花火大会 | 1分で真島吾朗と恋したい!

1分で真島吾朗と恋したい!

龍が如くと真島さんが大好き。真島の兄さんの二次創作・恋愛小説を綴る。また、真島さんと澤村遥の禁断恋愛小説「般若の素顔と極道の天使」も連載中!



★小説内の主人公を好きな名前に変えて読めます。
→「夢小説:花火大会:前編
→「夢小説:花火大会:後編

「ほんなら、この花火大会、一番ええ屋形船を貸し切ろか。ほんで、二人だけでパーッと見るっちゅうのはどうや?」
私から、パンフレットを受け取った吾郎さんは、得意そうに言った。
「えっ?でも……」
私は困惑して、下を俯いた。
「何や、美香は屋形船は好かんのかいな?」
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……」
吾郎さんは首を傾け、眉根を寄せた。

今日、仕事が終わると、飛ぶように吾郎さんの事務所に会いに来たけど、少し気まずい雰囲気になってしまった。組長室で吾郎さんと肩を並べて黒の革張りのソファに座っている。沈黙が苦しい。早く理由を言よう。その時、吾郎さんがパンと両ももを叩いた。
「せや、高いビルの屋上もええなあ?俺の不動産の上からも、よう見えるんやった!それがええ!」
吾郎さんが、ぐいっと手を肩に回して、顔を徐々に近づけてくる。キスの距離まで、あと数センチ……。鼓動が速くなり、身体がみるみる硬直していく。

「あ、あの、吾郎さん、話が!」
私は、全力をかけて、吾郎さんの身体を引き離した。
「な、なんやねん!」
吾郎さんが、怪訝そうな顔でソファに座り直し、フーッとため息をついた。
「なあ、美香、どないしたんや?」
吾郎さんが、柔らかい口調で言いながら、私の身体ごと自分に向けてまっすぐ見つめる。彼のグレーががった瞳と優しく肩に置かれる手のぬくもりで、言おうとしていた本音が姿を見せる。

「……私ね、いつも吾郎さんが豪華なところに連れて行ってくれるの、嬉しいんだぁ。でも、この花火大会は普通のカップルみたいに、会場で見たり、屋台で美味しいもの食べたりしたいなぁって……」
赤くなった顔を下に向けたまま、私は、ぽつり、ぽつりと答えた。
「せやったんかあ!ホンマ美香は可愛いやっちゃなあ」
吾郎さんは、いきなり私をひょいっと持ち上げると、自分の膝に乗せて、ぎゅっと抱きしめた。
「子供じゃないんだから、やめてよ~!」
吾郎さんの膝の上で顔を赤くした私は、足をバタバタさせながら、十日後に迫る花火大会が待ち遠しくてたまらなかった。


十日後。
私は、新宿の美容院から帰ってきた。今日は花火大会なので予約も満員だったらしい。
私は鏡に自分の全身を映してみた。黒髪を結い上げ、白地に赤の花模様の浴衣をまとい、赤の帯を締めている私がいる。上一つで縛られた髪の毛先は遊ばせもらった。華奢な白のかんざしが、少し動くだけでゆらゆら揺れて、光っている。
本当は、Youtube で何回も着付けと髪型の練習をしたけど、挫折した私は美容院でしてもらったのだ。私は、にっこり笑って身体の前で袖を合わせて、一回転した。

時計を見た。五時だった。そろそろ真島さんが来る頃だ。麦茶を飲もうとした時、携帯が鳴り始めた。ディスプレイには真島さんの名前が表示されている。私は携帯を耳に押し当てた。

「おぅ、美香、準備はもうええか?」
「う、うん。一応」
「ほな、家の前で待っとるから、早うこっちおいでぇや」

私は、赤の巾着を手に通し、下駄を履いて、吾郎さんのもとへと早足で向かった。マンションの前に出ると、道路に止まった黒塗りの車にもたれて、浴衣姿の吾郎さんが立っていた。吾郎さんの白い肌が黒地に映えて美しい。ライトグレーの帯が腰の低い位置でぴたりと巻かれ、なんて粋なんだろう。吾郎さんがこちらへ歩いて来る。そのかっこよさに目を奪われていると、そんな私の様子に吾郎さんはニヤっと笑った。

