☆PRP卵巣注入による卵子形成促進 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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PRP(Platelet Rich Plasma=多血小板血漿)の卵巣注入による卵子形成促進の可能性についての質問が増えています。PRP卵巣注入についての最新の論文を4件ご紹介します。

 

①J Clin Med 2019; 8: 1(ギリシャ)

要約:35歳で早発閉経40歳でPRP卵巣注入を1回実施しました。注入6週間後のFSHは149→27、AMHは0.02→0.08に改善しました。自然周期採卵により1個採卵、ICSIにより受精、6G3を新鮮胚移植し、妊娠が成立しましたが、hCG 800止まりで、化学流産となりまた。本論文がPRP卵巣注入による初めての妊娠報告です。

 

②J Assist Reprod Genet 2020; 37: 855(英国)10.1007/s10815-020-01710-z

要約:2015〜2018年に、卵巣予備能低下の方を対象にPRP群46名と無処置群37名に分け、非ランダム化前方視的検討を実施しました。なお、卵巣予備能低下とは、38歳以上、CD3のFSH>12、AMH<0.8、子宮鏡検査正常とし、骨盤内炎症性疾患既往、PCOS、卵管因子、子宮内膜症、血小板機能異常、高度男性不妊の方を除外しました。PRPは3周期連続で注入し4周期目のFSHは13.6→9.1、AMHは0.62→1.01に改善しました。無処置群のFSHとAMHに有意な変化はありませんでした。臨床妊娠は、PRP群11名(ART治療6名、一般治療5名)と無処置群2名(ART治療)、出産はPRP群5名(ART治療3名、一般治療2名)と無処置群1名(ART治療)でした。

 

③J Clin Med 2020; 9: 1809(ギリシャ)doi: 10.3390/jcm9061809

要約:2017〜2019年に、POR、POI、閉経前、閉経後4群各30名を対象に、PRP卵巣注入のパイロットスタディを行いました。なお、POR(卵巣反応低下)はボローニャクライテリア(40歳以上、刺激周期の採卵にて3個以下の卵子回収AMH < 0.5〜1.1 ng/mLAFC< 5〜7個のうち2項目を満たすものを採用し、POIは40歳未満で4ヶ月以上無月経でFSH>25の方、閉経前は40歳以上で月経不順の方、閉経後は45〜55歳で12ヶ月以上無月経でFSH>30の方としました。結果は下記の通り(開始前後の比較)。

 

      FSH      AMH     AFC   出産 

POR   10.7→8.6   0.66→1.14  2.6→5.2  12

POI    40.6→35.9  0.18→0.53  0→1.6   3  (PRP治療無効12名を除く)

閉経前   18.5→17.0  0.96→1.42  1.5→2.8  3  (PRP治療無効5名を除く)

閉経後   60.3→43.6  0.13→0.32  0→1.3   1  (PRP治療無効12名を除く)

 

④Aging 2020; 12: 10211(トルコ、米国)doi: 10.18632/aging.103403

要約:2018〜2019年に、POI(40歳未満、4ヶ月以上無月経、FSH>25)の方311名を対象に、PRP卵巣注入を実施しました。PRP注入6週間後のFSHに有意な変化はありませんでしたが(41.9→41.6)、AMHは0.13→0.18に、AFCは0.5→1.7に有意に改善しました。自然妊娠23名のうち出産16名、AR妊娠13名のうち出産9名、胚凍結25名です。

 

解説:PRP療法は近年、再生医療の領域で用いられ、整形外科(骨折、炎症)、眼科、皮膚科(創傷治癒)、泌尿器科(漏、尿失禁)、美容外科領域での使用頻度が急速に拡大しています。PRPには、VEGF、TGF、PDGF、EGF、HGF、SDF1αなどのさまざまな増殖因子が含まれており、細胞の遊走、接着、分化、増殖、細胞外因子の集合に関与しています。ご本人の血液から生成して利用できるため、安全性が高いという特徴があり、最近ではPRP分離装置も各社から発売されています。産婦人科領域では、2015年中国のグループがPRP子宮内注入による子宮内膜発育促進作用を始めて報告し、2016年ギリシャのグループがPRP卵巣内注入による卵子形成促進作用を始めて報告しました。現在、PRP療法はPOF(早発卵巣不全、POI)、着床障害、薄い子宮内膜の際に実施報告がありますが、小規模な研究データしかなく、ランダム化試験はありません。

 

今回ご紹介の4論文は、対象者がそれぞれ異なるため、注意が必要です。まとめると下記になります。

①PRP卵巣注入による初めての妊娠報告(FSH 149の早発閉経)

卵巣予備能低下(38歳以上、FSH>12、AMH<0.8)の方を対象にした83名非ランダム化試験

POR、POI、閉経前、閉経後を対象にした各群30名のパイロット試験:成績は、POR>閉経前>POI>閉経後の順

POI(40歳未満、4ヶ月以上無月経、FSH>25)311名を対象にした最大規模の検討

 

過去のART成績を考慮すると、PRP卵巣注入は非常に期待できると思います。③のグループでは、現在ランダム化試験を実施しているとのことですので、さらにエビデンスが固まるものと考えます。現在、リプロでは、PRP卵巣注入の準備を進めています。

 

下記の記事を参照してください。

2021.8.10「PRP卵巣注入による卵子形成促進