ヒト骨髄由来幹細胞による卵巣機能の回復:マウスモデル | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、ヒト骨髄由来幹細胞による卵巣機能の回復について記したものです。

 

Fertil Steril 2018; 109: 908(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.004

Fertil Steril 2018; 109: 800(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.02.129

要約:G-CSFを5日間投与により増加したヒト骨髄由来幹細胞(BMDSCs)を血液成分分離装置によって回収しました(CD34陽性細胞数は、2細胞/mL→10,000細胞/mLに増加)。一方、抗癌剤により卵巣機能を根絶したSCIDマウス(免疫不全マウス)、および卵巣機能低下の患者さんから得られた卵巣皮質切片を移植したSCIDマウスを準備し、BMDSCs全体、BMDSCsのCD133成分、末梢血単核球(PBMNC)、PBS(対照群)を静脈内投与しました。卵巣機能根絶マウスでは、BMDSCs投与により、卵胞発育が復活し、健常マウスが誕生しました。病理学的には、卵巣の血管新生亢進と細胞増殖が見られ、アポトーシスが減少しました。一方、卵巣機能低下のヒト卵巣を移植した部分では、BMDSCs投与およびCD133成分投与により、卵胞発育が復活し、E2産生と血管新生が認められました。

 

解説:骨髄には幹細胞が多数含まれ、血管を通じて各種臓器にいきわたることが知られています。その中でもCD133細胞は未熟な造血細胞と前駆細胞に発現されているマーカーであり、高い細胞増殖能を示すとともに、血管内皮細胞の再生能を持っています。CD133細胞はVEGF-R2とCD34を発現しているため、血管損傷の際の修復機能を持つのではないかと推察されます。このため、CD133細胞は再生医療のひとつの重要な選択肢となっており、現在虚血性心疾患などの治療に試験的に使われています。本論文の著者は以前、アッシャーマン症候群のヒトから得られた骨髄CD133細胞をアッシャーマン症候群のモデルマウスに投与し、子宮内膜の再生に成功しています(2015.12.22「骨髄CD133細胞移植によるアッシャーマン症候群の新たな治療」の記事でご紹介)。本論文では、CD133細胞を含むBMDSCs細胞が卵巣機能を回復させることを示しています。そのキーワードは「血管新生」です。

 

また、卵巣機能を根絶したマウスに別のマウスの骨髄幹細胞を移植すると卵巣機能が回復することが知られています。骨髄細胞にはわずかながら生殖細胞の幹細胞が存在しており、それが卵巣に移動(migrate)して生着し、卵胞を発育させるというストーリーです。コメントでは、ヒト間葉系幹細胞から生殖細胞を作成する進捗状況について、最近発表された重要なレビューを2編紹介しています。

Stem Cell Rev 2018; 14: 1(イラン)doi: 10.1007/s12015-017-9765-x

Reprod Biol Endocrinol 2017; 15: 89(インド)doi: 10.1186/s12958-017-0308-8.

 

下記の記事を参照してください。

2016.12.12「アッシャーマン症候群への新たな治療:月経血由来の間質細胞移植

2016.5.11「アッシャーマン症候群や子宮内膜萎縮への新たな治療

2015.12.22「骨髄CD133細胞移植によるアッシャーマン症候群の新たな治療

2013.7.29「骨髄中に卵子の元の細胞があります♡