環境ホルモンと妊娠高血圧症候群の関連は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、環境ホルモン(ビスフェノールA、フタル酸)と妊娠高血圧症候群の関連について検討したものです。

 

Hum Reprod 2019; 34: 365(オランダ)doi: 10.1093/humrep/dey364

要約:2004〜2005年妊娠初期(12〜14週)の女性8879名を対象に、早朝の尿を提出していただき、尿中の各種環境ホルモン濃度を測定し、妊娠中の合併症との関連を検討しました。もともと高血圧だった方やデータに不備がある方を除外した1233名のうち妊娠高血圧症が40名に認められました。環境ホルモン(ビスフェノールA、フタル酸)と妊娠高血圧症候群あるいは血圧に有意な関連を認めませんでした。しかし、高分子フタル酸代謝物あるいはDEHP代謝物sFlt-1/PGF比は有意な正の相関子宮動脈PI値は有意な負の相関を示しました。また、DEHP代謝物子宮動脈RIは有意な正の相関を認め、DNOP代謝物子宮動脈ノッチングは有意な正の相関を認めました。

 

解説:妊娠高血圧症あるいは妊娠高血圧症候群は全妊娠の4〜10%に見られ、母体死亡も起こりうる疾患です。妊娠初期の胎盤構築の不備がその要因とされていますが、その全貌は明らかにされていません。また、sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase-1)増加、VEGF減少、PGF(placental growth factor)減少が重症妊娠高血圧症候群の進行に関与することが知られています。一方、環境ホルモン(ビスフェノールA、フタル酸)は胎盤形成を阻害する可能性が報告されています。このような背景の元に本論文の検討が行われ、環境ホルモンと妊娠高血圧症あるいは妊娠高血圧症候群の関連がなかったことを示しています。ただし、妊娠高血圧症候群と関連する血液マーカーや子宮動脈の血流にわずかな変化が見られますので、何らかの影響があるものと考えます。

 

なお、sFlt-1は可溶性VEGF受容体1でもあるため、VEGFに拮抗するとともに、PGF拮抗作用もあります。妊娠ラットにsFLT1遺伝子を導入すると、重症妊娠高血圧症候群に類似の症状(高血圧、蛋白尿、腎炎)が生じることが知られています。

 

ビスフェノールAについては、下記の記事を参照してください。

2018.5.23「ビスフェノールによる卵子の異常
2017.3.9「ビスフェノールAによる顆粒膜細胞の遺伝子変化

2015.9.10「ビスフェノールAと体外受精の妊娠率の関係

2015.2.4「ビスフェノールAの代替品は大丈夫?
2014.12.5「ビスフェノールAと内膜症
2014.9.30「ビスフェノールAによる流産リスク
2014.3.21「ビスフェノールAの精子と胚への影響
2014.2.28「ビスフェノールAの卵子への影響
2013.12.5「☆ビスフェノールAは卵子の発育を阻害する
2013.9.27「☆ビスフェノールAは男性ホルモンを低下させる

 

フタル酸については、下記の記事を参照してください。

2019.1.30「フタル酸と筋腫の関連 その2

2017.5.11「フタル酸と子宮筋腫の関連

2017.1.13「フタル酸暴露と女性の妊孕性低下

2016.12.29「フタル酸が胚発生に与える影響

2016.1.19「フタル酸による卵巣予備能低下

2015.11.21「フタル酸濃度と妊娠治療の関係

2014.9.28「フタル酸で女児の思春期が遅くなる?

2014.7.17「男性のフタル酸濃度の影響

 

sFlt-1については、下記の記事を参照してください。

2015.4.10「重症妊娠高血圧症候群にはスタチン製剤が有効 その2

2015.2.25「重症妊娠高血圧症候群にはスタチン製剤が有効 その1