「見とれとったやろ?」
「ち、違います!」
「ほう。まあ、ええわ」
ドキドキを見透かされないように、ハンドタオルで顔を拭く。突然、吾郎さんがそのタオルを私から取り上げた。
「なあ、美香の浴衣、メッチャ色っぽいやないけ」
突然、褒められて自然と頬が緩みそうになる。
「髪型、こないな感じも大好きやでぇ」
そういう言うと、吾郎さんは遊ばせた毛先とかんざしを指先で弄んでいるようだ。

「せやけど、一番エロイのはここや」
と、吾郎さんは私のうなじの辺りを指でなぞり始めた。くすぐったくて、肩をぴくんと揺らす。
「もう、くすぐったいから、やめて~!」
私は、恥ずかしさを必死で隠そうと、吾郎さんの手を引っ張って車へと向かった。

西田さんが運転する車は、花火大会会場へと向かって走り、やがて会場近くに到着した。
「親父、会場近くは車の乗り入れが出来ないんスよ」
「ここから近くなんやな?」
「はい。じゃ、親父、また花火が終わった頃に、ここに迎えに来ます」
車から降りると、吾郎さんは、
「こりゃあ、なんやねん!」
と、目を白黒させた。
「ごっつい人出なんやのぅ!」
「うん!この辺りじゃ一番有名な花火みたいだよ~」
私は、一緒に花火大会に来られたことが嬉しくて、思わず声が弾んでしまう。

ゆっくりと会場へ向かった。でも、会場付近は人で溢れている。
「着くまでにえらい時間がかかりそうやで。ちょっと様子でも見てくるわ。ハァ~、メンドくさ……」
吾郎さんの言葉に、つい、大きなため息をついた時だった。

「きゃっ!」
前から来たガラの悪い三人組の若者たちが勢いよく私にぶつかってきた。
「痛っ」
私は、運悪くぶつかった拍子に転んでしまった。
「悪ぃ。大丈夫かよ?」
ぶつかった男は、思いのほか好青年で、私に手を差し出してくれた。
「ありがとう~」
男に引き起こされてもらい、お礼を言うと男はにやにやと笑った。
「へえ、あんた、結構イケてんじゃん」
「ねえ、一人?よかったら、オレらと遊ぼうよ~?」
(え?これって、もしかしてナンパされてる?)
急展開にあたふたしてしまう。ボーッと立ち尽くしていると、

「スマンなあ、こいつなあ、ワシの女なんや」
吾郎さんは私の隣に立ち、ぐっと肩を抱き寄せた。肩を抱くその手には力がこもっている。
「なんだよ。男連れかよ……」
吾郎さんは、若者たちに冷ややかな笑みを浮かべると、私の頬を両手で挟み、いきなり唇を塞いだのだ。

思いがけない行動に驚いた若者たちは、
「なんだよ、見せつけんなよ!オヤジ!」
と毒を吐いた。
「ええモン見せたっただけや」
吾郎さんは、口角の端を上げて、あざ笑っている。
「ああ!?何様だ、オヤジ!やんのかよ?」
その場の雰囲気は一気に険悪なものへと変わっていく。
「ヒヒヒッ。ええで、ええでぇ!こっちも人込みでムシャクシャしとったとこや。三人まとめて、やったるでぇ!」

吾郎さんは、目をギラギラさせて若者たちを睨みつけている。さすが嶋野の狂犬と呼ばれた男だ。若者たちとはオーラがまるで違う。でも、このままでは若者たちが危ない。
「ちょ、ちょ、ダメです!いけません!吾郎さん!」
吾郎さんの浴衣をぐいっと激しく引っ張る。
「何や、こないな時に!」
真島さんが、眉間にしわを寄せて睨みつける。
「こんな人が多いところで喧嘩しないで下さい、ね?」
私は、すがるように吾郎さんを見つめた。私の言葉に彼は、ほんの少しだけためらったような顔をした。

私は、急いで若者たちに深々と頭を下げた。
「ぶつかってしまって、すみませんでした。それじゃあ、失礼します!」
「えっ?あ、おい、お姉さん!」
若者たちの驚いたような声が聞こえたけれど、気にせず、吾郎さんの手を無理やり引いて、その場をあとにした。強引にあの場から引き離したせいか、吾郎さんの機嫌がすこぶる悪くなっていった。さっきから、煙草を吸っては、煙を宙に吐いている。私たちの間には、ずっと沈黙が流れ、カラコロと下駄の音が道に響いていた。
(せっかく花火大会一緒に来れたのに……)
だけど、機嫌が悪い吾郎さんと花火を見ても、あまり楽しめそうには思えなかった。

