリーマンらしい酔っ払いのグループがご機嫌で歩いて来て、はっと我に返った。
突然、ぶるっと肌が振るえて鳥肌が立つ。
「なんちゅう寒さやねん」
「せやな。急ごか」
そう低い声で答えた冴島が大股で歩き出す。
二人は、唇を結ぶと、大股で寿司吟を目指した。

「真島さん、冴島さん、いらっしゃい」
板前の威勢のいい声が響く。
店内に入ると、予想以上に賑わっていた。
一番目立つのは、着飾ったキャバ嬢とお客だった。
他には、上司と部下の男二人のサラリーマン客、若い女性と四十代くらいの男性とのカップル。
そして、真島が視線をめぐらせたのは、黒いざっくりニットにデニムショートパンツをはいた二十歳前の女の子が、グレーのストライプ柄の高級スーツを着た、成金そうな五十代の男と一緒に座っている姿だった。
よくある援交カップルだ。
(俺と遥ちゃんも、援交に見えてもしゃあないな……)
真島が心の中で呟いているうちに、二人は一番奥の席に案内された。

神室町で評判の店だけあって、ガラスケースの中には新鮮なネタが豊富に並んでいる。
「今日は何を召し上がりますかい?」
大将が、にこやかにカウンター越しに尋ねた。
「ほな、まずはビール二つくれや」
と冴島が注文し終えると、真島が煙草に火をつけた。
ぼんやり煙草をふかしながら、宙を眺めている。
冴島は、煙草を吸う彼の横顔を観察するように見ていた。
真島の気持ちを汲み取ろうとしているのだろう。
しばらくすると、板前がにこりと笑って飲み物を運んできた。
冴島が軽くグラスを持ち上げる。
「まずは、乾杯や。遅うまでお疲れさん」
「おう」
チンと軽く音を立ててグラスが重なった。
グラスに口をつけた真島は、ビールを一気に飲み干し、ハァと短いため息をついた。
(あんま食いとうないなぁ……)
「さあ、腹いっぱい食うで!」
冴島は、真島の背をぽんと叩くと、ネタを見渡し「しまあじ」を頼み、真島は、仕方なく好物の「マグロ」を注文した。
目の前の寿司下駄に差し出された寿司を一つつまむ。
舌の上でとろりと溶けていくようだ。
裏切らない旨さ。
だが、まんぞく寿司で遥と一緒に食べた寿司は、もっと旨かったような気がする。
(こっちの寿司のほうが旨いに決まっとるやないか……)
小さくため息を吐いた真島は、吸いかけの煙草を白い陶器製の灰皿に押し付けた。

冴島が、ひと口ビールを飲んでから、真島の横顔をじっと見つめた。
その横顔には、やつれが少し見える。
「なあ、兄弟。西田から聞いたんやけど、お前、暮れに沖縄へ行ったそうやな」
真島は、おもむろにグラスを傾けて、ビールの泡をぼんやりと見つめている。
冴島が、さらに続けた。
「お前……何があったんや」
「……何もかも終わりじゃ」
あまり食べてなかったからだろう。
一気にビールの酔いが回ってきて、吐き捨てるような口調でつい喋ってしまった。
煙草をはすにくわえて、火をつける。
「どういうことや」
冴島が眉を寄せて身を乗り出した。
これから聞く内容を全て受け止めるといった態度に見える。

真島は、遥との時間を鮮明に思い起こし、重い口を開いた。
「俺なあ、クリスマス前に神室町で遥ちゃんとデートしたんや」
「何で遥ちゃんが神室町に来たんや」
「遥ちゃんなあ、四月から新宿にある菓子の学校に来るらしいねん。で、あん時は、学校説明会に来とったらしい」
「せやったんか。ほんで、デートはうまく行ったんか?」
「おう。遥ちゃんも楽しそうで、ばっちりやったで」
「ほんなら、何がアカンかったんや」
不思議そうな顔をした冴島は、次に真島の口から出て来る言葉を待っているようだ。
「桐生ちゃんや」
真島は、その名前を口にした途端、目の前に大きな壁が立ちはだかったような気分がした。
「桐生?桐生がどないしたんや」
「遥ちゃんが携帯で桐生ちゃんと話しとる時に、若いモンが大声で俺に挨拶したんや。その声でな、俺と遥ちゃんが一緒やってばれてしもうたんや。桐生ちゃん、ごっつ怒ってしもうてなあ」
乾いた笑いを浮かべた真島は、煙草の煙を吸い込み、下の方へ吐き出した。
「あとはいつものことや。勝負で決着しようって話になってなあ」
「で、どうやったんや」
「勝負の時にな、遥ちゃんが桐生ちゃんを心配そうな顔で見とるのを見た瞬間、自然と力が抜けてしもうた。あとはぼろぼろ。完敗やった」
真島は、煙をまっすぐに吐くと、ぎこちなく笑った。

「せやったんか……」
冴島が、カウンターに視線を落とし、二人の間に短い沈黙が落ちた。
その時、援交カップルが席を立って店を出ようとした。
真島は、視線を二人に投げかけ、顎でしゃくった。
「俺と遥ちゃんも、あないに見えるやろ」
冴島も、仲良さそうに店を出ていく二人をじっと見つめてから、真島の顔を覗き込んだ。
その真っ直ぐな目は、真島の本心を探るようだ。
「お前……ホンマに遥ちゃんをきっぱり諦めれるんか?」
低くしっかりした声だった。
「しゃあないやろ。遥ちゃんにとって、桐生ちゃんは親父みたいなモンや。俺より桐生ちゃんのほうがええに決まっとるやないか」
真島が顔を歪めて笑ってから、煙草を斜めにくわえて、煙を吐き出した。
鼻の奥がツンと痛む。

真島のほうに身体を向けた冴島は、彼の顔色をうかがってから、ぽつりぽつりと言葉を選ぶように話し出した。
「俺が、桐生に話しつけても、ええんやで」
「ハァ!?アホちゃうか。何で兄弟が出てくるねん。お前が話したところで、桐生ちゃんにビシッと言われるのが関の山や」
真島は、遠いところでも見るような目で、大将の後ろの壁を見つめた。
冴島が「兄弟……」と、ぼそっと呟く。
フンと鼻を鳴らせた真島が、思い出を消すように煙草を強く揉み消した。
「もうどうでもええわ。早う新しい女作ったるで。まあ、俺に言い寄ってくる女は山ほどおるけどなあ。ヒヒッ」
その言葉は、調子よく飛び出た空元気のように聞こえる。
そんな真島の本音をもう一度、確かめるように冴島は訊ねた。
「兄弟、まだ遥ちゃんのこと、好きなんやろ?」
「しつこいで。ほな」
苛立った顔でそう言い放つと、真島は席をがたんと立った。
目を丸くして驚いた冴島は、真島の顔を見上げる。
「おい、どこ行くんや」
「帰るに決まっとるやないけ」
「おい!」

真島は、あきれた目をした冴島の声を振り払って、表に出た。
その瞬間だった。
「おい、待たんかい。お前、それで終わりちゅうわけか?」
と荒げた声が耳に入り、その声のほうに視線を送った。
サラリーマン風の小柄な中年男が、関西弁を話す三人の「見るからに極道」にぶつかったようだ。
行く手をはばまれた、その男が、怒声を浴びている。
神室町では、日常茶飯事の光景――。
(しょうもな……)
真島は、喧嘩の場所を素通りすると、女でも呼ぼうと携帯を取り出した。
連絡先を選んで、スクロールする。
『あかり……さくら……しの……なるみ……』
真島の指が、ぴたりと止まった。
その指先には、『遥ちゃん』とある。
思わず名前をタップして、アイコンにしている遥の顔を眺めた。
プリクラで一緒に撮った時の顔。
満面に笑みを浮かべている。
本当は遥の声が聞きたくて仕方がない。
真島は、携帯を握り締めて目を閉じた。
「ハァ……」
深いため息が洩れた。
(ええオッサンが、いつまで女子高生のこと引きずっとんねん……)
真島は遥の番号を消そうと、唇を強く噛んで「削除」をタップしようとした。
が、指が凍りついたように動かない。
「くそ!」
真島は唸るような声で言うと、携帯をジャケットのポケットに押し込むように入れた。

通りが、熱を帯びるように活気づき始めている。
染みるようなネオンの光り。
上着のポケットに手を突っ込んだ真島は、肩を怒らせて歩き出した。
その靴音は、けたたましく鳴り響き出したパトカーのサイレンに掻き消されていった――。

つづく

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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②「6. 桐生vs.真島」

6. 桐生vs.真島

桐生と真島は、上半身裸でにらみ合ったまま、砂浜に立っていた。
じっとりとした湿度が肌にまとわりつくようだ。
じっとしていても、汗が滲み出てくる。
息を切らせて駆けつけた遥が、少し離れて固唾を呑んで二人をじっと見つめていた。

