☆PRP卵巣注入の効果:ランダム化試験 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PRP卵巣注入の効果をランダム化試験により検討したものです。

 

Hum Reprod 2024; 39: 760(スペイン)doi: 10.1093/humrep/deae038

要約:POSEIDON分類3&4POR女性60名(30~42 歳)を対象に、卵巣内PRP注入の有効性と安全性を検討するため、最初の採卵時にPRPあるいはプラセボのいずれかを投与し、3回連続で卵巣刺激と採卵を実施するランダム化試験(二重盲検法)を行いました。なお、採卵①②では卵子凍結を行い、採卵③の実施時に卵子融解と顕微授精を実施し、PGT-Aに提出しました。また、PRPは、15mLの血液から、まず20℃で200g20分遠心し、バッフィー部分を3000g15分、さらに970g7分で調整し、5mLとしました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

        対照群   PRP群   オッズ比(95%信頼区間)  P値

成熟卵数①   2.69個   2.55個    -0.14(-1.11~0.83)   NS

成熟卵数②   3.27個   4.18個    0.91(-0.30~2.12)   NS

成熟卵数③   4.15個 < 5.27個    1.12(0.12~2.12)   0.029

合計成熟卵数  8.91個 < 10.45個   1.54(0.42~2.66)   0.008

胚盤胞数    2.43個   1.90個                 NS

正常胚数    0.81個   0.81個                 NS

正常胚患者率  53%    43%                 NS

臨床妊娠率   60%  > 27%                 0.018

正期産     43%    23%                 NS

 

解説:加齢による卵巣予備能(AMH、AFC)低下により、卵胞数や採卵数の減少が起こりますが、卵子は誕生時に持っているものが全てであり、現在の医学では卵子を増やすことはできません。血小板の成長因子を利用したPRP療法が近年広く行われ「卵巣若返り」とも呼ばれていますが、本当に有効であるかについては賛否両論があります。本論文は、このような背景の基に行われた研究であり、PRP卵巣注入の効果を二重盲検法ランダム化試験により検討したものです。PRP卵巣注入は注入後2周期目以降の成熟卵数を増加させましたが、正常胚増加や妊娠率の改善にはならないことを示しています。つまり、PRP卵巣注入は、卵巣の若返りではなく、卵胞の活性化(再活性化)とするのが適切です。これには血小板因子または機械的刺激のいずれか、あるいは両方が関与している可能性がありますが、現時点ではどちらとも言い難いです。今後、PRPの正確な作用機序を特定する必要があります。

 

これまで、不妊治療の最高峰の英文医学誌である「Hum Reprod」も「Fertil Steril」もPRPに関する論文は一才受け付けていませんでした。新しい治療には慎重な立場を取っているからですが、今回初めてPRP論文が掲載されたことで、PRPの領域が一歩前進した感じがいたします。

 

POSEIDON分類 2016(Fertil Steril 2016; 105: 1452)は下記の通り。

POSEIDON 1群:35歳未満、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      1a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      1b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 2群:35歳以上、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      2a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      2b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 3群:35歳未満、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

POSEIDON 4群:35歳以上、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

 

PRP卵巣注入については、下記の記事を参照してください。

2022.10.25「☆PRP卵巣注入後の効果発現時期について:前方視的検討

2022.10.10「PRPによる子宮内膜改善効果

2022.10.9「PRP卵巣注入の最新情報

2022.10.5「PRP最新情報:レビュー

2022.7.18「PRP子宮内注入:正常胚での検討

2022.4.3「☆PRP卵巣注入510例の後方視的検討

2022.2.25「PRP子宮内注入:基礎的検討

2022.2.14「PRP子宮内注入:最近の論文

2021.12.19「反復着床障害(RIF) その3

2021.12.11「Q&A3140 ☆PRP治療について

2021.11.29「☆PRP卵巣注入による卵子形成促進 その2

2021.9.18「☆PRP療法による着床率改善

2021.9.4「☆移植周期のPRP療法

2021.8.10「PRP卵巣注入による卵子形成促進

2021.2.25「☆PRP療法の基礎的検討

2019.12.12「PRP療法について:オピニオン

2019.6.13「☆PRP療法について

 

POSEIDON 分類については、下記の記事を参照してください。

2023.9.23「卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率

2021.8.18「☆POSEIDON分類による採卵1回あたりの出産率は?

2021.6.23「POSEIDONクライテリアでのAMHとAFCの一致率は?

2021.6.19「卵巣反応不良の方の出産率予測式:PROsPeRスコア

2019.7.4「卵巣機能低下の方で妊娠成績を最も左右するのは?

2015.1.7「卵巣反応不良の方へ新しい刺激の試み

2014.1.18「☆卵巣反応不良の場合の対処法

2012.11.19「卵巣反応不良の定義:ボローニャ•クライテリア