「あの、吾郎さん?」
「あん?」
「今日はもう帰るよ」
「何言うとるんや?」
「吾郎さん機嫌が悪いし、私も楽しくないし……」
「しゃあないやろ?美香に手ぇ出そうとしたモンを倒せへんかったんや」
吾郎さんは、煙草を投げ捨て、乱暴に足で踏み消した。
「もう、いい。帰るから!」
「おい!待たんかい!車回したるわ。好きにせい」

吾郎さんは、吐き捨てるように言うと、すぐに携帯を取り出した。
「西田か?ワシや。車回せや。あん?ボケ!ええんじゃ、花火大会は!」
隣で荒々しく命令する吾郎さんを見つめる。
(あ~、なんでこうなったんだろう……。吾郎さんとの花火大会、すごく楽しみにしてたのに……)
ズキリと胸が痛んで、私は巾着袋を握り締めた。

「おい、美香、どないしたんや?」
「え?なんでもない……」
私は小声で答えた。
「西田さん、迎えに来てくれそう?」
「せやな。周辺道路が渋滞しとるらしいんで、ちょっと時間がかかるらしいわ」

「あ……」
ふと風に乗って、懐かしさをそそる盆踊りのメロディーが聞こえてきた。顔を上げると、吾郎さんの向こう側に、オレンジ色に灯されたちょうちんがいくつも見える。
「次は、何やねん?」
「盆踊り大会してるみたい。あそこ」
私が会場を指差すと、吾郎さんは、急いで私の手を取り盆踊り会場へと歩き出した。そっとその顔を見ると、少年のようないたずらっぽい笑みを浮かべていた。


盆踊り会場は、隣の花火大会会場に人が集中しているため、比較的、混雑していなかった。会場は、お寺の広場で行われていた。その会場を囲うように、ずらりとカラフルな屋台が立ち並んでいる。オレンジ色に灯されたちょうちんが、やぐらから放射線状に飾られていた。その下では、綺麗な浴衣に身を包んだ女の人や子供たちが行き交っていて、まるで別世界に来たようだった。

屋台のほうから香ばしい匂いが漂ってきた。
「ねえ、吾郎さん、せっかくだから屋台見ない?あれ?」
さっきまで隣にいたはずの吾郎さんの姿がない。

「お~い、美香!」
「金魚すくい、せえへんか?」
さっきまでのテンションとは裏腹に吾郎さんは、わくわくとした様子で金魚の水槽の前で手を振っている。私が小走りに行って、水槽を覗くと、赤と黒の金魚が悠々と泳いでいた。
「おばちゃん、ほな、二人分で一回ずつや」
吾郎さんがお金を渡すと、おばちゃんが網を渡してくれた。私は赤い金魚に狙いを定めた。
(破れないように水の抵抗を受けないように、こうして、よいしょ……)
「やったぁ!」

「あ~!アカン!」
吾郎さんを見ると、網がもう破れている。私は笑いを噛み締めながら、
「やり方教えてあげよっか?」
と、いたずらっぽく訊いた。
「アホか!こないなモン、ガキかて出来るわ!」
ムキになって言う吾郎さんは、また二枚、網をもらって、私に一枚くれた。これが四回繰り返され、五回目となった。私の器には四匹の赤い金魚がスイスイと泳いでいる。吾郎さんの器には、まだ水が張られているだけある。

「しゃあない!大物狙いや。あの一番でかい黒の出目金いくでぇ!」
そう言いながら、吾郎さんは浴衣を袖まくりして網を構えた。
(絶対ムリだよ……)
私は、隣で吾郎さんの網の動きを見守った。吾郎さんが、網をゆっくり斜めに水に入れた。そっと金魚を救い上げると、網の上で大きな黒の出目金がピチピチと跳ねた。
「ごっつい大物やでぇ!まあ、こんなん獲れるヤツは俺くらいやけどなあ!」
「は、早く器に入れようよ!」
吾郎さんが、勝ち誇ったような笑みを浮かべている間に、網が破れて幻の金魚は水槽にポトリと落ちてしまった。
「クソーッ!」
吾郎さんは、落胆の声を上げ、がっくりと肩を落とした。おばちゃんが、水の入ったビニール袋の中に赤い金魚と、オマケに小さな黒の出目金を入れてくれた。私は、口をオレンジ色の紐で縛られた袋を吊り下げて歩き出した。