真島は遥にちらりと視線を送ると、首を左右に傾けてポキポキと枯れた小枝が折れるような音を立てた。
「さあ、始めよか、桐生ちゃん」
片方だけ口の端を上げて挑発するように笑う。
ゆらゆらと殺気が立ち昇っている。
その興奮は、快感さえも伴っていた。
それは肉体的な快感に近いものだった。

さやからドスが抜かれ、薄闇の中できらりと光る。
二人の気迫は充実していた。
桐生が背中にまとった天に昇る龍。
真島の背負う凄まじい形相の般若。
その刺青が、鋭い目を光らせて目覚る。
まるでお互いを威嚇しているかのようだ。

「構えろや、桐生ちゃん」
「覚悟はいいんだな」
冷たく言い放った桐生が、腰を落とし、両手を前に出した。
「来いよ」
「行くでぇ!桐生ちゃん!」

開始と同時に真島が走り出し、勢いよくドスを繰り出す。
その空気を斬る音は、凛とした笛の音色のようだ。
真島の眼差しが、研ぎ澄まされた刀のように鋭くなる。
(一気に畳みかけて、得意のドスで決めたればええんや)
真島はそう信じていた。
桐生は、風を斬るような真島の素早いドスを避けようと身をよじった。
距離がぐっと縮まる。
桐生の拳は真島を連打した。
右。
左。
右。
真島は熟知していた。
桐生の拳には、骨まで砕くほどの破壊力がある。
素早く腰を下ろして避けた真島は、負けじと桐生の腹部にドスを鋭く突き出した。
距離をとられた。
真島が、一気に踏み込み、ドスを振り下ろす。
怪しく光るドスが、空気を斬り裂く音を立てて、桐生の腕をかすめていった。
桐生は、素早く真島の腹に蹴りを叩き込んだ。
「ウオッ」
うめき声を上げた真島だったが、蹴られた反動を使って後ろに飛び退いた。
じわり、じわり、とお互いが間を詰めていく。
お互いに相手の動きを読んでいるのだろうか。
両者の動きは、美しいくらいに噛み合っていた。

真島のすぐ前に桐生が迫ってきた。
「はっ」とした瞬間――
桐生が、真島の首を掴んで持ち上げたのだ。
一瞬すとんと真島の意識が飛んだが、必死で桐生の両手を振りほどいて、後方へ退いた。
崩れかけた体勢から半歩踏み出し、ドスを強く握り締める。
桐生が、一気に距離を詰めてきた。
「オラッ」
両手を合わせて、真上から振り下ろす。
鈍い衝撃が、真島の頭から爪先まで走った。
一瞬、目の前が爆発したようだった。
痛みで視界がぐらりと揺れる。
「痛ったぁー」
絞り出すような声だった。
頭をさすると、髪の間からつーっと赤い血が滑り出してきた。
真島は、血を手で拭うと、ぺろりと舐めた。
「嬉しいでぇ、桐生ちゃん」
と、ハアハアと荒い息を吐きながら言う。
刺すような眼差しが、ぎらぎらと輝いていた。
まるで獲物を見つけて喜んでいる狂犬の眼のようだ。

真島は、歯を食いしばって、足に力を入れ、均衡を保った。
「まだまだや。ヒヒヒッ」
真島が薄い笑みを浮かべた。
体内で血が騒ぎ出す。
血が熱くなるのに反して、五感がどんどん研ぎ澄まされていく。
構え直した真島は、眼光を鋭くして桐生を見据えた。

にらみ合うこと数秒――。
真島が、桐生の周りを素早く移動し始めた。
一気に飛び込んで、ドスを桐生の頭に鋭く突き出す。
「ヤァー」
ドスが空気を斬り裂く音。
投げられたドスが回転しながら宙を舞う。
眼にも留まらぬ速さで真島がドスを振るう。
桐生がすっと腰を落として、一瞬で避ける。
ドスを掴まえた真島は、次は桐生の腹に突きつけた。
空を切った。
動くたびに、髪から汗が飛び散る。
真島の眼は、再び凶暴な喜びで、ぎらぎらと光を放っていた。
戦っている時が、真島の生きがいの瞬間でもあるのだ。

「ウリャー」
桐生の白いズボンが音を立てた。
布が裂かれる音だ。
ドスが桐生の脚のあたりをかすったのだ。
真島は、ドスをひょいっと空高く投げて、桐生の足元に蹴りを入れる。
桐生が、足を浮かし、軽くかわした。
「ヨッ」
と言って、ドスを掴み取った真島は、桐生の肩を狙って斜めに斬りつけた。
手ごたえがない。
ぎりぎりのところで全てかわされてしまう。
「やるやないかい」
にやりと笑った真島は、ドスを左手に持ち替え、構え直し、桐生の顔面に拳を打ち込んだ。
桐生が、崩れるように地面に落ちる。
真島は、見下ろして、容赦ない力で腹を踏みつけた。
桐生の唇が切れ、血が流れ出ている。
額からも血が滲んでいた。
「こんなもんかい、桐生ちゃん」
小さく笑いながら、真島が頬を歪めて笑った。

「くっ」
桐生が、唇の血を手の甲で拭い、起き上がると、二人は飛び出す瞬間を探りあった。
真島の動きのほうが一瞬速かった。
ドスを突き出した。
その先が桐生の頬を軽く裂く。
赤い血がぱっと飛び散った。
すかさず桐生が反撃に出た。
桐生は前に出ると、真島の顎をぐっと捉えた。
素早く蹴りが腹を見舞う。
「ウォ」
真島は、砂浜の上に仰向けにひっくり返った。
両手で腹を押さえ、身をよじって、顔を歪めている。

なんとか起き上がろうとしていた。
桐生は、真島の傍に立つと、足で真島の頭を蹴り下ろそうとした。
真島が、力を振り絞ってぎりぎり横に転ぶ。
真島の頭があった場所には桐生の足が深く叩き込まれた。
揺れるような衝撃が浜辺を突き抜けた。
もし、じっと倒れていたら、真島の頭は、完全に蹴り潰されていただろう。
真島は、桐生ににらみを利かせて、起き上がった。
ぐっとドスを持つ手に力を込め、桐生に向かってドスを振りかざした。
真島の動きを予想したかのように、桐生は、するりと身をかわし、一気に間を詰めた。
両手で真島の肩を掴んだまま、頭突きを見舞う。
かっと目の前がまぶしく光った途端、真島は後ろに吹っ飛び地面に倒れていた。
頭をすさまじい激痛が襲う。
痛みに耐えれず、砂の上にうずくまる。
身体が泥みたいだ。
どろりと重くてだるい。

だが、真島は身体を両腕で必死に支えて起き上がった。
足元が、ふらつく。
真島の顔面は、赤く染まっていた。
沸々と怒りが込み上げてくる。
(絶対勝たなアカンのや!)
噛みつくような表情で桐生をにらんだ瞬間、真島は地を蹴って飛び込み、桐生の喉元めがけてドスを突きつけた。
渾身の力を込めた一撃だった。

――その瞬間だった。
「おじさん!」
そう叫んだ遥が、心配そうに桐生を見つめているのが、視界に入ってきた。
「クソ!」
怯んだ真島は、無意識にドスの速さを緩めてしまった。
桐生は、その隙を見逃さなかった。
わずかに身を反らせてドスをかわし、ぐっと真島に迫り、回し蹴りを飛ばしてきたのだ。
大きな岩をかち割るような重い、強烈な蹴りであった。
真島の身体は弾き飛ばされていく。
時間が止まった。
意識がもうろうとして、空気が歪んでいるように感じる。
泣きそうな顔で桐生を見つめる遥の顔がぼんやりと浮かんでくる。
(遥ちゃんにとって、桐生ちゃんは父親みたいなモンや。そんな男を俺は傷つけようとしとった。遥ちゃんを欲しいがために勝負を挑んでしもうたんや。何しとんのや……俺は……)
気がつくと、真島は地面にうつ伏せで倒れていた。
吹っ飛んだドスも、砂浜に転がっている。
身体を動かそうとした。
だが、ダメだった。

桐生は、真島の傍に行くと、肩で息をしながら、見下ろしていた。
「真島のおじさん!」
遥が駆け寄り、真島の肩を強く揺さぶった。
この瞬間――。
勝負は終わったのだ。
「遥、行くぞ」
「えっ?真島のおじさん、こんなに怪我してるし……」
「これでいい」
桐生は、無言で遥の手を引っ張って、アサガオに向かって歩き出した。
泣きそうでやるせない表情を浮かべた遥が、一度振り返った。
真島は、動かない。
遥は、首をうなだれて一歩一歩重たそうな足を引きずるよう歩いて行ったのだった。

どれくらい時間が経っただろうか。
単調に繰り返される波の音が聞こえてくる。
筋肉に石のような疲労が詰まって、全身が砂の中に埋まっていくようだ。
真島は、体中の痛みを堪えながら、やっと起き上がった。

