重症妊娠高血圧症候群にはスタチン製剤が有効 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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2015.2.25「重症妊娠高血圧症候群にはスタチン製剤が有効 その1」では、重症妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の方にプラバスタチン(メバロチン)を用いた新しい治療の可能性を紹介しました。本論文は重症妊娠高血圧症候群を発症する新たなマウスを作成し、プラバスタチンによる治療が有効であることを示しています。

PNAS 2011; 108: 1451(日本)
要約:マウス胚盤胞のTE(胎盤になる部分)にsFLTを導入すると、その胚で妊娠した母体マウスが重症妊娠高血圧症候群様の症状(高血圧、蛋白尿)を呈し、出産後これらの症状が消失することを見いだしました。このマウスでは、重症妊娠高血圧症候群で頻発するIUGR(子宮内胎児発育遅延)も同時に生じます。このマウスにプラバスタチン(5μg/d、腹腔内投与)を投与すると、VEGF増加およびPGF増加が起こり、重症妊娠高血圧症候群が改善しました。

解説:重症妊娠高血圧症候群は約5%の妊婦に起こる疾患で、母児共に生命の境界線をさまよう重篤な妊娠合併症です。その原因は明らかではありませんが、sFlt-1(soluble fms-like tyrosine kinase-1)増加、VEGF減少、PGF(placental growth factor)減少が重症妊娠高血圧症候群の進行に関与することが知られています。sFlt-1は可溶性VEGF受容体1でもあるため、VEGFに拮抗するとともに、PGF拮抗作用もあります。これまで、妊娠ラットにsFLT1遺伝子を導入すると、重症妊娠高血圧症候群に類似の症状(高血圧、蛋白尿、腎炎)が生じることが知られていますが、この効果は一時的なものであり、胎盤は侵されていませんでした。本論文では、胚盤胞のTEにsFLTを導入した胚を移植することで、妊娠前期間を通じて重症妊娠高血圧症候群症状が生じ、出産後には消失するヒトに極めて近い新しいモデルマウスを作成しました。同時に、低用量のプラバスタチンがこの重症妊娠高血圧症候群モデルマウスの治療に極めて有効であることを示したものです。

現在、欧州でプラバスタチンによる重症妊娠高血圧症候群治療の臨床研究が行なわれていると聞きます。これまで重症妊娠高血圧症候群は治療法がなかった疾患ですので、研究成果に大きな期待が寄せられます。