「金魚、可愛いねえ?」
私は、袋を目線まで持ち上げて元気に泳ぐ金魚を見つめた。
「そなモン、可愛いか?」
ぼそっと言った仏頂面の吾郎さんは、ちらりと金魚を見た。
「ふふ。ねえ、次、どこ行く?」
「せや!射的や!お前の好きなモン取ったるでぇ!」
得意そうにそう言って、目を輝かせている吾郎さんは、無邪気な小学生みたいで、私は苦笑しつつも、頷いたのだ。

射的屋に着くと、赤いフェルトが敷かれた台には、色とりどりのおもちゃやお菓子がずらりと並んでいた。そのレトロな雰囲気に見とれていると、隣で吾郎さんが銃口にコルクの弾を詰め始めた。
「おい、美香、出来んのは、四回や。どれが欲しいか言うてみろや」
「え?四個も?えっと、じゃあ、上のくまのぬいぐるみと、その横のアロマキャンドルとミニマグカップと、それから下の苺ポッキーかな!」
「ほう、それでええんやな」
吾郎さんは、口の端をクイッと上げて笑みを浮かべると、銃口を景品に定めて、構えることなく引き金を引いた。

パシッ!
ぬいぐるみが弾かれるように後ろに落ちた。吾郎さんは、素早く弾を詰めてまた引き金を引く。横のアロマキャンドルも倒れた。
「すごい、二つも取れた!吾郎さん、さすが!」
「これくらい朝メシ前や。まあ、ホンマモンには、かなわんけどなあ!」
ヒヒッと笑った吾郎さんは、その後も流れるように景品に弾を当てていった。

「ほな、美香の番やでぇ」
「は?」
「ホンマは、まだ一回分残っとるんや」
意地の悪い笑みを浮かべた吾郎さんは、銃を私に渡すと、
「狙ってみ?」
と、言って私の後ろに回った。
「そんなぁ……」
「ええから、早うし」
「じゃあ、吾郎さん、何が欲しいの?」
「せやなあ。あのでかいアンパンマンにせい」
「はあ?」
言われるままに狙いを定めるけど、なかなかうまくいかない。
「ええか?あのアンパンマンの腹に合わせるんや」
吾郎さんの息が頬に当たる。背中に彼の手が添えられていて、私は吾郎さんに覆われるように銃を構えている。 心臓が高鳴って、目に見えてわかるくらい手が震えてしまう。

「ほれ、集中せい」
「あ、はい」
慌てて銃を握り締める。
「せや。今や。引け!」
目を閉じて引き金を引いてしまった。

パシッ!
ゆっくりと瞼を開けると、見事にアンパンマンが後ろに倒れていた。
「やったぁ!」
弾んだ声で振り向くと、満足そうな顔の吾郎さんが、
「さすが美香やでぇ」
と、手を伸ばして、私の頭をポンポンと撫でてくれた。

盆踊りの会場での時間は、ゆっくり過ぎていった。お面、リンゴ飴、カキ氷、綿菓子、ヨーヨー釣りなどの屋台が並び、愛想のいいおじさんが屋台の中から客引きをしている。
「美香、何や喉渇いたなあ。カキ氷でも食うか?」
「うん!そうだね」
そうやって二人でカキ氷を食べたり、会場内をのんびりと歩いて食べて回っていた。

「おお!」
突然、吾郎さんが大声を上げ、空を見た。私もつられて空を見上げる。
色とりどりの大輪の花が夜空に次々と咲き始めた。大きな音と何色もの光が組み合わさって心が奪われる。お腹の底に花火の音が鳴り響いた。
「綺麗~!」
吾郎さんと並んで、私は思わず大きな声を上げた。