浜辺には誰もいない。
夜空を見上た。
流れる黒い雲の切れ間から、欠けた月が浜辺をぼんやりと照らしている。
あぐらをかいて、海をぼーっと眺めた。
黒い波が押し寄せては引いていく。
潮の匂いが、真島の刺青を遥が触った記憶を運んできた。
遥が無邪気に真島の般若を指でなぞったことを。
あの時は、込み上げてくる熱いものを堪えるのに必死だった。
「もうあん頃には戻れんのかのう……」
ぼそっと呟いた真島は、片手で砂を掴んで指の間から滑らせた。
(これで終わりなんか……)
桐生に連れて行かれた遥は、真島のもとへ戻ってこなかった。
育ててくれた桐生を裏切ってまで、自分についてくるわけがない。
胸の奥に激しい痛みを感じた。
それが嫉妬というヤツだとすぐ分かった。

月は黒い雲で覆われて、浜辺の暗さが一層増した気がした。
「はぁ」
長いため息を吐く。
「俺と遥ちゃんが釣り合うわけないんや……」
喉元に熱いものが込み上げていた。
涙を堪えて、両手を握り締める。
真島の右目から涙が一滴流れた。
手の甲で涙を拭っても、じわりと視界がぶれる。
真島は、ドスを手に取って、さやに収めると、痛みを我慢しながら立ち上がった。
抜け殻のように歩き出す。
足が砂に沈む。
足が引っ張られているようだ。

砂浜に足跡が続いていた。
一人分の足跡だけが――。

つづく

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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②「5. 嵐の前」

5. 嵐の前

通りの喧騒が遠くから聞こえる。
真島は、心配そうな遥に頷いてみせると、携帯を耳元にあてがった。
「桐生ちゃんか?」
「やっぱり兄さんだったか。知ってるぞ。遥とこそこそ連絡を取っていたようだな。遥をどうするつもりだ」
「何言うとんのや。遥ちゃんを遊びに連れて行っただけや。保護者としてなあ」
挑発するような声だった。真島が不敵な笑みを浮かべる。
「何だと?」
「まあ、詳しい話は明日にしようやないか。俺も明日、遥ちゃんと一緒に沖縄に行って説明させてもらうで」
「……分かった。きっちり聞かせてもらうぞ、兄さん」
怒りと苛立ちを含んだ声が聞こえたかと思うと、ぷつりと音を立てて電話が切れてしまった。

真島は、手元の携帯を眉根にしわを寄せてにらみつけた。
こうなることは分かっていたのだ。
おそらく桐生は、話し合いだけで納得してくれないだろう。
遥が、真っ青な顔で真島の腕にしがみついた。
「真島のおじさん、大丈夫……?」
「ああ。この時を待っとったんや」
真島は、小さくため息をつくと、熱を帯びた携帯を遥に手渡した。
ゆっくりと携帯をバッグにしまった遥は、
「おじさん、何て?」
と、か細い声で訊いた。
「俺がこそこそしたって言うとったわ。相当怒らせてしもうたなあ」
真島は、薄笑いを浮かべると、皮肉を込めて言い放った。
「そっかぁ。何かおじさんのせいで、ごめんね……」
「なんで遥ちゃんが謝らなアカンねん」
真島は、遥の意外な言葉に一瞬目を見張った。
遥の肩に手を回して、彼女の顔をうかがう。

うっすらと目元を濡らした遥の頬に涙がほろほろと伝う。
真島は、壊れ物を扱うかのように頬の雫を指で拭い、
「何も心配することあらへんのやで。全部俺に任せとき。な?」
と子供に言い聞かせるようにささやいた。
「うん」と小さく頷いた遥は、涙を堪えるように必死で目元を押さえている。
桐生と自分が対立してしまうのを恐れているのだろう。
この先どうなるかも心配に違いない。
(何があっても、俺が守ったらなアカン)
「なあ、遥ちゃん。もう今日はホテルで休んだほうがええ。タクシーでホテルまで送るで」
「う、うん……」
真島は、遥の肩に回した腕に力をこめて、彼女の歩調に合わせて歩き出した。

遥が泊まる新宿のホテルの前にタクシーがゆっくり止まった。
タクシーの中で、遥は、シートに身を沈めて何も話そうとしなかった。
真島は、緊張を少しでもほぐそうと、無言で遥の頭を引き寄せて頬を寄せたのであった。

「さ、遥ちゃん。着いたで」
真島は、遥の背中をぽんぽんと撫でると、タクシーから降りた。
しおれた表情の遥も後につく。
真島は、ホテルを見上げた。
十階以上あるベージュ色の清潔感がある建物だ。
これなら遥も、ゆっくり休めるだろう。
「何やええホテルやのお。ここから明日行く学校は近いんか」
「うん。結構近いかな」
「ほな、明日は頑張りや。終わったら迎えに来るからな!」
目を細めて笑った真島は、遥の頭に大きな手を乗せると、タクシーに乗り込もうとした。

と、その時――。
真島の背中に両手を回して、遥がすすり泣き出した。
「真島のおじさん、やっぱりどうしよう。もし、おじさんと真島のおじさんが喧嘩になったら。私……私」
小刻みに震える遥が背中から伝わる。
この状態では、明日のオープンキャンパスに影響するかもしれない。
真島は、遥の腕を優しく握ってから、彼女のほうに身体を向けた。
前かがみになって、遥の視線の高さに合わせる。
「なあ、遥ちゃん。不安なのもよう分かっとる。せやけどなあ、なんとかなるモンなんやで。それになあ、うまく行くって信じとけば、ええ結果が待っとるモンなんや。せやから、心配せずに明日のオープンキャンパスに行くんやで」
「うん、分かってるけど……」

柔らかい笑みを浮かべた真島は、遥の頬を両手で包み込んだ。
かげった瞳の奥に、徐々に光が戻ってくる。
身をかがめて、額に触れるだけのキスを落とした。
唇を離して、遥の顔を見つめると、赤い顔を隠すように、下を向いてしまった。
真島は、遥の髪がくしゃくしゃになるのも構わず、頭を撫で回した。
「もう。ぐしゃぐしゃになるよ」
遥は、髪を手ぐしで整えながら、上目遣いで顔を上げる。
思わずぷっと吹き出した。
ニッと笑った真島の顔があったから。
「やっと笑うた。ほな、安心して休み」
「うん」
遥は、顔をほころばせて、こくりと頷いたのだった。

真島は、遥の背中が見えなくなるまで、見送っていた。
(ついに明日は、桐生ちゃんと決着をつけなアカンのやな)
ふと空を仰ぐと、どんよりとした星のない夜空が、どこまでも続いていた。

翌日――。
真島と遥がアサガオの前に着いたのは、六時半だった。
日が沈んだ浜辺からは、心地よい波の音が聞こえる。
「さあ、行こか」
「うん」
真島は、うつむいている遥の不安を少しでも取り除こうと、彼女の手を強く握り締めて、玄関へ向かった。
扉を開けると、
「ただいま~」
と、遥が消えそうな声で言った。
桐生が、苛立たしげにどんどんと足を踏み鳴らせて、やって来た。
真島を一瞥すると、遥に視線を移す。
「やっと帰ってきたか。オープンキャンパスのことはあとで聞く。遥は部屋に行って休んでろ」
「えっ?でも……私も話し合いにいたほうが」
「いいから行くんだ」
遥は、桐生のただならぬ雰囲気を察したようで、真島を一瞬振り返えると、奥へと消えていった。

眉を寄せた桐生は、真島を見据えた。
「兄さんは、俺の部屋に来てくれ」
「おう」
二人は部屋に入ると、どすんと音を立てて、あぐらをかいて座った。
真島が煙草に火をつけると、桐生も胸ポケットから煙草を取り出した。
カチッとライターの音が静かな部屋に響く。
すーっと煙を吐き出すと、紫煙が白い霧のように天井へ立ち上った。
部屋には、最後に沖縄に来た時の楽しい雰囲気を微塵も感じさせないくらいピリピリした雰囲気が、漂っていた。
張りつめた沈黙を破るように、真島が重い口を開いた。
「桐生ちゃんよ、俺は遥ちゃんと再会してから、どっかで遥ちゃんのことを女として見てまうようになった。俺は桐生ちゃんに遥ちゃんの保護者になるよう頼まれとる。せやけどなあ、『俺は、遥ちゃんの保護者なんや』って思えば思うほど、『好きや』っちゅう気持ちが、自分じゃ抑えきれへんくらい大きなってしもうたんや」
吸いかけの煙草を真島は、シーサー型灰皿に押し付けた。
(桐生ちゃんはシャレにならへんくらい怒っとるはずや。それをどう説得するかやな)

