☆PRP卵巣注入510例の後方視的検討 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PRP卵巣注入510例の後方視的検討を行ったものです。私も含め、皆様の知りたい情報が満載ですので、ご紹介いたします。

 

Aging (Albany NY) 2022 Mar 22; 14: 1(トルコ)doi: 10.18632/aging.203972

要約:2020年にイスタンブールの一つの施設で、POSEIDON分類による卵巣反応不良(POR: poor ovarian response)の診断の方510名(30〜45歳)を対象に、PRP卵巣注入を行い、その成果を後方視的に検討しました。20mLの血液から2〜4mLのPRP分画を獲得し、最終的に4〜8mLに調整しました。卵巣注入は、月経終了後10日以内に、17G針を用いて、PRP調整後2時間以内に実施しました。PRP注入当日に、AMHとFSH採血およびAFC(胞状卵胞数)を計測し、PRP注入後の月経周期CD2にて再びAMHとFSH採血およびAFCを計測しました。前周期採卵時のAFCと比べAFCが1個以上多ければ卵巣刺激を開始し採卵を行いました。採卵周期を開始しなかった方は、その次の月経周期で少なくとも1個のAFCが認められれば採卵周期を開始しました。(AMHとFSH値が改善していても)AFCがゼロの場合には、次の周期へ持ち越しました。卵巣刺激は、アンタゴニスト法で、ゴナール300単位とhMG製剤300単位を用い、オビドレルで成熟させました。新鮮胚移植あるいは凍結胚移植を行い、一部でPGTも実施しました。また、妊娠判定は移植後12日目のHCG採血で行いました。PRP卵巣注入510名のうち、PRP注入後月経が起きず自然妊娠された方が22名(4.3%)おられ、12名が出産しました(10名は流産)。ドロップアウト14名(2.7%)を除く474名(92.9%)が卵巣刺激を行い、312名(65.8%)で胚移植を行い、83名(17.5%)で妊娠が成立し、54名が出産しました。自然妊娠と採卵胚移植を含めた妊娠率は20.5%(105/510)、出産率は12.9%(66/510)でした。具体的な成績を下記に記します。

 

<PRP前後の各種パラメータ>

     PRP前  PRP後  P値

AMH   0.35 < 0.53  <0.001

FSH   20.6 > 16.4  <0.001   

AFC    2.6 < 4.2  <0.001

採卵数   2.2 < 3.4  <0.001

成熟卵数  1.7 < 2.7  <0.001   

2PN胚数  1.3 < 2.1  <0.001

分割胚数  1.3 < 2.3  <0.001   

 

<年齢別妊娠成績>

           <38歳   38〜42歳  42〜45歳

自然妊娠数(率)   9(6.8%) 8(4.2%) 5(2.7%)

ドロップアウト(率) 3(2.3%) 8(4.2%) 3(1.6%)  

受精卵数(率)   96(73%) 113(59%)103(55%)

妊娠数(率)    58(45%) 28(15%) 6(3.2%)

出産数(率)    44(34%) 16(8.7%) 2(1.0%)

 

解説:卵巣反応不良(POR: poor ovarian response)の診断には、ボローニャ分類POSEIDON分類が用いられています。本論文は、POSEIDON分類によるPRP卵巣注入510例の後方視的検討を行ったものであり、卵巣機能改善効果と妊娠成績改善の可能性を示しています。ただし、後方視的検討ですので、今後のランダム化試験による前方視的検討が必要です。現段階では、PRP卵巣注入をルーティンの不妊治療に取り入れるべきではないとしています。ただし、POSEIDON分類では条件の良い方と良くない方が混在しますので、本当はボローニャ分類での実施が望ましいと思います。

 

POSEIDON分類2016(Patient-Oriented Strategies Encompassing IndividualizeD Oocyte Number)(Fertil Steril 2016; 105: 1452)

POSEIDON 1群:35歳未満、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      1a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      1b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 2群:35歳以上、AFC 5以上あるいはAMH 1.2以上

      2a群:卵巣刺激での採卵数3個以下

      2b群:卵巣刺激での採卵数4〜9個

POSEIDON 3群:35歳未満、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

POSEIDON 4群:35歳以上、AFC 5未満あるいはAMH 1.2未満

 

POSEIDON分類については、下記の記事を参照してください。

2021.8.18「☆POSEIDON分類による採卵1回あたりの出産率は?

2021.6.23「POSEIDONクライテリアでのAMHとAFCの一致率は?

2021.6.19「卵巣反応不良の方の出産率予測式:PROsPeRスコア

2019.7.4「卵巣機能低下の方で妊娠成績を最も左右するのは?