ハイエンド系、コンポーネント系と呼ばれる、Tom anderson、Suhr、James tyler等のストラトタイプの高級ギターは若い人は憧れを持つ者も多いだろう。これらはセッションミュージシャン御用達のメーカであるように、多様な場面を想定して作られたギターである。一本で色々な音楽に対応できる俗に言う「お仕事ギター」だ。

 

 

 これらのメーカのモダンスペックモデルの共通した特徴の一つに、高域特性に非常に優れていることが挙げられる。抜けが良いとか、立上りが速い、芯がある、分離感がある、高音が伸びる、と言われる部分の素となるものだ。弾いてみると分かるが、単音もコードも非常に発音が良い。

 

 

 このおかげで、アンサンブルでは抜けるし、聴き取りやすいし、速弾きしやすいしと良いことづくしである。そう、本来はいい事づくしなのだが、この音質的な弾きやすさが「落とし穴」となってしまうことがある。というのも、音質上の弾きやすさの素である高域成分に依存してしまい、高域が野放しになっているパターンが散見されるのだ。これはフレージングを理解していない中級者レベルのアマチュアギタリストに多い傾向がある。

 

 

 まず、この非常に優れた高域特性上手く制御しないとダイナミクス(強弱)表現を非常に平坦にしてしまう。ここで言うダイナミクスというのは単なる音の大小ではない。アタック時の高音の減衰も含む。

 

 

 これらのギターは全てのノートで、いの一番に元気な高音が顔を出すため、アタックに表情の変化がつきにくくなる。そして、アタックが全部同じ音になると「全部その音かよ」と突っ込みたくなるくらい節操のない演奏となるのだ。上級者はその高音を意識的、または無意識に音作りやプレイ(フレージング)で吸収しているのである。

 

 

 特に、速弾きばかり練習している人は注意だ。これらのギターは一音一音がくっきりして粒立ちがよく、弾いている本人はピッキング、タッピングがズバズバ決まるのでかなり気持ちいいはずだ。一方で肝心のリスナーは、その代わり映えのしない機械的な音の羅列を延々と聴かされる。どんなに速くて難解なフレーズが弾けたとしても、単にノートを追ってるだけであれば、リスナーの心は離れてしまうのだ。ギタリストの見せどころのソロが騒がしく、退屈と思われているなんて残念である。

 

 

 まぁ、FENDERやGIBSONのギターならこれが起きないという訳でもないのだが、ハイエンド、コンポ系に比べて高域がラフであることから、パッと弾いても趣があるように聴こえるので、そういった意味での弾きやすさには軍配が上がる。

 

 

 ハイエンド系ギターはレスポンスが良く、演者にとって弾きやすく感じるが、実は経験不足や下手が露呈するギターでもある。憧れて手にしたギタリスト達は音作りやフレージングを今以上に強く意識する必要があるだろう。逆に言えば、これ以上に腕試ししてくれるギターもないのである。

 

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