真島は、桐生が煙草を吸う姿を眺めながら、彼の出方を待った。
ようやく煙草を揉み消した桐生は、真島を忌々しげににらみつけた。視線がばちりとぶつかる。
「俺は、兄さんを信用して遥の保護者になってくれるよう頼んだ。だが、兄さんは、遥を女として見ているだと?これ以上、遥を傷つけるような真似はよしてくれ」
「桐生ちゃんには悪いけどなあ、俺、遥ちゃんのこと本気なんや。ホンマにすまん」
真島は軽く頭を下げて、足元をじっと見つめた。
「止めてくれ。兄さんの相手になる女はいくらでもいるだろ。どうして、よりによって、遥なんだ」
桐生は声を荒げて、拳を握り締めている。やり場のない怒りを拳に託すしかないのだろう。
「大体兄さんはもう五十近くだ。遥とは親子ほど離れていると言ってもいいだろう。なあ、兄さん、そんな歳の男が女子高生に本気になって、おかしいんじゃないか」
眉をぴくりと動かした桐生が、真島を鋭く見つめている。
フッと笑った真島は、
「えらい言われようやなあ。歳が親子くらい離れとっても、結婚するヤツかて何ぼでもおるやないか。悪いけどなあ、遥ちゃんは、もう俺のモンなんや」
「なんだと!遥は兄さんに騙されているだけだ。絶対、渡す訳にはいかない」
いつも以上に低く、怒りを含んだ硬い声だった。

――その瞬間だった。
「おじさん!」
遥が、ばたんと部屋の扉を勢いよく開けた。
「あの、あの、喧嘩とか止めてほしいの……」
「遥、聞いていたのか」
「ごめん……どうしても気になっちゃって」
真島は遥をじっと眺めた。
スカートを握り締め、蒼ざめた顔で唇を引き結んでいる。
(遥ちゃん、大丈夫や)
真島は、桐生に視線を移して、刃のように鋭い目で睨んだ。
「なあ、桐生ちゃん。ほんなら勝負で決めるっちゅうのはどや。俺が勝ったら、遥ちゃんは俺のモンや。せやけど、桐生ちゃんが勝ったら、俺は潔く遥ちゃんを諦める」
「真島のおじさん!そんなの無茶だよ。止めようよ!」
遥は、座り込んで真島の腕を揺さぶった。すがる子犬みたいな目だ。
その時、桐生がすっと立ち上がった。
「兄さん、いいだろう」
「ほな、決まりやな。場所は……砂浜でどや」
「ああ」

眉をしかめた桐生は、険しい顔で歩き出した。
「遥、ちょっと表に行ってくる」
「だめ~!」
遥が、歩こうとする桐生の腕を引っ張った。
彼女の瞳に浮かんだ涙は、次々とこぼれて、頬を濡らしていく。
「遥、何も心配することない。今までも兄さんとは勝負してきたんだ」
「う、うん……知ってるけど」
涙で声が詰まっている。
「だから俺は勝負してくる。遥、待っていてくれ」
桐生は、彼女を振り払うと、真島を追って大股で外へ出た。

夕闇が迫る砂浜は、次第に夜の暗さに変わろうとしていた。
真島は、仁王立ちの桐生を刺すように見た。
「桐生ちゃん、こうやって向かい会うのも、久々やなあ。絶対勝たせてもらうで」
まるで地を這うような声。
その瞬間、真島の投げ捨てた上着が宙を舞った――。

つづく

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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②「4. 告白」

4. 告白

二人は、いつも以上にイルミネーションが施されている泰平通りを手を繋いで歩いていた。
立ち並ぶ店の前に立つキャッチも、サンタクロースの衣装に身み、飲み会帰りのサラリーマンを呼び込もうと声を張り上げている。
遥は、キャッチの声を気にかける様子もなく、興味津々といった表情で真島の顔を覗き込んだ。
「ねえ、見せたいものって何?」
遥は、子供のように瞳を輝かせて、真島を穴が空くほど見ている。
「まあ、お楽しみやな」
「え~。気になる」
「行くで」
真島は、にやっと笑うと、遥の手を力を込めて握り、歩調を少しだけ速めた。

ミレニアムタワーの前に着くと、真島の足がぴたりと止まった。
まだ八時過ぎなので、往来を行きかう人々が通りに溢れている。
「ここや」
「えっ……て、ミレニアムタワー?」
「せや」
真島が、含み笑いを浮かべて答えた。
遥は、そびえたつミレニアムタワーをぽかんと口を開けて見上げている。
ミレニアムタワーに真島組の事務所があるのを思い出しているのだろう。子供の頃、桐生と立ち寄ったことがあるからだ。
「真島のおじさん、事務所に何か用事があるとか?」
「そう思うやろ?関係あらへんで」
真島が、にんまり笑いながら、大げさに手を振って見せる。
「え……じゃあ、何?」
遥が不思議そうな顔をして、小首を傾けた。
フッと笑った真島は、遥の頭に手をぽんと置くと、
「早う、ついて来ぃや」
と言って、遥の手を引っ張るようにして大股で歩き出した。

エレベーターに入ると、真島は最上階のボタンを押した。
ふと見ると、十代くらいのカップルが隅に立っていて、彼氏が彼女を後ろから抱きしめていた。
カップルは、手を繋いで入ってきた真島と遥にちらちらと視線を寄こす。
上昇するエレベーターの中で、遥は真島のほうに身体を向けると、顔を曇らせて目を伏せてしまった。
(何やねん。アイツら)
ムカついた真島は、カップルに眼を飛ばした。
途端、二人はぎょっとした様子で頬を引きつらせ、一瞬で視線を逸らせてしまった。
真島は、安心させるように繋いでいた遥の手をジャケットのポケットにさっと入れた。
「えっ?」
遥が驚いて見上げると、真島はにこりと笑いかけた。
遥は、ぱっと顔を赤めると、恥ずかしそうにうつむいて、真島の手を柔らかく握り返したのだった。

最上階に着くと、真島はポケットの中に遥のぬくもりを感じながら、屋上へ続く階段を上って外に出た。
突風が吹きつけ、寒さが肌を刺す。
遥は、ぎゅっと目をつむって、片手で自分の身体を抱いていた。
真島は、さっとスーツのジャケットを脱ぐと、守るように遥を包み、肩をぐいっと引き寄せた。
「これで少しはマシになるはずや」
「でも、真島のおじさんが寒くなっちゃうよ!」
風に負けないように、遥が声を張り上げ、白い息が暗闇に溶けた。
「これくらい平気や。いつも素肌にジャケット着て、裸でおるようなモンやからなあ」
ヒヒッと笑い、肩を強く抱くと、遥が真島の腕に隠れるように顔を埋めた。
ヘリポートの上では、ライトがオレンジや緑色に点滅している。
腕から少し顔を出した遥は、そのライトに目を奪われているようだ。

手すりの手前で、カンカンと鉄を叩く足音が響いた瞬間だった。
眼下にきらめく夜景が広がっているのが見えた。
まるで空にある星を全て地上に散りばめたかと思うほどにまばゆい。
ビルの明かりや流れる車のライトが、光の洪水のようにも見える。
真島は手すりに片手をついて、夜景をじっと眺めた。
「これが見せたかったんや」
「す、すごい。星みたい……」
「せやろ。この星は遥ちゃんのモンやで」
ヒヒッと小さく笑った真島は、背をかがめて遥の顔を覗き込んだ。
まぶしい笑みがこぼれた。遥の瞳は、冬の星座のようにきらきらと輝いている。
ゆっくり手すりを握った遥は、百八十度見渡しているようだ。
真島は、遥の肩を抱く腕に力を込め、もう一度夜景に視線を向けた。
「俺にはなあ、遥ちゃんのほうが、この光りより輝いとるんやで」
「えっ……?」
「なあ、遥ちゃん。遥ちゃんは、桐生ちゃんの大事な娘みたいなモンや。俺は遥ちゃんの保護者になるように頼まれとる。年も親子ほど離れとるし、保護者ちゅうのも、よう分かっとる。せやけどなあ、俺はもう我慢できへんのや」
真島が、ゆっくりと遥に視線を移すと、透き通った瞳と視線が絡み合った。

「俺なあ、沖縄で会うた時から、遥ちゃんのこと好きやったんや」
「真島の……おじさん」
真島が、遥のひんやりした手を温めるように手で包み込む。
遥は、その手に視線を注いでから、赤い顔を隠すようにうつむいた。
そして、ゆっくりと顔を上げてから、口を開いた。
「あの……私も好き……」
遥の瞳がじわっと潤む。
その瞳に吸い込まれそうになって、真島の胸が激しく音を立て始めた。
息ができない。
もう抵抗できない。
真島は、吸い寄せられるように顔を寄せると、そっと唇を重ねた。
驚くほど柔らかい唇。
そっと目を開けると、長いまつ毛が目の前にあって、顔が一気に火照っていくのが分かった。
首筋まで赤くなった遥は、真島の顔がゆっくり離れると、彼の肩口に頭を預けた。
真島が遥の頭に顔を寄せた。
甘い匂いがふわっと鼻先に広がる。
真島は、ぽんぽんと頭を撫でて、さらりと滑る長い髪を指で何度もすいた。
二人は何も喋らずに、しばらく揺れる夜景を眺め続けていた。
まるで話さずとも、互いの心が通じ合っているみたいに――。
真島は遥の肩をしっかり抱き寄せた。
「このまま、時間が止まればええのになあ」
「うん」
遥は、真島の腕の中で小さく頷いたのだった。