その時、吾郎さんがいきなり私の手を引っ張って歩き始めた。
「え?どこ行くの?」
「ええからついて来ぃや」
吾郎さんは、お寺の境内のほうへどんどん進んでいく。境内に着くと、人の気配がない。祭の客に開放していないようで、通行止めの鎖が渡してあるようだ。吾郎さんは、その鎖をいとも簡単に跨ぎ越した。
「おい、こっちに来るんや!」
「こんなこと、しちゃダメなんじゃ……」
そう言いつつも、私は差し出された手を握り、鎖を跨いだ。そこを通り抜けると、吾郎さんは境内の裏にある石畳の階段を登り始めた。草むらにうずくまるように点々と石仏が並び、それぞれが、かすかな笑みを浮かべている。
「ねえ、怖いよ……。本当にどこ行くの……?」
「特等席や」

そう吾郎さんが言った瞬間、パッと見晴らしが良くなった。眼下には、オレンジ色に灯ったちょうちんや、ライトに照らされたカラフルな屋台が小さく見える。
「すごい!吾郎さん、どうしてこんなとこ知ってるの?」
「勘や!」
「勘?」
ぽかんと固まった私の顔を見て、笑い出した真島さんは、
「ちゅうのは冗談で、寺を見た時、後ろが丘みたいやったんで、二人きりになれるんちゃうかと思うただけや」
私たちは、笑いながら、ベンチのようになった石に腰を下ろした。

真島さんは、満足そうに夜空を見上ていた。赤、黄、青、緑といった華やかな花火がいくつも上がり、空を彩っては消えていく。
「ホンマ綺麗やなあ。下とは迫力がちゃうでぇ」
「うん!今まで見た花火も綺麗だったけど、これが一番……」
真島さんを見ると、両手を後ろについて、夜風を浴びながら空を見上げている。花火に見入っているようだ。
大きくはだけた胸元にひそかに胸が高鳴ってしまう。

ふと、真島さんが振り向いた。優しい視線とぶつかる。
「んっ」
そっと唇が重ねられて、思わず目を見開いてしまった。真島さんが頬を撫でて、もう一度唇を重ねた。さっきよりも熱いキスにどんどん力を奪われて、頭がボーっとしてしまう。真島さんが背中に手を回してきたので、腕の中にストンと身を任せた。火照った頬が真島さんのたくましい胸に触れた。そのひんやりした素肌に鼓動はどんどん速くなる。

パシャン。
私が持っていた金魚の袋から水が跳ねた。我に返った私が、
「ふふ、金魚がやきもち焼いてるのかも」 と小声で言うと、
「せやったら、チビ助の出目金やろな。美香は渡さへんでぇ」
そうささやいた吾郎さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべて、私をぎゅっと抱きすくめた。

大きな音が鳴り響き、七色の光に私たちは包み込まれた。それはまるで夢の中にいるようだった。あまりの美しさに、吾郎さんの胸の中からそっと顔を上げると、吸い寄せられるように、視線が絡み合った。吾郎さんが、私のうなじをふわりと撫でて、耳のそばに頬を当てた。

「なあ、美香、お前ホンマにええ子やなあ」
吾郎さんが低い声でささやく。耳に息がかかって背中がピクンとする。
「お前と一緒やったら、楽しいてしゃあないわ」
「そ、それはどうも……」
「それになあ、美香は優しいねん」
「え?そ、そうかな?」
吾郎さんの抱きしめる手に力が入った。
「美香……、お前が初めてなんや。こないに惚れた女は」
吾郎さんは、間を置いて言った。私は、吾郎さんの意外な言葉に鼓動を刺激されて、必死に呼吸を整えた。私は、夢を見ているのだろうか。それとも、本当に私が一番の女なのだろうか?

一際大きな音がした。見上げると、金色の大輪の花火が、夜空一杯に咲いていた。一瞬にして金色の光に包まれる。光が丸く下に垂れ、柳のようにキラキラとゆっくり落ちてくる。
「ねえ、本当に私が一番、なの……?」
「お前は最高や」
背中に回された腕は力強く私を包んでくる。吾郎さんの首筋に頬をすり寄せた。私たちの上から、数え切れない光が降ってくる。まるで流れ星のようだ。どうかこの夢から覚めませんように。次々と上がる花火の音を遠くに聞きながら、私は吾郎さんの首筋に顔を埋めて、そっと願いを込めた。


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