PRP卵巣注入による卵子形成促進 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PRP(Platelet Rich Plasma=多血小板血漿)の卵巣注入による卵子形成促進の可能性についてのレビューです。

 

Hum Reprod 2021; 36: 1737(英国)doi: 10.1093/humrep/deab106

要約:早発卵巣不全(早発閉経)など卵子の枯渇に対する治療「卵子若返り」は極めて困難な課題です。幹細胞導入卵子形成促進(活性化)などの方法が考えられますが、その中で注目されているのがPRPの卵巣注入による卵子形成促進です。PRP卵巣内注入による卵子形成促進作用をについて、これまで12編の症例報告と1編の非ランダム化臨床試験が報告されています。この非ランダム化臨床試験では、PRP群46名と無処置群37名に分け、臨床妊娠はそれぞれ11件2件、出産は5件2件でした(J Assist Reprod Genet 2020; 37: 855)。PRPから産生される物質で、卵子形成促進作用が確認されているものには、BMPs、CCL5、EGF、IL8、PDGF、PF4/CXCL4、P-selectin/CD62、SDF1α/CXCL12、セロトニン、TGFβ1、TSP1、VEGF、TIMP4、GM-CSF、FGF、S1Pがあります。これらの因子は血小板が活性化された場合に産生されますが、どのような方法(カルシウム、トロンビンなど)で活性化させた場合に最も効率的に産生されるのかは明らかではありません。また、適切な対照群の取り方にも工夫が必要です。PRPは、ご自身の血液から簡単に採取でき、分離も簡単で、(他の再生医療と比べれば)低コストというメリットがありますが、治療のメカニズムが不明であるという欠点があります。現在13件の臨床研究が進行中であり、その結果が待たれます。

 

解説:PRP療法は近年、再生医療の領域で用いられ、整形外科(骨折、炎症)、眼科、皮膚科(創傷治癒)、泌尿器科(漏、尿失禁)、美容外科領域での使用頻度が急速に拡大しています。PRPには、VEGF、TGF、PDGF、EGF、HGF、SDF1αなどのさまざまな増殖因子が含まれており、細胞の遊走、接着、分化、増殖、細胞外因子の集合に関与しています。ご本人の血液から生成して利用できるため、安全性が高いという特徴があり、最近ではPRP分離装置も各社から発売されています(そのような装置を使わずに分離も可能です)。産婦人科領域では、2015年に中国のグループがPRP子宮内注入による子宮内膜発育促進作用を始めて報告し、2016年にギリシャのグループがPRP卵巣内注入による卵子形成促進作用を始めて報告しました。現在、PRP療法はPOF(早発卵巣不全、POI)、着床障害、薄い子宮内膜の際に実施報告がありますが、小規模かつほとんどが前後の比較といった不適切な研究データしかなく、厳格な研究を元にしたデータはありません。現時点ではPRP療法は証拠不十分のため推奨しないとされています。

 

PRP療法については、下記の記事を参照してください。

2021.2.25「☆PRP療法の基礎的検討

2019.12.12「PRP療法について:オピニオン

2019.6.13「☆PRP療法について