エレベーターに乗って地上階まで降りた二人は、指を絡めて手を繋ぎながら、大通りを目指していた。
「私、もうちょっとおじさんと一緒にいたいなぁ」
「俺もそうやけど、もう遅いやろ」
真島は携帯の時間を確認した。
九時半を過ぎている。
「明日は学校で何やらがあるんやろ?ホテルで準備したほうがええんちゃうか?」
「あ~、そうだぁ。オープンキャンパスがあるんだった」
遥がすねたように唇を尖らせて、つまらなそうな顔をした時、突然バックから携帯が着信音が響いた。
急いで携帯を取り出すと、液晶に表示された名前は「おじさん」だった。
真島も、ちらりとその携帯を覗いていた。
(やっぱり桐生ちゃんか……)
遥は急いで通話ボタンを押して、携帯を耳に押し当てた。
「うん、大丈夫……今、ホテル近くのコンビニにお菓子とか買いに行くとこ」
遥が、ぎこちない笑みを浮かべて話している。

――その瞬間だった。
「「親父、お疲れ様です!」」
通りかかった真島組の組員が、よく通る太い声で真島に頭を下げた。
「ボケェ!大声出すなや!!」
と真島が声をひそめながら、組員を蹴り上げた途端、遥の様子がおかしくなった。
焦ったように必死で首を横に振っている。
「えっ?違うよ。本当一人だって!……なんで?……どして真島のおじさんがここにいるワケ?」
真島が携帯に近づくと、桐生の低い声が漏れている。腕を組んで宙をにらんだ。
(やっとこの時が来たようやな)
「遥ちゃん、携帯貸し?」
「えっ……でも」
遥から携帯を奪うと、力強く握り締めた。

真島は、ついに覚悟を決めた。
桐生と決着をつけるということを――。

つづく


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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②「3. まんぞく寿司」

3. まんぞく寿司

お互いに得点を競い合って熱唱した二人が、カラオケ館を出たのは六時半だった。携帯で時間を確認した遥は、思いついたように言い出した。
「あっ、東京に来たし、ニューセレナのママに挨拶に行こうかなぁ」
ニューセレナとは、天下一通りに面するスナックで、昔、桐生が遥を連れてきた際、子供であった遥の世話をしてくれたママがいる。
だが、真島は、せっかくの二人きりの時間をニューセレナへ行って無駄にしたくない。
「そないなこと、東京の学校に行き始めたら、いつでもできるやないか」
「うん……」
「せや!まだ早いけどメシでも食いに行かへんか?」
「えっ?本当?」
遥が、ぱぁと顔を輝かせて真島を見上げた。
「遥ちゃん、何か食いたいモンあるか?」
「う~ん、お寿司とかかな……」
遥は顎に人差し指を当てて、他にも候補を考え中のようだ。
(決まった)
真島は、自信満々にニヤリと笑った。

「寿司ならええとこがあるわ。俺の行きつけの銀座のすし屋へ行こか?」
「えっ?でも……そうだ!私、まんぞく寿司がいい」
「はぁ?何言うとんのや。あの天下一通りのでかいすし屋のことかいな」
「うん!一度も入ったことがないし、行ってみたかったんだ」
「せやけど、あそこは回転寿司やろ。沖縄にもあるやろ」
「でも、行ってみたい!お願い!」
遥の黒目がちな瞳に見つめられて、真島はふい、と視線を逸らしてしまう。
わざと困った顔を作って、はぁ~っと大きなため息をついた。
「しゃあないのぉ。俺もまだ行ったことないねん。組のモンはよう行っとるらしいけどなあ」
「やったぁ。じゃあ、行こ?」
遥が真島の手をぎゅっと握り締めた。細い指のぬくもりが真島の手に伝わってくる。
真島は、遥が嬉しそうに前を向いて歩いている姿を横目で見ながら、頬を緩ませてゆっくり歩き出した。

「いらっしゃいませ~!」
自動ドアが開いて店内に入ると、威勢の良い掛け声が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませ!」
ホール係の女性従業員が、やや引きつった笑顔を添え、明るく挨拶をして二人を迎える。その表情からは、「なぜ、あの真島吾朗がうちへ?」といった気持ちが読み取れる。
「では、こちらにご案内いたします」
二人は奥のボックス席に案内された。
(なんやファミレスみたいやな)
腰を下ろすと同時に、真島は店内を見渡した。横にあるレーンの上には、皿に乗った寿司がつらつらと流れている。寿司ネタは、真島が行きつけの寿司屋で注文するものや、ハンバーグや牛カルビといった信じられないものもあった。

遥は「ちょっと待ってて」と言い残したかと思うと、湯飲みを両手に二つ持って戻ってきた。
「ドリンクはセルフなんだよ」
「茶までセルフか!?」
真島は、目を見開いてぽかんと固まった。
遥は、くすくすと笑ったかと思うと、教師が生徒に教えるように話し出した。
「ここにあるのがお茶のパウダー、これを湯飲みに入れて、こっちからお湯を出すの」
遥がレバーを倒して、お茶を作る。
「ホンマかいな」
と声を上げ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした真島は、セルフでお茶を淹れることに戸惑いを隠せない。そして、真島の態度を面白そうに見つめていた遥は、ドリンクバーからアップルジュースと生ビールを運んできて、満足そうにシートに腰かけたのだった。

パネルをタッチしながら、慣れた手つきで選んでいく遥が、
「真島のおじさん、どれにする?」
と言って、メニューページを一通り見せた。
「ほんなら、えんがわ食うてみよか」
「じゃあ、私はあぶりサーモンにしよ」
注文が確定され、真島は流れる寿司を興味深そうに目で追っていた。
『ピンポーン♪ ご注文の品がまもなく到着します』
「あ?」
タッチパネルを見上げた瞬間、注文した寿司が高速レーンに乗って、届けられたのだ。このレーンに気付いていなかった真島は、慌てて腰を浮かし、寿司をレーンから降ろす。
初めてこのシステムを見た遥も、レーンに釘付けになっている。
「えらいハイテクなんやなあ」
「うん、びっくりしたぁ」
「ほな、食うてみるか」
真島は一貫つまむと、口に放り込んだ。ぱらりとシャリがほどけたと思ったら、ネタと絡み合う。
「おお、結構旨い!」
あぶりサーモンを頬張っている遥は、大きく頷きながら、もごもご食べている。

期待した以上に旨いと感じた真島は、慣れない手つきでタッチパネルで注文し始めた。
「おじさん、フライドポテトもお願い」
「はぁ?なんで寿司屋でポテト食いたいねん」
「だって、学校が終わったあと、友達とよく食べてるもん」
「ホンマか!時代も変わったのう」
真島は、女子高生が寿司屋で放課後を過ごすという事実に、ひそかに自分の年齢を感じてしまった。少しでも遥との距離を縮めるかのように、メニューにさっと目を通す。
「ほな、俺も変わりダネちゅうことで、とんこつラーメンも頼んでみるか!」
「真島のおじさん、そんなに注文して食べれるの?」
「当たり前や。俺を誰やと思うとるねん」
真島は、ニヤリと口の端をを持ち上げて、注文ボタンを勢いよく押した。

注文した品が運ばれてくると、テーブルの上は皿でいっぱいになった。
遥は迷わず、フライドポテトを口に運ぶ。
「うん!ここのポテトもいける。ねえ、おじさんも食べてみてよ」
遥が真島の目の前にポテトを差し出した。ラーメンをすすろうとした箸をぴたりと止め、そのポテトを受け取ろうとする。
「寿司屋のポテトが旨い訳ないやろ」
「嘘じゃないよ。ほら味見して」
遥がいたずらっぽい笑みを浮かべて、真島の口元へポテトを近づけた。
途端に、鼓動がどきっと音を立てて跳ねる。真島は慌てて身を反らせて、視線を宙に飛ばした。
「ええわ。遥ちゃんが食い」
「いいから、はい!」
「ったく、なんやねん」
真島は前かがみになって、ポテトをかじった。カリっとしたのは分かるが、遥に食べさせてもらったことが、恥ずかしいやら嬉しいやらで、味わうどころではない。顔から火が出そうなほど熱くなっていく。

アラフィフの親父が女子高生に食べさせてもらっているなんて、人にはどう映っているのだろう。
仲がいい親子か?叔父と姪か?いや、援助交際か?
他人は好き勝手に思うだろう。
真島は、ちらりと横の席に座っている家族連れの父親に目をやった。
ばちりと視線がぶつかった瞬間、父親が慌てて子供のほうを向いた。
頭が沸騰しそうになって、何も考えられなくなった真島は、真横に流れてきた鯛を急いでレーンから奪うように取った。
「あっ、それ、真島のおじさんが、もう注文したのだよ」
「何やて?」
テーブルに並んだ寿司をよく見ると、鯛がのった皿が二枚も目の前に置かれている。
真島は、合計三枚の鯛の皿に視線を落とした。
(何しとんのや!)

