アッシャーマン症候群や子宮内膜萎縮への新たな治療  | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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2015.12.22「骨髄CD133細胞移植によるアッシャーマン症候群の新たな治療」の記事では、アッシャーマン症候群(あるいは子宮内膜萎縮)のヒトから得られた骨髄CD133細胞を、アッシャーマン症候群のモデルマウスに投与し、その有効性を示したものです。本論文は、同一グループがヒトに投与した結果を示しています。アッシャーマン症候群や子宮内膜萎縮の方にはこれまで有効な治療法がありませんでしたので、本法は極めて画期的で期待できる方法です。

Hum Reprod 2016; 31: 1087(スペイン)
要約:30~45歳のアッシャーマン症候群11名および子宮内膜萎縮5名の方を対象に、本人の血液から血液成分除去法により骨髄CD133細胞(平均1億2千万個)を抽出し、子宮動脈から最も奥まで届く位置のらせん動脈内に注入しました。治療2ヶ月後、アッシャーマン症候群11名は全ての方で子宮内腔の状態が改善し、子宮内膜は平均4.3mmから6.7mmに有意に厚くなりました。また、子宮内膜萎縮5名のうち4名で子宮内腔の状態が改善し、子宮内膜は平均4.2mmから5.7mmに有意に厚くなりました。骨髄CD133細胞治療の効果は治療後3ヶ月で、成熟した血管の増加、生理の量と長さの増加が認められました。しかし、この効果は治療半年で消失しました。3人が自然妊娠し、7名が体外受精で妊娠しました。経過は、出産2名、妊娠継続中2名、流産2名、化学流産3名、子宮外妊娠(異所性妊娠)1名となっています。

解説:アッシャーマン症候群は子宮内が癒着してしまい、正常な内膜組織が極端に少なくなる疾患です。流産手術などの子宮内操作による場合もありますが、原因不明も少なくありません。また、子宮内膜萎縮は、子宮内膜が5mm以上にならない方で、この原因も明らかではありません。このような方には、これまで有効な治療法がありませんでした。本論文は、本人の血液から抽出した細胞の子宮血管内移植による新たな治療が有効であることを示しています。しかし、妊娠後の妊娠継続率は決して満足できるものではありませんし、細胞治療も半年しか持ちません。したがって、今後の改良が必要なのは言うまでもありません。また、安全性も考慮した長期的な観察も必要です。しかし、これまで「内膜が薄く」てどうすることもできなかった方にとっては、極めて重要な発見だと思います。