☆PRP療法の基礎的検討 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PRP(Platelet Rich Plasma=多血小板血漿)療法の基礎的検討をおこなったものです。

 

Fertil Steril 2021; 115: 490(スペイン、イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.053

Fertil Steril 2021; 115: 336(デンマーク)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.027

要約:アッシャーマン症候群(子宮内膜萎縮)4名、妊娠歴のある女性1名、臍帯血(Stem-cell Technologies社)からPRPを分離し、蛋白質分析、子宮内膜細胞に添加培養(in vitro)、子宮内癒着モデルマウスへ投与(in vivo)の検討を行いました。まず、蛋白質分析では、どのサンプルからも再生に必要な蛋白として、SCF、PDGF-BB、vWF、thrombospondin-1が検出されました。in vitro系で子宮内膜細胞の増殖能、創傷治癒能は活性化臍帯血で最大でした。in vivo系でダメージを受けた子宮内膜の再生マーカーStat5a、Uba3、Thy1)増加は活性化臍帯血で最大でした。

 

解説:PRP療法は近年、再生医療の領域で用いられ、整形外科、皮膚科、美容外科領域での使用頻度が急速に拡大しています。PRPには、VEGF、TGF、PDGF、EGF、HGF、SDF1αなどのさまざまな増殖因子が含まれており、細胞の遊走、接着、分化、増殖、細胞外因子の集合に関与しています。ご本人の血液から生成して利用できるため、安全性が高いという特徴があり、最近ではPRP分離装置も各社から発売されています(そのような装置を使わずに分離も可能です)。PRP療法は、POF(早発卵巣不全、POI)、着床障害、薄い子宮内膜の際に実施されますが、小規模かつほとんどが前後の比較といった不適切な研究データしかなく、厳格な研究を元にしたデータはありません。PRP療法は現時点では証拠不十分のため推奨しないとされています。

 

本論文は、PRP療法の作用の基礎的検討を行ったものであり、再生能力は活性化臍帯血で最大であることを示しています。一般的に、若い細胞ほど再生能力が高いことが知られており、それを裏付ける結果となっています。

 

コメントでは、本論文を極めて高く評価しています。臍帯血には様々な増殖因子や再生能力を示す細胞が含まれており、25年前から臍帯血バンクが各国で設立され、主に血液疾患の治療に用いられています。もともと廃棄される臍帯血を利用した治療は、低コストであることから、PRP療法の分野でも発展が期待できます。しかし、真の有効性を示すには、しっかりした臨床研究が必要なのは言うまでもありません。

 

PRP療法については、下記の記事を参照してください。

2019.12.12「PRP療法について:オピニオン

2019.6.13「☆PRP療法について

 

「子宮内癒着症=アッシャーマン症候群」の治療については、下記の記事を参照してください。

2020.5.7「難治性のアッシャーマン症候群に新しい治療を行うべきか:賛成派 vs. 反対派

2018.10.28「子宮鏡下子宮内癒着剥離術後の妊娠予後

2018.8.12「アッシャーマン症候群は医原性疾患?

2018.8.9「子宮内膜細胞シートによる子宮内膜修復

2018.6.13「ヒト骨髄由来幹細胞による卵巣機能の回復:マウスモデル

2016.12.12「アッシャーマン症候群への新たな治療:月経血由来の間質細胞移植

2016.5.11「アッシャーマン症候群や子宮内膜萎縮への新たな治療

2015.12.22「骨髄CD133細胞移植によるアッシャーマン症候群の新たな治療

2013.7.29「骨髄中に卵子の元の細胞があります♡