くすくすと声を立てて笑い出した遥は、
「私、鯛も食べたかったかも。そうだ!今度はおじさんに食べさせてもらお」
「はぁ?アホか」
遥がぐいっと身を乗り出して、無邪気な笑みを浮かべている。もう逃げられそうもない。
(何で親父がこないなことせなアカンのや……)
「しゃあないのぅ」
真島は、どぎまぎした自分を見破られないように、そっと一貫を掴んだ。
「ほれ、食うてみ?」
と言って、遥の口元に運ぶ。唇が手に触れそうになる。
遥は口に含んだ瞬間、まぶたを閉じ、味わうようにゆっくりと飲み込んだ。
思いがけない大人っぽい仕草に、胸が急激に脈打ち始める。
「うん、鯛も美味し~」
遥が首を傾けて、にっこり笑っている。
「せ、せやろ?俺も、ラーメン食うてしまわなアカンわ」
頬がわずかに染まった真島は、急いでラーメンに箸をつけ、大きな音を立ててすすった。

二人が店を出ると、すっかり暗くなっていて、通りにはネオンやイルミネーションがきらめいていた。
「旨かったなあ」
と満足そうに言って歩き出した真島は、横に遥がいないことにふと気付いた。
振り返ると、遥が、まんぞく寿司の前に立っている。真島は早足で遥の元へ戻った。
「どうしたんや」
「あの……もう八時だし、そろそろホテルに帰らないと」
遥は足元に目を落として、ぎゅっとバッグを握り締めている。
真島はうつむいている遥の顔を眺めた。悲しいような寂しいような表情に見える。
(遥ちゃん、まだ俺とおりたいんやろか)
真島こそ遥と一緒にいたい。できることなら、今夜は帰したくない。
ぽんと遥の頭に手を乗せて、彼女の顔を覗き込んだ。
「なあ、もう少し遊ぼうか?遥ちゃんに見せたいモンがあるねん」
「えっ?何?」
遥がふっと顔を上げる。
「まあ、ええから。俺についてき」
「う、うん」
遥は、すっと差し出された手をぎゅっと握った。
まるで真島と離れたくないように――。

つづく


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夢小説★般若の素顔と極道の天使 ②「2.クラブセガ」

2. クラブセガ

神室町に二人が着いたのは、一時過ぎだった。天下一通りには、軽快なクリスクリスマスソングが流れていた。真島の目にクリスマスの飾りが色鮮やかに飛び込んでくる。
大きなサンタクロースと雪だるまの人形を店頭に置いているコンビニ。色とりどりに飾り立てられたクリスマスツリーを置いている商店。軒先に可愛らしいリースも飾っている飲食店。
遥と一緒にいるからだろう。デコレーションを見ているだけで、子供の頃のように足取りが軽くなっていく。昨日一人で神室町を歩いた時、むしゃくしゃしていた自分が嘘のようだ。
遥の顔はみるみる明るくなって、視線を左右に移して通りを見渡している。そんな遥を見て、真島の胸も思わず躍り出した。
真島は、居酒屋が掲げるクリスマス限定メニューを嬉しそうに眺めている遥に尋ねた。

「遥ちゃん、どっか行きたいとこあるか?」
「そうだなぁ……。ゲームセンターがいい!」
「ゲームセンター?ゲームセンターは何十年も行っとらんのう。ほな……劇場前広場にあるのに行こか?」
「うん!」
遥の目の前に真島の左手がすっと差し出される。ずい、と伸ばされた遥の手は、ひんやりしていて、真島は温めるようにぎゅっとその手を掴んだ。

劇場前広場にあるクラブセガの前は、賑やかな音楽が流れていた。
真島は、ゲームセンターに入店した途端、ポカンと固まってしまった。
若い頃、兄弟分を連れてシマのゲームセンターを見回っていた頃は何十年だったか。
雰囲気はがらんと変わり、見慣れないゲーム機で埋め尽くされていた。
遥は真島の手を引くと、
「真島のおじさん、UFOキャッチャーしようよ!」
と待ちきれない様子で言い出した。もう、はちきれんばかりだ。
「あん?UFOキャッチャー?」
遥は、戸惑う真島を案内するように、軽い足取りでUFOキャッチャーの前へ手を引いて歩き出した。

「俺はせえへんけど、組で温泉旅行に行く時、若いモンが夢中になってやっとるわ」
「子供の頃ね、おじさんは一発でぬいぐるみを取ったこともあるんだぁ」
「まあ、俺のほうが仰山取れるけどなあ」
真島は、桐生だけには絶対負けられない、と闘志をメラメラと燃やす。

「よっしゃ、遥ちゃん、どれが欲しいんや?」
「う~ん、三毛猫と茶色のくま、それと大っきいひよこも欲しいかも」
遥が、ガラスに両手を押し付けて、他のぬいぐるみも隈なく見つめている。
(もしかして、遠慮して三つしか言ってへんちゃうか?)
ふと思った真島は、横目で遥を見た後、店内をぐるりと見渡し、大声で店長を呼びつけた。
「おい!こん中のぬいぐるみ、全部でなんぼや?」
「そ、そう申されましても。こちらは商品ではありませんので……」
店長は、神室町で知らない人がいないくらい有名な真島ににらみつけられ震え上がっている。
目の前の予想もしなかった展開におろおろした遥は、思わず真島のスーツの後ろをくいっと引っ張って、口ごもりながら話し出した。

「真島のおじさん、私、全部も欲しくないよぉ。それに、一つ一つ取っていくほうが全然楽しいし……」
「あ?」と言って振り返った真島は、
「そんなモンかのぉ……。全部買うてやったら、遥ちゃんが喜ぶと思うたんやけどなあ」
バツが悪そうに後ろ頭を掻く。どうやら作戦失敗のようだ。
「よっしゃ」と思い立った真島は両手を握り締めて、
「ほんなら、遥ちゃんのためにも、いっちょやったろやないか!」
と店内に響き渡る声で宣言した。
その声にビクっとした遥は、大きなため息をついて、ほっと胸を撫で下ろしていた。

こうして真島の何十年ぶりのUFOキャッチャーがスタートした。
「まずは、なにか欲しいねん?」
「う~ん、じゃあ、あの三毛猫!」
「ほな、このボタンやな」
ボタンを押すと、メロディーが流れ出した。クレーンが横に動き出す。
(どうやったら取れるやろか……?)
そう考えている間に、ガクンとクレーンが一番端っこまで行ってしまった。
非常にかっこ悪い。
「あっ……」
と声を漏らした遥は、見てはいけないものを見たかのように、さっと瞳を伏せる。
(クソ!)
と焦った真島が、落ち着いてクレーンの先に視線を向けると、遥が欲しいと言った茶色のくまが見える。
まだチャンスはあった!

「は、遥ちゃん、くまも欲しかったやろ?先にソイツを取ったるからなあ!」
「うん……」
真島は勢いよく縦のボタンを押す。
「これで、どや!」
真島がボタンから手を離した瞬間、ピロピロ♪とクレーンが下りていき、ツメがくまの頭を掴んだ。くまは微かに動きながら移動し、取り出し口の寸前まできた。が、その途端、ぽとりとくまが落ちてしまった。
「なんでやねん!」
「あ~」
がっかりした声を上げた遥が、不満そうな顔でくまを見ている。
真島は、くまを睨みつけながら、ガラスをガンと叩いた。
「このボケ!俺に喧嘩っ売る気やろ!」
「真島のおじさん、落ち着いて!まだ二回残ってるし」
遥が真島を見上げて、精一杯の笑顔を向ける。

それから八回挑戦した真島だったが、ぬいぐるみは惜しいところでキャッチできずにいた。
ぎりっと奥歯を噛み締めた。苛立ちと恥ずかしさでボタンに添えた指がカタカタと音を立てている。
(なんで取れへんのや!メッチャかっこ悪いやないかい。全部買うたほうが、よっぽどマシやったわ!)
「真島のおじさん……もう止めようよ」
遥が、頭に血が上った真島の顔をちらりと見て、不安そうな顔を向けた。

これ以上かっこ悪い姿を遥に見せる訳にはいかない。
真島は、遥が一番欲しいと言う三毛猫にもう一度視線を移した。
じっと目を凝らすと、横になっているその猫のお尻にタグがついた輪が通してある。
「あれや!よっしゃ、遥ちゃん。今度こそ猫を撮ったるでぇ!」
「えっ?う、うん……」
期待が感じられない声で答えた遥は、小さくため息をついて、ゆっくりと三毛猫に視線を向けた。
真島が横のボタンを押すと、何度も聞き飽きたメロディーが流れ出す。ちょうど猫の上でクレーンが止まった。縦のボタンを押して手を離すと、クレーンは猫の真上だ。
「今度こそ勝負や!」
クレーンが下りていき、ツメが猫についた輪にくいっと差し込まれた。そして、上下さかさまになった猫は、左右に微かに揺れながら取り出し口まで無事に運ばれてきたのだ。

「やっぱり俺は天才やろ!」
真島はぬいぐるみを取り出すと、ドヤ顔でぽんと遥に猫を渡した。
「すごい!真島のおじさん、こういうの無理かと思ってた。ふふっ。私、大事にする!」
遥は、思わず真島の腕にしがみつき、キラキラした瞳で彼の顔を仰いでいる。
「こんなん当たり前や!まあ、ホンマは今までのは手慣らしやったんやけどなあ、ヒヒッ」
真島は、満足そうに笑いながら、二の腕に柔らかいものが当たっているのに気づいた。瞬時にそれが何かと分かると、自分の動揺が激しくなるのを感じた。
なんとか気持ちを集中させた真島は、持ち前の勘の鋭さで流れるように遥の欲しかったぬいぐるみを全て獲得していった。

UFOキャッチャーを終えた時、遥は両手いっぱいにぬいぐるみを抱えて、無邪気な子供のような屈託のない笑みを浮かべていた。
「真島のおじさん、ありがとう」
「ええんや、こんなモン。次、何かしたいモンあるか」
「う~ん、じゃあ『太鼓の達人』!」
「何やそれ?」
「いいから、こっちこっち!」
遥は真島の手をぐいぐい引っ張ると、窓際に置いてあるゲーム機へと連れて行った。
真島は、遥に手を引っ張られながら、目新しいゲーム機を次から次へと試した。何十年ぶりにゲームをしても、勝負となると、子供のようにムキになってしまう。大人気ないと遥にも笑われる始末だ――。
だが、そんな遥も、真島に負けじと必死になってプレイしたのだった。

店内をぐるりと見渡した真島は、
「これで大体回ったんちゃうか?」
と遥に尋ねた。ふと、遥が顔を赤らめて俯き加減になった。
「どうしたんや、遥ちゃん?」
「あ、あのね……記念にプリクラとか、撮りたいな」
耳まで赤くなった遥が上目遣いで真島を見上げている。
真島の鼓動がどきりと鳴った。顔も熱くなっていくのも分かる。
(遥ちゃんはそないに俺とおることが!!)
顔が火照った真島は、
「お、おう。それ、写真撮るヤツやろ?おっしゃ、一緒に撮ろな」
真島は、髪をせかせか掻きながら、プリクラ機を探そうとした。
嬉しそうにはにかんだ遥は、
「こっちだよ!」
と弾んだ声を上げて、真島の手をぎゅっと握り、フロアの奥へ連れて行った。

カーテンを開けて、プリクラ機に入ると、部屋の電気みたいな照明が左右に設置され、後ろにはCG合成用の緑の布が張られていた。
「えっらい、明るいんやなあ!」
と真島が目を丸くして驚いた声を上げた。女の子の香水の匂いも微かに漂っている。
しばらくボックス内を珍しそうに見渡していると、遥が慣れた手つきで、ゲーム機に硬貨を入れた。

『好きな背景を三つ選んでね♪』
パネルいっぱいにガーリーなフレームがずらりと並んだ。女の子が好きそうな音楽が流れる中、真島はどれも同じに見えて、何を選んでいいのかさっぱり分からない。
「ねえ、真島のおじさん。どれにする?」
遥がうきうきした様子で、真島の顔を覗き込んで尋ねてくる。
「せやなあ。遥ちゃんが好きなんでええんちゃうか?」
「もう、ダメだよ。一緒に選ぶのが楽しいんだがら」
遥がぷっくり頬を膨らませる。
「せ、せやな。ほな、この白黒っぽいヤツにするか」
「うん、分かった!あとはこれとこれでいいかな?」
「おう、ええで」
パネルをタッチしながら、素早く選んでいく遥を見て、
「遥ちゃん、よう慣れとるんなあ」
「学校の友達とよく撮ってるから」
(男ともか?)
真島は、今にも口をついて出てきそうな言葉をギリギリのところで飲み込んだ。

『撮影するよ♪』
音声とともに、画面にポーズの見本が現れた。
『可愛くピースしてね♪3、2……』
「えっ、これするんか!?」
「早く、おじさんもして!」
「こ、これはアカンで!」
遥を見ると、顔と頭の横で両手ピースをして、にっこり笑っている。真島はおずおずと胸の前でVサイン作った。昭和生まれの真島にとって、ピースとは胸の前でするのが普通なのだ。
『1』
遥がいきなり距離を詰めてきた。肩と肩がコツンと触れ合う。
カシャッ。
『こんな風に撮れたよ♪』
画面に、引きつった表情の真島と、寄り添うようにダブルピースする遥の写真が現れた。真島は熱くもないのに、変な汗が背中をツーッと流れるのを感じる。

『ほっぺに手を当てて、可愛く決めちゃお♪3、2、1……』
遥が頬を両手で包んで、アヒル口をしている。いつも以上に可愛いく見えて、鼓動が騒がしくなる。
(ハァ……これもせなアカンのか)
真島は、仕方なく手を頬に当てて、ニッと笑う。こんな姿は死んでも組員に見せられない。
カシャッ。
『こんな風に撮れたよ♪』
乙女なポーズをしているのに目が笑ってない真島と、可愛く決まっている遥が画面に映し出されている。
「真島のおじさん、顔怖いよ~」
「しゃあないやろ。メッチャ恥ずかしいんやで」

『顔をくっつけて手でハートを作って♪3、2、1……』
真島は見本のポーズを見て、目を見張ったまま固まった。
こんなポーズできるはずがない。心臓がばくばく鳴り出す。
「真島のおじさん、早く!」
遥は、画面を向きながら、片手でハートの半分を作って促す。
なぜ遥はこんなに積極的なんだろう。やっぱり自分は男として意識されていないんだろうか。
そんな思いが頭をかすめたが、真島はためらいながらも、遥の微かに赤く染まった頬に自分の頬を当てた。
(アカ~ン。なんちゅう柔らかさやねん!)
全身の血が沸騰するのを感じつつ真島も、指を広げて遥の指に合わせる。
カシャッ。
『こんな風に撮れたよ♪』
画面には、照れたような固まったような笑みを浮かべる真島と、今までで一番の笑顔を咲かせた遥が写っていた。

隣のボックスに移動して『らくがき』がスタートした。
真島は、ペンを恐る恐る手にとって、画面に目を向けた。
画面には、今撮影したプリクラの画像が映し出されていて、周りにらくがきするためのアイコンが並んでいる。
「これ、どないしたらええんや?」
「おじさんが、好きにらくがきしてくれたらいいよ」
ペンを持って固まっている真島をよそに、遥がにこにこしながら、らくがきをしている。ピンク色でハートマークを何個も描き、スタンプというハンコもぺたぺたと押している。
最後のショットには赤い大きなハートを一つ描いていた。まるで「二人は両思い」と言っているように。
「真島のおじさんも何か描いて」
「せやなあ。ほな……」
真島は迷った挙句『真島と遥』と描いた。
「何それ~」と言いながら、遥が嬉しそうにふふっと笑う。

『シールが出てくるよ♪』
シールを取り出した遥は、二枚のうち一枚を真島に渡してくれた。自分で見ても気持ちが悪い乙女なポーズがふたつと、遥と頬を寄せ合っている大きいひとつ。
「私、これお財布にお守りみたいにしまっとく!真島のおじさんはどっかに貼るってくれるんでしょ?」
ギクリと身を固めた真島は、
「せ、せやな~。どこがええんやろ」
と言いながら、視線を泳がせる。
「嘘だよ!」
「なんやねん。どこに貼ろうか真面目に考えてしもうたわ。ほんなら、俺も財布に入れとくで」
黒の革財布をポケットから取り出すと、折り目がつかないように、そっとシールをしまった。
遥も、はにかんだ笑みを浮かべながらシールを財布に入れる。

「ねえ、真島のおじさん、これ二人だけの秘密だからね」
「おう。約束やで」
ぽんぽんと遥の頭に手を乗せた真島は、携帯の時計を見た。まだ三時半だ。真島は思いついたように話し出した。
「せや、これからどないする?」
「そうだなあ。おじさんとはカラオケとかによく行ってたけど」
「桐生ちゃんには、余裕で勝つわ!俺、満点よう出すんやでぇ!」
「すご~い。でも、私も結構満点取ってるかも」
「ほな、勝負やな」
「うん!」
遥の歌声を楽しみにする真島は、彼女の手を引くと、大股でカラオケ館へと向かったのだ。

つづく


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夢小説「般若の素顔と極道の天使 ②」1.羽田空港

1. 羽田空港

真島が、羽田の到着ロビーに息を切らせて着くと、白のニットワンピースにベージュのロングブーツを穿いた遥が、きょろきょろしながら立っていた。下ろされた髪が清楚な雰囲気を出しているが、前に会った時よりなんだかやつれて見える。

「遥ちゃん!」
真島が大声で呼びかけると、目に見えてぱぁと遥の顔が輝き、急いで駆け寄ってきた。
「真島のおじさん、会いに来ちゃってごめんね……。私、私……」
久しぶりに真島に会って安心したのか遥の目に涙がにじむ。真島は、そんな遥の頭をポンポンと優しく撫でた。
「何や、ちょう痩せたんちゃうか?大丈夫か?」
「うん……」
「まあ、どっか店に入ろか?朝メシは食うたんか?」
「まだ……」
「そうか。まずは、ちゃんと食うて元気つけなアカンな」

二人は、羽田空港に隣接されたホテルのレストランへ行くことにした。窓側の席に案内されて、遥はミックスサンドイッチとオレンジジュースを、真島はコーヒーを注文した。
遥は、窓の外に見える何体も待機している飛行機をぼーっと眺めている。
やがて、注文したものが運ばれてきたが、遥は、オレンジジュースを一口すすっただけで、サンドイッチに手をつけようとしなかった。
「何があったんや?」となかなか聞き出せない真島は、口に含んだコーヒーがいつもより苦く感じた。
煙草に火をつけ、俯いている遥をちらりと見て尋ねてみた。

「遥ちゃん、何で連絡くれへんかったんや?えらい心配したんやで」
「うん……実は……」
「おう」
「私が真島のおじさんに連絡するのを止めた日にね、私、居間で友達にメールしてたの」
「ほう」
真島は、身を乗り出して遥の話に聞き入っている。
「それでね、ちょっと台所に用事があって席を外した時に、メールが来たんだ」
「ほんで?」
「その返事の送信者を居間にいたおじさんがちらっと見ちゃったの」
「しっかし桐生ちゃんも、悪趣味やなあ」
真島は、身を反らせて顔をしかめる。
「で……その送信者の名前が、『真島のおじさん』だったの……」
「な、何やて……」
目を見開いた真島は煙草の灰がじりじりと長くなっていくのに気付かない。

遥が、オレンジジュースのグラスを両手で包んだまま、ぽつりぽつりと続ける。
「それからね、おじさんすごく怒っちゃって、『俺に隠れて兄さんと連絡を取り合っていたのか』とか……」
真島は、急いで煙草を灰皿で揉み消すと、
「ほんで、どうなったんや?」
と、はやる気持ちを抑えながら、前かがみになって訊いた。
「うん。もう連絡するな、って言われた。だから、見つかったら、大変だから電話もメールもできなかったの……」
「せやったんかあ」

天井を向いて、ふぅと長いため息をついた。
桐生は、確実に俺の気持ちに気付いているだろう。桐生と話をつけなければいけない日が間近に迫っている。
(覚悟を決めなアカンな……)

「真島のおじさん?」
遥の声にはっと意識を戻すと、大きな瞳とぱちりと目が合った。どきりと心臓が跳ねる。
「そ、それにしても、よう連絡してくれたなあ。桐生ちゃんにバレたらどないするんや?」
「大丈夫。通話履歴とか全部削除するから」
ふふっといたずらっぽく笑う遥が可愛くて仕方がない。フッと笑った真島は、
「悪い子やなあ」
と言って、自分の手を遥の頭の上にぽんと置く。

「ところで、遥ちゃん。今夜はどこに泊まるんや?」
「製菓学校の近くのビジネスホテルだけど」
「それまでは、何するねん?」
「遊びに行きたいかなぁ……」
遥は誘っているのだろうか。真島は、脈が速くなるのを感じて、遥の様子を伺うように尋ねた。
「俺と……か?」
「うん!」
弾けるような笑顔を見せた遥の手に、思わず真島は自分の手を勢いよく重ねる。
「ほな、今日は、ぱぁーっとどっかで遊ぼな!どこがええ?」
「う~ん、神室町に行きたい!」
「なんで神室町やねん!他に高校生が好きそうな場所があるやんか。渋谷とかお台場とか」
「神室町には、小さい頃からおじさんとよく行ってたから、思い出がいっぱい詰まっているの。だから行きたいんだ」

真島は、なぜ桐生に叱られてまで、彼との思い出の場所に行きたがるのかと軽い嫉妬を覚えたが、
「ほんなら、ちゃんと食わなアカンでぇ」
と言って、サンドイッチを一切れ持って遥の口元に差し出した。
「う、うん。そうだよね」
遥は、わずかに頬を染めて、渡されたサンドイッチを受け取り口に運んだ。
真島は、ぬるくなったコーヒーを飲みながら、美味しそうに食べる遥を見て、頬を緩ませていた。

つづく


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夢小説「般若の素顔と極道の天使:17.突然の電話」

17. 突然の電話

翌日の朝、真島は携帯の着信音に起こされた。
「誰やねん。日曜の朝にかけてくんなや」
真島は、ベッドの中で眠そうに目をこする。
ナイトテーブルに手を伸ばして携帯を手に取った。携帯に表示された名前を覗き込んで、自分の目を疑った。
それは待ち焦がれていた名前。遥だった。
真島は慌てて通話ボタンを押して、携帯を耳に押し当て、勢いよく起き上がった。

「遥ちゃん、か……?」
「うん……」
少し間をあけて遥が言う。
「元気やったか」
「うん。真島のおじさんは?」
「あ、ああ。元気やったで」
重い沈黙が二人の間を流れる。真島の耳に軽やかなチャイム音や、アナウンスの声が聞こえてきた。
不思議に思った真島が口を開いた。
「何や、賑やかなとこやなあ。どこにおんねや?」
「あの……、羽田空港なんだ」
「何やて?なんでそないな所におんねや?」
真島が、思わず身を乗り出す。

「明日ね、来年から行く予定の製菓学校のオープンキャンパスなの」
「なんやそれ?」
「一日体験入学ってことかな?」
「遥ちゃん、東京の学校に通うんか?」
「うん。そのつもり」
真島の鼓動がいきなり高まった。遥が東京に引っ越してくれば、いつでも会える。真島は期待に胸を膨らませた。
「桐生ちゃんも、そこにおるんか?」
「いないよ。もうおじさんと一緒じゃなくても、一人で来れるよ」
遥が「ふふっ」と笑う声が聞こえる。

「ねえ、真島のおじさん?」
「何や?」
真島は携帯を強く耳に押し当てる。
「会いたい……」
遥が耳元でささやくように言った。
真島はゴクリと唾を呑み込んだ。鼓動が突然ばくばくと騒ぎ出す。ぎゅっと握り締めた携帯が熱を帯びている。
動揺を隠すためにヒヒと笑ってから、語りかけるように話し出した。
「俺もやで。ずっと会いたかったわ」
「良かったぁ。ずっと連絡できなかったから、嫌われちゃったとか思ってた……」
「そなことあるかいな。せやけど、なんで連絡くれへんかったんや?」
「それは……会ってから話すよ」
「お、おう。わかったわ」
真島は理由が気になって仕方がなかったが、それ以上尋ねることができない空気だった。
「ほんなら、今から迎えに行こか?」
「えっ?いいの?」
「当たり前に決まとるやないか」
「ありがとう。じゃ、到着ロビーで待ってる!」
「ほな、待っとき!メッチャ飛ばして行くでぇ」

電話を切ったと同時に、真島はベッドから降りて立ち上がった。
シャワーを浴びて、バスタオルを腰に巻きつけたまま、クローゼットを開けた。ドルチェ&ガッパーナで買った色とりどりの服がずらりと並んでいる。
「どれ着たら一番カッコええんや?」
慌てている真島は、ハンガーにかかった服を調べるように一枚ずつ見てゆく。
だが、どれをどれと合わせていいか分からない。
「ええい、面倒じゃ!」
真島は声を張り上げると、幹部会に着てゆく服を取り出した。ダークグレーのスーツ、ワインレッドのシャツ、黒のネクタイである。
急いで着替えると、最後に黒の皮手袋をはめた。鏡の前で自分の姿を見る。
「やっぱり、このスーツは男前に見えるのぉ」
そう呟いた真島は、ニヤリと笑い、愛車のジャガーのキーをズボンのポケットにしまい部屋を飛び出た。
クリスマスイブまであと三日。真島の運命は大きく動こうとしていた。

後編へつづく


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